ポートフォリオ基礎/不動産投資
3-2. ポートフォリオの実践とリスク管理

「ポートフォリオ基礎/不動産投資<br>3-2. ポートフォリオの実践とリスク管理」のアイキャッチ画像

目次

ポートフォリオを組むには、過去のトラックレコードから将来のリターンやリスクを計算し、分散効果が高い資産を組み合わせていく必要があります。

投資期間で異なるボラティリティ

私はこれまでに7つのREIT(不動産投資信託)の立ち上げに関わった経験があります。2001年9月に日本第1号となる上場REITが誕生しましたが、その1つである「ジャパンリアルエステイト」の組成に1990年代後半から参画しました。このときに必要になった情報インフラが「不動産価格指数(インデックス)」です。

インデックスは、過去のトラックレコードの平均的な姿を表しており、これが分からないとリスクやリターンを計算できません。実際に住宅ファンドの組成では、どの地域の物件をどの割合で組み入れるかを考える必要がありました。

首都圏の地域ごとの住宅価格と賃料の推移をグラフに表すと、ギザギザと上がったり下がったりします。このブレ(ボラティリティ)が乱高下すればリスクが大きく、安定していればリスクが小さいと直感的に分かるでしょう。

ボラティリティの期間構造(イールドカーブ)を見ると、10個のデータでリスクを計算するか、20個・50個で計算するかで結果は大きく異なります。10個で計算すると、グラフの変化が大きく上下にブレますが、20個・50個では緩やかになります。これは投資期間が短いと、リスクが大きくなることを意味します。

つまり、ポートフォリオの組み方も投資期間によって変える必要が出てきます。データの個数別にボラティリティを見ると、その中心の値はそれほど違いません。不動産投資の固有のボラティリティはほぼ同じでも、投資期間によってボラティリティのブレが変化するのです。

リスク調整済みリターンとは

首都圏の住宅のリスクとリターンを、地域と住宅の種類ごとに分けてグラフに表すと、どうなるでしょうか。地域は東京23区や市町村単位で、住宅の種類はワンルームマンション(1R)、専有面積40㎡ぐらいのDINKS(夫婦2人で子供がいない)向け(DK)、55~60㎡を超えるファミリー向け(FA)で分けると、リスクとリターンの組み合わせはさまざまであることが分かります。

リスクとリターンとの関係を見るときに「リスク調整済みリターン」という考え方があります。リターンをリスクで割ると、1リスク量あたりのリターンを計算できます。これを大きい順で並べてみると、1番が江東区のFA、2番が品川区のDK、3番が新宿区のDK、4番が港区の1R、5番が江東区のDKという結果になりました。手元にある資金は決まっていますから、調整済みリターンの上から順番に買える物件を買えばよいのです。

しかし、ポートフォリオには「アート」の部分も必要です。不動産投資商品として、最も住宅市場規模の大きい世田谷区を入れた方がよいのではないか。渋谷区の物件が入っておらず、江東区が多いのでは魅力的に見えないのではないか。私はそのように判断して、地域の要素も加味しながら、リスク調整済みリターンの高い物件から6つの対象エリアを選びました。

ポートフォリオの組み合わせ

ポートフォリオを組成する時に問題になるのが、どのエリアの物件を何%ずつ組み入れるのかをどう判断するかです。港区の1Rは、リスクも大きいがリターンも大きい。世田谷区のFAはリターンが小さい。江東区のFAや品川区のDK、新宿区のDKはリスクとリターンのバランスがよいと、それぞれ特徴が異なります。

その組み合わせを判断するためのグラフも、計算によって作ることができます。このグラフを使えば、リスクをある数値に設定した場合の最適な組み合わせを導くことができます。

ポートフォリオは、このようにインデックスやリスク・リターンの対比構造が分かれば組成できますが、不動産投資はそれほど単純なものではありません。株式のように高度に細分化された資産であれば可能ですが、実際の不動産投資では、より高度なリスク管理が求められます。

ファンドマネージャーの求められる5つの条件

欧米で最も大きな投資機関であるハーミーズ(Hermes)のトップを務めたルパート・クラーク(Rupert J.Clarke)が、2000年代初め頃に開催された不動産投資に関する会議で「ファンドマネージャーに求める5つの条件」の講演を行ったことがありました。

その最初の条件は、Financial Sophistication(洗練された金融技術)です。この会議の後の2008年にリーマンショックが起こりました。日本では1991年のバブル崩壊、1997年の金融危機もありましたが、それらを通じて何を学んだのかということです。

リーマンショックの後、UBSアセットマネージメントのマネージャーだったデイビッド・ビューク(David Bucke)は「今回の金融危機で学んだことは、流動性のリスクと併せて、(金融機関の)評価リスクが存在すること。さらに物件の選別を注意深くしなければならないことだ」と述べています。

金融機関から借金して不動産投資しているファンドが、急に返済を求められてデフォルト(債務不履行)に陥ったからです。では、どうすればデフォルトしなかったのか。売りたいと思った時にすぐに買い手が付くような流動性リスクが低い物件であれば、売って損は出ても、デフォルトにならなかったかもしれません。

さらに「港区の住宅」とか「日本橋のオフィス」といった大まかな投資の仕方ではなく、「港区でも、この住宅」「日本橋なら、このビル」というように、「注意深く物件ごとに選別していかなければ、大きなリスクに見舞われると知った」とも言っています。

人口減少と高齢化

2つめがDynamic Research and Strategy(ダイナミック・リサーチ&ストラテジー)、未来を予見する力、市場の変化を読み取る力です。「足元で何が起きているのか」を読み取るNowcasting(ナウキャスティング)、「これから何が起こるのか」を予測するForecasting(フォアキャスティング)には、市場構造の変化を正しく理解する力が必要です。

日本では、人口減少と高齢化が急速に進みます。地方都市では「空き家」や「空きビル」がどんどん増えており、どう選別するかが重要になってきます。これまでの不動産バブル・リーマンショック・コロナショック、あるいは戦争のような地政学的リスク以上に、人口変化のほうが怖いかもしれません。

不動産市場の力は「国力」に比例します。英国の著名な経済学者であるジョン・スチュワート・ミルは「富める国の地価は上がり続ける」と言いました。この先、どの地域が富み続けることができるのか。不動産市場からどこが無くなるのかも見ていく必要があります。

専門性をいかに高めるか

3つめの条件がPerformance Culture(パフォーマンス・カルチャー)、投資の立ち位置を正確に知ることです。儲かっているのなら、どうして儲かっているのか。儲かっていないのなら、何が原因で儲かっていないのか。その測定ができているかどうかが重要です。

マーケットの状態がよければ、どんなに腕の悪いファンドマネージャーでも、一定の成績を上げることができます。マーケットが崩れれば、どんなプロでもリターンを返せないことがあります。そうした状況でも持ち堪えて、平均に比べて、どれくらいマイナスを少なくしたのかがプロの仕事です。彼らのパフォーマンスを正しく測定し、リスクの量・回復のシナリオを理解したうえで、市場の実態をどこまで理解できているのか、市場の成長・成熟・衰退といった今後の未来のリスクをどのように抑えていくのかについて知る必要があります。

4つめは、Excellence/Specialization(エクセレンス/スペシャリゼーション)です。これから投資しようとする時に、自分自身、また資金を預けようとする投資家が、何に強いのかを見極めようとするでしょう。どのような専門性を持つ人と付き合うのか。自分自身がどのような専門性を身に付けるかが重要です。

ネットワークの重要性

最後の5つめがPeople and partners(ピープル&パートナーズ)、ネットワークです。誰もが必要とする能力を持っているわけではないので、それをカバーする専門性のあるネットワークを持っているかどうか。自分自身を含めて、資金を預けているファンドマネージャーがどのようなネットワークの中で仕事をしているのかが重要になります。

新潟県中越地震や東日本大震災、新型コロナウイルス感染症による中国・上海市の閉鎖では、サプライチェーンが回らなくなって生産が止まった企業がありました。これはネットワークが弱かったことを意味し、強いネットワークは企業価値を増幅します。

これらの5つの条件を支える基盤も重要です。Transparency(トランスペアレンシー)は会社の透明性や風通しのよさ、Compliance(コンプライアンス)は法令順守、Systems(システムズ)は組織の強固さ、Good Practice(グッドプラクティス)は道徳・倫理です。

これまではコンプライアンス、グッドプラクティスなどの企業の社会的責任(CSR)が求められてきました。これからは、どういう価値を社会に提供できるのか、Creating Shared Value(CSV, 共通価値の創造)が重要になってきます。正しい行動の中に価値や利益が生まれ、それによって投資の価値も最大化することができるでしょう。

スピーカー

清水 千弘

一橋大学教授・麗澤大学国際総合研究機構副機構長

1967年岐阜県大垣市生まれ。東京工業大学大学院理工学研究科博士後期課程中退、東京大学大学院新領域創成科学研究科博士(環境学)。麗澤大学教授、日本大学教授、東京大学特任教授を経て現職。また、財団法人日本不動産研究所研究員、株式会社リクルート住宅総合研究所主任研究員、キャノングローバル戦略研究所主席研究員、金融庁金融研究センター特別研究官などの研究機関にも従事。専門は指数理論、ビッグデータ解析、不動産経済学。主な著書に『不動産市場分析』(単著)、『市場分析のための統計学入門』(単著)、『不動産市場の計量経済分析』(共著)、『不動産テック』(編著)、『Property Price Index』(共著)など。 マサチューセッツ工科大学不動産研究センター研究員、総務省統計委員会臨時委員を務める。米国不動産カウンセラー協会メンバー。

【コラム制作協力】有限会社エフプランニング 取締役 千葉利宏

登録料・年会費無料!経営に役立つ情報を配信
100年企業戦略
メンバーズ

「人と企業を新たなステージへ導く実現力」のアイキャッチ画像

人と企業を新たなステージへ導く実現力

詳しくはこちら