企業の持続性には「変化」が必要

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コロナ禍以降、多くの企業が苦しんできたなかで、この逆境を好機に変えた企業も存在します。いま、経営者に求められるマインドと戦略とははたして何か。大企業から中小企業まで幅広く経営コンサルティングを手がける小宮コンサルタンツ代表取締役CEOの小宮一慶氏にお話しいただく連載の第二回です。

カーネル・サンダースのモットー

本連載の第一回目では、経済動乱のいまこそ「お金を追うな、仕事を追え」とお話ししました。今回はより具体的な話として、コロナ禍やウクライナ情勢などの「非常事態」を前にしたとき、経営者がどのような心得をもつべきかを考えたいと思います。

カーネル・サンダースという人物については、多くの日本人が名前を知っていることと思います。アメリカ発の世界的なファストフードチェーン店「ケンタッキー・フライド・チキン」の創業者ですが、それでは彼が何歳からフランチャイズビジネスを始めたか、皆さんご存じでしょうか。じつは65歳のことであり、現在の世界保健機関(WHO)の定義に照らし合わせれば高齢者にあたります。

65歳から、あれだけのビジネスを開始・展開した活力や行動力には驚かされますが、さらにいえば、サンダースはフライドチキンのレシピを1,000件以上の店に持ち込んで提案したものの、当初は断られ続けたといいます。それでも彼は、決して諦めなかった。「できることはすべてやれ、やるなら最善を尽くせ」。それがサンダースのモットーであり、その言葉のとおり、実現できるまであらゆる行動をし続けたのです。

ある宮崎の企業の逆転劇

コロナ禍以降、苦しんでいる経営者の方々からアドバイスを求められるたび、私はこのサンダースの逸話と彼のモットーから学ぶべきだと伝えてきました。もちろん、「言うは易く行うは難し」ですが、実際に行動に移した方がいます。その1人が、ワン・ステップという宮崎の会社の社長を務める山元(洋幸)さんでした。

山元さんは40代の経営者ですが、ワン・ステップは従業員50人ほどで、トランポリンや滑り台など大きな空気で膨らませる遊具を貸し出す事業を展開している会社です。山元さん曰く、今回のコロナ禍によって「売上が蒸発した」そうです。なぜならばイベントが軒並み中止になったからです。

しかし、山元さんは「できることはすべてやれ、やるなら最善を尽くせ」というサンダースの言葉を実行に移し、この逆境をむしろ好機に変えました。コロナ当初、マスクが品薄になったことは多くの方がご記憶されているでしょう。そこで山元さんは、遊具の製作を発注しているコネクションを活用して、中国からマスクを500万枚輸入して日本で販売したのです。

これだけでも慧眼ですが、さらに注目するべきは、マスクの販売額に自分たちの利益を上乗せしなかった点です。誰もがマスクを欲しがっていた状況を思い出せば、むしろ「ビジネスチャンスを見逃している」という指摘があるかもしれません。でも、コロナ禍はいずれ必ず収束するわけで、そのときにどのような企業が選ばれるのか。少なくとも、ワン・ステップからマスクを安価で購入した人びとにとっては、同社の優先順位は上がるでしょう。

いかに「強み」を活かしていくか

山元さんは上記以外でも、ワン・ステップの「強み」を活かす戦略を立てて実行に移しており、その事例は多くの企業にとって参考になるはずです。たとえば、マスクが正常に市場で流通するようになったころには、医療用のテントを製作・販売していました。

私はいま、2つの病院の顧問を務めているので実情がわかるのですが、コロナ患者を受け入れるには陰圧室が必要となります。しかしこの陰圧室は、大きな病院にしか備わっていないケースが珍しくありません。また、病院でトリアージするためにはテントが必要になります。そうした点に注目した山元さんは、ベッドサイドにおける簡易な陰圧室や寒暖を制御できるテントをつくり、病院に販売したのです。空気を制御する簡易建物を作るプロであるというワン・ステップの特性を存分に活かしたといえましょう。

ワン・ステップはさらに病院と仕事をしたことから着想を得て、獣医の方々と協働して厩舎で使える医療用のテントをつくるなど、事業の幅を広げました。もちろん、祖業でもアップデートを模索しており、密を避けるために家庭内で使える一人用の遊具を製作するなどさまざまな角度から活路を見出そうと現在も取り組んでいます。

持続するために変化が必要

ワン・ステップの例で私が言いたいことはシンプルで、「コロナ禍という予期せぬ事態で売り上げが蒸発してしまった、どうしよう」と嘆くだけならば、そんな経営者は必要ないということです。そして大事なのは、従業員に仕事を与えること。そうでなければ、貴重な人材を自社に繋ぎ留め続けることはできません。

さまざまな分野で持続性の重要さが語られていますが、それは決して変化を拒むことと同義ではありません。むしろ、持続するために進んで変化しなければいけないのです。同じことをただ繰り返すだけでは、それは思考停止に他なりません。そして、企業にとってどのようなタイミングで変化が必要になるかといえば、今回のコロナ禍のようにお客様のニーズが変わったときなのです。

何百年も続いているある食品会社の経営者は、「同じものを売り続けて商売が成り立っていいですね」と言われたところ、「いいえ、味は変えているんですよ」と返したといいます。ある意味では当たり前の話で、時代とともに変化しなければ、いつしか世間のニーズから置いていかれてしまう。商品の中身、あるいは業態そのもの変えることを経営者はときに決断しなければいけないのです。

ただしその一方で、「絶対に変えてはいけないもの」があるのも事実です。それは何かといえば、「自社が何のために存在しているのか」という基本理念。前回申し上げたこととも通じますが、そうでなければ「100年企業」にはなれません。逆にいえば、基本理念以外は何でも柔軟に変えるべきだというのが私の考えです。

これから求められる「小さくなる能力」

最後にもう一つ、先行き不透明な時代に経営者が意識するべき点を申し上げると、「小さくなる能力」をもたなければいけないということです。これはつまり、ときにはM&Aされやすい企業であることも大切だということです。見方によってはネガティブに受け止められるかもしれませんが、従業員を守るという観点のみならず、M&Aによってむしろ自分たちがより大きな事業を手掛けられる可能性だってあるのです。

ただし、「小さくなる能力」をもつうえで、企業には複数のボトルネックがあります。もっとも分かりやすいのが「人」です。従業員に会社を辞めてもらうのはとても大変なことであり、他社に行けば給料が上がるような人材ばかりならば問題ないのですが、現実問題としてはそう上手くはいかないでしょう。

そこで重要になるのが、普段から従業員を鍛え上げて、他社でも通用する人材に育て上げることです。いろいろなことにチャレンジさせるのはもちろんのこと、社外の人と会う機会を増やしてあげることも必要でしょう。すなわち、会社という小さな世界がすべてだと勘違いしているような従業員ではいけないということです。

経営者はつねに社会から評価を受ける存在です。従業員もそれと同じくらいの覚悟をもつべきとまでは言いませんが、少なくとも他社でも通用する人材を育てられれば、間違いなく自社も儲かるでしょう。そして理想を言えば、そのうえで自社の理念に共鳴して働き続けてくれることです。

時代や環境がどれだけ激しく変化したとしても、会社にとってもっとも重要な要素の一つは人材です。しかし昨今では、どうにも「部下を指導する」ことの重要性が軽視されている傾向があります。経営者は今一度、社内でどのような人材を育て上げるか、そのためにはどのような教育が必要なのかを見直すべきでしょう。経済動乱が叫ばれるいま、遠回りのように思われるかもしれませんが、それが結局は会社を守ってくれるはずです。

著者

小宮 一慶 氏こみや かずよし

株式会社小宮コンサルタンツ代表取締役CEO

大企業から中小企業まで、企業規模や業種を問わず幅広く経営コンサルティング活動を行なう一方、講演や新聞・雑誌の執筆、テレビ出演も行なう。『小宮一慶の「日経新聞」深読み講座』(日本経済新聞出版社)、社長の心得 (ディスカヴァー携書)『経営が必ずうまくいく考え方』(PHPビジネス新書)など著書多数。

[編集] 一般社団法人 100年企業戦略研究所
[企画・制作協力]株式会社PHP研究所 企画普及部

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