経営者がいま読むべき本6冊 「マネジメント」編
目次
組織に成果をもたらす仕組みや機能として、マネジメントは今や経営に欠かせない要素となりました。マネジメント関連書籍には、基礎や理論を学べるものから、すぐに実践できる内容までさまざまです。ここでは、普遍的名著から新時代のマネジメントを牽引する近刊を含む6冊を紹介します。
①『マネジメント[エッセンシャル版] ――基本と原則』
ピーター・F・ドラッカー著、上田惇生訳 ダイヤモンド社 2,200円(税込)
50年経っても色あせないトップマネジメントの大原則
本書は、マネジメントの父・ドラッカーが自らのマネジメント論を体系化した『マネジメント――課題・責任・実践』(全2巻、1974年)から重要な部分を抜粋して、2001年にエッセンシャル版として発刊されました。
ドラッカーは現代社会を「組織社会」と定義しました。その組織を機能させるために必要なものがマネジメントであり、中核を担うのがマネジャーであると位置づけ、誰もが「実践と行動」によってその方法論を学べるものだと語ります。
さらに重要な定義は、企業の目的は「顧客の創造」であるとしています。そのための機能として「マーケティング」と「イノベーション」を提示。ここでのマーケティングとは広告宣伝の意味ではなく、顧客を理解することにより、営業しなくても自然と売れる状態を作り出すこと。そして、イノベーションは単に技術的な革新だけでなく、経済的に富を創造することまでを含みます。この考え方は今も多くの経営者に影響を与えています。
本書は主に、マネジメントに関して、使命、方法、戦略の3つを提示しています。なかでも、方法にあたる第5章では「マネジャー」について書かれています。ドラッカーはマネジャーを「組織の成果に責任をもつ者」と独自の定義をしました。命令する権限ではなく、貢献する責任を持っているかが重要だと説きます。
さらに、マネジャーの最大の資質は「真摯さ(Integrity)」にあるとし、「いかに知識があり、聡明であって上手に仕事をこなしても真摯さに欠けていては組織を破壊する」として、真摯さのない人間をマネジャーに任命してはならないと強く訴えました。その影響を受け、実際にアメリカ企業の経営理念では「Integrity」がよく使われています。
戦略面を語る第8章では、トップマネジメントについて考察します。トップマネジメントに必要な要素は①考える人、②行動する人、③人間的な人、④表に立つ人とし、「われわれの事業は何か。何であるべきかという事業の目的を考えなければならない」といいます。これも現代の経営に通ずる、普遍的な考え方といえるでしょう。
前述のほかにも、この1冊には経営にマネジメントを生かすヒントが詳細に描かれており、50年前に発刊されたとは思えない新鮮な発想で、現代に至るまで長く読み継がれています。
②『リーダーの仮面—「いちプレーヤー」から「マネジャー」に頭を切り替える思考法』
安藤広大著 ダイヤモンド社 1,650円(税込)
高い生産性を生み出す、新時代のトップマネジメントに迫る
「識学」のメソッドに基づいた本書では、生産性が高い組織運営を実現するためのマネジメントノウハウを提案しています。識学とは、組織内の誤解や錯覚がどのように発生し、どのように解決できるか、その方法を明らかにした学問のこと。著者は株式会社識学の代表として活躍しています。
著者は、リーダーが見るべきポイントは以下の5つしかないと断言します。
ポイント1「ルール」 場の空気ではなく言語化されたルールをつくる
ポイント2「位置」 対等ではなく、上下の立場からコミュニケーションする
ポイント3「利益」 人間的な魅力ではなく、利益の有無で人を動かす
ポイント4「結果」 プロセスを評価するのではなく、結果だけを見る
ポイント5「成長」 目の前の成果ではなく、未来の成長を選ぶ
このポイントを踏まえて「5つのポイントにフォーカスし、それ以外のことは(部下に)任せる。見守る。待つ。スルーする」ことを勧めます。
著者はこうしたリーダーのやり方を「仮面をかぶる」とも表現しており、書名はそれに由来します。
各章は5つのポイントで構成され、たとえば4章の「結果」では、どんな仕事でも求められるのは結果であり、リーダーは部下のプロセスを評価してはいけないと教えます。
著者はプロセス重視の弊害として「残業アピール」を例にあげます。遅くまで残って仕事をしている部下を見かけると、リーダーはつい「よく頑張っているな」などと安易に褒め言葉をかけがちですが、それによって部下は「遅くまで頑張っていれば(結果はともかくそのプロセスが)評価される」と勘違いしてしまうからです。
著者はリーダーに、安易に部下を褒めてはいけないとも戒めます。なぜなら、褒められた部下にとって「その少し下のところ」が「あたりまえ」の基準になるからです。たとえば80点を取った人を褒めると「70点ぐらいがあたりまえ」になり、部下の成長を鈍化させてしまう。リーダーは常に「100点満点があたりまえ」になるようなコミュニケーションを心がけるべきだと語ります。
リーダーにとって、従来の常識を打ち破る新しいタイプのマネジメントの本といえるでしょう。
③『グロービスMBAマネジメント・ブック【改訂3版】』
グロービス経営大学院編著 ダイヤモンド社 3,080円(税込)
人気ビジネススクールが教えるトップマネジメント実践論
リーダー育成のビジネススクールとして、東京・大阪をはじめ全国7カ所でMBAプログラムを提供するグロービス経営大学院。同大学院の「グロービスMBAシリーズ」の中でも、本書は1995年の初版発行以来、「ビジネス・バイブル」とされてきました。MBA1年目の必修科目の主要コンテンツとなる経営戦略 、マーケティング、アカウンティング、ファイナンス、人・組織、IT、ゲーム理論・交渉術の7科目についてそれぞれ解説しています。
各テーマは見開き2ページにまとめられており、いずれのテーマとも左上には100〜150字の「POINT」、続いて1,500字程度の「本文」、右下に「図表」という構成です。わかりやすくコンパクトにMBAに関するテーマを学ぶことができます。
たとえば第2部「マーケティング」のうち「ポジショニング」では、POINTで言葉の意味を説明、本文では「ポジショニングの意義」「ポジショニングのテクニック」「ポジショニング成功のための鉄則」の3つの項目に分けて解説しています。これにより、なぜポジショニングが必要かという意味づけから、実践的な活用方法とコツまでわかります。
これからMBAに進みたいと思う人は、最初のページから読み進めれば、MBAで学ぶ科目を事前に一通り把握することができるでしょう。一般のビジネスパーソンなら、すべてを読もうとせずに、手元に置きながら、日々の仕事ではわからなかった用語を必要なときに調べるという活用方法もおすすめです。実際、本書には「マネジメント事典」「経営学事典」という項目もあり、辞書的な活用も可能です。
ほかにも「広告戦略」や「CSR」など、本書で興味を持ったテーマを別途、専門書で深掘りするという使い方も効果的です。その意味で、自分の興味分野を広げるきっかけがつかめる本ともいえるでしょう。
④『人を動かす(文庫版)』
D・カーネギー著、山口博訳 創元社 715円(税込)
邦訳500万部突破の不朽の名著。人づきあいの根本原則を実例豊かに説き起こし、人が生きていく上で身につけるべき人間関係の原則が語られます。
⑤『HIGH OUTPUT MANAGEMENT――人を育て、成果を最大にするマネジメント』
アンドリュー・S・グローブ著、小林薫訳 日経BP 1,980円(税込)
インテル元CEOの著者が、後進の起業家、経営者に向けて書き下した本。「アウトプットを最大化するための仕事の基本原理とは」など、誰もが悩むことに答えてくれます。
⑥『心理的安全性のつくりかた』
石井遼介著 日本能率協会マネジメントセンター 1,980円(税込)
チームにとっての重要性が一気に認知された「心理的安全性」。日本の心理的安全性を研究してきた著者が、心理的安全性の高い職場の作り方を解説します。
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