【セミナーレポート】数字にだまされる“PL脳”経営者と、企業価値を正しく理解する“ファイナンス思考”経営者
朝倉祐介氏×堀内勉

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社会情勢やビジネス環境が目まぐるしく変わるVUCA時代。企業のリーダーには自社の位置づけを俯瞰し、的確に見極める力が求められます。シニフィアン株式会社でスタートアップへの経営資源提供を手がける朝倉祐介氏は、ファイナンス思考にこそヒントがあると言います。100年企業戦略研究所所長の堀内勉との対談を通して、その要諦を解き明かします。

多くの経営者が陥る“PL脳”の罠

堀内 朝倉さんのご著書『ファイナンス思考』は、多くの経営者やビジネスパーソンに衝撃を持って受け止められました。テーマである「ファイナンス思考」の体系立てられた理論はもちろん、損益計算書の数字ばかり追ってしまう人を「PL脳」と称したのは痛快でした。

朝倉 目先で損益計算書上の売上や利益を最大化しようとすること、またこれをよしとする思考態度のことを、私は「PL脳」と呼んでいます。「増収増益を果たすことこそが社長の使命」「今期は減益になりそうだからマーケットコストを削ろう」といったフレーズをよく耳にすると思います。しかし、これらは一見正しいように見えて、実は「PL脳」に陥ってしまっている予兆。気をつけないと経営が危ういのです。

堀内 「PL脳」について、改めて詳しくご説明いただけますか?

朝倉 「PL脳」で無視や軽視してしまうもののひとつが、“キャッシュ”です。PLに現れる利益にはどうしても解釈の余地が出るため、粉飾とまではいわないまでも、ある種能動的に作ることができます。「利益は意見、キャッシュは事実」といわれるように、PL上の利益は帳簿上の数字に過ぎず、数値ばかり見ていたら危ない。PLでは大丈夫でも、キャッシュが尽きてしまえば会社は潰れてしまいますから。

また、“資本コスト”を無視するがゆえに生まれるのが、「うちは無借金だから健全経営です」という発想です。

製品製造のための原料調達に費用が発生するように、資本を調達した際も、それが仮に借金でなくともリターンへの期待を寄せられるものであれば、コストは発生します。「利回り3%の債券を買うために利子8%でお金を借りますか?」と聞かれれば、買うほど損をする逆ザヤですからやらないのが普通ですが、不思議なことに会社経営の世界ではよく起こっているのです。なぜかといえば、ここでいう利子8%の資本コストがPL上に明示されないから。黒字経営に見えても、資本コストを上回るリターンを得ていなければ、実質赤字なのです。

このほかPL脳に陥ると、事業ごとに異なる回収に必要な“時間軸”や、状況によって異なる“赤字の性質”、目先のコスト削減のために毀損してしまう“事業価値”などがあげられます。

4つのテーマで理解する“ファイナンス思考”

堀内 その「PL脳」に対比する存在として「ファイナンス思考」の重要性を説かれているのだと思うのですが、そちらのご説明もいただけますか?

朝倉 はい。まず、ファイナンスという言葉は抽象的に捉えられがちですが、私はこれを「会社の企業価値を最大化するために行う一連の活動」と定義しています。そして企業価値とは、会社が将来にわたって生み出すと期待されるキャッシュフローの総額を現在価値に割り戻したものです。これを最大化するための機能として、次の4つを示しました。

1つ目は、事業に必要なお金を外部から最適なバランスと条件で調達するという「外部からの資金調達」。株式発行などのエクイティファイナンスや銀行からの借入などデットファイナンスですね。

2つ目は、既存の事業・資産から最大限にお金を創出する「資金の創出」。いうなれば社内からの資金調達で、事業を通じてきちんとキャッシュを稼ぎ出さなければなりません。

3つ目は、お金を含む、築いた資産を事業構築のための新規投資や株主・債権者への還元に最適に分配する「資産の最適配分」。これにより会社の状況を知り、未来の成長に向けて正しく資産を分配できているのかを常に見極めます。

最後の4つ目は、その経緯の合理性と意思をステークホルダーに説明する「ステークホルダー・コミュニケーション」。株主や債権者はもちろん、取引先や従業員、さらに広く捉えると従業員の家族や地域社会も含めて自分たちの活動を説明することで、今後のさらなるファイナンスを拡大していくことができるのです。

堀内 そもそも「ファイナンス思考」や「PL脳」といったキーワードが、なぜここまで受け入れられたと思われますか?

朝倉 「ファイナンス思考」そのものは、取り立てて目新しいことを述べたものではありません。しかし、今はあまりに多くのビジネスパーソンがPLに偏重し、損益計算書に現れる目先の数値ばかりを追ってしまっています。その一方で、この問題意識を心の奥底で感じている人も少なくなく、そこに「ファイナンス思考」「PL脳」といった私の言葉が当てはまったことで意識が顕在化したのだと思います。

ファイナンスは資本主義のルールブック

堀内 僕も、やはりそこに問題があったからこそ「PL脳」という言葉がハマったのだと感じています。朝倉さんからご覧になって、今の日本企業におけるファイナンスに対する意識や姿勢について、どのように思われますか?

朝倉 目先のPLをよく見せることだけに意識を向けていると、未来に向かって価値のある事業を作ることはできません。これに尽きるのかな、と思いますね。

新規事業を作ろうと思ったら、当然先行投資も必要なわけです。しかし、そうすると目先のPLが傷んで見えてしまうから、先行投資、ひいては新規事業に二の足を踏んでしまう人たちが多い。今の日本企業は、そういったある種の罠に嵌っている会社が多いのではないでしょうか。

企業価値は会社の時価総額ではありませんし、目に見えにくいものですが、そこを意識して価値を高めようとしない限り、会社はどんどん縮小傾向に陥ってしまうのではないかと思います。

堀内 そうしたことを避けるためにも、企業価値を最大化しようというファイナンス思考が欠かせないわけですね。朝倉さんは、なぜこの説を提唱されようと思われたのですか?

朝倉 これまでいくつかの企業を経営しながら、ファイナンスの本質的な重要性を感じてきました。ビジネススクールでもマーケティングや組織論などを学びますが、それらよりも段違いで大事なものだと思います。なぜかといえば、ファイナンスは私たちが生きている資本主義のルールブックそのものだからです。

正直ファイナンスを知ったからといって、営業できるようになるわけではありません。しかし、自分が参加しているゲームのルールを知らなかったら、心地が悪くはないでしょうか? フットサルの試合に出場したならば勝利を目指しますけども、その試合がリーグ戦とトーナメント戦のどちらなのか、試合は何分なのか、そういったルールや背景も知りたくはなりませんか? 

ファイナンスはこの資本主義社会のルールそのものです。好む好まざるにかかわらず、会社の活動に参加する誰もが抑えておくべきでしょう。資本主義の仕組みを理解できれば、世界が広がるはずです。

登壇者

朝倉 祐介 氏

シニフィアン株式会社 共同代表

競馬騎手養成学校、競走馬の育成業務を経て東京大学法学部を卒業後、マッキンゼー・アンド・カンパニー入社を経て、大学在学中に設立したネイキッドテクノロジー代表に就任。ミクシィ社への売却に伴い同社に入社後、代表取締役社長兼CEOに就任。業績の回復を機に退任後、スタンフォード大学客員研究員等を経て、シニフィアンを創業。IPO後の継続成長を目指すスタートアップに対するリスクマネー・経営知見の提供に従事。

堀内 勉

一般社団法人100年企業戦略研究所 所長

東京大学法学部卒業、ハーバード大学法律大学院修士課程修了、Institute for Strategic Leadership(ISL)修了、東京大学 Executive Management Program(EMP)修了。日本興業銀行、ゴールドマンサックス証券、森ビル・インべストメントマネジメント社長を経て、2015年まで森ビル取締役専務執行役員CFO。

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