目的と目標の取り違えが不祥事を生む

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後を絶たない、日本企業の不祥事。はたして不祥事はなぜ起きるのか。それを未然に防ぐには、企業にはどのような姿勢が求められるのか――。大企業から中小企業まで幅広く経営コンサルティングを手がける小宮コンサルタンツ代表取締役CEOの小宮一慶氏にお話しいただく連載の第5回です。

質が劣化した日本の経営者

私があらためてご紹介するまでもなく、日本企業の不祥事が後を絶ちません。記憶に新しいところでは、日野自動車によるエンジン性能試験を巡る不正は、国土交通省が2022年3月に型式指定を取り消す厳しい行政処分を行ないましたが、8月に入り、不正行為が少なくとも2003年から行なわれていたことが明らかになりました。

企業不祥事には、さまざまな原因が考えられます。経営者に難があったり、そもそも企業風土がよろしくなかったりする場合、あるいは縦割りの弊害など組織の制度が遠因となることもあるでしょう。そのなかでもとくに多いのは、最初に挙げた、経営者に問題があるケースです。私には、日本の経営者の質が以前と比べて劣化しているように思えてなりません。

では、具体的にどのような点で、経営者の質が劣化しているのか。第一に、「目的と目標の違い」がわかっていない経営者が多いと指摘しなければなりません。昨今、パーパス経営という言葉が用いられるようになりましたが、目的とは、すなわち企業の存在意義のことであり、ピーター・ドラッカーの言葉を用いるならば、企業が「特有の使命を果たす」ことと「働く人を活かす」ことの二つです。

一方で、目標とは何でしょうか。目標とは目的に至るまでの通過点であり、達成度合いを測るための尺度と言い換えられます。売上高や利益は目標です。本連載でも「QPS(Quality、Price、Service)」について紹介しましたが、たとえばサービスの違いで他社と異なる特有の使命(=目的)を果たせているならば、売上や利益(=目標)は自ずと上がるはずです。そういった点では、売上高や利益は「結果」とも言えます。

私に言わせれば、上記のような目的と目標の違いは至極当たり前の自明の理ですが、残念なことに、それがわかっていない経営者が少なからずいます。経営を頭で理解することは、じつはそれほど難しいものではないというのが私の持論ですが、基本的なことを理解していることがとても大切です。そして、理解するだけでなくそれを実践することです。それにしても、目的と目標の違いなど基本的な部分を理解していることは基本中の基本で大前提です。

目的と目標を取り違えるな

もう一つ、経営者が戒めなければならないのが、私利私欲に走ることです。もっともわかりやすいのが、2015年に発覚した東芝の不正会計問題です。報道されているところによると、社長が3日間で120億円の利益を出すように部門のトップに命じたといいますが、これはまさしく、目標であるべき数字が私利私欲のために目的化した典型的なケースです。

なぜ、そうしたことが起きたかといえば、日本を代表する名門企業というプライドがそうさせたのではないでしょうか。東芝は過去に経団連会長も輩出しており、あくまでも私の感想ですが、あわよくば自分も……と経営者が考えても不思議はありません。そのためにライバルより良い業績が必要で、利益の水増しを行ったとも考えられます。

いずれにしても、目的と目標が混在していては、その企業に未来はありません。私の人生の師匠に、11年前に99歳で鬼籍に入られたお坊さんがいるのですが、彼が私によく投げかけていたのが、「お金を追うな、仕事を追え」という言葉です。本来、その企業が社会から求められているのは、何がしかの成果を上げること=仕事のはずです。それに対して、お金(売上や利益)は結果に過ぎません。そこをはき違えてしまうからこそ、いくつもの企業が不祥事を起こしているのです。

経営者は「生き方」を学べ

それでは、なぜ少なくない経営者が、目的と目標を取り違えてしまうのでしょうか。端的にいえば、私は「生き方」や「人間としての正しさ」を学んでいないからだと思います。それはすなわち、仕事を通じて自分は何を成し遂げなければならないか、という「志」を立てていないことを意味します。

ふたたびドラッカーの言葉を引用すると、「企業の一義的な価値は企業の外部にしかない」と指摘しました。すなわち、世の中からみて、その会社がどうお客さまや社会に貢献しているかという視点がない人物がトップに立つと、いつかは不具合が生じてしまうのです。この点に関してはやはり経営者の資質や勉強の度合いに拠るところが大きいと言えます。そして、気概のある社員が上層部に反旗を翻しても退職を迫られるだけですから、正しい志を持つ人ほど自ら転職したり起業したりしているでしょう。

もう一つ、企業が凋落する理由としては、「共同体化」が挙げられます。堺屋太一さんの名著『組織の盛衰』にも詳しく書かれていますが、これはつまり、本来ならば外部に対しての機能的組織であるべきはずの企業が、共同体意識が必要以上に強くなって、いつしか仲間内の利益を優先させる組織になってしまうのです。

不正をして成績を誤魔化そうという共同体は、強い言い方をすれば、反社会的勢力とやっていることが変わりありません。ドラッカーは「法律を犯す企業は、その存在さえ許されない」と語っています。私もまったく同意見です。法律とはすべてが「正しい」わけではないかもしれませんが、世の中の人びとが平和に暮らすため、最低限守らなければならないと決めたルールです。日本ではクルマは道路の左側を通行しますが、それが絶対的に「正しい」わけではないし、守っていても褒められることもありません。それでも誰もが遵守するのは、それを最低限のルールと皆で決めたからです。

会社とはボトムアップでは変わらない

先ほども申し上げたように、経営者は「生き方」を学ばなければいけませんし、言い方を変えれば、生き方の勉強もしていない小利口な人物が経営者を務めていては、会社全体として、お客さまや社会のことを無視したり、少し数字を誤魔化してもいいと考えたりする社風が生まれやすいでしょう。

先日、お亡くなりになった稲盛和夫さんは、著書で「成功の方程式」として「考え方×熱意×能力」という表現をされていました。もちろん、熱意も必要だし、能力も必要です。しかしその二つを数値化するならば0点~100点だけれども、考え方は‐100点~+100点までつけられる。だから、もしも生き方の勉強をしていないでマイナス点の考え方を持つと、掛け算して点数がマイナスになってしまうというのです。そんな人が上に立つ企業がどのような命運を辿るかは、あらためてお話しするまでもないでしょう。

そう考えると、もしも会社にメスを入れるならば、正しい考え方を持たず、あるべき組織をめざしていないトップを変えるほかありません。そもそも、会社とは下から「正しい組織」には変わりません。ひとたび、不正を正当化するような共同体が出来上がってしまえば、上から色を塗り変えなければ、内部志向の人の目を外に向けることはできないのです。不祥事に対しては多かれ少なかれ、各企業が内部統制を強化しようとしていますが、意識そのものが内向きでは抜本的な改革はできません。

変えるべきなのは意識ではなく行動

そこで直視しなければいけないのは、企業改革においてよく叫ばれる「意識改革」という言葉は何ら意味を成さないという現実です。少なくとも私は、これまでに意識改革なるものを成功させた企業をみたことがありません。すなわち、改革するべきは意識ではなく行動で、そもそも意識が本当に変わったか否かなど確かめようがないでしょう。そして、行動改革にどうしても従わない人には、辞めてもらうほかありません。行動とは、言葉遣いやあいさつ、やり方です。

たとえば、検査不正を防ぎたいのであれば、自社内ではなく第三者に検査を任せるのが有効な行動改革でしょう。もちろん、抵抗する人もいるでしょうが、ときには性悪説に則って対処することも必要です。その厳しさがなければ、社会に淘汰されるのを待つほかありません。

コンプライアンスの問題は、ハラスメントとは異なり、徐々に社会が許容しなくなったわけではなく、昔から法律違反です。世の中の概念が変わったわけではないのですから、その意味では弁解の余地はありません。とくに、放っておいても儲かるような横綱相撲を続けてきた企業は、ぬるま湯に浸かって自分に甘くなっていますから、えてして不祥事を起こしやすい。いまこそ、松下幸之助さんの「企業は社会の公器」という考え方を思い返すべきです。

一方、中小企業は大企業ほど外部のチェック機能を働かせられていないケースがありますから、経営者が正しい考え方をしっかり持つことと、社員の行動を変えながら、コミュニケーションを徹底して意識を共有していくほかありません。いずれにせよ、トップが「悪いことをしてでも儲けてこい」というような企業に未来はありませんし、決して社会が許さないでしょう。

著者

小宮 一慶 氏こみや かずよし

株式会社小宮コンサルタンツ代表取締役CEO

大企業から中小企業まで、企業規模や業種を問わず幅広く経営コンサルティング活動を行なう一方、講演や新聞・雑誌の執筆、テレビ出演も行なう。『小宮一慶の「日経新聞」深読み講座』(日本経済新聞出版社)、社長の心得 (ディスカヴァー携書)『経営が必ずうまくいく考え方』(PHPビジネス新書)など著書多数。

[編集] 一般社団法人 100年企業戦略研究所
[企画・制作協力]株式会社PHP研究所 企画普及部

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