ミッションを共有し、信頼関係の下に判断・行動できる組織へ

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目次

経営者としてスターバックスコーヒージャパンをはじめ、数々の企業の再生や高成長を実現し、現在は株式会社リーダーシップコンサルティングの代表として、リーダー育成の研修や講演を行う岩田松雄氏。岩田氏の経験を基に、ミッションの共有がよい循環を生む理由と実例を解説いただきました。

お話を聞いた方

岩田 松雄 氏

株式会社リーダーシップコンサルティング代表
元スターバックスコーヒージャパン株式会社CEO

1958年生まれ。大阪大学経済学部卒業後、1982年 日産自動車入社。「THE BODY SHOP(ザボディショップ)」の国内事業を当時運営していたイオンフォレスト社長などを経て2009年スターバックスコーヒージャパンCEOに就任。2011年、リーダーシップコンサルティングを設立。

ミッションへの気づき

一般的に100人の経営者に「事業の目的は何ですか」と聞くと、99人は「利益」だと答えます。私は違うと思います。あくまでも企業はそれぞれの存在理由、つまり、ミッションの実現のために存在するわけです。言い換えると、企業は事業を通じて、世の中をよくするために存在しています。そのための手段として利益が必要なのです。幾ら世の中にいいことをやっていこうと思っていても、利益が上がらなければ継続もできないし、人も雇えない。研究開発もできない。あくまでも利益はミッション実現のための「手段」なのです。

「ミッション」は、企業の使命や存在意義、何を達成したいかを意味します。「ビジョン」は、目指すべき方向性、将来あるべき姿を指します。「バリュー(行動指針)」は、企業の価値観、つまりミッション、ビジョンをどうやって、何を大切にしながら達成していくかという行動の判断基準です。しかし、余り定義にこだわる必要はありません。「これ、ミッションだっけ? ビジョンだっけ?」みたいな議論をすると、訳がわからなくなるからです。非常に抽象的な議論になってしまいます。自分たちできちんと定義することが大切です。

そしてミッションを実現するための手段として戦略、戦術があります。それは環境の変化に応じてどんどん変えていくべきだと思います。でも、存在理由つまりミッションはそんな簡単に変わっちゃいけないはずです。また組織にはいろいろな価値観を持った人が入ってきます。だからこそ、彼らが同じ方向をむくための共通のゴール、旗印、北極星が必要なわけです。

またミッションを高く掲げれば、そのミッションに共鳴した人が入ってきやすくなります。私はTHE BODY SHOPからスターバックスに移るときに、『スターバックス成功物語』という本を読みました。とっても人を大切にする非常にすばらしいミッションなので、ぜひ入りたいと思い、そこから半年間面接を繰り返しました。またミッションは通常崇高なものです。結果的に社員のモラルがあがります。

ご存じのように、小売は人がどんどん人が辞めていきます。離職率が3割とか4割とか言われています。4~5年たてばほとんど人が入れかわってしまう。でもスターバックスでは、よほどのことがない限りやめません。やめないからアルバイトにまで70時間トレーニングができるのです。そのトレーニングの中でミッション教育、理念教育をしっかりやりますから、心からスターバックスのミッションを理解する。だから、やめない。やめないからまた教育投資ができる。教育投資をするからまたやめない。いい循環がグルグル回り出すわけです。

事例紹介:スターバックス

スターバックスは本当にすばらしい会社です。外で見ている以上に、中で働いたら本当にすばらしい。特にお店はすばらしい。私も店舗研修を日本とフィリピンで2週間やりました。スターバックスのお店で働いていると人間として良い面だけを出せば良いという独特の雰囲気があります。お店での立ち仕事は本当に疲れます。私もこんなオヤジですから、サボりたいとか、楽(らく)をしたいという気持ちを当然持っています。でもスターバックスのお店で働いていると、そういう気持ちが全然起きません。同じ仲間のために、お客様のために何ができるかを考えます。「スターバックスは、悪人が入っても、善人になって出ていく」。そういうことを真顔で言えるような本当にすばらしいカルチャーをお店は持っています。

スターバックスではお店のアルバイトからCEOまで、すべての従業員同士が「パートナー」と呼び合います。ある時、社長だった私宛に、パートナーを褒めて頂くお手紙をもらいました。それは心臓病の手術のためにアメリカに行かれる娘さんに、早朝に駅までシナモンロールを届けてくれたお店のパートナーへの感謝のお手紙でした。私は非常に感動したので、朝礼でもみんなに話しましたし、全店舗にその内容をメールで送って、「こんなすばらしい仲間もいますよ」と紹介しました。

スターバックスはもう千数百店舗を超えました。スターバックスみたいにチェーンオペレーションをやっている企業にとって、普通に考えればそのパートナーがやったことはルール違反です。就業時間外に商品を持ち出して、おカネのやりとりまでする。私は、場合によっては、スターバックスの社長としてパートナーを罰しないといけないかもしれません。しかし、私は「これがスターバックスだ!」と言ってみんなに紹介したわけです。

なぜこんなすばらしい接客ができたか、そのポイントがミッションです。

「To inspire and nurture the human spirit
―One person, one cup, one neighborhood at a time
(人々の心を豊かで活力あるものにするために―ひとりのお客様、一杯のコーヒー、そしてひとつのコミュニティから)」。

これがスターバックスのミッションです。

私はスターバックスが他のコーヒーショップと違う最大の差別化要因は、お店のパートナーの人たちだと思います。通常お店でやっていることは他のコーヒーショップと同じです。オーダーを受けて商品を出す。差が出るのはマニュアルにないようなことが起きたときです。こう言った異常時に差が出るのだろうと思います。

スターバックスのお店では「私たちの存在理由」という言葉をよく聞きました。存在理由というのはミッションです。それから「何を」じゃなくて「なぜ」を一人一人が理解しています。「何を」だったらマニュアルどおりにしかできない。なぜそれをするかちゃんと理解しておけば、状況が変化しても対応ができるわけです。

お客様を心からおもてなししなさい。でも、そのおもてなしの方法、何をするかは、お客様に一番近いお店の人たちが一番よくわかっているわけです。従って、なぜするか、つまりミッションについてはみんなで共有しましょう。でも、何をするかは一人一人がミッションに従って、自分で考えて行動してくださいということです。

また、普段からの言葉遣いがとても大切です。前述のとおり、スターバックスでは昨日入ったアルバイトも、CEOも、お互いにパートナーと呼び合っています。そこに上下隔てはなく、同じ仲間だという意味です。

更に普段の言葉遣いから、会社のカルチャーや理念の浸透度がわかります。「現場」という言葉を私も今日はたくさん使っていますけれども、自分が社長の時は一切使いませんでした。あくまでも「お店の皆さん」という言い方をしました。どこの社長に聞いても、みんな「お店が一番」「現場が一番」と言うんです。でも、「現場」と言った瞬間に上から目線です。普段の言葉遣いが非常に大切な事だと思います。

日本では近年、「数字を上げればいい」「結果さえ残せば何をやってもいい」といった風潮を見直されつつあります。そのためにはミッションを体現できるような人が上に立つことが、何よりも重要なのではないでしょうか。

「本質において一致、行動において自由、すべてにおいて信頼」

これは、旧カトリック教会のスローガンです。私は、企業をはじめとしたあらゆる組織は、こんな状態を目指すべきだと考えています。つまりミッションを共有し、お互いの信頼関係の下、責任を持ちつつも自由に判断・行動できる組織を目指すことが重要なのです。

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