長寿企業に向けた適切な事業承継とは

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適切な事業承継なくしては、長寿企業への道はない。では、どのような人物を後継者に選ぶことが重要となるのか――。大企業から中小企業まで幅広く経営コンサルティングを手がける小宮コンサルタンツ代表取締役CEOの小宮一慶氏にお話しいただく連載の第10回です。

マネジメントチームをつくる利点

前回に引き続き、昨今、大きな課題となっている事業承継について考えたいと思います。事業承継にあたっては、平時よりマネジメントチームをつくって意志決定をさせることが重要だというのが前回の提言でした。もしも、社長が突然にいなくなった場合でも会社が十分に回る仕組みをつくるべきであり、反対に何ごとも「俺が」と自分でやりたがる社長では、適切な事業承継が行なえるのか大いに疑問です。

なぜ、マネジメントチームをつくるべきなのか。それは、5人前後のチームに普段から経営について考えさせておけば、そのなかで優れた経営判断ができそうな人物に事業承継すればいいからです。私が深く関わる会社でも先日、5年以内の引退を考えているCEO(最高経営責任者)がCOO(最高執行責任者)に2人を選びました。共同COOです。それももともとは4~5人で構成していたマネジメントチームから選んだ人間でした。おそらく共同COOの2人のどちらかが、5年以内にCEOとなると思います。

マネジメントチームをつくれば、選ばれた側の人間にも、「自分たちのなかから次の経営者が出るかもしれない」という自覚が生まれます。加えて、日々の経営判断から、経営者に求められるものは何かを身をもって学ぶことができるでしょう。当社は20人ほどの経営コンサルタント会社ですが、やはり私をのぞいた5人のマネジメントチームがあり、「私だったらどう判断するか」ということを考えてもらっています。

もちろん、これぞという人物がいるのであれば、外部から後継者候補を連れてくることも検討すべきです。ただし、自社の企業文化を知っている人を後任に選ぶことがでれば、事業承継がスムーズに進む可能性は高まります。

株式のことなどを考えれば、ご自身の子供という選択肢も大いにあると思いますが、しかし、その場合でも経営がある程度できることが大前提です。

それでは、具体的にどのような人物を次の経営者に選べば、それこそ「100年企業」に向けて会社の寿命は延びるのでしょうか。経営とは大きく3つの要素から成り立っているというのが私の持論で、それはすなわち「企業の方向づけ」「資源の最適配分」「人を動かす」です。現に当社で主催している後継者ゼミナールでも、これらを徹底的に意識づけています。

「車の両輪」を回すことが長寿企業への道

このなかで、とくに重要なのが「企業の方向づけ」です。経営者に求められるのは、会社として「何をやるか」「何をやめるか」を戦略的に判断する能力です。そのうえで、10年や20年のスパンで会社をどう経営していくかというビジョンを描かなければいけません。もちろんこれまで申し上げたように、マネジメントチームを構成して衆知を集めるべきだと私は思いますが、それでも最後には、経営者はみずからの責任のもとに判断しなければいけないのです。

会社のミッション(=存在意義)とは、ともすれば1,000年経っても不変かもしれません。ただし、そのミッションを掲げながら、具体的にどういう姿、状態になるかというビジョンは、必要であれば時代に合わせて変えなければいけません。とくに、未来を見据えて会社の針路を方向づけることは、誰にでも容易にできることではありません。だからこそ、後継者候補をまずはマネジメントチームに入れることで、育成したり能力を見極めたりする必要があるのです。もちろん、やる気があるのならご自身の子供などを入れても大丈夫です。

一方で、経営者として失格なのは、遊びほうけているような人は論外ですが、目の前の仕事にばかり気をとられて、未来に向けたビジョンを描けない人間です。あるいはその逆で、理想ばかりを追いかけて直近の事業を疎かにすれば、会社として成り立たないのは明白です。そもそも、経営者もある程度は現場の仕事ができなければ、社員からの信任を得られません。これは「車の両輪」のようなもので、現在と未来、あるいは現実と理想の2つを同時に動かすイメージが経営者には求められる資質であり、その積み重ねが長寿企業への道へとつながるのです。

第2次世界大戦期のアメリカ大統領として知られるフランクリン・ルーズベルトは、「足は大地に、目は星に」という言葉を残しています。もしも、経営者が足元ばかりを見て歩いたら、いつしか方向を間違っているかもしれません。また、遠い未来のことばかりを見ていれば、反対に足元をすくわれるでしょう。ルーズベルトの言葉は、どの時代にもリーダーに求められる姿勢と能力を端的に表しています。

親族への事業承継の注意点

中小企業では、子どもを始めとする親族に承継する事例が多いでしょう。そうしたケースで気を付けるべきなのは、「世間知らず」の親族に後を継がせることです。たとえば、大学を卒業してすぐに自社に入れることは、デメリットが多いと言わざるを得ません。まずは自社とは関係のない会社で働かせるべきだし、少なくとも周囲にチヤホヤされる環境に置くべきではありません。

もしも、自分の親が経営する会社に入ったならば、周囲からは「将来は彼(彼女)が社長になるんだな」という態度で接せられるでしょう。本気でアドバイスをくれたり叱ったりしてくれる人にも巡り合えないかもしれない。それでは、本当の意味での自分の実力を知ることができません。こんなに不幸なことはないし、いずれ経営者になったときに必ずや壁に当たるでしょう。私はそういう人たちを多く見てきました。それよりは、関係のない会社で世の中を知ったほうが将来に活きます。

私はセミナーでよく、あえて厳しい口調で「皆さんは、自分の親が社長でなかったら、事業を承継できたでしょうか」と問いかけます。そのうえで、「血縁関係がなければ社長になれないようであれば、事業を継いでも『ぶら下がり社長』にすぎません」と話します。もしも他の会社で働いた経験があれば、自分の会社の良い部分と悪い部分を客観的に分析することができます。自分の実力もある程度客観的に分かります。そして社会人であれば、若いうちにさまざまな辛い仕事やいやなこともあるでしょう。そうした経験はとても大事で、逆に言えば、さまざまな経験を積んでも芽が出ないような人物ならば、会社を継ぐに相応しい人間ではないかもしれません。

もちろん、事業を承継するうえでは、経験だけではなく「経営の技」を勉強しなければいけません。たとえば、自己資本比率を一定以下に落とさないことや、手元流動性をどれくらい確保すればいいかを学ばないといけないし、財務内容をしっかりと理解する能力を養わないといけない。マーケティングや戦略の基本理論も勉強しておく必要があります。基本的なことをしっかり押さえておけば判断がやりやすいですから、そのうえで描いたビジョンを実現するための新たな挑戦をすればいいのです。

事業承継はあくまでもケースバイケースで、子どもが優秀であれば任せればいいし、それに越したことはありません。ただし私が知る限りですが、近年、優良な中小企業であればあるほど親族以外を後継者に選んでいるケースも多いように思います。会社に多額の借金さえなければ、所有と経営を分けて考えたうえで、親族に拘ることなく優秀な人間に事業を承継することも可能になっています。

中長期的な視点を養うための仕組みづくり

これまで、私はさまざまな会社の事例を見てきましたが、中長期的な視点をもつ経営者が少ないと実感しています。これはビジネスの世界に限った話ではなく、政治の世界にも言えることでしょう。あるいは官僚の知り合いと接していても、優秀な人間でも「明日の国会をどう乗り切るか」という発想に陥っているように思います。

このような状況で、マネジメントチームをつくるにあたっては、日々の経営判断を行なわせるとともに、年に数回は会社の将来を話し合う機会をつくることをお薦めします。あるいは、年に1度くらいは合宿などをして、10年後や20年後の自社のあり方を議論してもいいでしょう。目の前の仕事だけを考えていれば、将来を考える能力は失われます。ならば仕組みとし、中長期の視点で事業を考える機会をつくらないといけないのです。

私は東証プライムに上場している会社の社外取締役も務めていますが、10年先くらいの中長期の計画を立てないと投資家に評価されない時代です。大企業は自然にそうした周囲の目に晒されますが、中小企業の場合はどうしても中期的なことに関しては意識が希薄になりがちです。具体的な案まで落とし込まなくても、自分の会社が将来どうなっていたらいいのかというしっかりとしたイメージ(ビジョン)をもつ人物を育てなければ、事業承継にしても上手くいくはずがありません。

「散歩のついでに富士山に登った人はいない」という言葉があります。ビジネスの世界では皆が必死に散歩していますが、明確なビジョンや計画がなければ、どれだけ歩き続けても近所をうろうろしていることになりかねません。中長期的な視点で会社の未来を考えられる人物に事業を承継できれば、その企業の寿命は間違いなく伸びるでしょう。

著者

小宮 一慶 氏こみや かずよし

株式会社小宮コンサルタンツ代表取締役CEO

大企業から中小企業まで、企業規模や業種を問わず幅広く経営コンサルティング活動を行なう一方、講演や新聞・雑誌の執筆、テレビ出演も行なう。『小宮一慶の「日経新聞」深読み講座』(日本経済新聞出版社)、社長の心得 (ディスカヴァー携書)『経営が必ずうまくいく考え方』(PHPビジネス新書)など著書多数。

[編集] 一般社団法人 100年企業戦略研究所
[企画・制作協力]株式会社PHP研究所 メディアプロモーション部

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