見落としがちな企業の不動産財務戦略。分析からわかる注力ポイントとは?

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経営者のなかには、企業経営の理論を熱心に勉強している方も多いでしょう。経営者である以上、座学でも企業経営についての知識を身に着けるべきかとは思いますが、学ぶうえで1つ注意点があります。

それは、世の中で提唱されている企業経営理論の多くは、不動産戦略が欠けているという点です。現実的には、家賃収入を得ながら難局を乗り切っている企業は多くありますが、一般的な経営理論では「不動産を持ちましょう」といった理論は見られません。

企業経営にとって、不動産戦略は生き残るために不可欠な知識ですが、その情報はあまりにも少ないのが実態です。そこで今回は、企業の不動産財務分析について解説します。

1.企業が所有する不動産というアセットの財務状況を分析

企業の不動産戦略は、大きく分けて「賃借戦略」と「保有戦略」の2つです。保有戦略は、さらに「自社ビル保有戦略」と「不動産投資戦略」の2つに分かれます。

ここでは、企業が不動産を「借りているとき(賃貸)」と「持っているとき(保有)」の財務に与える影響の違いを解説します。

財務分析では、「貸借対照表」と「損益計算書」の2つを見ます。貸借対照表とは、決算期における企業の財政状態(ストック)を明らかにする財務諸表です。それに対して、損益計算書とは、1事業年度における企業の経営成績(フロー)を明らかにする財務諸表となります。

不動産を賃借する場合、貸借対照表の資産の部に出てくるのは敷金です。入居時に行った内装工事を資産計上している場合は、建物付属設備等の資産が計上されます。損益計算書については、費用項目に賃料が計上されます。

一方、保有する場合は、貸借対照表の有形固定資産のなかに、土地、建物、建物付属設備が登場します。借入金を使って不動産を購入している場合には、負債に長期借入金が計上されます。

損益計算書に関しては、費用として固定資産税や都市計画税等の租税公課、修繕費、減価償却費が計上されます。借入金を使って不動産を購入している場合には、営業外費用に支払利息も登場します。ざっくりいえば、賃借する場合は、賃料の負担が重く損益計算書が悪くなるのです。ただし、借入金がなければ、貸借対照表は良くなります。

それに対して、保有する場合は、費用のなかにキャッシュアウトしない減価償却費が含まれるため、財務内容は損益計算書の見た目上の数字よりも良くなります。ただし、借入金があれば、貸借対照表の内容は悪くなります。

賃借と保有は、一概にどちらが良いとはいえませんが、保有で借入金がない場合なら、キャッシュアウトは少なく、かつ減価償却費による節税ができることから、財務内容は賃借よりも保有のほうが良くなります。

2.不動産の売却でROAは向上するのか?

財務分析の指標のひとつにROA(総資産利益率:Return On Assets)があります。ROAは、利益を資産の額で割った数値です。

ROAが高いほど、能力のある優良企業とされています。資産を多く持っている企業は稼げて当然であり、資産が少ないにもかかわらず利益を上げている企業は、能力やノウハウが高いと考えられるからです。

例えば、弁護士は紙と鉛筆さえあれば、収入を生み出すことができます。これといった資産を持たなくても稼げるのは、弁護士の能力が高いからです。分母である資産が紙と鉛筆だけで、大きな利益を上げていたら、弁護士のROAはとても高く算出されます。そのため、企業経営のなかでは、ROAが高いことは良いこととされています。

ただし、ROAはひとつの見方に過ぎず、ROAが高いからといって必ずしもいい会社とは限りません。

例えば、収益物件を保有し、家賃収入もある、創業30年目の弁護士事務所A社があったとします。A社は収益物件を持っているため、ROAの分母となる資産が大きくなります。よって、A社のROAは低いです。

一方で、資産を持っていない、創業1年目の弁護士事務所B社を考えてみましょう。B社は、紙と鉛筆しか持っていないので、B社のROAは高く算出されます。

この場合、資産を持っている創業30年目のA社(ROAは低い)と、資産をまったく持っていないB社(ROAは高い)は、どちらが良い会社と感じるでしょうか。

おそらく、多くの人が資産を持っている創業30年のA社のほうが、優良企業だと感じるかと思います。A社はROAという指標だけで見ればB社に劣るかもしれませんが、資産も形成されており、30年間の実績もあることを考慮すると、B社よりも優良企業であるといえるでしょう。

このように、ROAはひとつの「見方」に過ぎないので、ROAが高いからといって、必ず良い会社というわけではありません。ROAの本質は、無駄な資産や収益に寄与していない資産はなくすという根本的な発想にあるのです。

例えば、遊休地を持っているような企業のROAは、同業他社の遊休地を持っていない企業よりも悪くなります。収益貢献していない遊休地が、ROAの分母に含まれますのでROAは低く算出されるのです。

仮に、遊休地を活用して収益貢献させたり、売却して資産から外したりするとROAは改善します。無駄をなくす、または活用していない資源を活かすことがROAを向上させるポイントなのです。

そのため、先述した弁護士事務所の例で考えると、収益物件を持っている弁護士事務所A社が不動産を売却してROAを向上させることは意味がありません。A社が所有している物件はきちんと収益貢献をしている資産なので、ROA向上のためにそれを放出する必要はないのです。不動産を売れば、企業のROAは向上しますが、収益貢献している不動産まで売ることはROAの本質に反していることになります。

3.「不動産」に対する企業の意識は二極化……効率化or投資対象

不動産に関する企業の意識は二極化しています。教科書どおりの経営理論を実践している企業は「選択と集中」を実践しており、本業とは関係のない不動産は売却する方向にあります。一方で、経営の安定化を図ろうとしている企業は、不動産投資も行って資産形成を行っています。

これらの考え方は、どちらが正解というものではありません。選択と集中をすれば、効率化が図れますので、収益力の高い筋肉質な企業になります。それに対して、不動産投資を行えば、借入金の増加で財務内容は悪化しますが、安定収入を得ることが可能です。

どちらを取るべきかについては、業種や社歴によって異なります。社歴が浅く、成長中の企業であれば、不動産投資はせずにどんどん売上を伸ばすことに注力したほうが良いでしょう。それに対して、社歴が長く、業界全体が先細りしている業種の企業であれば、不動産投資を行って、経営基盤を固めていったほうが良いといえます。

自社の状況に合った不動産戦略を選択していくことが重要なのです。

4.まとめ

教科書的な企業経営論のなかでは、不動産の取扱については触れられていないことがほとんどです。不動産とどう向き合っていくかは、自社の置かれている状況に合わせて考えることが重要となります。

ROAも本質をきちんと理解していれば、現況の数値が多少悪くても気にする必要はありません。自社の状況に合わせて、適切な不動産戦略を選択するようにしましょう。

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著者

株式会社ボルテックス 100年企業戦略研究所

1社でも多くの100年企業を創出するために。
ボルテックスのシンクタンク『100年企業戦略研究所』は、長寿企業の事業継続性に関する調査・分析をはじめ、「東京」の強みやその将来性について独自の研究を続けています。

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