老舗とベンチャー双方の会社に共通する100年企業に必要な理念
~社会にとって意義ある事業は生き残り続ける【セミナーレポート】

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港湾事業を始まりに、多角化と海外展開の推進で創業220年を迎えた鈴与株式会社の9代目経営者・鈴木健一郎氏と、学生起業から一部上場を成し遂げた、株式会社ブイキューブ創業者の間下直晃氏。同年代の若手経営者ふたりが、一般社団法人100年企業戦略研究所所長の堀内勉司会のもとで対談を実現。経営にかける思いを交わすなか、老舗とベンチャーに共通する、成長と永続のヒントが語られました。

社会との共生が100年企業となる基本の理念

堀内 今回はよろしくお願いします。まずは鈴木さん、ご自身の会社の紹介からお願いします。

鈴木 鈴与は1801年、鈴木与平が廻船問屋として、清水港に創業した会社です。運送や建設など多角経営で市場を築き、昨年創業220年を迎えることができました。代々、与平の名を受け継ぎ、8代目の父が亡くなった後に、私が9代目の与平を襲名することになります。

現在は物流、商流、建設、食品、情報、航空、地域開発の7つの事業を運営しており、グループ全体で年間約4800億円を売り上げています。系列企業は140社、従業員は1万5千名ほど。非上場で経営しています。今後も上場は考えていません。

鈴与は、「共生(ともいき)」の精神を、経営の拠り所としています。もとは浄土宗の教え。近江商人の「三方よし」と似た考え方と、とらえていただければ理解は早いと思います。社会との共生、お客様との共生、従業員・グループ各社との共生の、3つの共生を軸として、世紀を超え経営を続けてきました。その間、明治維新や太平洋戦争などの歴史的困難にも遭遇していますが、鈴与は共生の精神を基盤としながら、事業を大胆にアップデートするなど、自己改革によって、苦しい時代を乗り越えてきました。

よく他社の方から、どうして鈴与は200年以上も続いているのですか?と聞かれます。そんなに特別な手は打っていません。共生の精神と、自己改革。2つの軸を持って、迷ったときはそこに立ち返り、常に未来思考でビジネスに臨んできた結果だと思います。

堀内 ありがとうございます。では次に、間下さん。会社の紹介をお願いします。

間下 私たちブイキューブは、鈴与さんの10分の1ほどの歴史ですが、社会情勢のニーズに応えるべく、奮闘を続けているスタートアップ企業です。

私は大学3年生のとき、ブイキューブの前身となるWebソリューションの会社を起業しました。2003年にはアメリカにオフィスを開設。モバイルアプリのビジネスを海外展開していこうと考えました。勝算はあったのですが、アメリカと行き来している間、仕事の手が止まってしまうんですね。電話やメールをいくら使っても滞る。海外とのコミュニケーションの壁を、なかなか乗り越えられなくて苦労しました。当時すでにテレビ会議は販売されていましたが、大変な高額だったんですね。それならば、オンラインで商談できる環境を自分らでつくってはどうか?という思いつきから、ビジュアルコミュニケーション事業を立ち上げました。

2013年には東証マザーズに上場、2015年に東証一部に昇格しました※。現在、オンラインのイベントディレクション事業や、サードプレイスDXを形にした“テレキューブ”など、さまざまなサービスで「人間のコミュニケーションをDX(デジタルトランスフォーメーション)する」という取り組みに臨んでいます。

ブイキューブのミッションは、IT技術の活用によるEvenな社会の実現です。距離や環境の違いによって、機会が損なわれることがあってはいけない。テクノロジーの力を駆使すれば、機会の平等を社会につくりだすことができると信じて、事業を進めています。

リスクヘッジのためにも多様化は必要

堀内 おふたりは以前から、お知り合いですか?

鈴木 そうですね。初めてお会いしたのは、30代だったんじゃないでしょうか。

間下 10年ぐらい前ですよね。業種も社長になった経緯も違いますが、話していて通じるものはありました。

鈴木 間下さんは、ネット環境もファイナンスも整っていない‘90年代に創業されています。学生起業という言葉自体、珍しかった時代。しかも時流に合わせ、上手くピボットしながら、会社を成長させています。その行動力と柔軟性には、同年代として刺激を受けています。

間下 ありがとうございます。ブイキューブはプライムに上場していますが、鈴与さんは上場されないそうですね。その理由は何でしょう?

鈴木 いろいろありますが、ひとつは企業としての多様性を守るためです。鈴与は7つの事業に分かれています。上場会社は一般的に、コングロマリット・ディスカウントといって、事業の多様化は好まれない傾向がありますよね。しかし私たちは、リスクマネジメントの意味で、多様化が最も大切と考えています。1つの事業が下向きでも、別の事業で支えられる。例えばいま鈴与の航空事業は、コロナパンデミックで利益を出せていませんが、物流や建設で充分にカバーでき、堅調に継続していけます。上場にも利点はあると思いますが、多様性をもってダウンサイドに強い体質を維持するのに必須だとは考えていないんです。

間下 多様な選択肢を持ち、フレキシブルに動く。それが一番のリスクヘッジになるということですね。

※2022年4月以前の旧市場区分

バランス良く利益を重ねて社会を良くしたい

堀内 売り上げ目標とは別に、株式会社の持続性は、お互いどのように考えられているのですか?

鈴木 もちろん単年度事業計画をクリアする努力はしていますが、売り上げ・利益の数字を追い求めることはそれほど重視していません。大事なのは額を追い求めることより、率です。各事業の細かな利益率や作業効率を、詳しくチェックしています。

例えば物流部門では、調達データ・出荷データや稼働率をもとに、お客様の課題を可視化して、物流の全体最適化を図ります。それによって物流効率が上がり、CO2削減や、人手不足の解消につなげられます。

私は「社会に役立つ事業を続けたい」「従業員のみんなや、世の中の人が幸せになればいい」と、真剣に考えています。その価値観は鈴与と同体。創業の初代から変わらず、社会にとって意義のある事業を、これからも継続していきたいと思っています。

間下 私は会社の利益については、リアルに意識をせざるを得ません。2万5千人の株主の方がいらっしゃって、報いる義務があります。しかし利益最優先で、例えば月額課金モデルに力を入れるとか、短期の売り上げは追いかけません。長期的な指標を、株主の皆さまにも理解いただき、売り上げを堅実に重ねるよう努力します。

肝心なのはバランス。企業としてのミッションと、株主から見たバリューの維持、その両方が合致していないと人はついてこないですし、社会貢献もできません。常にバランスを取りながら、精進です。

鈴木 利益と理念のバランスは、難しいですよね。事業は違いますが、ビジネスで社会を良くしたい思いは、我々に共通しているでしょう。

間下 おっしゃる通りです。コロナ禍以降、直接対面しなくてもビジネスが進められる、わが社のサービスは以前にも増して求められています。不自由を強いられる社会から、機会の不平等を、できるだけ取り除いていきたい。その姿勢を守ることで、鈴与さんのような100年企業へ、一歩ずつ近づいていけると信じています。

社長のポジションで得られる経験価値

堀内 代々続く老舗企業とスタートアップ。まったく違うスタイルの会社を率いられているおふたりですが、具体的に今後の事業承継については、どのようにお考えでしょうか?

間下 単純にトップを誰かに引き継げばいいという話ではないので、難しいですね。創業者から仕事を引き継ぐのって、すごく大変じゃないですか。仮に息子に譲るといっても、そう簡単ではありません。鈴木さんは社長の引き継ぎは、スムーズだったのですか? 家系代々のお決まりとはいえ、うちよりもはるかに大きな規模の会社では、大変だったのではないかと想像しています。

鈴木 気持ちの上で、覚悟は要りました。鈴与を引き継ぐ前は、私はサラリーマン。課長代理にもなっておらず、経営に関しては素人でしたからね。ただ継承することが決まってからは、必死に勉強しました。周囲の方のレクチャーを受け、経営の専門書をたくさん読みました。最も役だったのは、出会い。ほかの経営者の方や、業界の先輩方にお会いして、勉強になるお話をたくさん聞かせていただきました。それが今の経営観を固める基礎になったと思います。

あと私は、いきなりグループ全体のトップに就いたのではなく、マヨネーズなどを販売するエスエスケイフーズの常務の役職から始めました。年商120億円ほどの会社で、後に私が社長に。当時は赤字でしたが、改革を施して2年で黒字の成長軌道に戻しました。先に100億円規模のグループ会社の運営・改革を経験できたのは、大きかったと思います。

間下 1つずつ段階を踏まれていたんですね。鈴与さんならではの継承の環境が、長年の歴史のなかで、整えられていたのでしょう。

鈴木 そう言えますね。経営の素人としては、ありがたい環境でした。社長になって初めてわかることは、本当に多かったですね。

間下 たしかに。いま私の役職は会長で、ブイキューブの社長は、私の同級生が務めています。グループの業務全般を見ていた、元副社長。彼を社長にしたのは、学びを広めてほしかったからです。

創業以来、自分で社長をやってみてわかりましたが、一番上のポジションは、本当にお得なんですよね。どこへ行っても社長だけは扱いが特別。質の高いビジネスの学びを、独り占めできます。こんなにいいものを社長だけが享受するのは、もったいないと感じました。また、経験を積めば積むほど、社内の仲間たちとの差が、どんどん広がってしまうんです。創業者とはいえ、ひとりの人材に価値の高い経験やノウハウが集中するのは、いいことではありません。会社の回転をつくり、成長を保っていくためにも、私だけが社長でいるのはいけない。そう思って、役職を引き継ぎました。

鈴木 会社の規模とか関係なく、一国一城の主の立場で得られる学びは、サラリーマンとは比になりませんからね。それを分け合いたいお気持ち、よくわかります。

間下 できればひとりでも多く社長になって、素晴らしい勉強ができる機会を増やしてほしいですね。しかし課題は、ポジションの数の限界。今のところブイキューブでは、数えるほどしか社長の役職を用意できません。

鈴木 無理のない形で分社化を進めて、社長の席を増やしていくのは、1つの解決策ですね。うちの場合はグループ全体で140社。多すぎるくらい、社長のポジションが設えられています。

間下 いいですね。さすがに140は遠い目標ですが、分社化は現実的に、社内で議論しています。この会社には、誰々を社長にして……と考えるのは面白いです。そうした新陳代謝をうまく進めていけば、事業をうまく後世に継承していけると思います。

堀内 事業承継の話に合わせて、お聞きします。日本は世界のジェンダーギャップ指数で116位と、女性の社会進出では、どん底の方にランクしています。男女格差の是正には、取り組まれる方向でしょうか?

鈴木 うちは港湾荷役の力仕事から始まった会社ですので、女性は重用されづらい傾向がありました。しかし能力ある女性が多いのは事実。今は新卒の女性採用を増やし、管理職への登用を進めています。時間をかけて、女性が活躍できる組織へ、改善したいと思っています。

間下 ブイキューブの女性社員の割合は3割強で、IT業界の方でも高い方をキープしています。部長クラスには女性が出始めていて、間もなくマネジメントの中枢にも女性が入ってくるでしょう。我々は社員の働き方に柔軟性を持たせ、家庭中心の対応もできるよう調整しています。お陰で産休後の女性社員の復帰率は100%なんですよ。企業の事業継承においては、女性の産後の復帰率はこれから大事な指標になっていくのではないでしょうか。

堀内 ありがとうございました。今後もよき仲間として、若手経営者おふたりの活躍に期待します。

登壇者

鈴木健 一郎 氏

鈴与株式会社 代表取締役社長

1975年生まれ、早稲田大学卒業。日本郵船入社後、2009年より鈴与取締役となる。2011年からは常務取締役としてグループ食品事業担当やロジスティクス事業本部長委嘱を務め、専務取締役を経たのち、2015年代表取締役社長に就任。現在、鈴与ホールディングス代表取締役会長、清水エスパルス代表取締役会長なども兼務。

登壇者

間下 直晃 氏

株式会社ブイキューブ 代表取締役会長 グループCEO

1977年生まれ、慶應義塾大学大学院修了。大学在学中の1998年、Webソリューション事業を行なう有限会社ブイキューブインターネット(現:株式会社ブイキューブ)を設立。その後、Web会議やオンラインセミナーを中心とした映像コミュニケーションへ事業転換。2013年に東京証券取引所へ新規上場。現在、東京証券取引所プライム市場。経済同友会副代表幹事、規制・競争政策委員会委員長。

モデレーター

堀内 勉

一般社団法人100年企業戦略研究所 所長

東京大学法学部卒業、ハーバード大学法律大学院修士課程修了、Institute for Strategic Leadership(ISL)修了、東京大学 Executive Management Program(EMP)修了。日本興業銀行、ゴールドマンサックス証券、森ビル・インべストメントマネジメント社長を経て、2015年まで森ビル取締役専務執行役員CFO。

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