女性ならではの強さに気づき、活かす場づくり ~さまざまな年代の女性後継者の交流と勉強を支援~

事業を承継した女性経営者は特有の問題を抱えています。男性社会での立ち位置、古株社員との接し方、先代との方針の違い、家庭とのバランスの取り方。さまざまな悩みを共有し、経営者としての成長できる場を提供している一般社団法人日本跡取り娘共育協会の代表理事・内山統子氏にお話を伺いました。

跡取り娘が本音を打ち明けられる場所

中小企業の二代目三代目が集まるサロン、ベンチャーの旗手の情報交換会、女性起業家の集い。同じ立場の経営者が集まり、人脈を深め、互いの悩みを打ち明け合って事業の活性化につなげていくコミュニティやサロンは多数、開催されています。しかし、ファミリービジネスを受け継いだ女性経営者の集まりとなるとあまり例がありません。

会社の中で自分の立ち位置がよくわからない。経営も重要だが、家庭も大事にしたい。経営者としての「べき論」はわかっているけれど、自分で問題を咀嚼して整理整頓したい。事業を受け継いだ女性だからこそ生まれる悩みやしがらみに、もがきつつ、それでも前へ進もうとする跡取り娘たちを経営とメンタル面の両面から支援しているのがオンラインサロンの「跡取り娘ドットコム」です。

運営する一般社団法人日本跡取り娘共育協会の代表理事を務める内山統子氏自身は、跡取り娘ではありません。それにも関わらず、「跡取り娘ドットコム」の立ち上げに動いたのは、本業であるブランドのコンサルティングを通して一人の女性経営者のシビアな現実に触れたのがきっかけでした。

「彼女はお父様との関係性で家業を継ぐことをためらいながらも、その軋轢を乗り越えて、新規事業として教育事業を立ち上げました。試行錯誤しながら自分の幸福と家業の継続を実現させたのです。過去に縛られずに未来に生きることを選択した彼女を支援した経験を通じて、家業に関わる女性たちに目を向けるようになりました。すると、彼女たちが抱えている悩みや焦燥感、孤独感が見えてきたんですね。跡取り娘ならではの悩みや本音を打ち明けられる場所の必要性を痛感して、『跡取り娘ドットコム』を開設しました」

交流会と勉強会をセットで実施

元号が平成から令和に変わった2019年5月に誕生した「跡取り娘ドットコム」は交流の場であると同時に学びあえる場所でもあります。活動内容は交流会と勉強会がセット。勉強会も、ゲストに招く講師の話を聞いて「それで終わり」ではありません。互いの意見を忌憚なく発表できるブレイクアウトセッションの時間を設けています。

現在、会員は約80名。半分以上が既存会員からの紹介による加入です。それだけ「跡取り娘ドットコム」の活動に会員が満足しているからでしょう。会員の条件は家業に入っていることですが、誰でもウェルカムというわけではありません。秘密遵守、利他心、向上心などを入会の条件として掲げ、入会時には面談も行っています。

「面談を実施しているのは、自社の利益だけを追求するのではなく、人のため、会員のために還元する文化をつくり上げていくためです。面談があることを知って申し込まれますから、みなさんしっかりとした覚悟をお持ちです」

会員の年齢層は20代〜60代。この幅の広さは「跡取り娘ドットコム」の強みの一つといえるでしょう。ベテランの跡取り娘がみずからの経験をベースにしながら、問題の解決法や考え方のヒントを若手にアドバイスする光景もよく見られます。

「同じ立場の会員同士、説明しなくてもわかりあえる部分が多々あるのでアドバイスも響きやすいようです。また、男性が多い経営者の集まりでは売上や利益など数字の話が飛び交い、どうしても参加者が背伸びを強いられる場面も多いと聞きます。でも『跡取り娘ドットコム』にはそれがありません。身の丈の経営を大事にしているからです」

跡取り娘たちによい意味で刺激を与える活動も盛り込まれています。たとえば、クオーターごとにロールモデルとなる「跡取り娘」を招いて経営理念などを学ぶセミナーです。2021年12月には「跡取り娘のための『話し方』実践講座」と題し、ダイヤ精機の代表取締役社長・諏訪貴子氏を招きました。3時間ものセミナーを通して諏訪氏が語り尽くした「話し方」のポイントに、参加者は大いに感化されたといいます。

2020年9月には、ホッピービバレッジの石渡美奈社長の講演会が開催されました。
「講演会の後にはホッピーを片手に歓談しながら、参加者全員と石渡社長との懇親会を開きました。盛り上がりすぎて1時間半も時間が延長になる盛況ぶりでしたね。石坂産業の石坂典子社長を訪問したセミナーも会員の皆さんには非常によいカンフル剤になったようです」

「もっといろいろな講師の方のお話を聞きたいという要望が多数寄せられていますし、今後は、よい経験も悪い経験も踏まえてそのような機会を増やしていきたいですね。それから、『跡取り娘のためのお父さん講座』も、ぜひやってみたいと思っています。娘が事業をスムーズに引き継ぐためには、実は父親による環境整備や番頭さんたちをはじめとする周囲への働きかけが非常に重要だからです」

女性後継者ならではの強みとは

サロンが誕生してから約3年。会員が女性ならではの強みを活かし、先代からの既存事業をステップアップしたという実例がいくつも生まれています。

「ある会員の方は、お父様が創業したガーデンセンターを承継したものの、職人が減り、造園に対するニーズ自体も減少しているという課題を抱えていました。そこで、新たにお客様のお宅に出向いて花を植える事業を始めました。お客様の大半を占めているのは高齢者ですが、そうしたお宅には女性のほうが入りやすいという事情があるそうです。この新規事業を通じて庭の手入れをしてほしいという要望も増え、事業は確実に活性化したと聞いています」

花を愛でたいが自分でやるには手間がかかりすぎる、プロに依頼したいが、家に男性がやってくるのには抵抗感がある。そうした顧客心理を踏まえた事業に会員の跡取り娘が思い切って踏み出せたのは、「跡取り娘ドットコム」の活動に刺激を受け、強く温かなエールが送られたからではないでしょうか。

「会員同士で、まずはトライアルとして新しく何かをつくりたいという機運も生まれています。こうしたよい流れは協会として、しっかりフォローしていきたいですね」

最後に跡取り娘だからこその強みを、内山氏に伺いました。

「女性経営者が男性の縦社会に入りづらいのは確かです。男性のように事業にすべてを投げ打つような決断はできにくい。女性は会社だけではなく家庭も大切にしたいと考えてマルチタスクをこなそうとします。でも、だからこそ見えることが多いとも思うのです。業界の慣習にあまり染まらず、左右されないのも女性の持ち味。こうした部分を活かして、自分自身の経験を信じてやっていってほしい。私たちも、跡取り娘の方たちが安心して話し合うことができる場、そして経営者として成長できる場をさらに充実させていきたいと考えています」

お話を聞いた方

一般社団法人日本跡取り娘共育協会 代表理事 内山 統子

大手出版社、外資系の広告代理店、ベンチャー企業の役員を経て、独立。ブランディングコンサルタントとして活動。これまで200社以上のクライアントへの提案を行い、イメージの向上、販路の拡大の提案を行う。老舗企業などファミリービジネスや女性経営者のブランディングを得意とする。出産子育ての経験を通して女性の置かれる状況を改めて見つめ直し、ダイバーシティの浸透を目指し、未来の女性リーダーとなる跡取り女性(女性後継者)の支援事業を行っている。

 

[編集]株式会社ボルテックス100年企業戦略研究所
[企画・制作協力]東洋経済新報社ブランドスタジオ