「ショック」が起きる前にやっておくべきこと

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コロナ禍や不安定な世界情勢をはじめ、不連続の時代が訪れると経営難に陥る会社が出てきます。では、企業が危機を乗り越えるための明確な条件とは、はたして何でしょうか。大企業から中小企業まで幅広く経営コンサルティングを手がける小宮コンサルタンツ代表取締役CEOの小宮一慶氏にお話しいただく連載の第三回です。

ショックが起きる予兆を感じたら

連載の第二回では、宮崎のワン・ステップという会社が、自社の強みを活かしていかにコロナ禍を乗り越えているかを紹介いたしました。新型コロナウイルス流行の「第7波」の到来が深刻化しているいま、経営危機への対処法は多くの経営者にとって最大の関心事だと思われますので、今回も引き続き考えていきたいと思います。

まず大前提として、世の中に「ショック」が起きたとき、経営難に陥る企業は珍しくありません。1970年代のオイル・ショック、2008年のリーマン・ショック、そして令和のコロナ・ショック。「ショック」とは経済学では断裂が起きることを指しますが、景気や国際情勢が不連続化してしまえば、平時に好調だった企業が暗転してしまうのは不思議ではありません。

私は経営コンサルタントとして、クライアントには常々「ショックが起きる予兆を感じたら、資金が潤沢にある会社をのぞいては、お金を借りてください」と呼びかけます。こうお話しすると意外な顔をする方も少なくないのですが、至って単純な話で、企業とはお金がなくなったときに潰れるからです。このシンプルかつ当たり前の理屈を認識しておかなければ、自社を生き残らせることはできません。

会社とは赤字が続いたからといってすぐに潰れるわけではありません。資金が尽きたときに倒産するのです。経営難の要因が外部環境であれば政府がお金を貸してくれるケースがあるし、内部環境に問題があるのなら金融機関からできるだけ先にお金を借りておいたほうがいい。2~3年に一度は大きなショックが起きる時代だからこそ、経営者はつねにこの鉄則を念頭に置かなければなりません。

コロナ禍以降、多くの企業がダメージを受けていますが、一方で日本の企業倒産件数に目を向けると、これまでと比べて非常に少ないことに気付かされます。なぜかといえば、国が金融機関をつうじて融資しているからです。いわゆる「コロナ融資」です。加えて、雇用調整助成金など特別措置が拡充された結果、「手元にお金がない」という理由で倒産するはずだった企業が救われたのです。

不振の理由は外部環境か、内部環境か

ここで一つ、経営者の方々に自問自答していただきたいのは、自社が経営危機や不振に陥っているのは、外部環境と内部環境のどちらに原因があるか、ということです。今回のコロナ・ショックであれば明らかに外部環境ですから、金融機関からお金を借りて非常時を凌ぐことが可能です。ところが、これが内部環境であれば話は違います。組織の生産性の低さや徹底の欠如から商品やサービスが売れないという場合には、銀行は回収できないリスクを感じ、貸し渋る可能性が高いからです。

そのように内部環境に悩まされている会社に対して、経営コンサルタントの立場からは、資金的な余裕があれば、経営者の考え方を正し、社員を教育し直し、「お客さま第一」を徹底して「売上を上げましょう」というでしょうが、資金繰りが厳しい会社の場合には、まず最速で黒字化する道を選びます。では、具体的にどのようなアドバイスを与えるか。まずは何に措いても「コスト削減」の一択です。「お客さま第一」で売上、利益を高めることが経営の大原則ですが、危機時には効果がすぐに出るかはわかりません。そして、本当に「お客さま第一」ができていれば危機などには簡単に陥らないはずです。

一方、コスト削減はその気になれば、効果が100%約束されている対処法です。固定費はもちろんのこと、変動費も見直すべきでしょう。かつて日産自動車が危機に陥ったとき、「ミスター・コストカッター」によって徹底的にコストを削減して立て直したことを覚えている方も多いはずです。JALの破綻時にも、軍手ひとつまでコストの見直しをしました。大切なのは、とにかく月次でも四半期でもいいので、コストを削減し、まずは短い期間で黒字を達成すること。その意識と覚悟をもたなければ、お金が会社の外へと逃げていくだけです。

生産性を高める努力を怠るな

それでは、商品やサービスはそこそこ売れているけれども、生産性が低くて経営不振に陥っているなどのケースにはどう対処すればいいのでしょうか。たとえば、メーカーであれば売れる商品を需要ほど生産できていないために、販売機会を損失しているケースなどが挙げられます。この場合には、やはり生産性を高めることを検討する必要があります。

たとえば、従業員の勤務時間を朝の8時半から夕方の17時に定めている工場があるとしましょう。この場合、8時半の始業から作業着に着替えたり、機械を暖機運転したりするようでは、実際には9時から働いていることと同じです。実際には30分もの時間をロスしていると言い換えてもいいでしょう。

これをもしも、8時半から機械をフル稼働できる状況にすれば、どうでしょうか。単純に生産性が上がりますし、結果として採算ラインを超えるかもしれない。これはあくまでも一例にすぎませんが、生産性の欠如による売上の機会損失とは、それくらい企業にとっては勿体ないことなのです。上記の例でいえば、経営者側は従業員への時間外手当の支給を検討してでもアウトプットを増やしたほうがいい場合も少なくありません。

もちろん、見直すべきは製造の現場だけではありません。営業でいえば、日中の会議は極力減らすべきです。なぜならば、お客さまが働いていて接触できる時間帯は、(いまはコロナで難しい場合もありますが)相手先の会社に足を運んだり、オンラインでも何がしかの提案をしたりするべきで、本来であれば社内の会議に時間を充てる暇などないはずです。もちろん、タイムマネジメントの工夫が必要になりますが、社内の会議が必要なのであれば、極力、お客さまが動いていない時間を見つけて行なうべきなのです。

雇用はできるかぎり保ったほうがいい

なお、コストカットという言葉から、人員の整理を連想する方もいるでしょう。もちろんいざというときにはリストラも考えなければいけませんが、今回のコロナ・ショックでいえば、先ほども申し上げたように雇用調整助成金などが出ているのですから、雇用を保てるならば保ったほうがいい。

認識しておくべきなのは、一度雇用を切った従業員に対して、もしも業績が回復したとしても、戻ってきてもらうのは現実的ではないことです。とくに日本の場合、「出戻り」は稀であると考えたほうがいいでしょう。もちろん、人員整理の判断が遅くなって会社が潰れては元も子もありませんが、それでも従業員の人生にも大きな影響を与えるため、慎重に考えるべき問題であり、そんな状況を招かないためにも普段から「お客さま第一」を徹底することで稼ぎ、そしてつねに手元にお金が十分ある状況を作っておくことです。

中小企業は「月商1.7カ月分」

それでは、具体的にどのくらいのお金を手元に置いておくべきなのか、最後に考えてみたいと思います。私がよくお話しするのは、大企業であれば月商1カ月分、中小企業であれば月商1.7カ月分であり、実際に日銀短観などの統計をみても、多くの中小企業はそのくらいの資金を手元にもっています。そして、資金がボトムになるときでも1カ月分くらいの資金は確保しておくべきです。売掛金の入金が遅れるなどの連鎖倒産を防ぐためです(ただ、これはあくまでも平時なので危機時はもっとお金を持つべきです)。

なぜ大企業と中小企業で差があるかといえば、中小企業の場合は資金調達に時間がかかるからです。大企業であれば銀行がすぐにお金を貸してくれるだろうし、コマーシャルペーパー(短期の社債)も比較的すぐに発行できます。しかし、中小企業の場合はそうはいかないケースが少なくありません。たとえば、取引銀行に頼んだとしても、2~3週間は入金まで待たされることもあるでしょう。そんなときに月商の1.7カ月分程度のお金があればとりあえずの急場を凌げるし、対外的な支払いがショートする危険性も減らせるのです。もちろん、連鎖倒産も防げます。

身も蓋もない話をすれば、そもそも危機に陥らない経営を心掛けるに越したことはありません。経営コンサルタントとして申し上げるのであれば、経営が苦しくなる企業は往々にして、「お客さま第一」が徹底されていないうえ、平時から経営管理がルーズで、お金が出ていくことに対しての意識が低いように思えます。いわば、水が滴っている雑巾のようなもので、やはりつねに絞って乾いた状態を保っていく必要がある。場合によっては、日産自動車のようにトップが代わらないと雑巾を絞れない企業だってあるでしょう。いずれにしても、有事だからといって慌てふためくことがないように、普段から「お客さま第一」を徹底するとともに多めの資金を保有することが、長く続く企業をめざすポイントです。

著者

小宮 一慶 氏こみや かずよし

株式会社小宮コンサルタンツ代表取締役CEO

大企業から中小企業まで、企業規模や業種を問わず幅広く経営コンサルティング活動を行なう一方、講演や新聞・雑誌の執筆、テレビ出演も行なう。『小宮一慶の「日経新聞」深読み講座』(日本経済新聞出版社)、社長の心得 (ディスカヴァー携書)『経営が必ずうまくいく考え方』(PHPビジネス新書)など著書多数。

[編集] 一般社団法人 100年企業戦略研究所
[企画・制作協力]株式会社PHP研究所 企画普及部

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