人手不足でニーズが増加…「人材ビジネス」に新規参入するには?
~本業にプラスワンで売上アップ「会社の副業」ガイド[第6回]

知名度の高い企業のなかには、業種の異なる複数の事業を展開したうえで、それぞれを法人化していることがあります。グループの力をまとめることで勢力を増大させ、大企業としての存在感を確かなものにしているのです。

しかし、大企業でなくとも他業種で新規事業を検討する価値は十分にあります。リスク分散や節税に繋がることはもちろん、ビジネスチャンスの増大という相乗効果も期待できるからです。

本連載では、他業種で新規事業を検討する中小企業に向けて、様々な業界の概況や事業開始までのポイントを解説していきます。今回は「人材ビジネス」について考えていきましょう。

現在の人材ビジネスを取り巻く状況

一般社団法人 人材サービス産業協議会によると、人材サービス産業は、大きく求人広告事業、職業紹介事業、派遣事業、請負事業の4つに分類され、その市場規模は約9.5兆円といわれています。近年はニーズの多様化により、4つの事業を複合的に行う事業者や、紹介予定派遣のように新しいサービスを提供する事業者も増えています。

【図表1】人材サービス産業の市場規模

(出所)一般社団法人 人材サービス産業協議会「2020年の労働市場と人材サービス産業の役割」基に株式会社ボルテックス100年企業戦略研究所が作成

また少子高齢化が進む日本では、人材の確保が困難になりつつあるといわれています。帝国データバンクが2020年の1月に発表したデータによると、2019年に人手不足倒産に追い込まれた企業は、前年に比べ20.9%も増加。総合計は185件で、過去最多を4年連続更新しているという状況です。このため人材派遣への需要は、今後もますます拡大していくと考えられます。

本業のある企業が人材ビジネスへの参入を検討する時

すでに本業を持つ企業が、新規事業として人材ビジネスを検討するようになるのは、どのようなタイミングなのでしょうか。それは日常業務の中で取引先企業のニーズを目や耳で直接感じ取った時と考えるのが自然です。

近年はさまざまな業界で、人手不足が深刻となっています。「スタッフの数が足りなくて、本当に困っている……」というクライアントの声をただ聞き流してしまうのではなく、ビジネスチャンスと捉えた時、人材ビジネスの可能性が浮上してくるでしょう。相手は取引先なのですから、業務上の相似点や専門知識の共有が少なからずあるはず。こうしたノウハウを無駄なく活用できるだけでなく、本業へのフィードバックや相乗効果までもが期待できるのです。未知の新事業へ参入し「さまざまな業界へ人材を派遣していく」という心積もりではなく「本業から新規事業を派生させる」という考え方で進めていくと、堅実な成長が期待できるのではないでしょうか。

■人材派遣か人材紹介か
では実際に人材ビジネスをスタートするにあたって、どのようなプロセスを経ていくべきなのでしょうか。具体的に見ていきましょう。まず人材ビジネスには、大別してふたつの種類があることを、知っておかなくてはなりません。

人材派遣業:依頼業務に適したスタッフの派遣
人材紹介業:採用要件を満たした人材の紹介と採用支援

上記のサービスを利用した企業から収益を得る業態です。いずれを始めるにあたっても、厚生労働省から認可を得なくてはなりません。

人材派遣業はストック型ビジネスです。優秀な人材AをB社へ派遣すれば、期間満了後も「契約が更新される」、「新たにC社へ派遣する」などの展開が可能となります。継続的な売上が見込める一方で、利益率は高いとはいえません。また 軌道に乗れば多くの人材を抱え、多数の企業と取引する業種なので、純資産を2,000万円以上用意できないと認可は得られません。

対して人材紹介業はフロー型ビジネスで、人材AをB社に紹介した時点でミッションが完了します。成功報酬のため人材派遣業のような継続的な売上は見込みづらいですが、利益率は人材派遣業よりも高い傾向にあります。また人材派遣業の4分の1である500万円の純資産から許可申請することができるので、中小企業が副業として人材派遣を検討する場合は、人材紹介業からスタートさせるのが堅実といえそうです。

人材ビジネスに必要な手続きとは?

人材ビジネスを始める前のフローを見ていきましょう。まず事業所を管轄する労働局に、事前に相談しに行きます。これはマストなことではありませんが、許可要件等の説明や助言がもらえるので、しておいて損はありません。

そのあとに行なうのが、「事業戦略の設計」。自社にどのような強みがあり、どのようなポジションで戦っていくのか、戦略を組み立てていきます。綿密な戦略なしに、2万社以上が競合となる業界では戦っていくことはできません。

次に行なうのが、「職業紹介責任者講習の受講」です。人材派遣業には「派遣元責任者講習」、人材紹介業には「職業紹介責任者講習」がそれぞれ用意されていますが、内容は1回のみで5時間程度、受講費は約1万円、開催場所は全国にあります。また有効期間は受講日から3年間(職業紹介責任者講習は5年間)となっています。この受講実績がなければ、例え純資産が基準を満たしていたとしても許可が得られません。

そして、申請に向けて「免許申請書類の準備」を行ないます。「労働者派遣事業許可申請書」や「労働者派遣事業計画書」など、必要書類を揃えるのは、根気と時間が必要です。10万円ほどで申請代行業者を利用する方法もあります。申請書類の準備ができれば、免許申請書類と合わせて、事業所を管轄する労働局に提出しすれば申請は完了です。

申請から許可までに必要な期間は2ヵ月程度。その期間内には会社の実地調査も含まれています。事業に使用する面積が20平方メートル以上あること、そして「派遣社員や登録者との面接用スペースは必須」とされていますので、環境はきちんと整えておきましょう。

人材ビジネスを取り巻く法制度にも関心を

最初は小規模で人材ビジネスをスタートするとしても、軌道に乗った場合に備え、法制度について知識を深めておく必要があります。

まず日本では人材派遣業そのものが職業安定法により禁止されていました。今もその原則は変わっていませんが、1986年以降、段階的に規制が緩和されています。具体的には港湾運送、建設、警備、そして病院等における医療関連以外の業務であれば、人材派遣が可能となったのです(職業紹介で禁止されているのは港湾運送、建設業務のみ)。

しかし、現在も業種により「派遣可能期間が異なる」などの定めがありますので「知らず知らずのうちに法に触れてしまう」という失敗を招かぬよう、充分に注意してください。

なおコロナ禍で、人材ビジネスの市場規模は3割減、休職や雇止めなどで有効求人倍率は0.5%を割ると言われています。一方で、オンライン面談・面接が主流になるなど、採用スピードは飛躍的にアップすると言われています。まさに変革の時を迎えている人材ビジネス業界。そこに大きなビジネスチャンスが眠っているとも言えるでしょう。

本格的な展開には「人材の集め方」のブラッシュアップが必須

人材ビジネスを成功させるには「効率的な人材の集め方」を会得していかなくてはなりません。取引先を始めとする同業界内で小規模な紹介を行ううちは何とかなっても、本格的に業務を展開するとなれば、大手の求人サービスが競合となってくるからです。近年の求職者は、インターネットを通じて情報を収集しています。このため「(業界に特化するだけでなく)読み物コンテンツも充実したホームページ作り」や「検索ワードを吟味したうえで打つリスティング広告」、「SNSを活用した情報発信」など、求職者目線でさまざまな方法を模索していく必要があるでしょう。

また近年、人手不足に悩む日本においては、外国人の労働力に大きな期待が寄せられています。これを受け、2018年末に臨時国会で『出入国管理及び難民認定法及び法務省設置法の一部を改正する法律』が可決・成立し、2019年4月1日より「特定技能」での新たな外国人材の受入れが可能になりました。具体的にはこれまで、在留資格に基づく労働しか許可されてこなかった外国人の就労範囲に関し、規制緩和が試みられているということです。こうした時流にも常にアンテナを張り、外国人向けの情報発信も視野に入れていくと、より精度の高い人材ビジネスが軌道に乗りやすくなるでしょう。

著者

株式会社ボルテックス 100年企業戦略研究所

1社でも多くの100年企業を創出するために。
ボルテックスのシンクタンク『100年企業戦略研究所』は、長寿企業の事業継続性に関する
調査・分析をはじめ、「東京」の強みやその将来性について独自の研究を続けています。

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