【研究員コラム】不動産テックの最新動向~日本と米国を中心に

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目次

前回、メタバース(仮想世界)の世界と、不動産投資や現物不動産との関連について解説しました。今回は、前回の内容に関連が深い「不動産テック」について解説します。


日本の不動産テック~最新動向

「既存の業界のビジネス」と「AIなどの先進的なテクノロジー」を結びつけて生まれた新たな製品やサービス、あるいはその結びつける取り組みを示す「X-Tech(クロステック)」という言葉があります。X-Techの具体例としては、「Fin Tech(Finance, 金融)」「HR Tech(Human Resource, 人事)」「Ed Tech(Education, 教育)」「Agri Tech(Agriculture, 農業)」「Gov Tech(Government, 政府)」などがあり、実際に数多くの業界で新しい取り組みが盛んになっています。

不動産業界においても、「不動産テック」や「Prop Tech(Property, イギリス英語で不動産)」という言葉が、近年急速に使われるようになりました。2018年に設立された一般社団法人不動産テック協会は、「不動産オープンID推進部会」「ビジネスマッチング部会」「不動産金融部会」「業界マップ部会」「海外連携部会」の5つの部会活動をメインに、調査研究やビジネス機会創出など数々の活動を実施しています。

「業界マップ部会」の活動では、『不動産テックカオスマップ』と呼ばれる、サービスや商品を提供する事業者をカテゴライズした業界地図を公表しています。このカオスマップ(業界地図)には、「ローン・保証」「業務支援(集客)」「業務支援(顧客対応)」「業務支援(契約・決済)」「業務支援(管理・アフター)」「業務支援(設計・施工)」「不動産情報」「物件情報・メディア」「価格可視化・査定」「クラウドファンディング」「VR・AR」「マッチング」「IoT」「リフォーム・リノベーション」「スペースシェアリング」という15個のカテゴリーが定められ、各カテゴリーにおいて先進的テクノロジーで新しい価値や顧客体験を作り出しているビジネスやサービスが掲載されています。2022年8月8日に公表された第8版(430サービス掲載)では、2021年7月に公表された第7版(446サービス掲載)のときと比べて、次のような傾向が明らかにされました。

不動産テック カオスマップ

1つめは、開始はしたものの、その後に運用実績がないサービスが増えてきたことです。2つめは、大企業が不動産テックに参入してきたことです。3つめは、以前はテック企業(テクノロジーを駆使して、ビジネスを展開している企業)によるサービスが多くを占めてきましたが、今では不動産事業者みずからが行ってきた取り組みを踏まえて不動産テックのサービスを展開し始める事例が増えていることです。不動産事業者が不動産テックについて懐疑的に感じる時代、不動産事業業者が思いもつかないようなビジネスモデルに危機感を感じ始めた時代を経て、不動産事業者とテクノロジー企業の融合が深まる淘汰の時代となりました。

また、「VR・AR」のカテゴリーでは、今後盛り上がりが期待されるメタバース関連サービスとして、メタバース上で住宅展示場を開催する『shapespark』が掲載されました。「価格可視化・査定」のカテゴリーでは、住宅に関するサービスが数多く並ぶ中、今後オフィスや商業施設に関するサービスにビジネスチャンスを期待できそうです。

日本の不動産業界は長らく「閉鎖的で、取引情報が不透明」という課題を抱え、情報の透明化が期待されてきました。不動産テックの発展によって新たな時代が切り拓かれていくことが望まれています。

米国の不動産テック~最新動向

世界を見渡せば、不動産テックの巨大マーケットは米国と中国であり、とりわけ先進事例が多いのは米国です。香港や韓国は、米国の影響を受けながら、現在それぞれの国土面積や商習慣に応じた成長を遂げています。不動産テックでグローバルな電子取引事業を手掛けるイギリスのUnissuは、2021年における米国の不動産テック企業の数が2,234社であることを発表しています。

米国における不動産テックのマーケットでも、現在メタバースが最も旬な話題の1つになっています。ここまで、後に詳述する「①ポータル」「②シェアリングエコノミー」「③ハイブリッドブローカー・iBuyers」「④Power Buyers」という4つの大きなトレンドを経て、テック企業は時価総額を跳ね上げてきました。2020年11月12日時点で、不動産テックプレイヤー第1位のCoStarの時価総額は353億ドル、第2位のZillowは253億ドルの規模になり、REALOGY(Sotheby'sやCentury21の親会社)やRE/MAXといった従来型の不動産ブローカー(取引仲介企業)の時価総額を、あっという間に追い抜いています。

2005年からトレンドとなっている「①ポータル(不動産を選ぶために使用する検索サイト)」は、不動産を「買いたい人」が「探す」ためのサービスです。Zestimateという不動産価格の査定モデルを売りにしていたZillowのポータルは「不動産を探すとき、アメリカ人の8割が一番初めに見にいく」と言われるほど有名です。ZillowはM&Aを繰り返し、物件検索の後工程である内見・調査・申込・契約などを1つのプラットフォームで提供できるようにし、利便性を高めてきました。

2010年からトレンドとなっている「②シェアリングエコノミー(不動産の所有者が、使用していないスペースを有効活用すべく、個人間で提供するサービス)」では、Airbnb(民泊)やWeWork(コワーキングスペース)が先駆けの企業です。

2015年からトレンドとなっているのが、「③ハイブリッドブローカー・iBuyers」です。ハイブリッドブローカーとは、店舗販売とオンライン販売の両利きでサービスを展開する取引仲介企業を指し、CompassやeXp Realtyなどが「買いたい人と売りたい人」が「取引する」ためのサービスを展開しています。現実のオフィスを持たないeXp Realtyは、バーチャル空間上でビジネスを完結できるという自社の強みを活かして、エージェント(不動産取引をする人の代理人)を多く獲得し、業績を伸ばしてきました。iBuyersとは、個人の売り手から直接住宅物件を買い取り再販売するという、「売りたい人」の「取引」を支援するビジネスモデルです。Opendoor・Offerpad・knockなどが代表的な企業になります。

2020年からトレンドとなっている「④Power Buyers」とは、AIを駆使して「買いたい人」に資金を提供することで「取引」を支援するサービスです。「家を初めて買いたい人」に対して「代わりに頭金を出す」サービス、「家を買い替えたい人」に対して「代わりに物件を買って、前の家が売れたら清算をしてもらう」サービスなどが登場しています。スタートアップ企業であるOrchardやHomewardは近年、急速な成長を遂げています。

あらゆる不動産情報がポータルで確認でき、新たな住体験・顧客体験・購入オプションを得られる時代が訪れています。

【参考文献】
Andrew Baum(2020)“PropTech 2020: the future of real estate”Saïd Business School, University of Oxford Research
https://www.sbs.ox.ac.uk/sites/default/files/2020-02/proptech2020.pdf(2022年8月16日閲覧)
CCReB総合研究所(2022年7月25日)『アジアにおける不動産テックの動向について(韓国)』
https://ccreb-gateway.jp/reports/%e3%82%a2%e3%82%b8%e3%82%a2%e3%81%ab%e3%81%8a%e3%81%91%e3%82%8b%e4%b8%8d%e5%8b%95%e7%94%a3%e3%83%86%e3%83%83%e3%82%af%e3%81%ae%e5%8b%95%e5%90%91%e3%81%ab%e3%81%a4%e3%81%84%e3%81%a6%ef%bc%88%e9%9f%93/(2022年8月16日閲覧)
LMRE(2021年10月15日)“Emerging PropTech Trends in US and Canada”
https://blog.lmre.tech/blog/emerging-proptech-trends-in-us-and-canada(2022年8月16日閲覧)
NTTドコモ・ベンチャーズ(2022年2月28日)『2/3開催【先進セミナー】不動産テックを1時間で解説~最新状況とそこに秘めたる大きな可能性とは~』
https://note.com/docomo_v/n/n585db2995b5c(2022年8月16日閲覧)
東金太一(2022年6月20日)『アジアにおける不動産テックの動向について(香港)』CCReB総合研究所
https://ccreb-gateway.jp/reports/%E3%82%A2%E3%82%B8%E3%82%A2%E3%81%AB%E3%81%8A%E3%81%91%E3%82%8B%E4%B8%8D%E5%8B%95%E7%94%A3%E3%83%86%E3%83%83%E3%82%AF%E3%81%AE%E5%8B%95%E5%90%91%E3%81%AB%E3%81%A4%E3%81%84%E3%81%A6%EF%BC%88%E9%A6%99/(2022年8月16日閲覧)
不動産テック協会(2021年10月21日)『Withコロナの米国不動産テック最新動向(ウェビナー)』
不動産テック協会(2022年8月8日)『不動産テックカオスマップ 最新版(第8版)発表セミナー 2022』
不動産テック協会(2022年8月8日)『不動産テック カオスマップ 最新版(第8版)』
https://retechjapan.org/retech-map/(2022年8月16日閲覧)

著者

安田 憲治

一般社団法人 100年企業戦略研究所 上席研究員

一橋大学大学院経済学研究科修士課程修了。塩路悦朗ゼミで、経済成長に関する研究を行う。 大手総合アミューズメントメント企業で、統計学を活用した最適営業計画自動算出システムを開発し、業績に貢献。データサイエンスの経営戦略への反映や人材育成に取り組む。
現在、株式会社ボルテックスにて、財務戦略や社内データコンサルティング、コラムの執筆に携わる。多摩大学社会的投資研究所客員研究員 。麗澤大学都市不動産科学研究センター客員研究員。
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