【研究員コラム】メタバースの世界~不動産投資の新たな形、現物不動産との違い

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最近「メタバース」という言葉を、テレビや新聞など至るところで見聞きするようになりました。メタバースとは、一体どのような世界なのでしょうか。そして、不動産投資や現物不動産と、どのような関係があるのでしょうか。本コラムでは、メタバースの世界と不動産の関連について解説していきます。

メタバースとは

メタバースは、SF作家のニール・スティーヴンスン氏が「Meta(超える)」と「Universe(宇宙)」を組み合わせた造語で、日本語では「仮想世界, 仮想空間」などと訳されます。メタバースの明確な定義は今のところありませんが、概ね「インターネット上の仮想的なデジタル空間で、自らを表現するアバター(分身)を介して、他のユーザーとさまざまな活動ができる世界」と理解されています。

メタバースの台頭

近年、デジタル技術が生活やビジネスをよりよい方向に変化させることを指すワードである「DX(Digital Transformation, デジタルトランスフォーメーション)」が多くの場面で使われてきました。しかし、Googleの検索数では直近1年、DXは下降傾向にある反面、メタバースは2021年10月に急上昇してから本日にいたるまでDXに大差をつけ勝っています。最近は、DXの活動として「Web会議・展示会・広告などで、メタバースを活用していこう」とする動きも出てきています。株式会社アイ・ティ・アールのチーフアナリストであるマーク・アインシュタイン氏は、「DXで解決できない世界共通の課題を解決するのが、仮想世界との融合によって現実世界を変革させることを指す『VX(Virtual Transformation, バーチャルトランスフォーメーション)』である」と提唱しています。

また、旧Facebook社が、2021年10月に社名を「Meta Platforms, Inc.」に変更したことが大きなニュースになり、「メタバース」が一躍注目を集めるようになりました。「Facebookはメタバース企業になる」と公言したMeta Platforms, Inc.のCEOであるマーク・ザッカーバーグ氏は、メタバースについて「デジタル空間で人々と一緒にいることができるという仮想環境で、見ているだけではなく、その中にいるような感覚になれるインターネットのようなもの」と説明しています。

メタバースの市場と不動産投資

ITアドバイザリー企業のGartnerは、「2026年までに人々の1/4は、仕事やショッピング、教育やエンターテイメントなどのために、メタバースで1日1時間以上過ごすようになる」と展望を発表しています。また、調査会社のEmergen Researchは、「世界のメタバース関連市場は、2020年の476億9,000万ドル(約6.2兆円)から、2028年には8,289億5,000万ドル(約108兆円)へ急拡大する」と予想し、「同期間の年平均成長率が43.3%になる」と分析しています。

経営コンサルタントのパトリック・ショウ氏によると、メタバースは、①パーセプション(メタバースを、現実世界と同じように感じることができる)、②ソーシャル(メタバースで、リアルタイムに現実世界の人と繋がる)、③エコシステム(メタバースの経済インフラが、半永続的に機能している)の3つの要素で構成されます。多くの国の映画館では映像に合わせた香りを体験できる4DXというシステムが展開されていますが、メタバースにおいて電気信号で自由に嗅覚や味覚を制御するのはまだまだ難しい状況です。

不動産テック協会の代表理事である巻口成憲氏は、「パーセプションは、メタバースへの没入感を実現するための重要な要素ではあるが、不動産にとってより肝心なのが、ソーシャルとエコシステムである」と述べています。現実世界だけでなくメタバースでも不動産に価値が存在し、その価値を実装するための技術が、ブロックチェーン(多数の参加者に同一のデータを分散保持させる仕組み)やNFT(Non-Fungible Token, 資産が唯一無二となるよう価値を加える仕組み)です。不動産投資ファンドのRepublic Realm社は2021年11月に、メタバースのプラットフォームである『The Sandbox』内の土地を430万ドル(約4.9億円)で購入しています。

メタバースで不動産バブルが起きている?

The Sandbox上の土地を、adidas、GUCCI、Warner Music Group、エイベックス・テクノロジーズ株式会社といった大手企業が現在保有しています。The Sandbox上の地価は右肩上がりに上昇し、「メタバースで、不動産バブルが起きている」という見解も現れるようになりました。Republic Realmのジャニーン・ヨリオ氏は、メタバース上の土地をさまざまなルートから購入することでリスクの軽減を図り、値上がりしたときの売却や、ショッピングモールを建てて収益を得ることなどを構想しています。

メタバース上の不動産と現物不動産の違い

現実の不動産と同様に、メタバース上の土地や建物は、利便性が高いエリアほど高値で取引されます。The Sandboxでは、土地の供給上限が16万6,464区画と、希少性が備わるように設計されています。メタバース上の不動産には、経年劣化にともなう家賃収入減少、災害、修繕費増加といったリスクがない反面、ユーザーが減って需要が少なくなり資産価値が下落するリスクが存在します。メタバースでは仮想通貨で取引されるため、仮想通貨の価格変動により不動産価値も変動します。一方で、現実世界の不動産は、現物資産であることや、生活になくてはならないものであることが強みとなります。メタバースの不動産投資ブームは一過性であるのか、メタバースが多くのユーザーに普及して価値が上がっていくのか、これからの動向が注目されます。メタバースのプラットフォーム『Decentraland』上では、土地オーナーに向けたイベントが頻繁に開催されたり、カナダのTerraZero Technologiesによる住宅ローン提供が開始されたりするようになってきました。今後、このようなメタバース上の土地取引を過熱させる仕掛けが充実してくると予想されます。

メタバース上の不動産マーケット

2003年にメタバースの先駆けとして登場した『Second Life』は、PCの性能やアバターの操作性に課題があったこと、世界が広すぎて閑散としていたこと、メディアが主導するブームであったことなどから、次第に廃れる結果となりました。時は過ぎて現在、仮想通貨の保有率が高いタイでは、不動産大手各社がメタバースを用いたビジネスに着手し、競争が始まっています。外国人事業法によって外国人による現実世界のタイの土地購入は原則禁じられていますが、メタバースには制限がないため、マーケット拡大が見込まれています。日本では、誰がどのように仕掛け、新たな世界を作っていくのでしょうか。

メタバースに留まらない最新技術、その影響と可能性

そして、メタバース内の不動産に留まらず、AR(Augmented Reality, 現実世界に仮想空間を作り出す技術)、MR(Mixed Reality, 現実世界の情報を仮想空間に加えて仮想空間を現実化する技術)、あるいはデジタルツイン(Digital Twin, 現実世界を仮想空間上で再現する技術)といった現実世界と仮想空間にまたがる技術は、現実世界の不動産の可能性をも広げていきます。スマートフォンで物件をかざして見るだけで間取りが分かったり、街にかざすだけで「時間帯別の人の流れ」や「周辺の主要産業」といった情報が収集されたりするような技術は、すでに実現可能な段階になっています。仮想空間を活用して現実の不動産情報を瞬時に捕捉し、予測がなされれば、不動産取引の流動性は高まっていきます。経営者には「技術の進歩が、自身の業界に将来どのような影響をもたらすか」について如何に捉え、経営戦略に繋げていくかが求められるようになってきました。

メタバースの世界は広がっていく

先ほど、メタバースのプラットフォーム上で、土地に供給上限を設けられ、希少性が備わるよう設計されていることを書きました。次に、引いた視点で「メタバースの世界」を観察したいと思います。

現実世界とメタバースの違いの1つは、その世界が有限であるか無限であるかです。『Blender』『Unity』『Unreal Engine』など無料で使用できるソフトが登場し、最近は個人でも3次元コンピューター・グラフィックでオリジナルの世界をいくつも創れるようになりました。メタバースの世界を体系的に整理している株式会社スペースデータ代表取締役社長の佐藤航陽氏は、この状況について「クラウドファンディングが『金融』を民主化、検索エンジンが『知識』を民主化したように、メタバースは『神』を民主化する」と表現しています。

メタバースの時代に求められるスキル

アバター(自身の分身)として活動するメタバースから影響を受け、またメタバースの世界そのものが広がっていくと、各人が持つ人格は多種多様になると考えられます。現実世界において「会社で見せる顔」「家族に見せる顔」「気の合う仲間に見せる顔」を使い分けることがありますが、それぞれのメタバースでも「現実世界とは異なる顔」を持てるようになると、漫画家や作家が行ってきたような「魅力的な新しい人格を創る」スキルが必要となってきます。自身がどのような存在でありたいか、価値創造が重視される時代になっていきます。

メタバースの世界を創る

佐藤氏によれば、メタバースの「世界」は、視認できるビジュアルとしての「視空間」と、社会的な機能と役割を持つ「生態系」に分解されます。視空間は、さらに「アバター」と「フィールド」に分解され、人間や建物をどのようにデザインするかが「没入できる世界観」を創る重要な要素です。生態系は、「自律的」「有機的」「分散的」という3つの特徴を兼ね備えると、世界がうまく回ります。メタバースに参加する人が生態系内のルールを理解したうえで自律的に行動でき、参加者同士が有機的に交流でき、中央集権的な司令塔による統治がなくても成り立つシステムであると、世界のバランスが保たれていくのです。現実世界で100年以上存続する企業の多くは、創業期はカリスマ経営者の手腕によって発展を遂げていますが、メタバースでも黎明期にはカリスマの求心力によって少数の集団を形成することが、現実的な成長戦略となる可能性が高いと考えられます。

メタバースが変える未来

今後メタバースが普及していくと、ユーザーのPCやVRデバイス(メタバースに没入するための機器)から取得できる情報量は飛躍的に増えると予想されます。すると、メタバースにおけるアルゴリズムの精度が上がってユーザー満足度が向上し、メタバースに滞在する時間が増え、更なる情報量の取得に繋がっていきます。現在はメタバースが現実世界を真似て発展を遂げる段階ですが、将来は現実世界がメタバースから行動変容を促されるようになると推測できます。実際に「SDGs(持続可能な開発目標)17目標を2030年にすべて達成した地球」がメタバース上に創られ、参考にする動きが始まっています。私たちは、メタバースから何を学び、活かしていけるのでしょうか。

【参考文献】
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https://www.sbbit.jp/article/cont1/22603(2022年8月16日閲覧)

著者

安田 憲治

一般社団法人 100年企業戦略研究所 上席研究員

一橋大学大学院経済学研究科修士課程修了。塩路悦朗ゼミで、経済成長に関する研究を行う。 大手総合アミューズメントメント企業で、統計学を活用した最適営業計画自動算出システムを開発し、業績に貢献。データサイエンスの経営戦略への反映や人材育成に取り組む。
現在、株式会社ボルテックスにて、財務戦略や社内データコンサルティング、コラムの執筆に携わる。多摩大学社会的投資研究所客員研究員 。麗澤大学都市不動産科学研究センター客員研究員。
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