少子高齢化時代を生き抜く、地域活性化のヒント
〜コミュニティデザインで人が集まる街に〜

「少子高齢化時代を生き抜く、地域活性化のヒント<br>〜コミュニティデザインで人が集まる街に〜」のアイキャッチ画像

目次

厚生労働省によると、2023年の日本の出生数は前年比較で5.14%減の75万8631人と、過去最低となりました。2070年には2.6人に1人が65歳以上になると推計され、少子高齢化に歯止めがかかりません。地方ではとくにその傾向が強く、自治体におけるまちづくりが喫緊の課題となっています。地域に人が集まり活性化することは、その地域の企業の発展や存続においても欠かせないテーマです。そこで、まちづくりのヒントとなる「コミュニティデザイン」について、都市工学を研究する東京大学大学院教授の小泉秀樹氏にお話を伺いました。

コミュニティデザインとは

少子高齢化や環境問題への対応は、これからのまちづくりにおいて避けて通れない全国的な課題です。私の研究室では、これからのまちづくりの様々な課題を解決する糸口として「コミュニティデザイン」を研究し、実践しています。

概念自体は、1960年代後半頃から議論されてきました。その変遷をたどってみると、少しずつ定義が変化しています。
1955年頃、高度成長期に入ると各地でニュータウンの開発が始まりました。周囲の自然環境への影響が危惧される中、住民が自分たち主導で地域社会を作っていくことが大事である、という意識が徐々に高まります。これがまちづくりのアプローチを包含した、コミュニティデザインの発端です。
70年代後半には高度成長期を終えて都市開発も落ち着き、「すでにつくられた街をより良くするには」ということがテーマになりました。そこに住む人々や商売をしている人たちの生活を考慮しながら、物理的な環境をよくしていくことをコミュニティデザインと呼ぶ本も出版されるようになった時代です。
90年代後半には阪神・淡路大震災の復興が一つのきっかけとなり、地域社会を再構築するコミュニティデザインが求められるようになります。1998年にはNPO法ができ、自発的に地域に関わる人たちが登場し始めました。その頃、専門家の間では、カフェのような場所を起点としながらコミュニティを育むようなことをコミュニティデザインと呼ぶ動きもありました。私を含めて、「ある空間の中で社会的関係をデザインすること」を定義としたのです。
その後、東日本大震災が起き、復興の中で、再び人のつながりを生むコミュニティの必要性が強く認識されるようになります。最近ではコミュニティデザインがビジネスとしても役割を果たしており、広く知られるようになりました。

現在のコミュニティデザインは、「住民主体で運営できる体制づくり」と「地域の人々が集まりやすい空間づくり」という2点を前提に、社会的な関係を作り直すということを最終的な目的に据えています。

地域活性の「担い手」を探し育てる

コミュニティデザインを進める前に必ずやってほしいことがあります。それは、まちづくりのアクションを生み出す「担い手」の発掘です。自治体や町会、NPOや地域活性への思いがある人、もしくは組織がそうした担い手になり得ます。

見つけるのはなかなか大変ですが、キーパーソンをたどっていくと、うまく見つかることがあります。例えば、衰退の進む地方自治体から、中心市街地を再生したいという話があったとしましょう。その場合、まず依頼元である行政や商工会を訪ね、地域のキーパーソンを教えてもらうのです。その人に話を聞き、今まで地域でどのようなことをされてきたのか、まちづくりへの思いをインタビューします。そうして最後に、ほかに地域づくりを担ってくれそうなキーパーソンを教えてもらい、またインタビューをするのです。
こうしてキーパーソンをたどっていくと、地域のつながりが見えてきて、関係図のようなものができ上がります。数万人ほどの人口規模の地域であれば、大体3階層ぐらいまで行うと、その街の主要なステークホルダーや担い手が見つかるはずです。

その時に聞いたエピソードからも学びがあります。今までその地域にどのようなイベントがあって、どう取り組んできたのか、現状を知ることができます。それまで住民の方々が中心に進めてきた事柄や重視している価値、地域資源を把握した上で、地域再生に向けてのアクションを検討し、組み立てることができます。

発掘ができたら、次は、育成です。例えば、ワークショップに主なステークホルダーを呼んで、地域の課題やビジョンを共有します。その実現に向けて必要なプロジェクトをデザインしてもらいます。これに併せて学びの場を用意することがとても重要です。どうすればそのプロジェクトが実現するのか、時には専門家も交えて議論をし、参加者が知識をつけるプログラムを並行して実施することが育成につながります。

少子高齢化社会での共創型まちづくり

コミュニティデザインという言葉が最初にクローズアップされた時、この言葉は「住民主体のまちづくりを進める具体的な方法論」として位置付けられていました。しかし実際には、少子高齢化が進む中、住民主体や行政施策だけで地域の問題を解決することは難しくなってきています。
そこで、新たなコミュニティデザインとして注目されているのが「共創アプローチ」です。地域を取り巻くあらゆる関係者が協働して、地域再生の目標に向かって取り組むということを示しており、フレームワークをいかに作っていくかが、今後のまちづくりのカギとなるでしょう。

その好例として、横浜市のたまプラーザで行った「次世代郊外まちづくり」が挙げられます。これは横浜市と東急が協定を結んだプロジェクトで、住民、行政、大学、民間企業などさまざまなステークホルダーが課題を共有し、まちづくりが進みました。
「コミュニティ・リビング」という新たなコンセプトに基づきながら、これまであまり活用されていなかった公園や駅前のスペースをコミュニティ活動の場として利用し、幅広い世代の暮らしを支えるインフラを集約したリビングのような拠点をつくったのです。

この事例からいえることは、企業との共創が進めば、地域住民だけでは力が及ばないところをうまくカバーできるようになる可能性があるということです。しかし、地域によってはなかなかそうもいかないのも事実。そういった場合は行政が重点的にサポートするというアプローチで、エリアごとに戦略性を持って対応できれば、企業参画が難しい地域にもメリットをもたらすことができるのではないかと考えています。

まちづくりのプロセスにおいて、担い手の発掘と同じぐらい大切なのが、地域資源の発掘です。美しい山並みや緑地などの自然や歴史的な街並み、さらに地域でアート活動をしている団体などは、まちづくりの主体であり、資源でもあります。今、まちづくりで成功しているのは、こうした資源をうまく活用している地域です。まちの魅力をわかりやすく発信することで、外から若い方が移り住むきっかけにもなっているのです。

一方で、本来少子高齢化というのは、「高齢者が住み続けられる地域社会をどう作り出すか」、さらには「若い人たちが子どもを産み育てたいと思えるような社会状況をどう作るか」というのが本質的な課題です。若い人たちを移住させるだけではなく、元々の住民や移住者も含めて、「ここなら子どもを産み育てられる」という前向きな気持ちをどう生み出せるのか、この点に関する取り組みは、政策的にもコミュニティデザインとしても、まだ始まったばかりです。

現状を見ると、東京などの都市は出生率が下がる一方ですが、逆に島根など自然資源が豊富な場所のほうが出生率回復の傾向にあります。まだ研究途中のテーマではありますが、地方の小さな都市にこそ、この問題を解決する手がかりがあるのではないかと感じています。

お話を聞いた方

小泉 秀樹 氏(こいずみ ひでき)

東京大学 まちづくり研究室 教授

1964年東京生まれ。東京大学大学院工学系研究科都市工学専攻博士課程修了。東京理科大学理工学部建築学科助手、東京大学工学部都市工学科助教授、准教授などを経て現職。専門は、都市計画、まちづくり、コミュニティデザインなど。多くの市民団体や自治体とともに都市計画、まちづくり、コミュニティデザインの実践に取り組んでいる。編著等に『コミュニティ辞典』(春風舎)、『コミュニティデザイン学』(東京大学出版会)、『東日本大震災 復興まちづくり最前線』(学芸出版社)、『まちづくり百科事典』(丸善)など多数。

[編集] 一般社団法人100年企業戦略研究所
[企画・制作協力]東洋経済新報社ブランドスタジオ

経営戦略から不動産マーケット展望まで 各分野の第一人者を招いたセミナーを開催中!

ボルテックス グループサイト

ボルテックス
東京オフィス検索
駐マップ
Vターンシップ
VRサポート
ボルテックス投資顧問
ボルテックスデジタル

登録料・年会費無料!経営に役立つ情報を配信
100年企業戦略
メンバーズ