経営者にいまおすすめの本6冊 「失敗学」編
目次
独創的な事業によって世界的な成功を収める企業が出現する中で、日本企業はいまだ既定路線から抜け出せないといわれています。そうした現状を打破するヒントになるのが失敗学です。ここでは注目の6冊をご紹介しましょう。失敗を恐れずに物事と向き合い、どのように成功へと転換できるのか。そのノウハウが、この6冊に凝縮されています。
『新 失敗学 正解をつくる技術』
畑村洋太郎著 講談社 1,870円(税込)
失敗学の第一人者が語る「失敗から得られる本質的な学び」
本書は、東京大学名誉教授の畑村洋太郎氏によって執筆されました。畑村氏は2000年にも書籍『失敗学のすすめ』を執筆しており、「失敗学」というキーワードを世に広めています。
明確な正解があった過去の日本においては、決められた正解を素早く出せる優等生タイプが活躍しました。しかし、それは1990年前後までのこと。その後の時代では、別の優秀さが求められている、と畑村氏は指摘しています。
失敗に学ぶ意味は大きく2つあり、その1つは同じような原因やシナリオで起こる失敗を繰り返さないためです。そして、もう1つは「自ら考えて答えを出す」力を養うことだと畑村氏は語ります。現代のように、唯一解がなく、正解がいくつもある時代には、自分で考え、実行し、その結果を検証するというサイクルの継続が必要であると説明しています。
東大工学部の教壇に立つ畑村氏が、真に優秀だと感じた学生に、「受験ではどんな勉強をしていたのか」と尋ねたことがありました。すると「数学などの問題を解く際、まずは解法パターンを暗記せず、一から自分で考えて解いてみる、それには時間がかかるけれど、以後、どんな問題にも対応できるようになった」と、その学生は答えます。この学生との逸話から「ものごとの本質」を突き止める思考の重要性が感じられます。
また畑村氏は、失敗からの学びとして、福島原発の事故調査委員会に参加した際の事例を引用。津波が脅威となる福島の場合は、非常用発電機は地下ではなく、高い場所に設置すべきだった。そうならなかったのは、システムを構築したアメリカの脅威が津波ではなく、竜巻だったからだと分析しています。アメリカ流のシステムが本質的に検証されることなく導入されてしまったため、原子炉の安全性が脅かされる結果となったわけです。
自分で考えるとは「仮説を立てる」ことであり、同書には仮説を立てる方法、その基礎を作る方法、失敗という結果を捉えて検証するための観点などが、畑村氏の豊富な経験を基に紹介されています。
『「失敗の本質」を語る なぜ戦史に学ぶのか』
野中郁次郎著、前田裕之聞き手 日本経済新聞出版 990円(税込)
東大名誉教授・野中郁次郎氏が、失敗学の名著を振り返る
1984年に刊行された書籍『失敗の本質』は、第2次大戦における日本の敗戦を題材にしたもので、いまもベストセラーとして読み継がれています。本書では、その著者の一人である一橋大学名誉教授の野中郁次郎氏が、改めて現代からみた『失敗の本質』の意義を振り返り、新たな内容にまとめています。敗戦国日本と戦勝国アメリカの本質的な違いを解説しつつ、現代日本の企業経営にそれぞれの戦略を照らし合わせています。
かつて野中氏はカリフォルニア大学経営大学院で輸入学を学んでいたときに、解釈するだけでなく、自ら理論を構築する重要性を学んだと語ります。1972年に帰国して企業経営におけるケーススタディの研究に邁進しますが、当時は失敗事例を公表する企業がほとんどなかったため、方針を転換し、日本軍を研究対象とすることに力を入れました。その後は防衛大学校に移籍して研究を継続します。
その課題は多岐にわたるため、戦史研究科、経営学や組織論の専門家、社会科学者などと研究チームを立ち上げ、その結果として、処女作となる『失敗の本質』が発行されました。野中氏は、この独創性にあふれる理論を生み出す苦心を、今回の著書の第1章で振り返っています。
第2章では、ガダルカナル作戦の敗因を分析しながら失敗の本質が提示されます。「日本軍の構造的な欠陥は、現代日本のさまざまな組織の中にも見受けられる」と、野中氏は指摘。3年8カ月におよぶ第2次大戦における各戦闘を、大きく4つの局面に分類すると同時に、ノモンハン、ミッドウェイ、ガダルカナル、インパール、レイテ、沖縄の6つの戦闘を、戦史上の失敗例として定義。『失敗の本質』の原文を多分に引用しつつ、それらの戦局に新たな注釈を加えながら、現代の企業経営に通ずる問題点をあぶり出し、「勝つ組織」をつくりあげるための方法を提言していきます。
第3章では、米国の海兵隊の強さを分析しつつ、失敗事例から成功事例を見出すという、自身の転機となった研究が紹介され、次いで第4章は、研究チームとともに「勝利を導き出す戦略に共通性はあるのか」という新たな課題に挑む過程が記されています。こうした検証は、国家レベルの指導力に関して言及された第5章「総決算」において総括されます。
『失敗の科学』
マシュー・サイド著 ディスカヴァー・トゥエンティワン 2,090円
豊富な業界事例を基に失敗から学び、成功のヒントを探る
オックスフォード大学の哲学政治経済学部(PPE)を首席で卒業し、イギリスのタイムズ紙のコラムニストとして活躍するマシュー・サイド氏によるこの著書は、22カ国で刊行され、世界的なベストセラーとなっています。
基本的にはジャーナリスティックなレポートとして個々のエピソードが検証されますが、分析すべき「事故」や「失敗」は小説的な手法によって描かれているため、読者はその話題の発生状況、登場人物の心理状態、人間関係、組織の管理体制までを仔細に把握しつつ、そのドラマに共感を持って立ち会うことになります。
一つ目の事例は医療事故を隠蔽しがちな医療業界と、事故から多くを学んできた航空業界のストーリーから始まります。それぞれの事故は、ときに統計的な数値をもって説明され、また歴史的な変化に関しても言及されつつ、事故の発生原因やその過程、さらには両業界における事故対応の違いを鮮明にしていきます。それらの物語を読み終えたとき、読者は、失敗と向き合うことの重要性、失敗から学ぶことが科学的行為であること、失敗した当事者が報告できる環境が重要であることなどを、立体的・総合的に理解するはずです。
膨大な取材と検証から紡ぎ出される多くのストーリーには、数多くの人物が登場します。失敗を認められないエリート、経済予想を外してもそれをまったく認識していない経済学者、データにもとづく科学法則を共産党の力を借りて弾圧・排除するソビエトの生物学者、大統領が発していないコメントを自身の思い込みで創造し、かつ彼を非難した著名な天文学者などなど、その事例は多岐にわたります。
著者であるサイド氏は、そうしたストーリーの一つひとつに注釈を加えて検証し、失敗の構造を解き明かすことを試みる一方で、失敗から学ぶことに成功した巨大IT企業やF1チームのほか、著名なスポーツ選手に関する事例も数多く紹介。失敗から積極的に学ぶ、ごくわずかな人と組織だけが、究極のパフォーマンスを発揮することを明らかにしていきます。
『経営の失敗学』
菅野寛著 日本経済新聞出版 935円(税込)
企業の成功はパターン化できない一方で、失敗例には多くの共通項を見出すことができる。その地雷を踏まない方法を、早稲田大学ビジネススクールの菅野寛氏が理論的に解説する経営戦略書。
『ビジネスの失敗学 ビジネス・アドベンチャーズ』
ジョン・ブルックス著 講談社 1,650円(税込)
1960年代のウォール街で起きた事例を挙げつつ、ビジネスの本質に言及した名著『Business Adventures』。本書ではうち5篇を収録。漫画とテキストでわかりやすく解説。
『なぜ倒産 令和・粉飾編 ― 破綻18社に学ぶ失敗の法則』
日経トップリーダー編、帝国データバンク・東京商工リサーチ協力 日経BP 1,760円(税込)
子供服チェーンの「マザウェイズ」など、破綻した18社の経営を検証。社長の赤裸々な告白5編のほか、倒産劇に学ぶ9つの諫言を紹介。リアルな事例を基に失敗を回避する方法を学ぶ。
[編集] 一般社団法人100年企業戦略研究所
[企画・制作協力]東洋経済新報社ブランドスタジオ