気持ちと知識の二刀使いが円満相続の肝 ~税理士が教える相続・事業承継対策のポイント【相続編】~

オーナー企業にとって相続や事業承継は頭の痛い問題です。相続人はいかにスムーズに資産を遺し、いかに価値を損ねることなく事業を円滑に承継するのか。こうした問題の円満な解決には税務に関する知識が欠かせません。創業以来、一貫して資産の移転や承継、活用に関わる税務の分野を専門とし、税務や会計・法務の知識を駆使して、相続対策、事業承継対策、組織再編成コンサルティングなどに対して適切な手法を提案しているのがタクトコンサルティングです。同社の代表取締役社長・公認会計士・税理士の山田毅志氏へのインタビューを2回にわたってお届けします。第1回目となる今回は、相続対策についてお聞きしました。

 

相続には親の生きざまが表れる

弊社の事業内容は、相続税の申告・対策が4割、事業承継対策が6割を占めています。私はこの分野では30年近い経験がありますが、相続対策に関する近年の顕著な傾向としては相談者の年齢が年々上がっていることがあげられるでしょう。
以前は相談者の大半が50代〜60代でした。しかし、最近は70代の息子が90代の父親からいかにして相続をするのか、という「老老相続」に関する相談も珍しくありません。少子高齢化や未婚化が進む中、相続人がいない相続も増えてきました。

いずれにしても、相続対策で最初に確認しておかなければならないポイントは、そのご家庭やご家族の哲学や生き方・考え方です。資産の評価や圧縮など相続税の申告業務だけをお受けすることもありますが、ほとんどのケースは生前からおつきあいし、じっくりとご相談者様の考えや悩みを理解し共有して、そこに基づいてさまざまな対策をしています。たとえば、評価の大半を占める自社株式を相続できない後継者以外の相続人は不満を抱えがちなケースが多いのです。そうした繊細で複雑な問題を解消し、円満な相続を実現するためにも、そのご家庭の考え方を理解することは不可欠です。そういう思いを込めて、私たちは相続対策のお手伝いをさせていただいています。

相続で失敗するとそのご家族は壊れてしまいます。現に、そのようなケースは少なくありません。実際に最高裁まで争ったご家族の例もあります。そうなってしまえば、相続対策に取り組んでいても何ら意味がありません。

長年この対策を見守る中で、一つお伝えできることがあります。それは、相続には親の生きざまがすべて表れるといっても過言ではない、ということです。よい生きざまを見せるためには、争いにならないように最低限の遺留分を確保するなど、家族に納得してもらえる相続をすることが必要です。相続を円滑に進めるには、そこを目指す「気持ち」が何よりも重要なカギを握っているのです。

遺言の作成には必ず税理士を関与させたい

各人の権利意識が高まっている昨今では、相続が発生した場合に、弁護士にその調整などを依頼される方もいらっしゃいます。そういう方は、相続に関して何かご不満があることが多く、落としどころが見つからずに、争いや調停、裁判に発展することもあるようです。その点、税理士が関与すれば気持ちの面でのサポートはもちろん、税金を抑えられるなど、事務的な面でも多様なフォローができます。理性的な話し合いが可能ですので、家族間の争いも少なくなります。

円満相続のためには、まず、遺言の用意です。先代がお元気なうちにご自身の意思としての遺言をきちんと残しておきましょう。そして、遺言の作成には必ず税理士を関与させてください。

遺言作成サポートや立ち合いには、特に法的な資格は必要ありません。そのため、弁護士や信託銀行なども遺言作成支援などを手がけています。ですが、相続には相続税がからんできます。税理士の関与は不可欠だと思います。

土地持ちの資産家の相続では土地持ち資産家の問題があり、非上場の中小企業オーナー家の相続はそれとは異なった難しい問題に直面することが多々あります。相続財産は、自宅や金融資産、不動産に分類できますが、オーナー家の相続では、相続財産のうち自社株式の評価が占める割合が大半です。相続財産のうち、自社株式が6割~7割を占めているというケースも少なくありません。

しかし、自社株式は評価がどんなに高くても、換金価値は不動産よりも劣ります。相続税を納める場合、即時換金可能な不動産であれば手放せば済むことですが、自社株式となるとそうはいかないのです。

自社株の評価額を下げる手法の一つとして、あらかじめ、資産ポートフォリオに即時換金可能な不動産を組み入れておくといった方法が効果的です。そうしていない場合、突然に相続が発生するとなると、何らかの方法で相続税を捻出する、あるいはM&Aをするしかありません。

相続税の評価額は大幅に下げられる

相続税対策として、どのように財産を分けるかによって評価が変わるものとして、「小規模宅地等の評価減特例」というものがあります。

具体例をあげてみましょう。ご主人が亡くなって、自社株式と土地と金融資産が遺されたケースです。土地は坪200万円で評価額は1億円、建物の評価額が3,000万円。金融資産は2,000万円でした。

法定相続人は奥様と長男、次男の3人。子供たちはすでに結婚して独立しています。普通に考えれば、相続税評価額は土地1億円+建物3,000万円+金融資産2,000万円の合計1億5,000万円です。相続人が3人いる場合、基礎控除額は3,000万円+(法定相続人の数☓600万円)。つまり、合計4,800万円が控除されるので、これを1億5,000万円から引いた約1億円が相続税評価額になります。

これだけの評価額の相続税を払うのは大変です。しかし、相続税の特例の一つである「小規模宅地等の特例」を使えば評価額を大幅に下げることが可能になります。

この「小規模宅地等の特例」とは、被相続人が住んでいた土地や事業をしていた土地が一定の要件を満たしている場合、評価額が最大で80%減額されるという制度です。配偶者が自宅を相続すると無条件に80%減になるので、このケースでは土地の評価額は2,000万円に下がります。独立して所帯を持っている長男や次男が土地を相続しても減額されません。

配偶者が相続する場合の減額後の土地評価2,000万円に建物分の3,000万円をプラスすると5,000万円。これが土地と建物の相続税評価額になりますが、先にお話したように基礎控除額が4,800万円あり、金融資産も2,000万円あるので、差し引きすれば、かなり相続税を抑えられることになります。

また、そのほかにも国が以前と比べて相続対策を後押ししている例をご存知でしょうか。非上場株式の企業のオーナー経営者の株式の承継(贈与または相続)に対して贈与税・相続税を猶予する「事業承継税制」という制度があります。2009年に設けられましたが、当初は条件が非常に厳しく実際にはなかなか活用されませんでした。そこで、国は2018年に10年間の期間限定で事業承継税制の「特例措置」という制度を新たにつくりました。これまでの事業承継税制よりも条件がゆるくなったことで、活用する人も増えています。

上記のように、相続税にはさまざまな特例があり、税務特有の要件が種々設けられています。ご家族ごとに異なる相続の問題において、気持ちは最も大事なものですが、それをどのように具現化するか、ここが円満な話し合いをするためにも重要なポイントです。その作成には税理士のノウハウが有効であることをぜひ知っていただきたいと思います。

 

お話を聞いた方

株式会社タクトコンサルティング 代表取締役社長/税理士法人タクトコンサルティング 代表社員 山田 毅志

公認会計士、税理士。1967年神奈川県横浜市生まれ。1992年に横浜国立大学経済学部を卒業し、同年、安田信託銀行に入行。2002年に山田&パートナーズ会計事務所、株式会社ソニーを経て、タクトコンサルティングに入社。2009年、税理士法人タクトコンサルティングの代表社員に就任、および株式会社タクトコンサルティングの取締役に就任。2020年、現職。現在は、相続、譲渡、交換、土地活用、企業組織再編、M&A、事業承継対策等の実務に携わる。上場会社3社の社外役員も務めている。

 

[編集]株式会社ボルテックス100年企業戦略研究所
[企画・制作協力]東洋経済新報社ブランドスタジオ