不動産市場のマクロ分析
6-4.人口動態の変化と不動産価格、金融政策のモデル化

「不動産市場のマクロ分析<br>6-4.人口動態の変化と不動産価格、金融政策のモデル化」のアイキャッチ画像

目次

人口動態と不動産価格の関係を、金融政策を含めてモデル化し、どのような国際的力学が働いているのかを考えてみましょう。これまでは日本とアメリカのケースを見てきましたが、ヨーロッパ・アジア・アフリカを含めたパネルデータ(同一の対象を継続的に記録したデータ)を使います。

これまでは実証的に両者の関係を見てきましたが、理論的なフレームワークで不動産価格のサイクルを見ようとすると、「クレジット・サイクル(信用サイクル)」という循環を考えていく必要があります。

経済学者のラインハート(Reinhart)教授とロゴフ(Rogoff)教授は、長期間のデータを集めて「歴史マクロ」の視点からさまざまな発見をしてきました。また、米プリンストン大学の清滝信宏教授も、LSE(ロンドン・スクール・オブ・エコノミックス)時代の1997年に出した「清滝-Moore」の論文で、レバレッジ(テコの原理)エコノミーとデレバレッジエコノミーのような問題について、信用サイクルの枠組みの中で基礎的な理論を提案しています。

ベビーブーマーが住宅市場に入ってくるときや、生産年齢人口が増えている時代は、「人口ボーナスの時代」といわれ、これによって物事を楽観的に見ていく傾向が強くなります。しかし、1991年に不動産バブルが崩壊した後、日本の生産年齢人口は1995年をピークに減少し始めて、悲観的な要素が社会を支配するようになります。

経済の成長と不況の長さは、実はこのような見方で説明することができます。地価や住宅価格などのさまざまな変動を読み解くためのヒントになります。経済学者のグレゴリー・マンキュー教授らが「6-3. 人口動態の変化と不動産価格に関する実証分析-」で紹介した「アセットメルトダウン」の仮説を出したのも、悲観的な要素をかなり引きずっているといえます。

楽観的な予測によって過剰資本が発生?

「6-3. 人口動態の変化と不動産価格に関する実証分析-」で、人口予測は非常に正確に行うことができて、住宅供給を弾力的に調整できれば、不動産価格の暴落は起こらないという説明をしました。しかし今日、日本において大量の空き家や所有者不明土地が、なぜ生まれてしまうのでしょうか。

その理由として考えられるのは、楽観的な要素があったのではないかということです。1人の女性が一生の間に産む子供の数を示す合計特殊出生率(15~49歳までの女性の年齢別出生率を合計したもの)が2を下回ると、人口は減少していきます。1976年に合計特殊出生率は2を切りましたが、政府は再び2を超えて復活するとのシナリオで人口予測を行ってきました。1986年に1.8を割り込んでいる状態でも2に戻るとの予想が立てられ、常に楽観的に将来を予測してきました。

このような楽観的な予測に基づいて社会・経済活動が行われると、何が起こるのでしょうか。過剰資本が発生する可能性が出てきて、将来の「完全予見」に基づく供給の調整が行われずに、結果として「アセットメルトダウン」が起こる可能性が出てきます。そう考えると、「合計特殊出生率の予測が、常に楽観的に行われたこと」が「今の混乱をもたらしている」と言って過言ではないかもしれません。

割引現在価値モデルで不動産価格を推計

住宅価格を、現在価値モデルを使って、将来家賃の割引現在価値であると考えてみましょう。ここでは実質と名目を区別するためにインフレ率を加味します。

不動産価格を数式に表すと、さまざまな要素によって説明することができます。家賃に相当するのが、生産年齢人口1人あたりの実質GDPになります。1人の労働者がどれだけの利益、つまり付加価値を生み出せているのかを表します。さらに金利の要素と、人口要因として「総人口」「若年人口依存比率」「老齢人口依存比率」が加わります。

この数式から不動産価格の変動は、需要と供給によって決まる家賃の部分の影響もありますが、それ以上に割引率の影響が強いことが分かります。この割引率が、子供が多い社会と高齢者が多い社会では違った効果を生み出すことになります。

数式から導いた予測値に対して、実績値と予測値の予測誤差も重要になってくるので、この拡張モデルとして予測誤差を加味したモデルを使った複雑な式で推計しました。分析対象は17カ国で、アジア3カ国、カナダ、アメリカ、南アフリカ、ヨーロッパ11カ国です。

推計結果を見ると、インフレ率のパラメーターが1ですから、貨幣錯覚(名目値で判断すること)が起こってないことが分かります。1人当たりのGDPが大きくなると不動産価格が押し上げられ、金利が上昇すると不動産価格が押し下げられます。

日本では、総人口が減少していますが、総人口が伸びればパラメーター1.15で地価は上昇していきます。子供の数が増えてくれば、将来に対する期待が高くなり、割引率が小さくなることで地価を押し上げる。一方で、老齢人口依存比率が高くなると地価を押し下げるという効果があると分かります。

スピーカー

清水 千弘

一橋大学教授・麗澤大学国際総合研究機構副機構長

1967年岐阜県大垣市生まれ。東京工業大学大学院理工学研究科博士後期課程中退、東京大学大学院新領域創成科学研究科博士(環境学)。麗澤大学教授、日本大学教授、東京大学特任教授を経て現職。また、財団法人日本不動産研究所研究員、株式会社リクルート住宅総合研究所主任研究員、キャノングローバル戦略研究所主席研究員、金融庁金融研究センター特別研究官などの研究機関にも従事。専門は指数理論、ビッグデータ解析、不動産経済学。主な著書に『不動産市場分析』(単著)、『市場分析のための統計学入門』(単著)、『不動産市場の計量経済分析』(共著)、『不動産テック』(編著)、『Property Price Index』(共著)など。 マサチューセッツ工科大学不動産研究センター研究員、総務省統計委員会臨時委員を務める。米国不動産カウンセラー協会メンバー。

【コラム制作協力】有限会社エフプランニング 取締役 千葉利宏

経営戦略から不動産マーケット展望まで 各分野の第一人者を招いたセミナーを開催中!

ボルテックス グループサイト

ボルテックス
東京オフィス検索
駐マップ
Vターンシップ
VRサポート
ボルテックス投資顧問
ボルテックスデジタル

登録料・年会費無料!経営に役立つ情報を配信
100年企業戦略
メンバーズ