追い風の今こそ次の時代を見据えて。一人ひとりが会社を成長させるナイガイ
~「見えない部分」を支える保温保冷工事のリーディングカンパニー~

目次
オフィスビルや空港、商業施設――私たちが日常的に利用する建物の天井や壁の内側には、空調を効率よく機能させ、建物構造を火災から守り、空気を運ぶための設備が張り巡らされています。それらに断熱材を巻き、耐火被覆を施し、ダクトを通す。こうした「見えない部分」を100年にわたって担い続けてきたのが、ナイガイ株式会社です。2023年に創業100周年を迎えた同社は、保温保冷工事の専門会社として業界をリードしてきました。リーマンショックという経営危機を乗り越え、今も次の100年に向けた挑戦を続ける淺井康雄社長に、業界の現在地、組織づくり、そして今後の展望を伺いました。
“裏側”から暮らしを支え続けて100年。全国へ広がるネットワーク
東京スカイツリーやあべのハルカスといったランドマークとなる建物から、身近な商業施設や病院まで、全国の建築を裏側から支え続けているナイガイ株式会社。大型のビル設備を中心とした保温保冷工事を専門としており、2023年に創業100年を迎えました。
同社の主力事業は、空調効率を高めて消費エネルギーを削減する「保温・保冷工事」、火災時の倒壊を防ぐ「耐火被覆工事」、空気を運ぶ管を取り付ける「ダクト工事」。複数工事をワンストップで請け負う「複合工種一括請負」の体制や、断熱・消音の数値を精緻に計算できる高度な専門知識を有しているのが特徴です。
同社の強みの1つは、保温保冷工事会社として唯一の全国展開を実現している点で、全国30の拠点のほか、700を超える協力業者とのネットワークを背景に国内トップシェアを誇ります(同社調べ)。そのメリットについて淺井社長はこう話します。
「北海道から九州まで各主要都市に拠点がありますので、そのスケールメリットを生かしてコスト削減の交渉ができることはもちろん、全国の施工部隊を集約できることも大きなメリットです。建物を造るに当たっては、昨今の職人不足の影響もあり、工程が圧迫されて急な変更や対応が必要になる場面がたびたびあります。そういう時でも、当社は全国から施工部隊を集約できますから、お客様の安心感につながっていると考えています」
リーマンショックの記憶。「1%」の意識改革
100年の歩みの中で、同社は幾度かの経営危機を経験しています。とくに深刻だったのが、2008年のリーマンショックでした。かつての取引に関して、完成工事未収入金という形で不良債権が表面化。銀行融資が厳しくなり、40歳以上のリストラや支店の土地売却、返済期間の延長を余儀なくされ、賞与もゼロにするという現実に直面しました。
加えて、市場の縮小によって予算面でも非常に厳しい局面を迎えていたといいます。利益を確保することが難しく、従来のやり方では会社が倒れてしまう――。そんな状況の中で取り組んだのが、原価や予算の徹底管理でした。
「当社の仕事である施工管理は、工程管理だけでなく予算管理まで含みます。そのため、社員一人ひとりが『利益率を1%でも上げよう』という意識を持てるかどうかが本当に大きいのです。当社で社員一人ひとりが粗利を1%上げたら、単純計算で利益が数億円変わりますから」
顧客や協力業者に対しても、条件の見直しについて交渉を重ねていきました。その頃、大阪支店から東京本店へと異動になった淺井社長。大阪支店で徹底的に原価管理の仕方を叩き込まれたのに対し、東京本店ではあまりその意識が高くなく、ギャップを感じたといいます。「会社の成長は社員一人ひとりの努力の積み重ねによって支えられている」という思いの下、淺井社長は少しずつ意識を変えようとアプローチを始めました。
「統括部長として東京本店に着任した際、私の下には部長や課長が何人かいました。でも、彼らは長年のキャリアを重ねて自分のスタンスがある程度確立されていたので、なかなか意識が変わらなかったんです。ですので、さらにその下にいた課長代理や係長などに働きかけていきました。そうして彼らの結果が出てくると、それを見た部長や課長も気づき出して、変わらざるをえなくなる。そうして“上から下”ではなく、“下から上”へと意識を変えていきました」
その後、東京オリンピック決定を機に建設需要が首都圏を中心に高まり、業績が上向きに。各支店での売り上げと利益の向上に加え、技能実習生の採用など、需要の高まりに応えられる体制を整えてきたことも功を奏し、2024年3月期には創業以来最高となる191億円の売り上げを達成しました。
時代は繰り返す。追い風でも次の時代を見据えて準備する
業績好調の今だからこそ、淺井社長は次の局面を冷静に見据えています。
「リーマンショックの後にオリンピック需要があり、近年もコロナ禍を経て建設需要の高まりがあります。『時代は繰り返す』とはよく言われますが、そのとおりなのだろうと思うんです。今は建設需要は高いですが、また必ずどこかで低迷期が来る。だからこそ、会社も社員も力をつけていかなければなりません」
現在、脱炭素社会に向けて各企業が取り組みを進める中、保温保冷工事は建物の省エネ化に直結するため、今後も高いニーズが見込まれています。一方で、淺井社長はこの追い風をも冷静に捉えています。
「省エネ化につながる事業を展開しているのは確かですが、時代に合わせて新たに生まれた事業ではなく、断熱工事自体は弊社の創業当時にすでに存在していたものです。取り扱う材料もどんどん進化していますが、需要は急激な拡大を見込むというよりも、なくなるものではないと捉えています」
50年以上眠っていた制度の復活が意識を変革
淺井社長は、前社長から突然後継者に指名されたといいます。もともと別の候補者がおり、淺井社長自身は「ナンバーツーとして会社を支えてほしい」と言われていた立場でした。戸惑いのほうが大きかったと話す淺井社長ですが、就任したからには「いいものは継続し、変えたほうがいいことにはどんどん取り組む」という意識で着手し始めました。
そこで最初に行ったのが、就業規則の見直しです。100年の歴史の中で、継ぎ足しながら運用され、使われている就業規則が不明瞭になっていたといいます。分厚い資料の中からその整理を進めていくと、淺井社長は思いがけないものを発見します。それが、1969年に制定されて以来、長らく眠っていた「提案制度」の資料でした。
「社員が前向きに頑張れる環境を制度面から整えたい」という思いから、淺井社長はこの制度を再び社員に周知することを即決します。制度では提案内容の完成度よりも「出すこと」を奨励する設計とし、提案1件につき500円を支給し、社員1人当たり月10件まで提出可能としました。また、採用された提案は内容に応じて等級を設定し、最大で50万円の報奨金を支給。提出された提案は取締役会で審議され、結果は社内に共有。採用された提案は実名で、不採用の場合は匿名で内容のみを公開することで、心理的ハードルを下げました。
この制度により、工場の防犯カメラ設置、女性専用相談窓口の開設、経理精算の銀行振込化、オフィスカジュアルの導入、リファラル採用制度など、社員のリアルな声が次々と制度化されてきました。開始から4年、今もなお毎月提案が上がってきているといいます。
この制度による社内の変化について、淺井社長はこう話します。
「提案は会社をいい方向に導こうとするものですから、『会社をよくするには』という意識が社員の中に生まれ、変革につながっているのではないかと感じています。日々業務に当たる中で、社員の頭の片隅に『何か提案できるアイデアがないか』とほんの少しでも意識があること自体、会社にとって大きなメリットだとも思います」
建設業界から新たな領域への第一歩
社長就任から変革を進めてきた淺井社長。これからの発展を見据え、新たな施策も打ち出しています。その1つが新規事業の公募です。全社員に向けて呼びかけたところ115件ものアイデアが集まり、その中で新規事業として動き出したのが、BtoCの防音・消音事業です。
断熱工事でグラスウールなどの消音材を扱ってきたことで培ったノウハウを、同社が手がける内装工事に応用することを目指しています。これまではBtoBでの工事のみでしたが、このアイデアをきっかけに新たにBtoCの領域へと踏み出しました。
事業化の検討に当たり実際に市場調査をしてみると、ニーズは想像以上に広がっていました。リモートワークが定着する中、戸建てやマンションで小さな子どもがいる家庭や、SNSでの活動者など、さまざまな用途で個人でも防音を求める声があったのです。
新たな挑戦へ一歩踏み出した同社ですが、今回の新規事業はもともとノウハウのある領域での展開でした。淺井社長は「当社の仕事は建築業界の景気に大きく左右されます。だから今後は、建設業界とはまったく異なるところで、ゼロベースで新しいことに挑戦したい」と次なる変革へも前向きな姿勢を示しています。
会社は社員のために、社員は会社のために
ナイガイの「らしさ」とは何か。こう尋ねると、淺井社長は次のように話します。
「歴代の社長も、社員の話をよく聞く人が多かったと思います。顔を合わせた時は気さくに話しかけてくれて、いろいろとアドバイスもくれる。それは今も変わらず、当社の大切な文化だと思います」
淺井社長もこの文化を受け継いでおり、日頃のコミュニケーションに加え、提案制度や新規事業のアイデア募集も活用し、社員の意見を自ら聞きに行っています。こうした相互関係は、同社の理念「会社は社員のために、社員は会社のために」にも表れています。
「社員も会社のことを思っていて、会社も社員のことを思っている。これこそが、当社が100年続いてこられた理由なのではないでしょうか。そして、建設業は、社員だけでなく、協力業者との信頼関係がなければ成り立たない商売ですから、協力業者とのつながりを大切にしてきたことも今の礎になっていると思います」
次なる目標は、2030年に売り上げ215億円。そのために、ダクト工事と耐火被覆工事の全国展開や海外事業展開も視野に入れて加速させていく考えです。
一つひとつを確実に積み重ねながらも、変革や挑戦をいとわないナイガイ。「見えない部分」を力強く支え、人々の暮らしと社会のインフラを陰ながら守ってきたその歩みは、これからも続いていく。100年という節目を新たな出発点として、次の100年に向けた挑戦が、今まさに始まっています。

お話を聞いた方
淺井 康雄 氏(あさい やすお)
ナイガイ株式会社 代表取締役社長
1965年広島県生まれ。1989年広島電機大学卒業後、ナイガイに入社し大阪支店に配属される。2016年東京本店長に就任。2021年常務取締役を経て、2022年代表取締役社長に就任。
[編集]一般社団法人100年企業戦略研究所
[企画・制作協力]東洋経済新報社ブランドスタジオ










