「掃除」と「新聞」が会社と社員を変える

「「掃除」と「新聞」が会社と社員を変える」のアイキャッチ画像

目次

新しい一年を迎えるにあたり、会社としての足元を見つめ直すべきではないか。会社の社風を見直し、そして従業員の「基礎力」をあらためて向上させることが、会社の未来にとっては大切だ――。大企業から中小企業まで幅広く経営コンサルティングを手がける小宮コンサルタンツ代表取締役CEOの小宮一慶氏にお話しいただく連載の第8回です。

何ごとも「徹底できる会社」をめざして

前回、「良い会社、悪い会社はない。あるのは良い社長、悪い社長だけだ」と申し上げました。そのうえで「できることはすべてやれ、やるなら最善を尽くせ」というカーネル・サンダース(ケンタッキー・フライド・チキン創業者)の言葉も紹介しましたが、「やるべきことを徹底できているか」は、経営者の資質とともに、社風によるところが大きいと私は考えています。

年が明けて2023年、個人として一年の抱負を立てる方も多いでしょうし、企業であれば年間の戦略や目標を練っているはずです。私から中小企業の経営者にあえてアドバイスするならば、この機に社風を刷新してはどうか、ということです。すなわち、社員一人ひとりの行動を変えることによりその意識を変えるように働きかけて、何ごとも「徹底できる会社」に変わるのです。

一方、現代のような不確実の時代を生き抜くうえでは、社員同士が迅速かつ適切に意思を疎通したうえで、目の前の変化に対応できるか否かがカギを握ります。それはつまり、「良い意味でのコミュニケーションがとれているか」という問いにもつながる話でしょう。ここでまず、重要なのは、経営者が先頭に立ち、理屈ではなく意識を共有することです。私は、コミュニケーションは「意味」と「意識」の両方で成り立っていると考えています。たとえば、「コピーを100枚とって欲しい」というのは「意味」を伝えていますが、皆さんにも経験があるように、同じことでも好きな上司に言われたら喜んでやりたいけれども、嫌な上司に言われたらあまりやりたくないというのがありますね。これは「意味」の問題ではなく、「意識」の問題だからです。

いかに会社の指揮系統がしっかりしていたとしても、社員皆が同じ方向を向いていなければ意味はありません。先行きが見通せない時代、変化に柔軟に対応するには、経営者が先頭に立って、まずは足元を固めなければなりません。そのためには「意識」の共通化がまず必要なのです。

なぜ「掃除」が大切なのか

それでは、社員の意識を一つにするうえで、具体的に必要なことは何か。私は「小さな行動」を繰り返し行うことが重要だと考えています。意識を変える、意識を共通化する第一歩は、意識教育ではなく、「行動」だと私は考えています。空手や柔道、あるいは華道や茶道などの「〇〇道」は、必ず「形」すなわち「行動」から入ります。われわれ凡人は、同じ行動を何千回、何万回と行うことで、その「心」や意識を理解することができるのです。

ここで提案したいのは、たとえば朝の掃除です。私が代表を務める会社では、出社している人間で毎朝9時から事務所の掃除をしています。実際に私も今朝、トイレの掃除をしました。掃除の後には9時15分からの朝礼を行っていて、その日の当番の社員が会社のミッションやビジョンを読み上げ、一人ひとりがその日の予定を発表します。当然、こういう時代ですから、オンラインでの参加も認めています。

人間とは易きに流れる生き物なので、放っておくと自分勝手に動きます。しかし、とくに人数がさほど多くない中小企業は、一人ひとりの力や考えをいかに共有して、存分に発揮させられるかが焦点になります。だからこそ、もちろん掃除は一例にすぎませんが、あいさつなどの小さな行動を皆で行ないながら小さなコミュニケーションを重ねることが大切です。そして、それがやがて社風を生み出すのです。

なお、正直に言えば、私の会社でもそうした社風に合わないと言って辞めた人間もいます。ただし極論を言えば、それは仕方ありません。互いにしんどいと感じることをやり続けて、後でトラブルが起こるほうがまずいのです。

もちろん、掃除を例に挙げたことに大きな意味があります。ビジネスパーソンは基礎力を磨き続けるべきです。「基礎力」とは、私は「思考力」と「実行力」と考えています。この実行力の大切さを知るうえで、掃除はじつに有効です。いくら理屈を並べても、手を動かして机を磨かなければ綺麗にならないのですから。

もう一つ、これはイエローハットの創業者である鍵山秀三郎さんも語っておられることですが、毎日のようにきちんと掃除を続けると、自然と気づきを得るものです。これが「思考力」を養います。そうした習慣を重ねれば、上司が指示しなくても「自分は何をすべきか」を考えて自ら動く社員が増えるはずです。いずれにしても「行動」です。

意識を共有するコミュニケーションを

新年を迎えるにあたり、なぜあらためて、こうした基本的な話をするかといえば、まもなく4年目を迎えるパンデミックによって、多くの会社で経営者と社員、あるいは社員間のコミュニケーションが落ちているはずで、その点にテコ入れすることが必要だからです。そして、会社の土台に目を向けるには、誰もが多かれ少なかれ己を見つめ直す年始は絶好の機会です。

とくにコミュニケーションについては、いまでは多くの企業が課題を抱えているのではないでしょうか。アメリカでも一部の企業が出勤を促しているように、オンラインではどうしても意識までは共有しにくいのです。

たとえば、セブン&アイ・ホールディングスはコンビニ部門の売上がコロナ前を上回ったと報道されました。私が同社の社風で感心しているのは、鈴木敏文さんが経営を担っていた時代、全国のスーパーバイザーを毎週集めて会議をしていたことです。

費用的に考えれば、皆が一カ所に集まるのは非生産的だったかもしれません。それでも鈴木さんは、面と向かってメッセージを発信し続けた。それが、いまに続く強固な社風をかたちづくり、高い収益性を勝ち得ているのだと思います。一見すれば大いなる遠回りに見えますが、それが危機に強い会社ということなのです。これは、規模の大小にかぎらず、どの会社も参考にできる事例ではないでしょうか。

新聞から刺激を得ることの大切さ

もう一つ、社員の基礎力を上げるうえでは、新聞を読むことも大切です。もちろん、あえて忙しいときに、必ず隅々まで目を通せとは言いません。そこで私は、『日本経済新聞』であれば、まずは大きな記事の冒頭のリード文だけでも、訓練だと思って読むようにアドバイスしています。記事を最後まで読まなくていいのかと思うかもしれませんが、リード文に目を通すだけでも、世の中への理解度は劇的に変わります。

たとえば、台湾の世界的な半導体メーカーのTSMCが九州の熊本に進出しますが、このニュースにしてもネットニュースの見出しで目にしただけでは、「熊本は誘致に成功してすごいな」くらいの感想で終わるかもしれない。でも、それではダメなのです。中国と台湾の問題などを以前から新聞を読んで理解していれば、TSMCは台湾有事のリスクに備えて熊本に工場を置くわけで、そこまで頭に入れて初めて、「うちの会社も中国ではなく、国内やアメリカ、オーストラリアなどに工場を置いたほうがいいな」などと考えを巡らせることができます。

私が新聞を読むことが大切だと思うのは、知識を得ることもさることながら、世の中の動きや流れに関心をもつきっかけになるからです。たとえば、セブンイレブンのロゴは「7」という数字と「ELEVEn」のアルファベットを組み合わせていますが、「ELEVEn」の最後のnは小文字です。その理由については諸説あるようですが、本コラムを読んだ読者の方は明日以降、あのロゴを見るたびに小文字のnに目がいくはず。このように、関心さえ持てば、いままで目を向けてこなかったところまで意識するものなのです。

今後、環境の変化にいかに対応するかが企業の命運を握るとともに、そのビジネスパーソンの価値に直結します。そのためには社会の動きに関心をもつことが大切だし、その手段として新聞から刺激を受けることはじつに効果的です。とはいえ、社員の自発性に任せたら、明日から新聞を手に取る方は多くないかもしれない。だからこそ、会社として働きかけることが必要になるのです。

「評論家社長は会社を潰す」

本連載で幾度も申し上げていますが、結局のところ、会社を変えるのは経営者の意志や覚悟です。そして、とくに中小企業の場合は、経営者自身に実行力が求められますが、かつては経営コンサルタントの一倉定さんが「評論家社長は会社を潰す」と語っていたように、自分の実行力は棚上げして評論だけ口にする経営者が少なくありません。社員はそんな経営者の言動を、思った以上に見ているものです。

私は「指揮官先頭」という言葉をよく用いるのですが、経営者がみずから率先して動くようでなければ、どんな声をかけようとも部下はついていきません。それが、リーダーシップというものです。加えてもう一つ挙げるならば、「志」も大切です。「世の中を良くする」「お客さまに喜んでいただく」という基本的な理念や信念がなければ、従業員に働く意味や喜びを与えることはできません。

あえて拘るではありませんが、その意味でも掃除などの「小さな行動」はきわめて有効です。口ではなく手を動かし、このあとに利用する人のためにオフィスを綺麗にする。とくに大企業の人間は仕組みがしっかりしているだけに、自分一人で何かをやることに億劫になる人間は少なくありません。その意味でも、中小企業の人間のほうが実行力や思考力を鍛えられるし、それはすなわち、いまの時代に求められる人材とも言える。企業は、社員にそのような教育を与えるべきではないでしょうか。

著者

小宮 一慶 氏こみや かずよし

株式会社小宮コンサルタンツ代表取締役CEO

大企業から中小企業まで、企業規模や業種を問わず幅広く経営コンサルティング活動を行なう一方、講演や新聞・雑誌の執筆、テレビ出演も行なう。『小宮一慶の「日経新聞」深読み講座』(日本経済新聞出版社)、社長の心得 (ディスカヴァー携書)『経営が必ずうまくいく考え方』(PHPビジネス新書)など著書多数。

[編集] 一般社団法人 100年企業戦略研究所
[企画・制作協力]株式会社PHP研究所 メディアプロモーション部

経営戦略から不動産マーケット展望まで 各分野の第一人者を招いたセミナーを開催中!

ボルテックス グループサイト

ボルテックス
東京オフィス検索
駐マップ
Vターンシップ
VRサポート
ボルテックス投資顧問
ボルテックスデジタル

登録料・年会費無料!経営に役立つ情報を配信
100年企業戦略
メンバーズ