BOOK REVIEW 『生きている会社、死んでいる会社』
~経営者は代謝を進め、 現場の創造性を支援せよ

『生きている会社、死んでいる会社』
変化する環境の中で、企業には常に新しい価値を創造することが求められます。そのために必要とされる「創造的新陳代謝」について、『現場力を鍛える』『見える化』などの著書で知られる遠藤功氏が著したのが『生きている会社、死んでいる会社』。生きている会社になるにはどうすればよいか、解説していただきました。

 

生きている会社にあって、死んでいる会社にないもの

日本の企業の現状について、遠藤氏は次のように指摘します。

「環境が変化する中で、企業も変わらなければいけません。しかし、本当に生まれ変わろうとしている日本の企業はどれだけあるでしょうか。世界を見れば、アメリカのGAFAや中国のBATなどが存在感を高めている中で、日本の企業の存在感は相対的に低下しています。その理由は、昭和の成功モデルを引きずって生まれ変われないまま、平成の30年を過ごしてしまったためです」

では、生まれ変わるためには何が必要でしょうか。もちろん、優れたリーダーや新事業を立ち上げるための戦略なども必要ですが、それだけでは不十分だと言います。

「生まれ変わるために不可欠なものが『活力』です。組織が生気を失っている状態では、生まれ変わることはできません。その原則を踏まえると、日本は死んでいる会社が多い。その一方で、数は少ないですが生きている会社、生まれ変わろうと努力を続けている会社もあります。その差はどこにあるのか、という視点に立って会社をもう一度見つめ直して生まれたのがこの本です」

遠藤功氏

生きている会社にあって死んでいる会社にないものの一つが「現場力」です。遠藤氏は、平成の30年間で日本の企業が失ったものとして現場力をあげます。平成の後半に相次いだ大企業の品質問題、航空会社の飲酒問題、バイトテロなどは、まさに現場の品質が劣化し、会社が死んでいる状態になってしまった結果現れた症状といえます。なぜ日本の企業から現場力が失われてしまったのでしょうか。

「『自分たちが会社を支えている』『自分たちが問題を自主的に解決していくんだ』という当事者意識が現場から失われたからです。その一つの理由は、本社が内部統制、コンプライアンス、ISOなど、管理強化の枠組みを現場に押しつけてきたためだと考えられます。その結果、『言われたことだけをやればいい』という現場に変えてしまったのではないでしょうか」

こうした死んでいる会社を生き返らせるためには、まず経営や本社が変わる必要があります。

「主役は現場であり、本社はそれをサポートするように、会社の建て付けそのものを変える必要があります。現場力は筋トレと同じで、目標を決めて地道にやるしかありません。劣化してしまった現場を蘇らせるためにどうすればよいのかを、真剣に考える必要があります」

リーダーに求められるのは代謝を進めミッションを示すこと

本書の中で遠藤氏は、価値創造のためには代謝が重要であり、「代謝こそリーダーの仕事」だと指摘しています。

「会社は、常に新しいことにチャレンジして、お客様に支持されるような価値を創造し続けなければなりません。そのためには、競争力がなくなったものや意味がないことはやめる必要があります。そうしなければ、新しいことに振り向けるリソースが出てこないからです」

たとえばGAFAは、こうした新陳代謝をダイナミックに実行しています。新たな事業をどんどん展開し、ダメだと思えばすぐにやめる。一方、日本の企業の問題は、代謝が不十分なことです。不要なものを捨てていけば、自ずと新しいものにリソースを振り向けることができ、新しいことをしなければいけないという切迫感も生まれると、遠藤氏は言います。結果として、創造は加速していくはずなのです。

「では、誰が代謝を促すことができるか。『創造』は現場でできますが、『代謝』は現場に任せておくと進みません。自分たちがやってきたことをやめるのは難しいからです。だからこそ、代謝ほどトップ主導で取り組まなければなりません」

一方で、現場の創造性を高めるには、「微差」の追求の重要性をあげています。

「現場は基本的にルーティンワークが中心になりますが、漫然と行うのではなく、ルーティンの中でちょっとした問題に気づき、それを新しいやり方に変えていく。そうした微差を現場が追求することによって、小さな改善が積み重なり、大きな変化へとつながります」

たとえば、ウォシュレットの開発現場では、より少ない水で汚れを落とすために、担当者たちが水流を見ながら議論し合い、試行錯誤を重ねて製品を進化させてきました。食品の世界でも、日本の果物やお酒などが海外で高く評価されていますが、いずれも粘り強く改良を重ねてきた賜物といえます。

微差を追求する上で必要なのが、経営者が目的やミッションを設定することです。

「大きな目的があれば、仕事が単なるワークではなくプレイとなり、微差を追求しようという意識に変わります。たとえば、レンガ積みの職人は、単にレンガを積み上げていると思ってやるよりも、教会をつくっているとイメージしてやるほうが、作業の品質と生産性は圧倒的に高くなります。大切なのは、タスクを与えるのではなく、ミッションを与えることです」

AIやロボットの時代に 人間にしかできないことは何かを考える

近い将来、AIやロボットが進化し、人間の仕事の多くを奪って置き換えられるといわれています。その中で、企業は現場力をどう高めていけばいいのでしょうか。

「AIやロボットに置き換えられるところはどんどん進めていく一方で、人間にしかできないことは何かを考えていくことが大切です。それこそが他社が真似のできない、競争力の源泉になっていくはずです。AIやロボットはお金さえ出せば誰でも手に入るようになります。模倣が困難なのは、人間にしかできないアナログの力です。これからは、AIやロボットを賢く使いこなすような現場力を鍛えていく必要があります」

AIやロボットが進化するから人はいらない、デジタル化が進むからアナログは意味がない、といった二項対立の単純な発想ではなく、AIやロボットと人間をどう共存させるか、デジタルとアナログをどう融合させるか、を模索するところに、日本の企業の生きる道があるといいます。

「世の中の主流はコモディティ(量産)化していきますが、その中でも高品質なもの、ハイエンドなものは必ずあります。そういう付加価値の高い領域に日本の企業はこだわるべきです」

生きている会社の鍵はこれからも現場力にあります。自社の現場力をどう鍛えて独自価値をつくり上げていくか。経営者にとって最重要課題と言えそうです。

著者

遠藤 功 氏(えんどう いさお)
遠藤功

株式会社ローランド・ベルガー会長。早稲田大学商学部卒業。米国ボストンカレッジ経営学修士(MBA)。三菱電機、米国系戦略コンサルティング会社を経て、2000年にローランド・ベルガーに参画。経営コンサルタントとして、戦略策定のみならず実行支援を伴った「結果の出る」コンサルティングで高い評価を得ている。良品計画、SOMPOホールディングス、ドリーム・アーツ、マザーハウスの社外取締役等を務める。『現場力を鍛える』『見える化』『現場論』(以上、東洋経済新報社)などベストセラー著書多数。

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