歴史的円安を乗り切れる企業、乗り切れない企業

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世界的にインフレが続いている。また、日本では今秋より「歴史的」とも叫ばれる円安に見舞われており、先行きは依然として不透明だ。この環境の変化に、企業はどのように対応するべきなのか。そして、環境変化に強い企業の特徴とは――。大企業から中小企業まで幅広く経営コンサルティングを手がける小宮コンサルタンツ代表取締役CEOの小宮一慶氏にお話しいただく連載の第7回です。


良い会社、悪い会社はない

本連載は「100年企業戦略ONLINE」に掲載していますが、11月上旬、創業から114年の歴史をもつ佐久間製菓が来年(2023年)1月20日をもって廃業すると報じられました。同社が販売する赤い缶に入ったあめ「サクマ式ドロップス」は、名作として知られるアニメ映画『火垂るの墓』にも登場していましたから、ショックを受けた読者も少なくないのではないでしょうか。なお、誤解なきように申し添えておくと、緑缶の「サクマドロップ」を販売するサクマ製菓は営業を継続しています。

佐久間製菓の廃業の要因としては、やはり新型コロナウイルスの影響などが挙げられており、企業にとって厳しい時代であることは明らかです。とくに今年の秋以降、大きな話題となっているのが歴史的な円安やそれに伴う原材料高で、こうした環境の変化にどのように対応するかは、企業にとっては永遠の命題と言っても過言ではありません。あらためて、そのように痛感させられたニュースでした。

本連載では幾度もお客さまが望む「QPS(クオリティ、プライス、サービス)」を見極め、マーケティングの5つのP(Product、Price、Place、Promotion、Partner)を機動的に変えていき、場合によってはそれらを大幅に変えるイノベーションを起こすことが重要だと指摘し続けてきました。私はこの点に目を向けたうえで、製品・商品は言うに及ばず、流通やプロモーション、場合によってはパートナーまでを見直せば、現在のような「変化の時代」の波に襲われても生き延びられる可能性は高いと考えています。逆に言えば、どんな時代でも生き残ることができる会社は、お客さまの求めるものをベースにしながら、自社をどんどん変えていける会社です。

ですが、そうした変革を敬遠する企業が存在するのも事実です。これは、経営者の考え方に拠るところが大きいでしょう。かつて、「炎のコンサルタント」の異名をもった一倉定(いちくら・さだむ)先生は、世の中に「良い会社、悪い会社」はないと考えていました。すなわち、存在するのは「良い社長、悪い社長」だけだというわけです。とくにスピード感が求められる中小企業は、新型コロナであれ円安であれ、経営者が素直に謙虚に時代の変化を読み取り、ライバルの動きもみながら、お客さまのために自分たちは前向きに何を変えるべきか・変えないべきかを考えなければなりません。

環境の変化は「言い訳」にならない

円安の悪影響としては、やはり原材料の高騰が大きな重しとなることです。では、企業はどう対処するべきかといえば、お客さまから見て圧倒的な特色がある商品を作るべきです。商品や価格で差別化できなければ、圧倒的なサービスを目指し、値上げをしてもお客さまが納得するQPSの組み合わせを提供することです。ところが私が見ている限りだと、「値上げはできない。もし値上げをすれば誰も買ってくれなくなる」と思い込んでいる経営者が少なくないように感じます。

これは、そもそもの発想が間違っています。すなわち、原材料の高騰分程度を値上げしてもお客さまに求められる商品を製造・販売しなければいけないのです。いきなり定価を倍にするわけではないのですから、非現実的な話ではありません。実際に、ここ1年間のあいだで値上げに踏み切った企業のなかで、好調を維持しているケースは多く存在します。

そして、やれることをすべてやるのです。これは本連載の第2回でも紹介した言葉ですが、ケンタッキー・フライド・チキンの創業者であるカーネル・サンダースは「できることはすべてやれ、やるなら最善を尽くせ」という言葉をモットーとして掲げていました。

環境の変化を経営不振の「言い訳」にするのは簡単です。でも、私はそう口にする経営者に対して「本当にできることは全部やりましたか?」と問います。たとえば円安であれば、日本は農林水産省を中心に、農水産物およびその加工物の輸出を促進しています。すでに輸出額は1兆円を突破していますが、2025年までに2兆円をめざしています。これはあくまでも一例ですが、戦略的にこうした流れに乗っかることを検討してもいいでしょう。その際、大原則として意識するべきが、自分たちの「強み」を活かすことです。

中長期の戦略を立てることが何よりも重要

そもそも、コロナや昨今の円安に関係なく、環境が変化するのは当たり前の話です。ですから私は、経営者の方から相談を受けたときに、よく「10年計画、あるいは20年計画を立ててください」とお話しします。いわゆる長期事業構想で、これを着実に考えられている企業は世の中の動きに左右されにくいと思います。

私たちは、どうしても目の前のことに一所懸命になりがちです。それは、ある意味では人間の性(さが)なのかもしれませんし、仕方がないのかもしれない。でも、現在の単純な延長線上に未来があるとは限らないわけで、少なくとも経営者はそのことを大前提に、中長期の戦略を立てていなければ、変化に耐えられないのは当然です。

もう一つ指摘したいのが、目的と手段を履き違えている経営者が少なくないということです。たとえば、近年ではDX化(デジタル・トランスフォーメーション)が叫ばれ続けていますし、実際にバックオフィスを変えた企業は少なくないでしょう。しかし問題は、それは環境変化への対応の本質ではないということです。

社内のDX化に「成功」したとしても、お客さまが商品やサービスを買わない限り、会社は成り立ちません。ピーター・ドラッカーが言うまでもなく、会社の一義的な価値は企業外部にあるわけです。デジタル化などはあくまでも方法論の話であり、場合によってはベンダーに頼んでも対応はできるでしょう。ところが、お客さまのことは忘れ、デジタル化そのものが目的と勘違いして、それだけで満足している企業もあります。まさしく本末転倒です。

中小企業も地政学リスクに目を向けよ

それでは、どのような企業が着実に長期計画を立てられているのでしょうか。私がコンサルティングしている企業をみると、やはり世の中の変化に目を背けていないことが大前提となります。たとえば、ロシア・ウクライナ戦争。とくに中小企業には関係ないと思われるかもしれませんが、そんなことはありません。なぜならば、ロシアがウクライナに侵攻したことで、資源をはじめ原材料価格も上がりました。今後もこの傾向が続く可能性はあります。中国の今後の動きがますます見えにくくなったからです。

中小企業のなかでも、中国と何らかの関係をもつ企業は少なくないはずです。ですから私が言いたいのは、時代の変化として、地政学的リスクに鑑みたうえで長期計画を立てなければいけない、ということです。具体的には、もし海外での活躍を目指しているのなら、比較的リスクが小さいアメリカやオーストラリアに市場を見出すのも手です。また、海外に工場を出している企業も多いでしょうが、いまのように円安が存在する以上、製造拠点を国内に戻すことも選択肢の一つです。

このような話は、日ごろから海外のニュースにも敏感な経営者でなければ、なかなかピンとこないかもしれません。その意味では、情報に貪欲であることは、経営者はもちろんのことビジネスパーソンとして成長する重要な要素の一つと言えます。繰り返すようですが、そうした最新の情報に触れることなく、現在の延長戦で乗り切れると思っていたら、大きな間違いと言わざるを得ません。

なお、長期事業構想を立てている会社のなかで、上手くいっている手法を最後に一つ紹介すると、たとえば10年に一度、長期計画を立てているのであれば、それに基づいた3年計画を立てているケースが多いのですが、その際には、「毎年」3年計画を立て、その1年目にチャレンジすることが大切です。3年計画を3年に一度立てていては、この変化の激しい時代では通用しないことが多いと感じます。1年計画だけでは視点が短期的になりがちです。毎年、3年計画を立てるのです。そして、その1年目を実行するのです。そうして長期と短期の計画を連動させることで、バランスがいい経営ができます。中小企業はもちろん、大企業でも取り入れられている手法で、何がしかの参考になるかもしれません。

著者

小宮 一慶 氏こみや かずよし

株式会社小宮コンサルタンツ代表取締役CEO

大企業から中小企業まで、企業規模や業種を問わず幅広く経営コンサルティング活動を行なう一方、講演や新聞・雑誌の執筆、テレビ出演も行なう。『小宮一慶の「日経新聞」深読み講座』(日本経済新聞出版社)、社長の心得 (ディスカヴァー携書)『経営が必ずうまくいく考え方』(PHPビジネス新書)など著書多数。

[編集] 一般社団法人 100年企業戦略研究所
[企画・制作協力]株式会社PHP研究所 メディアプロモーション部

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