経営者がいま読むべき本6冊 「組織活性化」編
目次
ビジネスを成功させるために、常に課題となるのが企業の組織づくり。ただし、世の企業の事業内容は多岐にわたり、組織の最適なカタチはさまざまなため、その絶対的な方程式がないのもまた事実。よい組織づくりのために、どんな理念をベースとして、どんな取り組みが行われているのでしょう? 企業のあるべき姿を追求し、その実現のために格闘する人々が紡いだ厳選6冊を、ここにご紹介します。
①『こうして社員は、やる気を失っていく』
松岡保昌著 日本実業出版社 1,760円(税込)
モチベーションを下げる要因を取り除き、組織を活性化する方法を説く
会社や上司に不平不満を抱く社員は少なくありません。「やる気」をなくした社員の生産効率は落ち、その不平不満が社内に蔓延して常態化すれば、「強い会社」に成長するはずもありません。
本書の著者である松岡保昌氏は、社員のモチベーションを上げる策を講じる以前に、「モチベ―ションを下げる要因」を行わないことが重要だと主張します。社員のモチベーションが上がれば「当事者意識」が芽生えます。しかし、そうした環境を社内に整えられなければ、企業は激しく変化する外部環境に対応できず、生き残れない。そんな昨今のビジネス環境を、第1章「企業力格差は『モチベ―ジョン』に起因する」で検証しています。
本書が多くの読者を獲得したのは、上司と部下との会話など、“あるある”な事例を豊富にあげつつ、その改善策が盛り込まれているからでもあります。
たとえば第2章「『社員がやる気を失っていく上司』に共通する10の問題と改善策」では、
- 「理由や背景を説明しない」――「意味のない、ムダな仕事」と思わせる上司
- 「コントロールできる部分を与えない」――1から10まで指示する上司
- 「言うことに一貫性がない」――行き当たりばったり上司
などのケースが描かれています。
また、第3章「『組織が疲弊していく会社』に共通する15の問題と改善策」では、
- 「個人が仕事を抱えすぎている」――不平等で不満ばかりの組織
- 「管理職が逆ロールモデル」――めざすべき人物が不在で不幸な組織
- 「いまだに長時間労働が美徳」――時代の変化についていけていない組織
などのケースが検証されています。
そうしてあぶり出された問題は、第4章「こうして社員が変わり、会社も変わっていく~『組織心理』に基づいたマネジメント~」で総括されます。
国家資格「1級キャリアコンサルティング技能士」を持つ松岡氏は、「人のマネジメントを、勘と経験だけで行っている管理職やリーダーが多すぎる」とも指摘し、心理学などに裏付けされたスキルの必要性を説いています。リクルートの組織人事コンサルタント、ファーストリテイリングの執行役員人事総務部長、ソフトバンクのブランド戦略室長などを経験した松岡氏は、みずからの会社を立ち上げ、経営・組織人事コンサルタントを行う人物。そんな彼が、単なる知識だけではない、実践家としての知恵とノウハウを紹介しています。
②『組織は変われるか――経営トップから始まる「組織開発」』
加藤雅則著 英治出版 1,980円(税込)
人材開発のプロが実体験から導き出した組織活性化の三原則
本書の著者は、東証一部上場企業からオーナー企業までのクライアントを対象に、企業コンサルティングをされている、加藤雅則氏。本書は組織開発における加藤氏の過去の取り組みを、リアルに追体験できる実践的な内容となっています。
かつて加藤氏は、人材育成の研修を開催、指導していましたが、「研修のあと、現場はいったい、どうなっているのか?」という疑問を抱きます。それを機に加藤氏は、研修を入口として、企業の組織開発に、より具体的にアプローチしていきます。
出る杭は打たれる傾向にある日本の組織では、個々人の意識が変わっても、上司や部署の流儀を十分に考慮しないと組織変革はできません。そこで加藤氏は、「各層のコンセンサス」を重要視します。つまり、部課長や幹部候補生が対話することで、階層の壁をなくそうと試みます。
その手法は、被研修者の方々からの評判もよく、加藤氏自身も手応えを感じます。しかしあるとき、ある企業のCEOが社員たちに向かって「きみたち、そんなことをやっていて、ほんとうに勝てるのか?」と発したことにより、その組織開発は頓挫。つまり加藤氏は、そのアプローチが現場視点であり、経営視点ではないことに気づかされます。
組織開発は、「経営トップから始める」必要があることを感じた加藤氏は、役員層の信頼を得ることに努力し、「役員合宿」を開催するに至ります。それはのちに、経営課題を部課長クラスが解決する「部課長支援ワークショップ」や、次世代の幹部候補生が経営課題に取り組む「経営人材ワークショップ」へと発展。より精度の高いコンサルティングを実現します。
しかし、1年かけて取り組んだ組織開発も、加藤氏が現場から離れると、いつの間にか元の状態に戻ってしまうという現実に直面。このことから、経営企画部や人事部を中心とした「事務局」が、経営開発を「自分の問題」と捉えて「当事者主体」とならなければ、組織開発は継続的に推進しないことを実感したのです。結果、加藤氏はみずからのスタンスを「事務局の支援」へと転換します。
加藤氏は、「各層のコンセンサス」「経営トップから始める」「当事者主体」を、組織開発の三原則と捉えます。各話題の冒頭には、組織開発のプロジェクトが追体験できるよう、事務局員を一人称としたショートストーリーが用意され、組織改革における課題や、現場が変化していく様子をリアルに感じ取ることができます。
③『世界で最もイノベーティブな組織の作り方』
山口 周著 光文社新書 924円(税込)
リーダーシップのあり様で、組織はもっと活性化する
アメリカIT企業の世界的成功を顧みたとき、「日本はイノベーションに不向き」と捉えられがちです。しかし、本書ではそれを一刀両断。第一章「日本人はイノベーティブか?」では、浮世絵、建築、映画『羅生門』、テレビアニメ『クレヨンしんちゃん』などをあげて、日本の作品がいかに世界を席巻してきたかを例示していきます。つまり、日本がイノベーションを発揮できていないのは、「個人の創造性」ではなく、「組織の創造性」によるものだという論点。そのユニークな視点が軽快な文章で綴られます。
「イノベーションは『新参者』から生まれる」と題された第二章は、「なぜビートルズはリバプールから出現したのか?」から始まります。当時、イギリス最大の貿易港であったリバプールには、アメリカの新興音楽であるロックのレコードがいち早く入り、それをポールやジョンたちがイギリスの流行歌と融合させていきました。この事例は、イノベーションにおいて「多様性」が重要であることを示唆し、企業などの組織においては特に「人材の多様性」が不可欠であることを説明しています。
本書ではさらに、ルネサンスの発祥地であるフィレンツェ、ダーウィンなどの特異性を説明した後、最も小さな組織である機長と副操縦士の関係から、日本社会における権力格差へと展開。さらに映画『ジョーズ』や『ゴジラ』における劇中のリーダーシップ論や、NASAにおける官僚体質にまで言及し、イノベーションに必要な条件と弊害を提示していきます。
著者は、組織開発を専門とするヘイグループ(現コーン・フェリー・ジャパン)に所属していた山口周氏。慶応義塾大学文学部哲学科卒の山口氏があげる事例には、文化・芸術、歴史のほか、企業史から宇宙開発までが取り上げられ、どのケースも俯瞰的で理解しやすく、軽快な語り口で綴られています。
それら豊富な事例を土台にして、第三章「イノベーションの『目利き』」では、組織における人的ネットワーク密度の重要性が説かれ、リーダーの役割を示した第四章「イノベーションを起こせるリーダー、起こせないリーダー」、具体的な方法論である第五章「イノベーティブな組織の作り方」へと展開。本書タイトルの核心へと誘います。
④『多様性の科学 画一的で凋落する組織、複数の視点で問題を解決する組織』
マシュー・サイド著 ディスカヴァー・トゥエンティワン 2,200円(税込)
オックスフォード大学を首席で卒業したイギリス『タイムズ』紙のコラムニストが、組織の活性化における多様性とその重要性、さらにはそれがうまく機能するための条件や工夫を伝授。
⑤『ファシリテーションの教科書:組織を活性化させるコミュニケーションとリーダーシップ』
グロービス著、吉田素文執筆 東洋経済新報社 2,640円(税込)
ビジネスにおいて「ファシリテート」は、仕事を促進させることや、会議を円滑に進めることを意味する。本書では優れたファシリテーターになるための二大要素を解説。
⑥『他者と働く―「わかりあえなさ」から始める組織論』
宇田川元一著 NewsPicksパブリッシング 1,980円(税込)
「わかりあえなさ」という複雑で厄介な問題を、新しい関係性を構築することで打開。「対話」によって組織を活性化する現実的で効果的な方法を、経営学者である著者が解説。
[編集] 一般社団法人100年企業戦略研究所
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