危機感をどのように共有すればいいのか

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もしも企業が経営難に陥ったとしても、その危機感を社内で共有するのは、意外なほど難しいもの。たとえば、会社規模でのコストカットはどのように進めればいいのでしょうか。大企業から中小企業まで幅広く経営コンサルティングを手がける小宮コンサルタンツ代表取締役CEOの小宮一慶氏にお話しいただく連載の第4回です。


コストカットは、とにかく実践ありき

本連載では、企業は来るべき危機に備えて、大企業であれば最低でも月商1カ月分、中小企業であれば月商1.7カ月分の資金をつねに手元に置いておくべきとお話ししました。私が思うのは、こうしたお金のリテラシーは、経営者はもとよりビジネスパーソン全般に必要不可欠な資質ですが、実際に備えている人は少ないかもしれませんね。

同様に、コストカットの重要性は誰もがわかっているものの、適切に実行に移されるケースは多くありません。無駄が存在すると認識していても、「自分だけが削減しても意味がない」「周囲に波風を立てたくない」という風潮が存在する企業は少なくないでしょう。しかし、それではダメなのです。そうした企業は結局のところ、たとえ少額でもお金を大切にするというリテラシーが欠けていると指摘せざるを得ません。

近年の日本で、コストカットの成功例としてもっとも有名な事例の一つがJAL(日本航空)の再建でしょう。2010年、戦後最大の負債額を抱えて経営破綻したJALですが、稲盛和夫さんが会長に着任して以降、奇跡的に再生しました。成功の理由を端的にいえば、「考え方」を変え統一したということが挙げられますが、同時に「何をすれば、どれだけのコストが削減されるか」を、それぞれの部署はもちろん一人ひとりが考え始めたからです。作業で使う軍手ひとつまで、使い方や仕入れを見直したと聞きました。

こういうとき、往々にして「意識を変える」という言葉が用いられますが、意識などそう簡単に変わるものではありません。とにかく、何でもいいから行動に移すのです。たとえば、毎日100円でもいいから節約できることがないか、部内で話し合ったうえで実践する。この「実践」が重要であり、稲盛さんもJALに着任したのちに、従来のパターンを変えないと立ち直れないという旨の言葉を社内に向けて発信しています。

メスを入れるのは「非付加価値活動」から

会社のお金を大事に使うことへの意識を高めるのは、その企業の規模が大きければ大きいほど「言うは易く行うは難し」です。中小企業であれば、とくに経営者に良くも悪くも「会社の金は自分の金」という意識がありますが、大企業に努めている人はそうした感覚はどうしても持ちにくい。だからこそ具体的な改革を重ねて風土をつくるほかないわけで、各部署に責任者を置くなどすることからスタートしてもいいでしょう。

その際、注意しないといけないのが、お客様に対しての活動にメスを入れるのは「最後の手段」だということです。管理会計の言葉に「付加価値活動」と「非付加価値活動」というものがあります。付加価値活動とは、お客様に対するバリューを高める活動のことで、製造や営業などがこれに当たります。一方で非付加価値活動とは、経理事務や内部で会議をしたり書類を作成したりする活動を指します。製造や営業部門でも非付加価値活動は存在します。

コストカットは、まずは非付加価値活動から着手するのが鉄則です。ふたたびJALのケースをお話しすると、経営不振に陥っていたとき、私がヨーロッパにビジネスクラスで出張した際、希望した食事がすでに在庫切れだと断られた体験があります。もちろん、さまざまな事情があったことは推察しますが、苦境に立たされたときに、このようにお客様に対する活動から削減していく企業は意外と少なくありません。

しかし、お客様はQPS、すなわちQuality、Price、Serviceの組み合わせでどの会社を選ぶかを決めているわけで、そうした一度の体験から見放されても不思議はありません。無論、フードロスの観点から無駄なストックを持てとは言いませんが、とくに高いサービスを求めてその分の高い金額を支払っている乗客に対しては、相応のサービスを提供しなければいけませんし、その本分を忘れてコストカットしていれば本末転倒というものです。

その後、JALは改革の末、私からみても非常に素晴らしいサービスを行なう会社へと甦りました。やはり、稲盛さんが「外の目線」を採り入れたからでしょう。私が経営者の方によくお話しするのは、「いちばん厳しいお客様の目になって、自分の会社を見ないといけない」ということ。とくに航空は新規参入が多い業界ではありませんから、どうしても内部志向になりやすい。だからこそ、経営者はつねに外部志向を意識しないといけないし、それがひいては従業員全体の経営やお金のリテラシーを培うことにもつながります。

事業欲の強い経営者は危うい

会社全体としてコストカットの意識を高めることは、経営危機の際に銀行からお金を借りるうえでも必要不可欠です。たとえば、資金繰りが厳しいときに新規事業を立ち上げるといっても、銀行は首を縦に振りません。新しい商品を開発するにも資金的余裕がなければいけないわけで、かえって火の車になると判断するのは当然です。そうなると、まずはとにかくできるかぎりコストカットすると銀行側に説明するべきで、併せて経営者は自分の給料を減らすなど率先垂範して行動するのは当然の話です。

銀行が融資するか否かを判断するうえで、大前提として経営者が必死かどうかをみます。もちろん、すべてが人情の世界とは言いませんが、危機を前にしても依然として偉そうに構えて身の回りにもメスを入れないような経営者では、銀行員の心を動かすことは難しい。ついでに言えば、経営者は普段から金融機関と接しておくべきです。

経営状態が良いときも悪いときも、たとえば最低でも3カ月に一度は銀行の支店長を訪問して現状を報告しておけば、いざというときに忌憚なく相談できます。雨の日になってから「傘を貸してください」と頼んでも、とくに経済危機の折には他の企業も同じように銀行に相談しているわけで、そう簡単にはいきません。銀行はよく悪し様に語られがちですが、彼らは彼らで預金者から大事なお金を預かっているわけです。そうした銀行との折衝は、普段から経理の人間に任せるばかりでは不十分なケースがあります。

もう一つお話しすると、私は事業欲の強い経営者は危ういと考えています。世の中には業績が好調な時期にどんどんお金を借りて、事業を拡張する経営者がいます。しかし、ある一定以下に自己資本比率を落としてしまうと、環境が変化したときに対応できません。具体的には、自己資本比率が10%を割るようならば、金融以外の業種では絶対に投資をしてはいけない。おそらくは楽観主義なのでしょうが、そうして会社を潰した方を何人もみてきました。

「物言う社外取締役」が求められる理由

自分の企業が経営難に陥ったとき、その危機感は意外なほどに社内で共有しにくいものです。なぜかといえば、社員は最終的には経営者に原因があると考えるから。とくに外部要因ではなく内部要因で業績が不振に陥った企業においては、自分の能力に自信がある社員であれば、転職したいと考えても不思議はありません。

経営者がもっとも避けなければいけないのは、社員に不安を抱かせることです。私はかねてより、コミュニケーションとは「意味」と「意識」の両方が重要だと考えていて、とくに中小企業の場合は意識の共有が大切になります。経営者は自分で抱え込むことなく、まずは幹部とのあいだで自社が置かれている状況についてコミュニケーションを深めるべきです。

そのとき、有効な手立てとなるのが、近年でその重要性が再認識されているように、物を言ってくれる社外取締役を置くことです。生え抜きの社員はどうしても内部事情が頭にチラつくもので、これまでの経験則から「何とかなる」と思いがちです。そして、経営者に忖度しがちです。しかし、そんなときこそ「このままだと、会社はダメになる」と進言してくれる存在が必要なのです。

社外取締役を置くのが難しければ、コンスタントに会社に来てくれるコンサルタントや税理士にその役割をお願いするのもいいでしょう。もちろん、大前提として両者とも仕事をもらっている立場ですから、根拠のない楽観論を口にして経営者に媚びを売る人間もいます。その点については、経営者の人を見る目が問われるといっていいかもしれません。

著者

小宮 一慶 氏こみや かずよし

株式会社小宮コンサルタンツ代表取締役CEO

大企業から中小企業まで、企業規模や業種を問わず幅広く経営コンサルティング活動を行なう一方、講演や新聞・雑誌の執筆、テレビ出演も行なう。『小宮一慶の「日経新聞」深読み講座』(日本経済新聞出版社)、社長の心得 (ディスカヴァー携書)『経営が必ずうまくいく考え方』(PHPビジネス新書)など著書多数。

[編集] 一般社団法人 100年企業戦略研究所
[企画・制作協力]株式会社PHP研究所 企画普及部

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