財部誠一氏オンラインセミナーレポート~中小企業はアジア経済圏に目を向けて スタートアップに果敢に挑め

2021年6月8日、日本を代表する経済ジャーナリストで、菅義偉政権の政策ブレーンでもある財部誠一氏をお招きして、オンラインセミナーを開催しました。

「これからの日本経済を支えていくのは大企業ではなく、間違いなく中小企業」。財部誠一氏はこう断言します。とはいえ実際には、時代の変化を的確に捉えて成長できる企業と、できない企業が出てきます。その明暗を分けるものは何でしょうか。経済ジャーナリストならではの豊富な取材を基にした独自の分析から、中小企業の針路を示します。

メガシティが続々生まれるアジアの可能性

これからの企業経営者に求められる能力の一つは、間違いなく「視野の広さ」です。毎日テレビで報じているようなニュースを見ているだけでは、世界の動きを正しく捉えることはできません。情報に対する感度を高め、広い視点で思考を柔軟にしておく必要があります。

例えば今、中小企業として、世界経済の動向をどう捉えるべきでしょうか?

10年ほど前、アメリカの政治研究者の間で「イースタニゼーション(Easternization)」という概念が提唱されました。これからの時代、世界の中心は欧米諸国(西)からアジア諸国(東)に移っていくという考え方です。そして勝敗の行方はアジアの方が圧倒的に優勢です。「米中対立の激化」などと言いますが、経済ではアメリカは中国に勝てません。なぜかといえば、ASEAN諸国の存在があるからです。ASEAN諸国と中国との間には戦争の歴史がありましたが、その一方で民族的なつながりは古くて深い。インドネシアもマレーシアもタイも、経済の中核を担っている経営者はだいたい中華系です。

それは単にチャイナ・ASEAN経済圏(大中華経済圏)に目を向けなさいという意味ではありません。アジアでは、すでにビジネスの次元が劇的に変化していることを理解してほしいのです。

これまで私たちは世界経済を「国」という単位で捉えがちでした。これからは「都市」で捉える必要があります。都市間競争が激化する中、チャイナ・ASEANの諸都市は目覚ましい成長を遂げています。中国では、鄧小平時代の改革開放政策により上海、広州、深圳、北京など沿岸の都市を中心に発展してきました。しかし現在の中国は政策転換し、沿岸都市ではなく武漢、成都、西安など、内陸部にある都市の育成に注力し、それぞれに特徴的な産業政策実行しています。

人口1000万人以上の都市圏を「メガシティ」と呼びますが、日本では東京、大阪しかありません。今後も増えることはないでしょう。これに対し中国のメガシティは、2030年には30都市になるとみられます。ASEAN では現在ジャカルタとマニラだけですが、2030年には5つ程度のメガシティが誕生する見通しです。

また、人口100万人以上の都市という単位で見ると、日本は札幌や仙台、福岡など全部で12都市。これに対し中国は現時点で300都市を越え、ASEANにもじつに30都市があります。今後は、こうした活気に溢れたアジアの巨大都市が、世界の経済やビジネスを動かす原動力になっていくのです。

しかも重要なのは、これら巨大都市間で連携の動きが生まれていることです。中国政府は広大な国土に新幹線網と高速道路を張り巡らせ、ASEAN諸国の巨大都市を巻き込んだ広大な物流インフラをつくり上げました。だから、国境を越えた電子商取引(EC)である「越境EC」が、チャイナ・ASEAN全体で急激に伸びています。点として存在する巨大都市が結びついて、線となり面となって、さらに大きな越境ECマーケットを作り上げている。日本でも中国向けの越境ECに注力している企業はありますが、チャイナ・ASEAN企業の熱量はその比ではありません。

日本企業が問題なのは、アジアで生まれた新しいマーケットを、自分たちが活躍すべき舞台だと捉える視点がないことです。そこさえクリアできれば、あとは中小企業の強みであるスピード感のある意思決定と大胆な創意工夫を発揮して、大きな成長を遂げられるはずです。

既存事業以外の新事業創出にトライする

これから中小企業に飛躍していただくため、経営者のみなさんに覚えておいてほしいのが「両利きの経営」という考え方です。アメリカのイノベーション研究者が提唱したもので、経営において「深化」と「探索」をバランスよく両立させることが重要であるとしています。事業展開で言えば、会社を支える既存の主力事業を深掘りしていくことが「深化」であり、新たな事業の可能性を探り、果敢に挑戦していくことが「探索」に当たります。

既存事業を深めていく「深化」は大切ですが、それだけでは従来とは異なる成長分野にはたどり着けません。また単純に新事業を始めても組織風土が昔のままでは新規事業の成功など期待できるわけがありません。

そこで私は、経営者のみなさんに「スタートアップを立ち上げるような気持ちで『探索』に取り組んでほしい」と常々語っています。会社そのものを大きく変える柱となるような新規事業を、スタートアップをつくるような挑戦心を持って本気でトライしてほしい。これは組織が肥大化してしまった大企業では絶対に真似できないことだからです。

外部のパートナー企業と協業することも大切ですが、そのために「異業種交流会」などに安易に参加するのだけは避けていただきたいと思います。「お遊び」の交流ではなくではなく、面白そうな異業種企業を見つけたら、経営者のみなさんが自らアプローチして、「当社の技術と、貴社のサービスを結びつけて、こんな新しい仕事を一緒にやりませんか?」と、本気モードで直接語りかける。これが協業を成功させる成功の一番の近道だと思います。

日本にスタートアップ経済庁の創設を

最後に日本の政策についてお話しします。現在の危機から脱して、日本経済を立て直すためには、政府の政策的な支援も必要だと思います。もし仮に私が何か一つ、政策を打ち出すとしたらどうするか?私が最良の方法だと考えているのは「スタートアップ経済庁の創設」です。スタートアップがどんどん生まれてくるような社会に日本を変えていくことが不可欠だと考えるからです。

起業には当然、原資が必要ですが、そこに税金を投じるとなると批判が起きやすい。特にスタートアップは10社のうちの8〜9社が失敗するという世界です。失敗を許容できない日本の文化土壌が大きな壁になっているのです。

そこで考えられるのが、日本銀行が政策的に保有している株式を活用する方法です。いまや日銀は日本一の大株主です。そこで、例えば約10兆円の株式を日銀から借りて、これを担保に「証券担保ローン」というかたちで、民間銀行から資金を借り入れ、それを原資にファンド・オブ・ファンズ(複数の投資信託を投資対象とする投資信託)を起ち上げる。そして、国内有数の目利きのベンチャーキャピタリストを招聘し、優れた技術やアイデアを持ったスタートアップにどんどんお金を投入していけばよいと私は考えます。

日本は変わらないと言われますが、それでも5年前・10年前とはスタートアップを取り巻く環境も、政府の政策担当者の捉え方も大きく様変わりしています。昔ながらの救済型の中小企業支援策ではなく、このような意欲的で前向きな政策が実際に打ち出され、日本経済に活力を与えていくことを期待しています。

登壇者

経済ジャーナリスト財部 誠一

慶應義塾大学法学部卒業後、野村證券に入社。同社退社後、出版社勤務を経て現職。経済政策シンクタンク「ハーベイロードジャパン」主宰。国内外の企業取材に定評があり、大企業だけでなく、中小企業も積極的に取材している。著書に『京都企業の実力』(実業之日本社)、『ローソンの告白』(PHP研究所)など多数。取材レポート「ハーベイロード・ウィークリー」では、取材したばかりのレポートを提供し、多くの経営者やビジネスマンに好評を得ている。

 

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