生き残ってきた日本企業は「不動産」の財務を重視している

環境変化の激変に耐えてきた日本企業は、不動産を保有し、家賃収入を得ていることが多いです。

日本の長寿企業を見ると、不動産を保有することは、企業が生き残るための重要な財務戦略であることが分かります。

今回は、企業経営における不動産財務の重要性について解説します。

1.朝日新聞社、講談社……

「朝日新聞社」や「講談社」という社名を聞いて、「不動産」というキーワードを思い浮かべる人は多くはないでしょう。

朝日新聞社や講談社等はいわずと知れた大企業ですが、手堅い家賃収入も得ている会社という共通項を持っているのです。

朝日新聞社の有価証券報告書(2019年3月期)によると、不動産事業の利益は68億2700万円と、全体の営業利益のうち約8割を占めています。また講談社は、2018年11月期の売上高のうち、不動産収入は31億5100万円と、前年度から0.6%の増加を見せました。

メディア業界や出版業界は、経営環境に激変が生じている業界です。「本を読まない」、「テレビを見ない」といった若者が増えたことから、いずれも本業の売上が下降傾向にあります。朝日新聞社等は業界の荒波を受けているにも関わらず、安定した家賃収入があることで、難局を乗り越える体制が整っている企業なのです。

経営環境の変化は、メディア業界や出版業界だけに生じるものではなく、全ての業界で起こり得る問題です。

「鉄は国家なり」といわれていた時代には、製鉄業に飛ぶ鳥を落とす勢いがありました。また、国内のビールの流通量が少なかった時代には、日本酒がもてはやされ、酒蔵が納める酒税が国の重要な税収となっていたのです。

しかしながら、昨今の製鉄業や酒造業に当時のような勢いはありません。法改正やテクノロジーの発展、国際競争の激化等の変化はあらゆる業界に生じます。そのため、今までのやり方が通用しなくなり、本業がうまくいかなくなることは、全ての業界で起こり得るのです。

国内の長寿企業のなかには、不動産を保有し、そこから家賃収入を得ている会社が数多く あります。家賃収入の存在は、業界の枠を超えて、本業の環境変化に耐え得る力を与えてくれるのです。

2.財務を意識した不動産投資は中小企業でも活用できるのか

朝日新聞社等の例は大企業の話なので、中小企業の経営者のなかには自分たちは関係ないと思う人もいるかもしれません。しかしながら、不動産投資によって経営基盤を安定させることは、大企業だけではなく中小企業こそ行うべき課題です。

多くの中小企業の特徴として、「特定顧客への依存度が高い」、「経営資源が乏しい」といった問題があります。大口取引先がいる中小企業では、売上に対する特定顧客の依存度が高いケースが多いです。特定顧客の依存度が高い企業は、良いときは非常に業況も安定しています。特定の顧客に特化することで無駄を省き、利益率が高いことが特徴です。

ただし、特定顧客への依存度が高い会社は、その会社からの発注を失うと、一気に売上が激減してしまうリスクがあります。従業員への給料の支払いや借入金の返済、下請けへの支払等ができなくなり、場合によっては倒産してしまうことも。

大企業であれば、複数の事業を行っていることが多いため、特定の会社からの受注を失っても、経営が大きく揺らぐことはありません。また知名度もあるため、中小企業と比べると、新規顧客の獲得には有利といえるでしょう。

中小企業の場合は、特定顧客からの失注は大きなダメージとなりますので、大企業以上に経営基盤を安定させることが重要なのです。

一方で、中小企業は常に人材不足であり、「経営資源が乏しい」状態です。新規事業や顧客の拡大といっても、簡単ではありません。中小企業では、社長自身が営業マンですが、せっかく社長が頑張って仕事を取ってきても、自社では業務をこなしきれないことも多いのです。

そこで、中小企業の経営安定化に欠かせないものとして、不動産投資が挙げられます。不動産投資は、本業とは連動しない部分の収入ですから、主要顧客からの取引がなくなっても、家賃収入は入ってきます。

また不動産投資は、基本的には不労所得です。新たに従業員を雇わなくても、不動産が勝手に稼いでくれるため、少ない人材のまま利益を稼げる方法となり得ます。不労所得的な売上を増やせることは、人材という経営資源が乏しい中小企業にとって最適な経営基盤の強化方法となるのです。

朝日新聞社等も、最初から大企業だったわけではありません。不動産を持っている大企業は、中小企業の時代からコツコツ資産を積み上げ、経営基盤を安定させてきたのです。

不動産投資による経営基盤の安定化は、大企業だからできるのではなく、中小企業だからこそすべきといえます。そして、不動産投資も行いながら、大企業へと成長していくことが望ましいのです。

中小企業が不動産投資をすべきかどうかは、まず社長自らが決算書を見て財務診断をする必要があります。現金が余っていて、運用しきれていない状況であれば、その資金を不動産投資に振り分けます。もし現金が余っていない状況であれば、不動産投資はせず、まずは現金を貯めることを優先しましょう。

現金については、会社の必要運転資金を把握することが第一歩となります。もっとも単純に求められる必要運転資金は、以下の式から算出します。

必要運転資金=売上債権+在庫-買入債務

売上債権とは、受取手形と売掛金の合計額を指し、在庫は棚卸資産を指します。買入債務は、支払手形と買掛金の合計額となります。

これらの項目は、全て決算書の貸借対照表のページに記載されていますので、まずは必要運転資金を把握してください。

次に、同じく貸借対照表のなかにある現金と必要運転資金との差額を確認します。現金が必要運転資金以上ある場合は、運用しきれていない現金があるということであり、それらは不動産投資に振り分けたほうがいいです。

不動産投資をすべき状態:現金>必要運転資金
現金を貯めるべき状態 :現金<必要運転資金

余剰資金の扱いについては、やはり手堅く不動産投資に振り分けるのが安全です。投資証券等の有価証券に投資をしてしまうと、せっかくの余剰資金が大きく毀損する可能性があるためです。

不動産投資であれば、大きく毀損することはありません。再び現金が必要となった際には、不動産を売却すれば現金に換えることができますので、資産を守ることもできるのです。不動産投資は、まず自社の財務状況を把握してから着手するようにしてください。

3.経営基盤の安定に見る不動産というアセットの大きさ

企業が不動産投資を行うと、大企業でも中小企業でも「法人税の節税」効果が生じます。建物資産を持つことにより毎年、減価償却費が発生するからです。

減価償却費は、毎期、会計の計算上発生する費用であり、実際にキャッシュアウトする費用ではありません。キャッシュアウトはしませんが費用となるため、利益を圧縮し、その結果、税金を減らしてくれます。減価償却費については、毎年、内部留保できるお金となりますので、節税しながら経営基盤を安定させてくれる効果があるのです。

なお、社長個人が会社の大半の株を持っているような場合、不動産投資は会社の株価を下げる効果もあるため、社長個人の相続対策にもなります。相続対策も視野に入れている人は、不動産投資によって株価対策を行うのもひとつでしょう。

4.まとめ

企業が中長期的な経営環境の変化に対応していくには、不動産投資が非常に有効な手段となり得ます。

不動産投資は、中小企業ほど行うべき財務戦略です。まずは、自社の必要運転資金を把握し、現金が眠り過ぎていないかどうかを確認することから始めてみましょう。

 
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著者

株式会社ボルテックス 100年企業戦略研究所

1社でも多くの100年企業を創出するために。
ボルテックスのシンクタンク『100年企業戦略研究所』は、長寿企業の事業継続性に関する
調査・分析をはじめ、「東京」の強みやその将来性について独自の研究を続けています。

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