儲かる会社をつくる「統計学」の基礎知識

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あらゆる社会活動がデータ化されつつあるなか、ビジネスや行政、教育など、さまざまな領域で統計学が注目されています。シリーズ累計50万部に達する『統計学が最強の学問である』(ダイヤモンド社)の著者である西内啓氏に、経営者が知るべきポイントをうかがいました。

生産性を5パーセント向上させるデータドリブンな経営

端的に言えば、統計学は数値を分析することによって、その背景にある母集団の特徴を解釈しようとする学問です。データを分析し、それを活用するためのツールと考えてよいでしょう。

特徴的なのは、単にデータを分析するだけでなく、それをどう解釈するかという領域まで研究の対象としていることです。母集団の特徴をくっきりと浮かび上がらせる方法を考えるなかで、自ずとデータの活用を視野に入れているのです。

このことは、統計学が経営者にとってたいへん有用な知見であることを示しています。データの活用は、多くの場合、科学的な根拠にもとづく意思決定のために行われるからです。会社を成長へと導く的確な経営判断を実現する上で、統計学は不可欠な素養といえるでしょう。

実際、近年行われた実証実験によると、データ分析にもとづく“データドリブン”な意思決定ができている会社と、経験や勘に頼った意思決定を行う会社とを比較した場合、前者の生産性は後者を5パーセント程度、上回っているという研究結果が発表されています。この数値をどう捉えるかは経営者次第ですが、データドリブンな経営が業績の向上につながることは間違いなさそうです。経営資源が限られた中小企業こそ、積極的なデータ活用を成長のエンジンとするべきなのかもしれません。

統計学でごみの削減に成功した自治体

では、具体的にどうすれば統計学の知見を経営に役立てることができるのでしょうか。

さまざまな業界で実施されているのは、顧客データの活用です。性別や年齢、居住地といった顧客の属性を分析し、ニーズや課題を把握して、売り上げの拡大につなげている会社は少なくありません。また、仕入れや在庫、物流に関するデータを分析することで、コストダウンを実現している会社も見られます。そうした意味では、業種や規模に関わらず、すでに多くの会社が統計学の知見を実際のビジネスに取り入れて、一定の成果を得ていると考えてよいでしょう。

さらに、EBPM(Evidence-Based Policy Making:証拠にもとづく政策立案)という言葉が世の中に浸透しつつあることからもわかるように、省庁や地方自治体におけるデータ活用の取り組みも、さまざまな成果に結びついています。その好例として、神奈川県・葉山町の「葉山町きれいな資源ステーション協働プロジェクト」が挙げられます。

同町では、町内の集積所に取り残されたごみが美観を損なうこともあり、その削減を課題と認識していました。当初は意図的な不法投棄が疑われたのですが、町民に対するモニタリング調査を行うと、意外にも、単純な分別ミスや収集日時の誤認が主な原因ではないかと推測されました。そこで、ランダムに選んだ一部のエリアで、分別を周知するためのチラシのポスティングを行ったり、収集が終了したことを知らせる看板を設置したところ、そうした対策を行わなかったエリアと比較して、偶然や誤差とはいえないレベルの削減効果が認められたのです。同町では、この実験結果をエビデンスとして町内全域に対策を拡大し、集積所に取り残されるごみを大幅に削減することに成功したそうです。

このケースは、ビジネスの現場においても応用できる成功例といえます。

情報の周知などで業務を改善する事例自体は、製造業が工場内のトラブル防止のために表示や案内を工夫したり、機械や器具の配置を変えるなど、よく見られることです。また、店頭にPOPを設置したり、ポスターを掲示して販売促進に取り組んでいる小売業もあります。しかしながら、そうした施策にどの程度の効果が認められたのか、データを収集して、きちんと検証できている会社がどれだけあるでしょうか。おそらく、担当者の手応えや印象にもとづいて効果を判断している会社がほとんどでしょう。そうした感覚的な判断のなかに耳を傾けるべき卓見が含まれているケースも考えられますが、適切なデータを収集し、効果を正しく検証すれば、業務効率はよりいっそう改善されるはずです。

データ分析とは「わからなかったこと」を明らかにすること

もっとも、統計学の基本的な考え方を学び、そのエッセンスを取り入れるだけでも、意思決定の精度は高まります。

その際、第1のステップとなるのはテーマを定量的に捉えることです。経験や勘にもとづいて意思決定が行われる風土のなかでは、テーマを定性的に捉えてしまいがちです。売り上げの拡大が見込めるらしいとか、固定費の削減につながるようだ、といった感覚的な議論が先行し、売り上げが何パーセント拡大するのか、固定費が何万円削減できるのか、といった定量的な議論が置き去りにされる傾向があるのです。そうした風潮を改め、物事を数値化して考えることが、データドリブンな経営への第一歩です。

次いで、第2のステップとなるのは理想と現状を比較して、その違いが誤差なのか、それとも何らかの意味をともなった差異なのかを検証することです。偶然に生じた誤差による業績低下なのであれば、担当者を叱責したところでモチベーションを下げるだけです。逆に、トラブルの発生による業績低下をただの偶然や誤差と見誤ってしまうと、いつまでたっても状況を改善することはできません。エクセルなどを利用して、まずは着手しやすい身近なテーマから原因を検証してみるとよいでしょう。

一般的に「統計学」という言葉には堅苦しい印象があり、中小企業にとっては縁遠い知見と認識されることもあるようです。しかし、データ分析とは「今までわからなかったことが明らかになる」ということです。何をすれば売り上げが拡大するのか、無駄がどこに潜んでいるのか、そういった手掛かりを明らかにするのが、データ分析の本質であり、価値なのです。

そして、データ分析の成果を生かすために、何かしらアクションにつなげていくことも非常に大切です。それまで見えなかった課題が浮かび上がってきたら、対策を立てて、とにかく試してみてください。

すなわち、ここで経営者が取るべき選択肢は二つしかありません。従来はやっていなかったことに挑戦するのか、従来とはやり方を変えるか、結局はそのいずれかです。データを生かすということはそういったシンプルなことの積み重ねなのです。もし、行動が期待通りの成果に結びつかなければ、アプローチの方法を変えて、再び試してみる。そうした柔軟な試行錯誤が、結果として、会社を100年企業へと導くのではないでしょうか。

お話を聞いた方

西内 啓 氏(にしうち ひろむ)

統計家・株式会社データビークル 代表取締役

1981年兵庫県生まれ。東京大学医学部卒業。同大学助教、米ハーバード大学客員研究員などを経て、2014年に株式会社データビークルを創業。企業や自治体のデータ分析や人材育成などを支援する。統計家として講演・セミナーを行うほか、Jリーグアドバイザーも務める。統計学ブームを起こした『統計学が最強の学問である』(ダイヤモンド社)シリーズなど、著書多数。

[編集] 一般社団法人100年企業戦略研究所
[企画・制作協力]東洋経済新報社ブランドスタジオ

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