業界で異例の存在感を放つメッキ加工会社
〜自社の強みを創り上げるのは、ほかならぬ経営者〜

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素材に金属の被膜を施すメッキ加工。ほぼ男性で構成されているこの業界に新風を送り込んでいるのが、大阪府に拠点を置くセンショーです。業界の部外者だったからこそ持ち得た客観的かつ斬新な視線。これを生かして経営を改革し続けている代表取締役の堀内麻祐子氏に、フレッシュでパワフルな組織を生み出した経営戦略についてうかがいました。

外から入ってきたからこそ、会社を変えられる

社員63人の平均年齢は35歳、男女構成比は3:1。メッキ加工会社としては考えられないほど若々しく、女性社員の活気にあふれた会社。それが、大阪市西成区に本社を置くセンショーです。代表取締役を務めるのは堀内麻祐子氏。経営者も男性社会のメッキ業界では異例の存在といっていいかもしれません。

堀内氏は、先代社長の叔父と専務の父親が相次いで病に倒れたことをきっかけに経営に携わるようになりました。

「当時、会社の資金繰りが非常に厳しかったのですが、お金の管理は父しかできないという状態でした。そんな中、病に倒れて入院した父から『手伝ってくれないか』と頼まれて会社に入り、経理を担当しました」

2年後に父親が他界。取引先やメインバンクから「これからどうするのか」と問われても、自分が社長になるとはまったく考えていなかったといいます。堀内氏が「辞めます」と伝えると、先方からはこんな答えが返ってきました。「せっかくここまでやってきたのだから、あなたが継いではどうか」。この言葉が堀内氏に考えるきっかけを与えます。

「これは父の大事にしていたメッキ加工技術を継承し、会社を変えていくチャンスかもしれない、と思いました。それまで会社には技術職の社員は2人ほどいたものの、実態は年配のアルバイトの寄せ集め。事務の女性もいませんでした。でも、外から入ってきた私なら変えられるかもしれない。そう考えたんです」

事業承継の意思を伝えた堀内氏はメインバンクから、今後30年間の経営計画を求められ、作成します。このときまとめた経営計画書には、堀内氏がこういう会社にしたいというイメージを具体的に落とし込んだ内容が100項目以上も並びました。社員の採用、技術開発、営業チーム、展示会への出展、投資計画。挨拶をする、掃除をするといった基本的なビジネスマナーも含まれた、きめ細やかな経営計画書を見て、メインバンクは堀内氏に経営を一任しました。

ただし、当時12億円もの負債を抱えていたため、そのままでは借り入れもままなりません。そこで銀行は、新たな会社を立ち上げ、以前の会社から設備を借りて家賃を払うというスキームを提示。新会社センショーは負債から切り離された形でテイクオフしました。

「前の会社が抱えた負債は、メインバンクからの推薦で企業再生支援機構の助けを得て半額に免除されました。さらに大阪市大正区に所有していた土地を売却して負債を減らし、残りの債務も最終的には免除されました」と堀内氏。スムーズな負債返済は堀内氏の経営努力とメインバンクからの厚い信頼の賜物でしょう。

インターンシップ制度活用で女性社員を獲得

2010年以降、堀内氏はいくつもの経営改革を敢行しました。まず一つがインターン制度を活用した社員の採用です。

「現状のままの人員構成では明るい未来が描けない。とはいえ求人募集を出しても応募はゼロです。そこで、大卒の女性を採用しようと思いたち、当時大阪市が採用していたインターンシップ制度を活用することにしました。3カ月間インターンシップをして、互いが同意すれば社員として正式に採用できる仕組みです。女性がいれば職場の雰囲気も明るくなりますし、大卒へのこだわりは、これから会社組織を整備していく上で管理職候補の人材が必須だと考えたためです。また、地元出身でほかの世界を知る機会の少ない高校中退の社員たちにもっと広い世界があることを知ってもらえて、いい影響があるという狙いもありました」

しかし、堀内氏の決断は社内から猛反発を受けます。大卒女子に何ができるのか。それより現場の人間を増やしてほしい。そもそもウチなんかに来るわけがない。反対意見に堀内氏は「大阪市の肝いり事業なので費用の負担がない」「試しに1回来てもらってはどうか」と粘り強く説得。こうして2014年に女性3人、男性1人のインターンシップが実現しました。

さて、インターンシップ期間を経てそのうち何人が同社に入社を決めたのか。答えは女性3人です。この年、新卒採用が厳しかったことを差し引いても上々の結果でしょう。同社の取り組みは、男の職場というイメージが強いモノづくりの現場であっても、工夫次第、周囲の協力次第で性別を問わず働きやすい職場にすることが可能であることを示す好例です。

若い女性社員の入社は堀内氏の狙いどおり、同社にポジティブな影響をもたらしました。

「社内の雰囲気が明るくなったことはもちろん、女性社員によりホームページやブログの開設、メッキ加工装置の取り扱い説明書や社内報の制作など、これまでにない業務の開拓が進みました。社内全体にチャレンジ精神が広がったんです。既存社員には大いなる刺激になったようです」

自社ブランド立ち上げで社員のモチベーションアップ

この年を皮切りに、若い人材採用を継続的に採用している同社の社員年齢が大幅に若返ったことは冒頭で紹介したとおりです。女性の現場希望者も増えてきたため工場の増設にも踏み切りました。

2年前には自社製品の開発にも挑戦しています。センショーはメーカーや金属加工業から依頼されたメッキ加工を本業としています。お客様からの注文があってのメッキ加工であり、社員が自社製品を目にする機会はありません。しかし、あるベンチャー企業から依頼を受けて表面処理開発を行っている過程で、チタンに予想もしていなかった美しい色が付き、堀内氏はこれをストローとして加工することを思い立ちました。

「ちょうどプラスチックゴミが問題視され始めたときでした。パイプを切ってストローに仕上げたところ、ドバイ万博の日本パビリオンでの配布が決まったんです。来年1月には、パリの展示会内に日本貿易振興機構(ジェトロ)が設置するジャパンブースへの出展も決まっています」

このストローのブランド名は「PUR CHER(ピュールシェール)」。20色以上が揃い、抗菌性も高いストローは環境負荷の軽減に役立つだけではなく、カトラリーとしても洗練されています。自分たちのメッキ加工技術が社会貢献型の商材に活用され、しかも目に見える形で販売されている。この事実が社員のモチベーション向上に直結しないはずがありません。

社員教育に力点を置いているのも堀内氏の改革の一つです。町工場ではOJTが主流で、理論を教える組織はまだそう多くありませんが、センショーではメッキ加工技術を学ぶ訓練校に社員を通わせ、技術検定や品質管理検定も課しています。

「メッキ加工においては高品質を保つために、技術をきちんと学び、品質に対するシビアな感覚を備えておく必要があるんです。採用面接でいつも応募者に『勉強が好きですか』と確認していますが、それは、メッキ加工には勉強が必須だからです」

12年前に経営計画書に掲げた課題の多くはほぼクリアできた今、堀内氏はDXを推進し、「人がいない現場」を目指しています。

「製造業は重労働というイメージを払拭したいですね。そのために、私ももっと経営の勉強をしたい。できれば大学院にまで進み、MBAも取得できたらと考えています」

新しい知識や技術の習得に関心があり、学ぶことが好き。責任感が強く、問題を自分ごととしてとらえて取り組んでいく。堀内氏が自社の強みと語る「センショー社員の特徴」は、ほかならぬ経営者が創り上げていることがうかがえます。堀内氏が打ち出す経営戦略のもと、近い将来、これまでになかった斬新なメッキ加工現場が創出されるかもしれません。

お話を聞いた方

堀内 麻祐子 氏(ほりうち まゆこ)

株式会社センショー 代表取締役

建築やメーカー、美容関係の仕事を経て、38歳で、家業である1931年創業のメッキ加工会社に入社。3代目として事業を継ぎ、2011年に株式会社センショーを設立。先代の会社を買い取る。2014年から女性採用に積極的に取り組む。

[編集] 一般社団法人100年企業戦略研究所
[企画・制作協力]東洋経済新報社ブランドスタジオ

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