【セミナーレポート】ESG投資で未来を切り拓く

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欧米を中心にESG投資への関心が高まる中、日本でいち早くESG重視型のベンチャーキャピタルファンド「MPower Partners Fund L.P.」を創業した村上由美子氏と関美和氏。設立の背景には、グローバルな金融の世界で活躍してきた2人だから見える日本経済が直面する課題と、未来への思いがありました。

キャリアの中で感じた問題意識から起業へ

村上由美子氏と関美和氏が2021年に創業した「MPower Partners Fund L.P.」(以下、MPower Partners)は、女性3人で立ち上げたESG重視型ベンチャーキャピタルファンドです。

「ESGに重点を置いたファンドは欧米にはいくつかありますが、日本ではおそらく私たちが初めてだと認識しています」と村上氏。ESGとは環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)のこと。持続可能な社会の実現に欠かせない要素とされ、企業のESGへの取り組みを評価して投資するESG投資が今、世界的に注目を浴びています。

そのため、最近はESGという言葉をよく耳にします。しかし、「私たちにとっては新しいものではない」と2人は声を揃えます。

「MPower Partnersは関さん、ゴールドマン・サックス証券の日本副会長兼チーフ日本株ストラテジストだったキャシー松井さんと立ち上げました。私たち3人は同年同月生まれで、海外の金融機関に務めた経験を持つことなど共通点が多いのですが、そのキャリアのなかで感じていたこと、促進してきたことが、まさにESGの本質なんです」(村上氏)

2人は男女雇用機会均等法が成立した1980年代半ばに大学時代を過ごしています。

「当時、私は女性にもキャリアの道が開けて、時代が大きく変わると期待していました。ところが現実は異なり、就職活動でOB・OG訪問をすると明らかに男女で働き方や待遇に差がある。たとえば銀行では、同じ大学出身で能力的にも変わらないのに、女性だけが制服を着ていました。これは就職しても思うような仕事ができないのではないか。私はそう感じ、外国への憧れもあって就職をせずにアメリカに留学したのです」(村上氏)

一方の関美和氏は大学卒業後、大手広告代理店に就職しています。

「当時で社員は8000人ほどいたと思いますが、そのうち女性の総合職はたった十数人。子どもを育てながら働く先輩女性社員はいませんでした。結婚・出産で退職するのが当然とされていたのです。そうした風潮が合わず、外資系の投資銀行に転職。その後、海外で学ぼうとハーバード・ビジネススクールに進みました。そこで村上さんと出会いました」(関氏)

村上氏はハーバード・ビジネススクールでMBAプログラムを履修後、ゴールドマン・サックスに入り、松井氏と同僚になっています。また、関氏はモルガン・スタンレーを経て投資顧問会社でファンドマネージャーを務めていた頃に、仕事を介して松井氏と知り合いました。

キャシー松井氏は1999年に「ウーマノミクス」を提唱した人物としても知られています。ウーマノミクスはウーマンとエコノミクスを組み合わせた造語で、女性の活躍推進によって経済を活性化するという考え方です。

「それから20年が経ちますが、いまだ日本の女性の経済進出は他の先進国に比べて低い。女性の経済進出が上がれば日本のGDP成長率は向上するというデータもあり、これはまさにESGの重要なテーマの一つです。私たちがそれぞれ感じ、抱えてきた問題意識をディスカッションし、解決するためにできることはないかと具現化したのがMPower Partnersなのです」(村上氏)

知見を活かし日本社会の風通しを良くする

MPower Partnersは投資先をスタートアップ企業に定めています。その理由を堀内勉氏が問うと、村上氏は「今の日本はもったいない」と答えました。

「十数年前に帰国した時、大学の頃には見えなかったオポチュニティが今の日本にはたくさんあることに気づきました。日本人の学力が国際的に高いのもその一つ。ところが女性の経済進出だけでなく、新しいアイデアが事業化される率も低い。つまり、日本は高いポテンシャルを持つのに活かされていないんです」(村上氏)

そこで、投資や金融の世界で培った知見をスタートアップの世界で活かすことで日本のポテンシャルを引き出すことができないか、と考えて村上氏は2人に提案。関氏はそのアイデアに共感したと振り返ります。

「私は子育て中いいベビーシッターを探すのに苦労したことから、ベビーシッターサービスを提供する会社を起業しています。その経験から見ても、今のスタートアップの世界は閉鎖的で同質性が高い。なかなか新しい視点が持ち込まれない状況で、この10年はグローバル化を目指す会社も少ないと感じていました」(関氏)

また、関氏は翻訳家としてベストセラー『ファクトフルネス』をはじめ、60冊以上の翻訳を手掛けています。翻訳本は読みにくいと言われることが多い中、それまでとは違う読みやすい翻訳を目指した結果、今があると言います。

「今まで仕事、あるいは人生の岐路に立った時、『通説を覆したい』という気持ちを強く持って道を選んできました。今回も自分の経験を活かして、今の状況を少しでも覆せたらと思っています」(関氏)

実は3人にはもう一つの共通点があると話す村上氏。

「私たちはみな起業家の娘です。親の苦労と喜びを見ているから、起業家への尊敬の念が大きいですね。そして私たちには子どもがいます。彼らのためにも、私たちが経験した生きづらさをなくし、より多くの機会を得られる環境をつくることが務めだと思っています」(村上氏)

2人の話に憧れを持つ女性が多いだろうとしながらも、堀内氏は最後に「今も女性は男性のサポートに回ることが多い日本社会でお2人のような生き方は可能か」と疑問を投げかけました。

「私自身は凡庸な人間です。ただ、周りに恵まれていた。たとえばゴールドマン・サックスの直属の上司は女性でしたが、行動力があって人格も素晴らしく、子どもを育てながらどんどん出世をしていきました。当然、私より能力の高い人でしたが、彼女を見ていたから自分もできるんじゃないかと根拠のない自信を持つことができた。背中を見せてくれる存在って大切だと思います」(村上氏)

しかし、日本にはロールモデルとなる女性が少ないのが現状。能力が高くてもどうしていいかわからず、可能性の蓋を閉じてしまう人が多いように感じると言います。

「どこまで役に立てるかはわかりませんが、私たちの経験をお話することで少しでも蓋を開けて風通しをよくすることができたら嬉しいですね」(村上氏)

登壇者

村上 由美子 氏

MPower Partners ゼネラル・パートナー

OECD(経済協力開発機構)東京センター元所長。岸田内閣「新しい資本主義実現会議」をはじめ、内閣府・経産省・外務省などの審議会で委員を歴任。2016年上梓の『武器としての人口減社会』はアマゾン経済書部門でベストセラーに。OECD以前は、主にニューヨークおよびロンドンのゴールドマン・サックス証券でマネージメント・ディレクターとして約20年間勤務。カンボジアの国連平和維持軍や東カリブ海地域の経済開発援助にも携わる。上智大学、スタンフォード大学院、ハーバード大学院修了。

関 美和 氏

MPower Partners ゼネラル・パートナー

モルガン・スタンレー投資銀行部門を経てクレイ・フィンレイ投資顧問元東京支店長。日本成長株ポートフォリオマネージャーとしてユニクロ等に長期投資。ベビーシッター会社メイコーポレーションを立ち上げたのち、教育関連企業に売却。ピーター・ティール、ベン・ホロウィッツなど、起業家のバイブルともいうべき書籍を多数翻訳。『FACTFULNESSS(ファクトフルネス)』は100万部を売り上げた。株式会社ワールド、大和ハウス工業株式会社社外取締役。慶応大学文学部・法学部卒業。ハーバード大学院修了。

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