経営者がいま読むべき本6冊 「競争戦略」編

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世界情勢の変化や経済のグローバル化、国内の人口減少や高齢化など、企業を取り巻く環境は日々変化しています。そんな今、中小企業が生き残るためにはどのような経営戦略を描けばいいのでしょう。ここでは、競合他社との競争に勝ち抜き、現代社会に求められる価値を創造するための手がかりとなる厳選6冊をご紹介します。

①『競争しない競争戦略 〖改訂版〗環境激変下で生き残る3つの選択』

山田英夫著 日本経済新聞出版 2,200円(税込)

競争しない競争戦略 〖改訂版〗環境激変下で生き残る3つの選択の書影

中小企業経営者なら読んでおきたい、競争戦略のバイブル

日本企業は「同業他社が始めたことを自社もやる」という“横並び志向”や、成長分野に皆が揃って参入する“満員バス現象”がいまだに根強い――本書の冒頭で、著者の山田英夫氏はこう指摘します。この結果、過度な価格競争に陥り利益率を下げるなどの不毛な消耗戦になってしまうケースも見受けられます。

とはいえ企業を経営する上で、競合他社との競争は避けられません。しかし山田氏は「競争」の本質は「いかに他社より優位性を構築するか」ではなく、「知恵を絞って競争を回避し、自社の独自性を貫くこと」にあると主張します。

本書はそんな「競争しない競争戦略」について解説したものです。まず第1章で、ビジネス界の事例はもちろん、孫子や生物学といった他分野の教訓も例にあげながら、その理論的背景を説明。生存していく上で「競争しない」ことがいかに重要かを説きます。そして、業界のリーダー企業よりも資源が劣る企業が取るべき戦略は、強い者と戦わずに「棲み分け」をするか、強い者と共存を図る「共生」のいずれかであると提示します。

その具体的戦略は、①リーダー企業との競合を避け、特定市場に資源を集中する「ニッチ戦略」、②リーダー企業の経営資源や戦略にジレンマを起こさせる「不協和戦略」、③より強い企業と共生し攻撃されない状況をつくり出す「協調戦略」の3パターン。これらを2章から4章にわたり、85もの豊富な事例とともに述べていきます。

取り上げる事例は企業だけにとどまらず、さまざまなジャンルにわたります。たとえば2章の「ニッチ戦略」では、シンガー・ソングライター山下達郎氏のマーケティング戦略を紹介。本来ミュージシャンはメディア露出やライブが主な収入源になりますが、山下達郎は「テレビに出ない」「大きな会場でライブはやらない」など「やらないこと」を明示。その分音楽のクオリティを追求し、観客へ歌を大切に届けることを優先します。結果、活動開始から40年以上、熱烈なファンに支えられて活動を続けています。このように商品やサービスの提供量を制限し、独自の価値を生み出すアプローチを山田氏は「限定量ニッチ戦略」と呼んでいます。

本書は2015年に発売されロングセラーとなった内容をもとに、2021年に事例など半数以上をアップデートし加筆した改訂版。多種多彩なケーススタディから、自社の戦略を立案する上で多くのヒントを得ることができるでしょう。

②『競争力の原点 「体格」ではなく「体質」で戦う経営』

遠藤功著 PHP研究所 1,540円(税込)

競争力の原点 「体格」ではなく「体質」で戦う経営の書影

日本屈指のコンサルタントが語る、競争戦略の大前提とは

本書が発行された当時は、リーマン・ショック後で世界経済の先が見えず、「日本経済はこれからどうなっていくのか」という不安が蔓延した時期でした。そして現在、同じように危機感を抱える経営者は多いのではないでしょうか。

世界経済が劇的に変化するなか、人口減少の一途をたどる日本の企業は何を目指すべきなのか。その答えは「日本人がこれまで大切にしてきたこと」を取り戻すことにある、と本書の著者であり、戦略コンサルタントとして多くの企業のアドバイザーや経営顧問を務める遠藤功氏は語ります。

日本は天然資源に乏しい小さな島国です。しかし、この制限があるからこそ、日本企業は知恵を絞り、忍耐強く技術を磨くことで、世界屈指の経済大国として発展してきました。それは日本人に本来「きめ細かさ」や「緻密さ」といった「体質」が備わっているからで、日本が規模やパワーという「体格」で劣るとしても、この「体質」を取り戻すことで再び世界と戦える、というのが遠藤氏の考えです。

たとえば北海道の「旭山動物園」は、地方都市、狭いスペース、限られた予算など多くの制約があります。しかし細部にこだわりパーツをコツコツと積み上げることで、最高300万人の年間来場者数を誇る魅力的な動物園をつくり出しました。

このような「きめ細かい」経営を実践するためのステップを、本著では「三現主義」という「企業の信条」、経営の中核になるべき「ミドル人材」の活性化、そして「顧客密着力」という3つの視点から考察。遠藤氏がコンサルタントとして実際に手がけた改善事例も交えながら、具体的な取り組み方を指南していきます。

このなかで遠藤氏は、「安易なITの導入は手抜きを助長する」と警鐘を鳴らします。営業マンの情報収集を例にとっても、顧客のデータベースやインターネットを閲覧して関連情報を集めるだけ、といった実情を遠藤氏は目の当たりにしてきました。しかし、それでは顧客の本当の需要は見えてきません。時代に逆行するようですが、遠回りでも現場に足を運ぶ泥臭いアナログな手法こそが、競争力を高めるために必要であると説きます。

そして最後に、今度の日本企業が取り組むべき事業は「脱コモディティ化」、つまり、世界最高の付加価値や品質を追い求める「プレミアム」に特化することであると提言。先行きの見えない今こそ、改めて「日本企業だからこそできること」について考えさせられる一冊です。

③『イノベーションの競争戦略: 優れたイノベーターは0→1か? 横取りか? 』

内田和成編著 東洋経済新報社 1,980円(税込)

イノベーションの競争戦略: 優れたイノベーターは0→1か? 横取りか? の書影

誰もがイノベーションを起こせる。1歩先ゆく競争戦略の秘密

「イノベーション」という言葉にどんなイメージを持っていますか?「技術革新」と訳されることが多いため、「画期的な発明をすること」と捉えられがちです。しかし、どれだけすばらしい技術を開発しても、それだけでビジネスが成功するとは限りません。

本書の編著者である内田和成氏は、ビジネスにおけるイノベーションは単なる「技術革新」でなく、新しい製品やサービスを顧客の生活や活動に浸透させ「行動変容」をもたらすことであると定義します。

たとえば、アメリカの電動立ち乗り2輪車「セグウェイ」は2000年初頭に次世代の乗り物として誕生し、大きな話題になりました。しかし広く普及しないまま、2020年に生産が終了。セグウェイは「偉大な発明」でしたが、世の中を変えるイノベーションにはならなかった、というのが内田氏の考えです。一方で、ロボット掃除機「ルンバ」は多くの人々の生活に浸透し、今ではルンバに合わせて家具を揃える人が出てくるほど。まさにイノベーションといえるでしょう。

このようにイノベーションの意味を再定義し、顧客の「行動変容」をゴールにしたプロレスを理解することが、日本企業がイノベーションを起こすための鍵であると内田氏は語ります。

そんな「行動変容」を引き起こす源泉には「社会構造」「心理変化」「技術革新」の3つがあり、これを本書では「イノベーションのドライバー」と呼びます。そして行動変容に至るプロセスを「イノベーションストリーム」と名づけ、①ドライバーを正しく捉えることを起点に、②ドライバーをはしごにして新しい価値を創造し、③これによって顧客の態度が変化して、④顧客の行動が変わる、という4つのステップがあると紹介。

コロナ禍で躍進した「Zoom」や「Uber Eats」、フリマアプリで国内最大手となった「メルカリ」など、多くの人にとって身近な企業を例にとり、前述のドライバーやステップに関連づけながらその背景や仕組みを詳細に分析していきます。

また、内田氏は技術革新を必ずしも自社で行う必要はないとし、先行者を追い抜いて後発者がイノベーターになるための方法も提示。イノベーションを起こす上では、社会や人々の心理の変化を見極め、適切な人に適切な形で価値を届けることが重要であると説きます。

本書は、2022年3月まで早稲田大学の教授を務めた内田氏が、同大学ビジネススクールのゼミ卒業生とともに企業のイノベーションを研究した結果をまとめて執筆したもの。自社の製品やサービスでイノベーションを起こしたいと考えている経営者にとって、必読の書といえます。

④『[新版]競争戦略論I』

マイケル・E・ポーター著 ダイヤモンド社 2,750円(税込)

[新版]競争戦略論Iの書影

競争戦略論の第一人者であり、世界各国の政府幹部や企業経営者のアドバイザーとして活躍する著者の論文集。あらゆる組織が競争を通じて価値創造するための戦略について、具体的事例を交えて詳述。IとⅡの上下巻で発行されている。

⑤『ストーリーとしての経営戦略』

楠木建著 東洋経済新報社 3,080円(税込)

ストーリーとしての経営戦略の書影

競争戦略を「ストーリーづくり」という視点から掘り下げ、その背景にある理論も解説。多くの企業の事例をあげながらユーモアたっぷりの語り口でつづる。30万部を突破し、経営書としては異例のベストセラーとなった話題作。

⑥『スターバックスはなぜ値下げもテレビCMもしないのに強いブランドでいられるのか?』

ジョン・ムーア著 ディスカヴァー・トゥエンティワン 1,650円(税込)

スターバックスはなぜ値下げもテレビCMもしないのに強いブランドでいられるのかの書影

スターバックスの元マーケティング担当である著者が、その経営哲学や社内文化、人材育成など、社内に伝わる46の「ルール」を解説。ブランディングにおける競争戦略の方法やマーケティングの教訓が詰まった実用的な一冊。

[編集] 一般社団法人100年企業戦略研究所
[企画・制作協力]東洋経済新報社ブランドスタジオ

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