経営者がいま読むべき本6冊 「環境問題を知る」編
目次
猛暑や豪雨をはじめとする異常気象が、社会や経済にさまざまな影響を及ぼしています。地球環境問題に対する取り組みは、企業を経営する上でも重要な課題の一つになりました。「SDGs(持続可能な開発目標)」や「ESG(環境、社会、企業統治)」、温室効果ガス排出実質ゼロを目指す「脱炭素(カーボンニュートラル)」といった概念は、今や経営者に欠かせない知識といえるでしょう。気候変動時代に企業が生き残るために、経営者が果たすべき役割は一体何なのか。その指針となる厳選6冊をご紹介します。
①『経営戦略としてのSDGs・ESG “未来から愛される会社"になって地域×業界No.1を目指す』
白井旬著 合同出版 1,870円(税込)
中小企業こそ環境問題に取り組むべき! メリットや事例がわかる一冊
みなさんは「SDGsは大企業が取り組むもの」という先入観や、「SDGsを具体的にどう取り入れればいいのだろうか」といった疑問を持っていませんか。その疑問に答えるのが本書です。
著者は戦略人事コンサルタントの白井旬氏。中小企業こそ組織づくりや採用、商品開発など、あらゆる場面でSDGsに取り組むべきで、そうした企業こそが「未来から愛される会社(持続可能な組織)」になれると主張します。本書はそのメソッドとノウハウを、中小企業30社の事例とともに解説していきます。
はじめに企業におけるSDGsの身近な例としてあげられるのが「クリスマスケーキ」や「恵方巻」です。これらは季節商品という立場上、大量生産・大量廃棄が常態化していました。しかし近年は予約受付分のみの製造販売というスタイルに移行しつつあります。この結果、食品ロスを減らすという「社会の課題」と、廃棄費用の削減という「企業の課題」が同時に解決されました。このように、社会的な課題を解決しつつ、企業の経費は下がり、結果的に儲かる仕組みが、SDGsの本質であると白井氏は説明します。
しかし、経営者が突然「SDGsを推進する」と声を上げたところで、大企業に比べ人手に余裕のない中小企業は、時間的にも心情的にもSDGsに取り組む余裕は生まれがたいでしょう。そこで白井氏は、持続可能な職場づくりのための「働き方改革」と、SDGsの取り組みを同時に進めることを提案します。
ここでいう「持続可能な職場」とは、組織全体に不自然や不機嫌、不健康、不幸せといった「不」がない状態を指します。そして、職場の「不」を解消することが働き方改革であり、社会の「不」を解消することがSDGsであると白井氏は述べます。
さらに白井氏は「社長業とは、変化への対応業である」とし、人々が「商品」「サービス」「会社」「働き方」などを選ぶ基準が変わりつつある今、時代に合わせてビジネスモデルも変革していかなければならないと語ります。
本書には、SDGsの17の目標に関連する日本の社会課題や時代のキーワードも列挙。SDGsを経営戦略に取り入れる際の大きなヒントを得ることができるでしょう。
②『脱炭素経営入門 気候変動時代の競争力』
松尾雄介著、日本気候リーダーズ・パートナーシップ(JCLP) 協力 日本経済新聞出版 2,420円(税込)
脱炭素経営の最新の動きと考え方が一気にわかる入門書
気候変動への対応は世界中で加速しています。経営者としてこの潮流を正しく理解し、脱炭素経営に向けた取り組みを進めることはできているでしょうか。
本書は、気候変動と脱炭素化の全体像、そして今後求められる経営の在り方を総括的に提示した入門書です。著者は、気候変動と企業の関わりについて研究する松尾雄介氏。松尾氏のこれまでの研究や、自身が事務局責任者を務める、脱炭素経営の推進・政策提言などを行う日本企業の有志団体「日本気候リーダーズ・パートナーシップ(JCLP)」の活動で得た知見を基に、今世界で起きていること、その背景にある気候変動の文脈と、脱炭素経営の具体的な事例を紹介します。
第1部では、気候変動を「社会基盤を脅かす重大リスク」ととらえ、健康や移住、紛争・安全保障、人権・人道問題への影響に言及。もはや単なる環境問題ではなく、社会の脅威として国際的に認識されていることを明示します。そして、企業の気候変動に対する取り組みはこれまで「善い行い」という「加点要素」でしたが、今では「取り組まないと批判の的になる」という「減点要素」に転換したと指摘します。
気候変動の脅威を回避するために、気温上昇を「1.5度」に抑えることが現在の世界の目標になっています。そのための最重要KPI(重要業績評価指標)となるのが、二酸化炭素の排出上限を示した「炭素予算(カーボンバジェット)」という概念です。この炭素予算を起点に考えると、脱炭素に適合する事業とそうでないものが判別でき、今後の政策や金融、投資家の動向などが見えてきます。
これを受けて第2部では、気候変動による企業や投資家への影響について、海外の事例も踏まえて解説。個々の企業による脱炭素経営の状態を「船」、政策や市場の状態を「海」にたとえ、投資家がどのように投資先の気候リスクを判断しているか、その視点を解説します。
第3部には、企業による脱酸素経営の取り組みについて、それらに直接関わる担当者からの寄稿文が掲載されています。たとえばいち早く世界の潮流を察し、早期から脱炭素施策を推進したリコー、自社の脱炭素化の成果をビジネスの成長につなげた大和ハウス工業など、具体的な事例がリアルな言葉で紡がれます。
気候変動の文脈には科学、気象災害、政策、技術、経済などの異なる分野が登場するため、知識がない人は身構えてしまうこともあるでしょう。本書は一般読者にも理解ができるような平易な言葉で執筆されており、これから脱炭素経営に取り組む経営者におすすめです。
③『ネイチャー資本主義 環境問題を克服する資本主義の到来』
夫馬賢治著 PHP研究所 1,045円(税込)
環境問題の専門家が語る、経営者が見直すべき新しい資本主義の提示
「環境破壊の原因は利益を追求する資本主義にある」という言説は根強くあります。しかし、本書の著者で、日本で早くからサステナビリティ経営やESGの専門家として活躍してきた夫馬賢治氏は、「必要なのは資本主義に対する批判ではなく、環境問題を克服するための新たな社会を設計すること」であると主張します。
本書は環境問題と資本主義の関係性を整理しながら、今求められている新たな資本主義「ネイチャー資本主義」を解説した一冊です。
夫馬氏は第1章で、環境危機にまつわる各種データを基に環境危機の真因を解き明かします。ここで取り上げるのが、数多ある環境問題を「気候変動」「新規化学物質」「成層圏オゾンの破壊」「大気エアロゾルの負荷」「海洋酸性化」「生物地球化学的循環」「淡水利用」「土地利用変化」「生態系の一体性」という9つに分類した「プラネタリー・バウンダリー(地球の限界)」という概念です。これらのデータを可視化すると、地球の環境負荷はすでに限界に達していることがわかります。
これらの環境問題を克服するためのキーワードが、第2章のテーマである「デカップリング」です。デカップリングとは、経済成長を維持しつつも、エネルギー消費を減らしていく、すなわち「経済と環境を切り離す」という考え方です。
第3章から第4章にかけては、マルクス主義の「資本家」の概念や産業革命を振り返りながら、現在、経済のメインプレーヤーとなっている「機関投資家」について言及。運用資産が大きく、幅広い企業に分散投資する機関投資家は「経済を持続可能にするためには、社会も環境も持続可能にしなければならない」と考え、自らの影響力を行使して環境問題に立ち向かっています。
デカップリングを実現するためには、社会を変えるためのイノベーションを意識的に起こすことが急務です。しかし、第5章では変化を早急に進めることによるリスクにも触れ、大きな負担を受けるであろう産業や労働者を支援する「公正な移行(ジャストトランジション)」が必要であると補足します。
これらを踏まえ最終章では、我々が具体的にどのような業務改革を起こすべきか、「企業」「機関投資家」「金融機関」「メディア」「政府・自治体」「市民」の視点から提言します。
④『沈黙の春』
レイチェル・カーソン著 青樹簗一訳 新潮社 825円(税込)
「わずか二、三種類の虫を退治するために、あたり一面をよごし、自分自身の破滅をまねくとは、知性あるもののふるまいだろうか」ー自然を破壊し、人体をむしばむ化学薬品を乱用することの恐ろしさを早期に告発。1962年の刊行以来、環境問題への取り組みについて世界中で読み継がれている先駆書。
⑤『SDGsアイデア大全 ~「利益を増やす」と「社会を良くする」を両立させる』
竹内謙礼著 技術評論社 2,200円(税込)
「SDGsで何をすればいいかわからない」と頭を抱える中小企業に向けて、そのアイデアをまとめた“ネタ帳”的な1冊。「耐久性」「防災」「健康」「地域貢献」などといった64の視点を切り口に、できるだけ手間や人手がかからず続けられそうな環境問題への取り組み事例を計104件取り上げる。
⑥『図解入門ビジネス 最新 カーボンニュートラルの基本と動向がよ〜くわかる本』
池原庸介著 秀和システム 2,200円(税込)
脱炭素社会をめぐる国内外の動向やその背景を、根拠となる科学的データとともに解説。一般のビジネスパーソンや学生にも理解しやすいよう、平易な文章と図解でまとめられているので、環境と経営の関係についても理解が深まる。巻末には索引があり、各用語をすぐに調べることができる。
[編集] 一般社団法人100年企業戦略研究所
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