15-2. 中国不動産バブルとサブプライム問題のメカニズム

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中国の不動産バブル崩壊によって何か起こるのか?

日本の不動産バブルが崩壊して30年以上が過ぎようとしていますが、最近の話題として中国でも不動産バブルが崩壊したという報道をしばしば目にするようになりました。2024年1月の日本経済新聞では、「チャートは語る」という企画記事で「中国『余る住宅』1.5億人分」という記事が大きな紙面を割いて掲載されました。

中国の不動産バブルにおいても、不動産価格が大幅な上昇を遂げました。最も不動産価格が上昇したといわれる中国・広東省の深圳は香港の近くにありますが、平均所得の年収倍率で40倍くらいまで住宅価格が高騰しました。それだけ大きな住宅需要があったのですが、現在では中国の総人口約14億人に対して、1.5億人分くらいの住宅が余ってしまっているといわれています。それによって、中国経済のみならず、世界経済にも影響が及ぶのではないかと日経新聞は報じていました。

中国の不動産デベロッパー大手、中国恒大集団に対して香港の高等法院(高裁)が法的整理の手続き開始を決めたという報道も2024年1月にありました。単に中国では、不動産が余っているという以上に、巨大な不動産企業が法的整理に入ることになれば、それを通じて金融市場が不安定化することも考えられます。

金融市場の不安定化と聞くと、すぐに想像するのは2008年に発生したリーマンショックでしょう。日本でも、1991年の不動産バブル崩壊後の政策対応が遅れたことで、1997年に山一證券、北海道拓殖銀行が相次ぎ破綻して金融危機が起こり、それによって長期的な経済停滞に陥ってしまったといわれています。そうした歴史的な経験を踏まえて、日経新聞では社説で「恒大問題の先送りはもう許されない」と指摘しています。

2021年から「人口オーナス期」に入った中国

私たちは、中国の不動産バブルの崩壊をどのように捉えるとよいでしょうか。日本のバブル崩壊と中国のバブル崩壊の共通点はあるのでしょうか。逆に、異なる点はどこにあるのでしょうか。そこを正しく理解しないと、今後の未来を予測することはできないでしょう。

この問題を考えるうえで、不動産バブルと金融危機との関係を整理しておく必要があります。直近では2008年のリーマショックからグレート・ファイナンシャル・クライシス(世界同時金融危機)へと発展した問題を経験したのですから、それを含めて、バブルと金融との関係について考えてみましょう。

日本のGDP(国内総生産)は、世界第4位まで落ちました。1991年の不動産バブルの崩壊と、長期的な経済停滞や労働生産性の相対的低下とは、何らかの関係性があったのか。関係があったのであれば、この先中国はどうなっていくのでしょうか。

日本では「ロストディケーズ(失われた数10年)」という経済停滞と合わせて、都市の縮退が起こり、空き家が増え、所有者不明土地の拡大が起こりました。大都市と地方都市との不均衡がどんどん拡大した時期でもあったのです。この問題は、私たちにとって非常に身近な問題ですから、空き家問題、所有者不明土地問題がこれからどうなっていくのかも、日本をヒントに中国の未来を考えることができるだろうと思います。

中国では、1979年から将来の食糧難に備えて「一人っ子政策」を進めてきました。その結果、総人口は2021年をピークに減少に転じました。出生数も2016年から7年連続で減少しており、2023年の出生数は902万人で、ピークだった16年に比べてほぼ半減しています。生産年齢人口は、2010年頃から減少し始めており、日本と同様に「人口オーナス(重荷)期」に入ってきました。

日本も、1980~90年代と今を比べれば、国際競争力を持った経済社会を構築していく必要性が高まっており、グローバルな視点で日本経済、さらには不動産市場や都市を考えなければならない時代になっています。この問題をさまざまな角度から検証することで、日本経済の未来、さらには中国の不動産バブル崩壊の行方についてのヒントも得られるでしょう。

「不動産バブルの崩壊と金融危機」を考えていくうえで、リーマンショックの問題は改めて思い起こす必要があります。2008年9月15日に米国のリーマン・ブラザーズ証券の破綻をきっかけに起こった金融危機ですが、その半年前の2008年3月23日の英国経済紙『フィナンシャル・タイムズ』に、『Mortgage rescue talks under seven days of shocks unnerve investors(7日間にわたる住宅ローン救済交渉の衝撃が投資家を動揺させる)』という記事が掲載されていました。

当時、米国のモーゲージローン(住宅ローン)市場では、当時はサブプライムローン(信用力の低い債務者向けの貸し付け)を証券化して投資家に大量に売却したサブプライム問題が注目されるようになっていました。記事では、米国の中央銀行であるFRB(連邦準備制度理事会)の議長だったベン・バーナンキ氏以下、米国の金融システムに関わる主要な人たちの顔写真が並んでいました。

リーマンショックが起こる半年前から金融市場では、トリガー(引き金)となる出来事が起こり始めていました。今、中国恒大集団の破綻が1つのトリガーとして報道されていますが、まだ大きな問題にはなっていません。これがどのタイミングで中国経済、さらには世界経済に影響を与えるのか、与えないのか。今の段階からしっかりと考えておく必要があるでしょう。

サブプライム問題が金融危機へと拡大したメカニズム

サブプライム問題の流れを振り返ると、フィナンシャル・タイムズの記事から遡って2007年4月2日にサブプライムローン大手の米ニューセンチュリー銀行が経営破綻しました。それが欧州に飛び火し、2007年7月に仏銀最大手BNPパリバがサブプライム証券化商品に投資した傘下のファンドの資産を凍結する「パリバショック」が発生し、世界へと金融不安が広がりました。

米国でニューセンチュリー銀行が破綻した時に何が起こったかというと、米国大手格付け機関であるムーディーズが、サブプライムRMBS(住宅ローン債権担保証券)という金融商品の格下げを行いました。そして2007年7月には、ムーディーズがRMBSの399本、大手格付け機関であるS&Pでも612本を格下げしました。金融機関の破綻によって金融商品の格下げが起こったのです。

その直後に、何が起こったのか。「パリバショック」が発生した欧州では、欧州中央銀行(ECB)が、約950億円の資金供給を実施しなければなりませんでした。さらに米国でもFRBが約240億ドル、そして日本銀行も1兆円の資金供給を行いました。

欧米、日本の中央銀行が、なぜ資金供給を行ったのか。MMF(マネー・マーケット・ファンド)という金融商品があります。国債などの公社債や譲渡性預金(CD)、コマーシャル・ペーパーなどの短期金融資産で運用する公社債投資信託のことですが、格付けがトリプルAの債券にしか投資できないといった制約がかかっているので、債券の格下げが起こると、MMFの投資対象の中に格下げされたものが多く含まれていると売却しなければならなくなります。それによって金融市場に混乱が生じないように中央銀行は資金供給を余儀なくされたことが、リーマンショックが起こる1年前に発生していました。

中国恒大集団は、金融機関ではなくデベロッパーですが、もし恒大が破綻したら何が起こるのか。私自身はまだ答えが出ていませんが、この視点をしっかりと持つ必要があります。

日本でも、リーマンショックが発生する直前から、不動産関連企業の黒字倒産が急増し始めました。2008年6月にスルガコーポレーション、8月にアーバンコーポレーションが破綻しています。両社とも、過去最高益を出したにもかかわらず破綻したのです。そして10月にはニューシティ・レジデンス投資法人というREIT(上場不動産投資信託)までが破綻する事態が起こりました。

不動産会社だけでなく、REITが破綻したということは、不動産市場と合わせて、不動産金融市場にも強い影響が出ていたということです。過去最高益を出しながら不動産会社が倒産したのは、実体経済よりも、金融システムの不安定化が起こったことで、リファイナンス(借金の借り替え)ができなかったために黒字倒産に追い込まれたのです。

今、中国恒大集団というデベロッパーが破綻し、公的整理に入ることを中国政府が決めた場合に、どのようなチャンネルを通じて、実体経済にどのような影響が出てくるのかを正しく理解することが必要だと思っています。

スピーカー

清水 千弘

一橋大学教授・麗澤大学国際総合研究機構副機構長

1967年岐阜県大垣市生まれ。東京工業大学大学院理工学研究科博士後期課程中退、東京大学大学院新領域創成科学研究科博士(環境学)。麗澤大学教授、日本大学教授、東京大学特任教授を経て現職。また、財団法人日本不動産研究所研究員、株式会社リクルート住宅総合研究所主任研究員、キャノングローバル戦略研究所主席研究員、金融庁金融研究センター特別研究官などの研究機関にも従事。専門は指数理論、ビッグデータ解析、不動産経済学。主な著書に『不動産市場分析』(単著)、『市場分析のための統計学入門』(単著)、『不動産市場の計量経済分析』(共著)、『不動産テック』(編著)、『Property Price Index』(共著)など。 マサチューセッツ工科大学不動産研究センター研究員、総務省統計委員会臨時委員を務める。米国不動産カウンセラー協会メンバー。

【コラム制作協力】有限会社エフプランニング 取締役 千葉利宏

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