「女性活躍」のために企業と社会に必要なこと

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先進国のなかで最低レベルといわれる、日本のジェンダー・ギャップ指数。日本企業は「女性活躍」をなぜ実現できていないのか。大企業から中小企業まで幅広く経営コンサルティングを手がける小宮コンサルタンツ代表取締役CEOの小宮一慶氏にお話しいただく連載の第6回です。

先進国のなかで最低レベル

2020年代に入っても、毎年のように叫ばれている言葉に「ジェンダー・ギャップ」「女性活躍」があります。たとえば、WEF(世界経済フォーラム)は毎年、各国における男女格差を図る「ジェンダー・ギャップ指数」を公表しています。経済・教育・健康・政治の4分野のデータから作成されている指標ですが、2022年の日本の総合スコアの順位は146カ国中116位。先進国のなかでは最低レベルで、アジア諸国のなかでは韓国や中国、ASEAN諸国よりも低い結果です。

もちろん、多くの企業も問題点を自覚していますし、役員・管理職に占める女性の割合を意識するなど、何がしかの対策を講じているでしょう。しかし、このテーマについて考えるときに私がかねてより感じるのは、多くの企業が経営者も従業員も含めて、そもそも女性活躍の何たるかをわかっていないということです。

たとえば、私は比較的、女性が活躍する社会で育ってきた人間です。就職した東京銀行は当時、四大卒女性が就職を希望する企業として有名で、私自身、勤めていた11年間で3回も女性の上司の下で働きました。当時、本店営業部長も女性でした。いまから30年以上前の話で、当時の日本企業としてはきわめて珍しいことです。東京銀行は海外での活動が多かったこともあって、女性が活躍するのが当たり前の風土の企業でした。

初めからそうした会社で働いていれば、「役員・管理職に占める女性の割合」などをあらためて意識する必要がなく、職場で女性の能力を活かすべきと考えるのは自然です。ただし実際の問題として、現在の日本もそうした企業は数少ない。私が経営者を育成するための幹部研修の講師を務める際、大企業でも中小企業でも多くの企業で女性をほとんど見かけないのが実情です。もちろん、徐々に空気は変わりつつありますが、女性役員についても依然として社外取締役以外は少ないです。

企業の風土にどうメスを入れるか

このように、女性が活躍する社会を経験した人が少ない以上、状況を打開するうえでどうしても「形から入る」のは致し方ないですし、最初の一歩としては適切でしょう。ならばいっそのこと、女性役員の比率にしても3~4割をめざすなど、急速かつ急激に改善するような対策を練るべきだと私は考えます。

なぜ、それほどドラスティックな変化が必要かといえば、各企業の生産性を向上させるためです。実力のない男性ほど既得権益を守ろうとしがちですし、それが企業の成長を著しく妨げているからです。もちろん、誰しも自分の地位を脅かす存在を減らそうとするのは人間の本能ですから、一概に彼らを責めることはできません。だからこそ、まず思い切って実力的にはそん色のない女性を登用することが大事ですし、その企業の風土を変えることにつながるのではないでしょうか。

一方の女性の側に目を向けても、もしかしたら、一部の人びとにはまだ遠慮があるのかもしれません。とくに中小企業で見受けられるケースですが、マネージャーの立場を敬遠する女性は少なくないと聞きます。20人ほどの当初でも、実際、以前はそうでした。これはもはや仕事観や人生観に関わってくる難しい話でしょう。とくに営業や製造などの現場はいわゆる「男社会」が色濃いですから、男性のアシストが自分の仕事と捉えている女性もいるのでしょう。

しかし、世の中は変わりつつあります。テクノロジーが進化しているいま、たとえば製造の現場でも、これからの時代はロボットのサポートを受けることで女性も活躍しやすくなるはずです。そのうえで、企業が積極的に女性を管理職に登用すれば、女性側の意識も次第に変わってくるでしょう。この先、国内では生産年齢人口の減少から人出不足がさらに深刻化することや生産性向上のためにも、企業側もそうしなければなりませんし、その意味では経営者の意識の変化と行動が不可欠な条件となるのは自明の理です。

なぜ「女性活躍」が必要なのか

ここまで申し上げてきて、そもそもなぜ女性が活躍する企業や社会をめざさないといけないのか、と疑問に感じる読者もいるかもしれません。結論は、各企業の生産性や業績の向上のためです。それを通じたこの国の生産性の向上です。

その点について、ひとつは視点の多様性です。女性は往々にして男性とは異なるきめ細やかな考え方をしていることが多く、また一般消費者を相手にする企業の場合、当然ですが顧客には多くの女性が含まれるわけです。その際、男性だけの視点で仕事を進めていれば、どうしても市場のニーズと乖離するなどのリスクが生じます。女性が社内で活躍することにより、いままで以上の女性視点のマーケティングがやりやすくなります。

また、現在は世界的に人手不足が叫ばれています。アメリカの企業求人件数は短期的には非常に高い水準で、すでに1,000万件を超えていますし、日本では長期的に生産年齢人口の減少が続きます。そんな状況下で、能力のある女性の力を活用しない手はありません。以前に比べれば、結婚や出産での就業率低下が解消の傾向にあることも追い風です。そろそろ次のステージとして、「いかに働いてもらうか」から「いかに活躍してもらうか」を考えるべき局面でしょう。

そのときに、女性にとっての働きやすさはいま以上に追求して然るべきで、企業側は人事制度などの整備が求められます。そして何よりも重要なのは、実際に活躍する女性のロールモデルを早急につくることです。私はポーラ・オルビスホールディングスの社外取締役を務めていますが、化粧品で知られるポーラをはじめ、ホールディングス傘下の子会社のいくつかは女性が社長を務めています。彼女たちは非常に適切に経営に臨んでいますから、そうした姿をみれば各社の女性社員も管理職をめざそうと思うはずです。

多くの日本企業は、これまで男性が暗黙のうちに出世しやすい雰囲気がありました。たいへんなのは百も承知ですが、その雰囲気や仕組みを抜本的に見直さなければなりません。男女雇用機会均等法の制定から37年が経っており、本来であればとうの昔に着手しなければいけない課題のはずでした。それは結果的に、男性社員に刺激を与えて、会社全体の活性化へとつながるでしょう。

社会にどう好循環を生み出すか

もちろん、女性の活躍は「手段」であって「目的」ではありません。では、本当の目的は何かといえば、言うまでもなく企業や日本社会の繁栄であり、そのために女性の力をより活かすべきというのが私の考えです。さらにいえば、女性活躍とは「真の実力主義」の時代への通過点にすぎません。身も蓋もない話ですが、男性か女性かと論じていること自体が本来であれば健全ではないわけで、能力ある人間が然るべき地位に就くのが最善です。

ただし、能力とは別に性別に起因する「特性」はあります。私は能力については結局のところ男女に差はないと考えていますが、女性の場合は出産などがあり、その点については十分に配慮しなければなりません。少子化が進むこの国ではなおさらです。男性の育児休暇の取得も進んでいますが、社会全体で女性を支える意識を醸成しなければいけないでしょう。とくに子育てに関しては、企業を飛び越えて社会全体の課題だといえます。

海外では育休の制度も充実している国が少なくないですが、なぜそんな働き方が可能かといえば、企業や社会が十分に稼いでいて、子育てや介護を行わなければならない人たちを支えられるだけの体力があるからです。この点に関して、GDPがこの30年間、伸びていない現実が日本にはあります。GDPとは、給料の源泉である付加価値の合計です。すなわち、日本はこの30年間、給料が伸びておらず、分配の原資が増えていないということなのです。

だからこそ、余計な時間働いたり出世に固執したりして給料を稼ぐことを意識せざるを得ないのです。結局のところ、既存の枠組みに拘る男性社員の病理もここに起因するかもしれません。経済的に余裕がある企業であれば、社員は自ずと育休をとりやすくなりますが、「貧すれば鈍する」という言葉のとおり、その逆のケースに陥り続けてきたのが日本でした。

社会全体として、高収益企業を多く生むことが、女性が働きやすい世の中の実現へとつながります。同時に、女性に活躍してもらって高収益企業をつくるという感覚も必要となるでしょう。その結果、日本としてもGDPは向上するし、子どもたちも増える。そうした好循環を生むために、いま何が求められているのか。まさしく、社会全体が自分たちの課題として向き合わなければなりません。

著者

小宮 一慶 氏こみや かずよし

株式会社小宮コンサルタンツ代表取締役CEO

大企業から中小企業まで、企業規模や業種を問わず幅広く経営コンサルティング活動を行なう一方、講演や新聞・雑誌の執筆、テレビ出演も行なう。『小宮一慶の「日経新聞」深読み講座』(日本経済新聞出版社)、社長の心得 (ディスカヴァー携書)『経営が必ずうまくいく考え方』(PHPビジネス新書)など著書多数。

[編集] 一般社団法人 100年企業戦略研究所
[企画・制作協力]株式会社PHP研究所 メディアプロモーション部

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