コロナ禍で日本の商習慣が変わる「電子契約」の基本と導入メリット
〜中小企業経営者のための注目の経営トピックス[第7回]

新型コロナ感染拡大で緊急事態宣言が出されるなか、出社する会社員が「判子をもらわないと……」とインタビューに答える様が話題になりました。このような古い商習慣から脱却しようと、判子文化に代わって急激に普及し始めているのが「電子契約」です。

メディアでも注目されている企業経営に関するトピックスを解説する本連載。今回は、コロナ禍で注目を集めている「電子契約」について、その基本や導入メリットなどを考えていきます。

そもそも「電子契約」とは何なのか?

電子契約とは、書面を介さずに契約を交わす方法です。具体的にはインターネットなどを通じて締結し、契約書にあたる電子データを作成します。

しかし「契約書はきちんと製本して双方が捺印したものを保管する」という方法を守り続けてきた企業にとって電子契約は不安を感じるものです。しかし「電子署名」と「タイムスタンプ」を知れば、その不安も薄れるのではないでしょうか。

自筆署名や印鑑に代わる電子署名

公的な契約書を作成する際、印鑑登録を済ませた代表者印を押印します。こうした手順を経た契約書であれば、のちに問題が生じた場合でも「法的根拠になる」という安心感があるでしょう。

しかし電子契約にも、自筆署名や実印同様の効力を発揮する「電子署名」があります。電子署名とは、コンピュータの暗号技術を活用した「公開鍵暗号システム」を指します。その暗号は本人だけが知るパスワードによって管理できるため、契約書締結に携わった人物の特定が可能なのです。

なお電子署名は、第三者機関である「電子認証局」へ申請を行ったうえで取得します。その発行までには厳格な審査が用意されています。

改ざんを防ぐタイムスタンプ

書面として残す契約書では、記載した内容を変更することは困難です。一方、「電子契約データであれば、改ざんが容易なのではないか」と感じる人もいるでしょう。こうした不安を解消するために有効なのが「タイムスタンプ」機能。具体的には、電子契約データにアクセスした人物や、加えた変更の履歴を必ず残す機能です。

タイムスタンプは米国のAdobe社が開発したPDFが搭載する最新の署名方式で、厳格な法規制要件に準拠する「Adobe Approved Trust List(AATL)」が採用されています。

このように電子契約は、書面の契約書と同等の信頼性を担保しています。JIPDEC(一般財団法人日本情報経済社会推進協会)の2019年10月~2020年3月までの調査によると「電子契約サービスを採用している企業は、全体の 43.3%」という結果も出ています。多くの企業が、その価値を認めているのです。

政府も法整備で「電子契約」を推進

ここまで電子契約の信頼性について紹介してきましたが、法整備は進んでいるのでしょうか? 電子契約にまつわる主な法律を見ていきましょう。

電子帳簿保存法

1998年7月施行。税関係の帳簿を、電子データとして保存する手段を定めています。書面の会計記録は7年間の保存が義務付けられていましたが、新たに帳簿書類を電子データで保存することを認めたのです。

ただし「タイムスタンプなどで改ざんを防止する規則を設ける」「金額、日付、相手先などの条件で検索可能としておく」など、真実性や可視性など一定の保存要件を満たすことが求められています。

電子署名法

2001年4月施行。先述の「電子署名」が、署名や押印同様の法的効力があると定めた法律です。第3条には「電磁的に記録された情報について本人による電子署名が行われているときは、真正に成立したものと推定する」と明記されています。

IT書面一括法

2001年4月施行。顧客保護などの観点から、事業者に書面交付や書面手続を義務付けている法律について、顧客の承諾を条件に、電子メールなどの情報通信技術を利用しながら提供可能とすることを定めた法律です。

e-文書法

2005年4月施行。財務・税務関係の帳票類や取締役会議事録など、商法や税法で保管が義務づけられている文書について、電子化された文書ファイルでの保存を認めました。

上記のようにここ20年の間で、法律も電子契約普及を後押ししているのです。

「電子契約」を導入する、3つのメリット

次に電子契約導入のメリットを、具体的に見ていきましょう。

■経費削減

まずあげられるのが「電子契約には印紙が不要」というメリット。契約内容によっては数万円にまで跳ね上がる印紙代を、一律でカットできるのです。また書面の印刷代や郵送代なども削減でき、書面管理のために必要だったスペースも不要です。

ただし電子契約サービスの利用には、初期費用のほか、月々のランニングコストがかかります。費用対効果やセキュリティ対策など、さまざまな側面からサービス内容を吟味することが必要です。

■業務の効率化

契約締結を電子化すると、契約書面の郵送の業務やタイムラグを大幅にカットでき、業務効率上昇につながります。

■リスクマネジメントの強化

大量の書面をキャビネットなどで保管する場合、常に鍵をかけていたとしても、セキュリティ面に不安が残ります。書類を電子化しクラウド上に保管すれば、高いセキュリティのもと、改ざんや紛失のリスクを軽減できるでしょう。

またクラウド管理であれば、地震などの自然災害や、火災などの人的災害による消失のリスクを回避することも可能になります。

電子契約導入の注意点

電子契約には以下のような留意点があります。

■社内環境の整備

これまで契約書を書面で管理していた企業が電子契約を導入するにあたっては、社内の業務フローを大幅に変更する必要があります。

また一部の契約は、必ず書面の発行が必要となっているため、担当者は「契約形態が混在することで業務が複雑化する」という問題を抱えることになります。

■取引先の説得

社内環境の整備が進んでも、取引先が電子契約に消極的な場合、説得にあたらなくてはなりません。どちらか片方だけでは、電子契約自体が成立しないのです。

 

■電子契約が浸透しにくい業界

電子契約が浸透しにくい業界もあります。例えば不動産業界は商品の特性上、高額かつ複雑な契約が交わされます。特に個人との契約では、消費者保護の観点から重要事項についての説明や書面の交付が義務付けられているケースもあり、完全に電子化するには十分な検討が必要です。

ただし数年前より、国土交通省は建設産業・不動産産業を対象に「重要事項説明書等の電磁的方法による交付に係る社会実験」を開始しています。令和元年は全国113社の事業者が、同書面の電子化に取り組んだと公表されています。こうした試みは、今後も続いていくでしょう。

 

ここまで電子契約の概要を中心にみてきました。実際に電子契約を導入する際には、電子契約サービスを提供する会社を利用するのが一般的です。社員に電子契約が法的に有効であることをきちんと説明したうえで、ワークフローを見直す必要があります。また先述の通り、電子契約の信憑性を高めるには「電子署名」が必要不可欠です。その発行には一定の手続きが必要となるため、ふさわしい担当者を選出しておきましょう。

著者

株式会社ボルテックス 100年企業戦略研究所

1社でも多くの100年企業を創出するために。
ボルテックスのシンクタンク『100年企業戦略研究所』は、長寿企業の事業継続性に関する
調査・分析をはじめ、「東京」の強みやその将来性について独自の研究を続けています。

100年企業戦略研究所 ロゴ