赤字ローカル線の大復活 〜地域創生の方程式〜

万年赤字だった千葉県のいすみ鉄道を復活させた鳥塚亮氏。ムーミン列車やレストラン列車など、ユニークなアイデアを次々に打ち出して全国から観光客を集めました。その再建を見届けた後は新潟県に転じ、再び赤字ローカル線の建て直しに取り組んでいます。コロナ禍によって全国の観光業が壊滅的な打撃を受ける中、鳥塚氏が、地域を盛り上げるための秘策を語ります。

赤字から抜け出せないローカル線

鉄道は地方において非常に重要な役割を担っています。外からお客様を運んでくるのは鉄道なわけです。地元の方々にとっては日常生活を支える基盤でもあり、いわゆるローカル線は地域のシンボルともいえるでしょう。苦しい経営を強いられながら、全国のローカル線がどうにか存続してきたのは、まさにそうした考え方を共有する地元の方々がいたからです。

しかし近年、レールや変電所といった設備は老朽化しつつあり、ローカル線は大規模改修の時期を迎えています。当然、莫大なコストがかかりますので、多くのローカル線にとって2022年以降は存廃を左右する正念場になるでしょう。

もう一つ、そもそもローカル線において厳しい経営状況を強いられているのは古くからの訳があるのです。話は1987年の国鉄分割民営化にさかのぼりますが、民営化前、国鉄のローカル線は「特定地方交通線」と「並行在来線」に大別されていました。

特定地方交通線は、国鉄が廃止を予定していたものの、地元が「なくさないで」と待ったをかけて民営化後にJRが引き継いだ鉄道です。一方、新幹線とほぼ並行して運行していたのが並行在来線で、国鉄から一度はJRに引き継がれたものの、新幹線が整備されるとほとんどが結局JRから分離されました。それはつまり、分離された並行在来線は、基本的に「赤字」の烙印を押されたということなのです。2019年から私が社長を務めている新潟県の「えちごトキめき鉄道(トキ鉄)」もその一つです。

社長の役割は表に出ること

トキ鉄は始発から終点まで100キロ近くある比較的長いローカル線です。直江津駅を起点として、沿線の上越市と糸魚川市、妙高市の皆さんは、地元の鉄道に対する愛着が強い。

中でも1886年(明治19年)に日本海側に設置された最初の駅である直江津駅周辺には、古くから「鉄道の町」という意識が浸透していました。ローカル線の意義や価値を訴えるまでもなく、地元の方々はその必要性を十分にご理解いただいていました。私の役割は、「すでに耕された良質な土壌に種を蒔くだけだ」と感じたのを覚えています。

そうして地元の協力は得たものの、社長就任直後に訪れたコロナ禍によって、一番の収益となる県外からの観光客を期待できなくなってしまいました。どうやって経営の立て直しを目指せばいいのか。そこで、県外がだめなら県内に目を向けようと、新たな取り組みにチャレンジしました。

たとえば、2021年のゴールデンウィークに「直江津D51レールパーク」をオープンしました。こちらは実際に動く蒸気機関車がファミリー層に大変好評で、年内の営業を終えた12月初旬までに1万2,000人ものお客様に来園いただきました。以前から運行していたリゾート列車「雪月花」でも、地元民向けの割安企画を提案。2021年は150組の募集に対して500組を超える応募がありました。直江津駅では待合室の一部を改装して、地元の高校生のための自習室もつくりました。県外ばかりを見て地域住民に背を向けてしまったら、ローカル線は存続できません。

県内のお客様に喜ばれる企画を考えることはもちろんですが、もう一つ、私の中でこだわりがあります。それは、社長である私がとにかく表に出ることです。“鉄道まつり”などのイベントがあれば顔を出し、リゾート列車にも乗り込みます。「また社長がいたよ」と、あきれられるくらい動き回らなければ、私のような東京出身の「よそ者」がどれだけ真剣かは伝わりにくいからです。

どんな町にも、必ず観光資源はある

私がトキ鉄の前に社長を務めていた千葉県の「いすみ鉄道」は、特定地方交通線でした。30キロにも満たない非常にコンパクトな路線で、長年、慢性的な赤字が続いたことから、国鉄が早々に廃止を決めていました。しかしながら、特に高校生にとっては大事な通学手段ということで、地元の皆さんは熱心に存続を訴えていました。地域創生でそうした地域の声は力強い味方です。

東京からも近いところに位置し、知恵を絞れば、観光鉄道として息を吹き返すのではないか、と感じました。都会で暮らすお客様が「観光」に求めるものとは「非日常」です。それならば、いすみ鉄道がお客様を非日常の世界へ案内する輸送手段になる、もしくは乗ること自体が非日常と感じる体験になればいい、と考えました。

そうして最初に実施したのが、ムーミン列車です。これは、沿線の景色がムーミンの世界観に通じていると感じたのが一つのきっかけでした。おかげさまで話題となり、特に若い女性のお客様を増やすことに成功しました。また、いすみ線の沿線で捕れる伊勢海老やアワビを味わっていただこうと企画したのがレストラン列車です。非日常を実感できる贅沢な食材が好評で、いすみ鉄道の看板列車になりました。

沿線の景色も地元の食材も、観光客を呼ぶためにつくったものではありません。もともとあった素材を生かしただけなのです。地元の方々にとっては見慣れた日常でも、都会で暮らすお客様の目には非日常に映るものです。そう考えれば、「ウチは田舎だから何もない」ということはありません。お客様の立場で地元を見直してみると、どんな町にも、必ず観光資源はあるものなのです。

とはいえ、残念ながら、観光資源を生かしきれず、活性化を実現できていない町は少なくありません。町のシンボルが世界遺産に登録されたり、NHK大河ドラマの舞台になることで話題となったり、千載一遇のチャンスに恵まれた町もありますが、一時的な盛況で終わったところがほとんどでしょう。

これは、継続的に観光客を呼び込む仕組みや体制が構築できていないということです。ここを考えていくことが本当の地域創生につながります。

たとえば、イベントを行うのであれば集客で満足せず、その先の町の発展にどうつなげたいのかまで、考える必要があるでしょう。そこにたどり着くには何が必要なのか、自分なりに仮説を立て、検証する。いすみ鉄道での9年間は、その繰り返しでした。そして今、トキ鉄においても基本的な考え方は同じです。これからも表に出て、地域の皆さんと手を取り合いながら試行錯誤を繰り返していきたいと思っています。

 

お話を聞いた方

えちごトキめき鉄道株式会社 代表取締役社長 鳥塚 亮

1960年東京都生まれ。明治大学商学部を卒業後、学習塾職員、大韓航空勤務を経て、90年ブリティッシュ・エアウェイズに入社。2009年公募で選ばれ、千葉県の第三セクターいすみ鉄道社長に就任。数々の経営活性化策を実施して話題を集め、同鉄道を全国区の人気路線に押し上げた。2018年退任。2019年新潟県の第三セクターえちごトキめき鉄道社長に就任。著書に『ローカル線で地域を元気にする方法』(晶文社)がある。

 

[編集]株式会社ボルテックス100年企業戦略研究所
[企画・制作協力]東洋経済新報社ブランドスタジオ