学校給食のリーディングカンパニー・東洋食品が貫く“信頼”の経営
~「食と公共性」を軸に、創業から変わらぬ“安心”を次世代へ繋ぐ挑戦~

目次
学給食という社会インフラを担いながら、創業から半世紀以上にわたり「食中毒ゼロ」という安心・安全を貫いてきた株式会社東洋食品。全国44の都道府県、4,000校以上に1日150万食以上校を提供し、民間委託市場で約25%のシェアを誇る業界のリーディングカンパニーです。同社の強みであり、競争力の源泉でもある徹底した衛生管理体制はいかにして築かれたのか。そして、学校給食事業で培った知見をホテル事業や海外展開など新たな領域への挑戦にどう生かしているのか。「信頼」を社是に掲げる同社の歩みと、荻久保瑞穂専務取締役が見据える未来に迫ります。
強さの秘訣は60年続く徹底した衛生管理と市場開拓
全国の子どもたちが毎日口にしている「給食」。その民間委託市場において揺るぎない国内シェアを誇るのが株式会社東洋食品です。
同社の最大の特長は、創業以来60年以上にわたって「食中毒ゼロ」を継続している徹底した衛生管理体制です。保健所出身の専門家らで構成される社長直轄の「衛生部」が、独立した立場で厳格な衛生指導・衛生検査を行うほか、国際標準化機構(ISO)が定めた、食品安全マネジメントシステムに関する国際規格「ISO22000」も業界内でも早くから取得しています。この妥協なき姿勢こそが、全国の自治体から深い信頼を寄せられる理由となっています。
同社は1966年に荻久保専務の祖父・荻久保良男氏が創業し、学生食堂の運営から始まりました。その後、1985年に学校給食の民間委託が解禁されると、翌1986年に民間第1号として学校給食市場に参入。現社長・荻久保英男氏のもとで全国展開を進めました。さらに、民間資金やノウハウ等を活用して公共施設を整備する事業手法「PFI方式」へも2005年から参入し、同社は大きく成長を遂げました。現在、従業員数は1万8,000名を超え、売上高はこの10年でおよそ2倍に伸びています。
なぜ東洋食品は、この分野で高いシェアを築けたのか。荻久保専務は3つの理由を挙げます。
1つ目は、学校給食の民間委託という新しい市場にいち早く着目し、開拓・拡大してきたことです。約40年前に始まった学校給食の民間委託ですが、業界全体の現在の委託率は6割。その中でも同社は、現社長の営業戦略の下、積極的に委託先を広げてきました。
「1980年代後半から1990年代初頭のバブル期で、ほかにもっと利益の出る仕事がたくさんあった時代に、学校給食というニッチな市場に早くから参入したのが社長でした。自治体も保護者も民間委託の給食は初めてですから、どう説明するか、どう品質を確保するか、資料を一つひとつ作って説明に通い、信頼を積み重ねることで導入を進めていきました。今でも自らトップ営業に行くんですよ」
2つ目は、PFI事業への参入です。2005年に全国で初めてPFI案件を受託。施設設計やファイナンスの知見がない中で、協力会社と共に手探りでノウハウを構築していき、給食分野のPFIでの実績は、現在約50件に上ります。
そして3つ目が、地方への進出です。民間委託は関東圏だけでも大きな市場規模がありましたが、一方で競争も激化しつつありました。そこで、関西をはじめ、民間委託がまだ始まったばかりの地方自治体へと進出。事業所の開設など先行投資はかかりましたが、リスクを取ってでも早い段階から地方に出たことが、現在の全国的なシェアにつながっているといいます。
「作って出す、だけではない」。東洋食品の社会貢献
「学校給食は、ただ食事を作って出すだけの仕事ではありません」という荻久保専務の発言には、東洋食品の価値観がよく表れています。
「『食育』という言葉があるように、日本の学校給食は教育の一環としても位置づけられています。クラスメートと一緒に食事をすることで社会性を養ったり、地産地消や食文化を学んだり、作ってくれた人や生き物への感謝の心を持ったりと、さまざまな学習の機会となっています」
給食を通じて食育を届けるため、同社は自治体と協力し、多岐にわたる取り組みを行っています。全国の郷土料理を給食メニューとして紹介する「ご当地学校給食MAP」や、調理員による寸劇、親子教室、生徒が収穫した野菜を給食に使用したり、味噌づくりに挑戦したりといった体験型の企画もあります。
数ある取り組みの中でも、荻久保専務が印象的なエピソードとして挙げるのが長野市の事例です。台風やひょうの被害で傷んだ「復興リンゴ」を給食センターで一つひとつ処理してヨーグルト和えにしたほか、鹿による食害対策から生まれたジビエを給食に活用しました。
「ニホンジカの食害に困っていた長野市が食肉加工センターを作り、消費の方法について模索していました。そこで、給食で使えないかと、栄養士さんと当社で、子どもたちが喜んで食べてくれる味付けを試行錯誤してメニュー化しました。今では鹿肉のボロネーゼやキーマカレーが人気メニューになっています」
このように、学校給食は単に「食」の提供を超えて、地域貢献や社会貢献などにも役立っています。例えば、新たに給食施設を受託することで地元の雇用を創出したり、災害時には給食センターが防災拠点としての役割を果たしたりすることもあります。実際、同社は2011年の東日本大震災のときに炊き出しを行い、給食配送車で物資支援にあたりました。
学校や自治体が抱える課題は多岐にわたります。同社は、一つひとつの自治体や学校に寄り添いながら、衛生管理、アレルギー対応、食品ロス、地域の文化や特色への配慮、災害対応、栄養士や調理員の高齢化と人手不足、雇用、周辺環境との調和などに取り組んできました。
創業から受け継ぐ心
東洋食品の全国のすべての営業所には、社是である「信頼」の文字が掲げられています。これは創業時から変わらない、同社の心です。
「私の祖父が創業したときは、人脈もなくゼロからのスタートでした。面会のためのアポイントが取れない、だまされそうになる――本当に人間関係で苦労したからこそ、人との信頼を尊重する社風が築かれていきました。また、給食の契約は主に3年、PFIだと15年と長期にわたります。毎日きちんと給食を出して信頼を積み重ねた結果が、次の契約更新につながる。普通の飲食店とは違い、同じお客様に毎日ずっと提供し続けなければならないからこそ、信頼が何よりも大切なんです」
荻久保専務はこのような「信頼」のあり方を、こう表現します。
「お客様、従業員、パートナー企業、地域社会、あらゆる接点において信頼を追求することです。そして、優先順位はいつもお客様、会社、自分の順です。そのために何ができるかが当社の行動基準となっています」
東洋食品が見据える100年企業への挑戦
同社はさらなる成長を目指して、ホテル事業や外食事業、加えて海外の学校給食プログラムなど、新たな領域にも挑戦しています。それらはいずれも「食と公共性」という同社の強みを起点にしたものです。
「やみくもに多角化してもうまくいきません。ホテルでも給食でも、従業員は皆、口をそろえてこう言います。どんなに大変でも、お客様の『おいしかった』『ありがとう』がやりがいです、と。この新領域でも、その根底の理念が共通しているからこそ、うまくいくと考えました」
ホテル事業においては、伊豆・河津町の老舗温泉旅館「今井荘」をリノベーションして2024年8月にリニューアルオープンし、初年度から高い評価を得ています。学校給食の提供がない8月は、旅館業にとって最大の繁忙期。
そこから、グループ全体として人員を有効活用する仕組みを整えることができました。
外食事業も、給食事業とうまく連携することでのシナジーを狙っています。「外食のおいしさを給食に、給食の安全を外食に」をビジョンに、それぞれの事業で培ったノウハウを相互に還元し合う、同社ならではの価値提供を目指しています。
海外においては、インドネシアへの進出を準備しています。インドネシアでは現在、8,000万人規模で学校給食を無償化する国家的な動きが急速に進んでいますが、衛生面での大きな課題を抱えています。農林水産省関係の補助金も活用し、現地の栄養課題や食事内容の調査をいたしました。当社の衛生管理のノウハウやメニュー提案、食育プログラムを活用して、現地の社会課題の解決に貢献したいと考えています。
さらに、ほかの海外諸国への展開も検討しています。
最後に、長く続く企業であるために大切だと考えていることと、将来へのビジョンについて、荻久保専務はこう話します。
「変えるべきところと、変えてはいけないところをしっかり区別することが大切です。『信頼』と『安全・安心でおいしい給食』は、創業以来変えずに守り続けている価値観です。一方で、事業ポートフォリオや人事制度、組織づくりは、時代に合わせて柔軟にアップデートしていく。利益を追求するだけでなく、地域社会の役に立ちながら、会社としても安定的に成長していくことで、100年、200年と成長し続けられる企業でありたいと思います」
子どもたちが当たり前のように給食を楽しめるのは、同社のような企業努力があってこそ。人手不足や物価高騰という構造的な課題に業界全体が直面する今、東洋食品は価格競争からの脱却を業界に呼びかけ、DX(デジタルトランスフォーメーション)などの取り組みも進めながら、給食という社会インフラを守ろうとしています。半世紀以上にわたって貫いてきた「信頼」を礎に、子どもたちの笑顔を支える取り組みは、これからも続いていきます。

お話を聞いた方
荻久保 瑞穂 氏(おぎくぼ みずほ)
株式会社東洋食品 専務取締役
1982年東京都生まれ。東京工業大学(現・東京科学大学)工学部、同大学院社会理工学研究科にて顧客満足度の国際比較などを研究。2008年に博士号を取得。その後、金融情報サービスのブルームバーグ L.P.にて営業職等を経て、投資運用会社のウエリントン・マネージメント・ジャパン・ピーティーイー・リミテッドで債券運用業務に従事する。祖父が創業し、父が代表取締役を務める株式会社東洋食品に2016年入社。常務取締役を経て、2019年に専務取締役に就任。現在は、1日に150万食以上を提供する学校給食事業のさらなる発展や「食育」を推進。日本の給食ノウハウを生かした海外展開など、幅広い事業に注力している。
[編集]一般社団法人100年企業戦略研究所
[企画・制作協力]東洋経済新報社ブランドスタジオ










