優秀なスタッフが老舗織物企業に集まるワケ
~経営理念を具現化する4代目女性社長の挑戦~

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日本の伝統的な着衣である「わた入れ半纏」。これまで古臭いと思われてきたアイテムが現代的にアップデートされ、若い世代を中心に人気を集めています。この見事な復活劇を成し遂げたのは来年創業110周年の宮田織物。社員がみずから動き、主体的にアイデアを形にしていく体制はどのようにして生まれたのか。代表取締役の吉開ひとみ氏にお尋ねしました。
※冒頭の写真右が吉開氏、左は娘の絵里さん。「冬椿」というテキスタイルが人気の半そで半纏を着こなして。

わた入れ半纏に吹き荒れる逆風の数々

日本三大(がすり)の一つ、久留米絣の産地・筑後市で大正2年に創業した宮田織物。まもなく110周年を迎える同社は今、4代目の吉開ひとみ氏が経営の舵取りを行っています。

「当初は家業を継ぐ気はまるでなかったんですよ。成り行きです」

吉開氏はそう語りますが、氏の入社から現在に至るまでの宮田織物の歩みは「進化の歴史」そのもの。商品、ブランド、チャネル、社内制度。いくたびもの苦難を乗り越え、挑戦を続けています。

最初の大きな困難は、バブル経済が崩壊した1990年代頭に訪れました。価格破壊の波が押し寄せ、わた入れ半纏の世界にも低価格品が氾濫したのです。

価格破壊の荒波に同社はどう立ち向かったのか。活路は高付加価値化にありました。製品自体を高級化し、1点1点の付加価値を高めていったのです。

しかし、逆風はさらに続きます。ライフスタイルの変化で、日本の伝統的な防寒着であるわた入れ半纏は消費者から敬遠されていきました。外的環境の変化には為すすべがありません。元号が昭和から平成に移ると、同社はワンマイルウエアをラインナップに加えます。しかし、それもすぐに中国製品に模倣されてしまいました。

小手先の解決策では危機を乗り越えるのは難しい。抜本的な方向転換をしなければならない。そうして宮田織物は原点回帰と温故知新の戦略のもと、商品と売り方を革新していくのです。

コロナ禍が追い風になった

久留米絣の生地幅は一般的に約37cm。小幅のため洋装化しにくいという難点がありましたが、宮田織物では昭和30年代に90〜150cmの広幅の織物に転換していました。

「原点に立ち返り、かつ自分たちの得意分野を活かす。久留米絣とうちの広幅生地を組み合わせれば、現代のライフスタイルにマッチした「温故知新」の衣料がつくれるのではないかと考えました。実はこのコンセプトをつくったのは、今91歳の私の父。父はアイデアマンなんです。表に合繊の生地を使ったわた入れ半纏も、父が初めてつくったんですよ」

卓越したアイデアを具現化しようと、同社は選びぬいた糸でオリジナルの「和木綿」を織り上げ、婦人服ブランド「彩藍(さいあい)」を立ち上げました。婦人服の経験がないため試行錯誤を重ねたといいますが、半纏に代わる商材を求めていた問屋のニーズ、久留米絣の洋服は高額すぎて手が出ないという消費者心理をとらえ、後に生活実用情報誌で紹介されると大ブレイク。高齢者を中心に人気を集めていきます。ロングセラーの「絣調バタフライブラウス」は2011年から2021年7月末までの期間で18,905枚を売り上げました。

自社の持ち味や強みを活かし、未知の領域に乗り出してスタートしたブランドは大成功。経営は安定化しましたが、同社はここで足踏みをしていません。吉開氏はさらなる挑戦に踏み切ります。

「問屋からの注文数が徐々に減り、利益が出にくい企業体質になっていたことに気付きました。現状をなんとかしなければならない。そう考えて、問屋に卸すのではなく自分たちで売る直販体制に舵を切りました」

問屋に頼らずリスクを取って、企画から製造、販売までを垂直統合させる製造小売業への移行は、当初は思うように進まなかったといいますが、この状況を変えたのがコロナ禍でした。「巣ごもり需要」が脚光を浴びた2020年、同社は持てるマンパワーをすべて直販に投入しました。同社がどれだけ直販に振り切ったのか、それは数字からも明らかです。コロナ禍以前の2019年、直販の売上構成比はわずか20%に過ぎませんでしたが、2020年には40%に伸び、現在はすでに50%に達しました。

大災厄をチャンスに変えた宮田織物には今、力強い追い風が吹いています。

「わた入れ半纏を扱うライフスタイルショップが増えてきました。無印良品の商品を紹介している人気ブロガーさんにクローズアップしていただいたことも大きいですが、商品の機能性も改めて注目されているようです」

吸汗性があり、気化熱を放出する綿の調節機能、裏地に使っている綿の優しい肌触り、軽量で静電気が起きにくく、ほぼフリーサイズ。古くからあるわた入れ半纏は、体をふんわりと包み、ナチュラルでサステイナブルかつ、若い世代にとって新鮮なウエアなのでしょう。

迷ったときには経営理念に立ち返る

消費者の新しい志向の盛り上がりを背景に、吉開氏はさらなる攻めの戦略を続けます。一つは、布地づくりに使用している上質の綿の残糸を使用し、軍手工房とコラボしたアップサイクル商品の「odd シリーズ」。同社ならではのSDGs対応型商品です。そして、来春には若い人向けのブランドもスタートします。

「これを機に『彩藍』など従来のブランドは、商品を厳選する計画です。新しいブランドについてはポップアップショップやセレクトショップでの扱いを強化していきたい。国産スニーカーブランドとのコラボも積極的に進めています。こうした新しい試みはすべてスタッフが主体的に動いているんですよ。Instagramでは毎週、わた入れ半纏の魅力を伝える『WEEKLY HANTEN SHOW』も投稿してくれていますし、スタッフが優秀で助かります(笑)」

しかし、主体的に動く優秀なスタッフを支えているのはほかでもない吉開氏のリーダーシップ。そしてそのリーダーシップのもとに構築されてきたのが、働き方改革です。

吉開氏は同社の社員の8割を占める女性が快適に働き続けられるよう、産休や育休を取得した社員が皆、元の場所に戻って勤務が続けられる制度を整備しました。産休や育休の代替として雇用するのはパートではなく正規社員。雇用が安定すれば、技術習得へのモチベーションや企業へのエンゲージメントが向上すると考えたからです。

育休から復帰した社員は、子どもが小学6年生になるまでは9〜16時までの間の5時間から短時間勤務ができる制度も導入し、利用期限の制約がない介護休暇も設けました。裁断や縫製、アイロンなど、自分の役割以外の仕事もこなせるように、社員の多能工化も推進。縫製や製織、玉掛け、色彩検定、パターン検定などの資格取得も推奨しています。

こうした社内制度に吉開氏が力を注ぐのは、経営理念を具現化するためです。

「経営理念の『一隅を照らす』は、小さな光が集まったら大きな光になるという意味ですが、自分がまず光を放つ、そうすることは自分の人生を自分が決められるようになるという意味でもあると思っています。弊社の経営方針はまず社員ありき。次にお客様があって、その後に地域が来る。だからまず社員に幸福になってもらい、自分の人生を自分らしく送ってもらえる会社でありたいと考えています」

筑後地区では今、複数社の協業という形で「筑後織り」を訴求するプロジェクトが進行しています。久留米絣を始めとする織物の産地をアピールする同プロジェクトのリーダー役を務めているのが同社のスタッフ。地域貢献に主体的に取り組むようになったのも、宮田織物の社員一人ひとりが輝き、顧客のニーズに応え、仕事に達成感を得ているからでしょう。

「スタッフの努力が実る体制を追求していきたいですね。これからもいろいろ迷うと思いますが、そのときの指針になるのが経営理念。これがあってよかったと心から思います」と吉開氏。経営者が腹落ちして実現に移そうと心から思える経営理念の存在は、進化させながら企業寿命を長く導くエッセンスなのかもしれません。

お話を聞いた方

吉開 ひとみ 氏(よしがい ひとみ)

宮田織物株式会社 代表取締役社長

筑後市生まれ。香蘭デザインファッション専門学校を卒業後、1981年『宮田織物株式会社』に入社。3代目社長の父親が導入した、当時は珍しかったシミュレーションコンピューターで生地のデザインや商品企画などを担当。2009年常務となり、2013年から現職。

[編集] 一般社団法人100年企業戦略研究所
[企画・制作協力]東洋経済新報社ブランドスタジオ

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