経営者がいま読むべき本6冊 「ビジネス心理学」編
目次
日常生活だけでなくビジネスのあらゆる場面で役に立つとして、「心理学」が注目されています。人の心の動きを学ぶことは、マーケティングや営業、チームビルディングなど、経営やビジネスで成果を上げるためのヒントにもなるでしょう。ここでは、心理学の入門書から、人を動かすための心理テクニックを網羅したハウツー本まで、ビジネスシーンで実際に使える厳選6冊をご紹介します。
①『リーダーのための経営心理学 人を動かし導く50の心の性質』
藤田耕司著 日経BP 日本経済新聞出版 1,980円(税込)
人を動かすためには何が必要か? リーダー必読のビジネス心理学
本書の著者は、公認会計士、税理士、心理カウンセラーであり、経営コンサルタントとして活躍する藤田耕司氏。藤田氏は、さまざまな経営者の相談に応じる中で、経営やビジネスにおける問題の根本の多くは「人」の問題に行き着くことに気がつきました。
第1章と第2章は、ビジネス心理学が求められる時代的背景や、人を動かすためのコミュニケーションの要素を解説。脳の約8割を占める大脳には、快・不快で判断する「感情の脳」と、論理的か・合理的かで判断する「論理の脳」があります。藤田氏は、相手に自分の言葉を受け入れてもらうには、この両方の脳からOKを引き出す必要があると説明します。
これらの判断基準を満たすには、まず「何を伝えるか」と「誰が伝えるか」という2つの要素があり、本書では前者を「対話」、後者を「信頼」と呼びます。対話は「情緒的対話」と「論理的対話」があり、信頼は「人間的信頼」と「能力的信頼」に分類されます。第3章から第6章にかけて、これら4つの要素を体系立てて解説。その中で特に重要なポイントは「50の心の性質」としてまとめていきます。
藤田氏は、これらの理論はただ学ぶだけなく、繰り返し実践して自分の体験や感情がともなうことで、初めて現場で使える知恵になると考えました。最終章では経営者の心構えを「相手が動くことを期待するのではなく、まずは自分が変化すること」であるとしています。最大の敵である「面倒くさい」という感情を克服し、自分を動かすことから始めよう、と経営者を鼓舞し、本書を締め括ります。
経営やビジネスの目的は、突き詰めると「人を動かし導くこと」です。そのためには、売り上げを伸ばすなら顧客の心を、組織のパフォーマンスを上げるなら従業員の心の性質を理解することが不可欠です。本書では、リーダーがビジネスの現場で人を動かし導くのに必要な「影響力」に着目し、その力を発揮するための心理学や脳科学の知識を紹介。藤田氏が現場で得た学びやエピソードも交え、具体的かつ実用的な内容になっています。
②『ビジネス心理学大全』
榎本博明著 日経BP 日本経済新聞出版 1,760円(税込)
科学的エビデンスに基づいたビジネス心理学をわかりやすく解説
「やる気がない従業員のモチベーションを上げたい」「組織をうまく引っ張っていきたい」「もっと売り上げを伸ばしたい」――経営者は日々、さまざまな経営課題を抱えています。それらを解決するために「心理学」を取り入れてみてはいかがでしょうか。
本書は、職場でありがちな悩みを題材に、その解決策を心理学の知見とともにQ&A形式で提示。「モチベーション」「人事評価」「職場の人間関係」「リーダーシップ」「マーケティング」という5つのチャプターに分け、全50項目で構成されています。各項目は独立しているため、気になったタイトルから読むことができます。
たとえば「人事評価の不満を解消するにはどうしたらいいか」という悩みに対しては、人は自分自身を過大評価する心理傾向(ポジティブ・イリュージョン)があると紹介。これにより、たとえ正当な人事評価が行われたとしても「自分は正しく評価されていない」と感じてしまうことがあるのです。対策としては、全従業員がこの心理メカニズムについての知識を共有する働きかけが効果的です。
また、経営戦略上重要な案件について検討する際に、あとから振り返ると「なぜ気がつかなかったのか」と思うような誤判断をしてしまうことがあります。その原因は「確証バイアス」と呼ばれるもので、人は自分にとって都合のいい情報は無意識に取り入れ、都合の悪い情報は極力取り入れないようにする傾向があるからです。このような認知のゆがみを自覚しておくことで、失策を事前に防ぐことが可能です。
本書では科学的エビデンスに基づいた心理学の知見のみを取り上げており、基本的なビジネス心理学の知識を正しく身につけることができます。イラストや図解に加え、重要な箇所は強調されるなどメリハリのあるレイアウトで簡潔にまとめられているのも特徴です。それゆえに、基礎知識がなく忙しいビジネスパーソンでも短時間で理解できるでしょう。課題解決の手助けとして、手元に置いておきたい一冊です。
③『嫌われる勇気 自己啓発の源流「アドラー」の教え』
岸見一郎、古賀史健著 ダイヤモンド社 1,650円(税込)
アドラー心理学の基本がわかるビジネス心理学のベストセラー
本書は、フロイト、ユングに並んで「心理学の三大巨頭」と称されるアルフレッド・アドラーが創設した「アドラー心理学」の基本的な概念や考え方を、「哲人」と「青年」の対話形式でわかりやすく解説したものです。2013年12月の刊行以来、各国で翻訳され、現在も売れ続ける大ベストセラーになりました。
アドラー心理学は「すべての悩みは、対人関係の悩みである」と断言し、悩みを消し去るためのシンプルで具体的な方策を提示します。それらは「トラウマは存在しない」「相手の問題には立ち入らない」「他者からの承認はいらない」など、読む人によっては、これまでの常識を覆すような思想に感じられるかもしれません。
たとえば、職場で理不尽に怒鳴り散らす上司がいるとします。部下は「あの上司がいるせいで仕事が進まない」と悩みますが、アドラーはこれを「仕事をしたくないから、嫌な上司を作り出している」と捉えます。そして「他人の理不尽な怒りは、自分の課題ではない」と、冷静に線引きすることを提案。つまり、他人に囚われず、自分がすべきことだけに集中することが大切なのだと説きます。これをアドラー心理学では「課題の分離」と呼んでいます。
また、職場で褒められる、もしくは叱られるというシーンは、多くの人が一度は経験したことがあるのではないでしょうか。しかし、アドラーはこうした行為を「評価」と捉えます。他者を評価すべきではないとして、「褒める」「叱る」といった賞罰教育を否定しました。その代わり、他者とのコミュニケーションでは、相手へ「ありがとう」と伝えることが重要だと説きます。
「感謝の言葉」により、人は「自分は他者に貢献できた」と感じることができます。アドラー心理学では、この「他者貢献」こそが仕事の本質であり、さらに人間の幸福とはこの「貢献感」のことであると定義しています。
アドラーの思想を実戦するのは容易ではありませんが、共著者の一人である古賀史健氏は「一歩踏み出す「勇気」さえあれば、人生を一変させることができる」とあとがきで述べています。この一歩の勇気で、いま抱えている経営課題も、大きく前進するかもしれません。
また、本書の続編である『幸せになる勇気』には、アドラー心理学のより実践的な方法論が紹介されています。気になる人はこちらもセットで読んでみるとよいでしょう。
④『武器としての組織心理学 人を動かすビジネスパーソン必須の心理学』
山浦一保著 ダイヤモンド社 1,650円(税込)
組織をマネジメントするための効果的なリーダーシップを科学的・客観的な視点から考察。妬み、温度差、不満、権力、信用(不信感)といった組織に蔓延するネガティブな関係を、ポジティブで有益なものに変換するためのビジネス心理学を紹介する。
⑤『ビジネス心理学の成功法則100を1冊にまとめてみました』
内藤誼人著 青春出版社 1,650円(税込)
日常生活でも使えるビジネス心理学のネタを100個集めた一冊。交渉やコミュニケーション、経営、行動経済、幸せ・豊かさなど、さまざまな心理法則をテーマ立てて簡潔に紹介する。すべてが世界最先端の科学的エビデンスに基づいており、信頼性の高い内容になっている。
⑥『認知心理学 心のメカニズムを解き明かす』
仲真紀子著 ミネルヴァ書房 2,750円(税込)
認知心理学とは、視覚や聴覚、感覚、意思決定、行動選択など、人間がどのように世界を認知しているかという心のメカニズムを解明するもの。ビジネス心理学としても有用であり、その基本的な知識や概念を、専門家が解説する。認知心理学を初めて学ぶ人のために執筆された入門書。
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