ビッグデータでみる都市・不動産市場の未来
11-2. ビッグデータでみる「都市」の未来②

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都市の成長ドライバーは、アメニティを好むクリエイティブ人材

なぜ、人は都市に集まるのでしょうか。都市にはさまざまな機能がありますが、近年注目されるのが「アメニティ」です。

「高いスキルを持つ労働者は、魅力的なアメニティ、ライフスタイル、レジャーを提供する都市を好む傾向が出ている」ことを発見したのが、ハーバード大学のエドワード・グレイザー氏やマサチューセッツ工科大学(MIT)のアルバート・サイツ氏です。社会学者のリチャード・フロリダ氏が2011年12年に発表した論文でも、このような法則性が見出されています。

「クリエイティブ・クラス(経済成長のカギとなる推進力と認識された階級)」が都市の中心部に集中すると、住宅供給の制約もあるので住宅価格が高騰するとの「スーパーシティ理論」を研究してきたのが、ジェイン・ジェイコブズ氏でした。社会学者のジェイコブズ氏やフロリダ氏は、「都市とは一体、何であるのか」を問い続けてきましたが、都市とは多様な人々が集積し、新しい情報を公開し、シェアし、そして新しい付加価値を生み出すところであると言われます。

「特にアメニティが非常に重要なドライバーになっている」と言ったのが、アメリカの社会学会の会長も務めたシカゴ大学のテリー・ニコラス・クラーク氏です。都市はもともと産業が集積することで人が集まると考えられてきましたが、彼は都市に消費の機会が集積しているから人が集まってくるという「Consumer City Theory(消費都市理論)」を提唱しました。産業集積とクリエイティブな人材の集積が、都市の成長のドライバーとなっていると考えたのです。

多様性嗜好の消費者が東京に集まる

このような仮説を、理論モデルで再現することができるのか試みてみましょう。必要最低限の要素を含んだ仮想経済を構築したうえで、都市の集積をどの程度、説明できるのかを検証します。

企業は、産業、立地、価格、生産量を選択しながら、利潤を最大化するように行動します。消費者は、職や消費量を選択することを目指して、自由に満足度を最大化するように立地を決めていきます。各市場で需要と供給が一致しているとき、財やサービス市場も、労働市場も機能していることを前提とします。

消費者は、多様性嗜好で、バラエティに富んでいるほど嬉しいと感じます。都市では、消費の機会が非常に豊富です。都市で消費できる財・サービスの数が、東京を100とするならば、大阪や名古屋は80ぐらいに、地方都市は50ぐらいに減るので、満足度を最大化したいと思う消費者は、東京に集まることになります。

輸送費用も影響します。財・サービスを消費するために費用が掛かります。企業も生産するために人や資材を集めなければなりません。ある特定のところに集中したほうが、それぞれの効用も利潤も最大化でき、生産性が高くなります。店舗レベルの規模の経済を考えても、売上が上がれば、コストパフォーマンスが上がるため、人が集まることで、規模の経済が店舗レベルでも働きます。

さらに重要なのは、都市の有用性です。その都市が、代替可能ではないものをどれくらい提供できているか。そこにしか財・サービスが無く、そこに住まないと消費できなければ、人は集まってきます。

次に、「参入の固定費用」を考えてみます。レストランであれば、東京ディズニーランドのような巨大テーマパークと比べて固定費用は少なくて済むので、商圏は小さくてもよいです。しかし、テーマパークが固定費用をカバーするために必要な市場範囲は非常に広くなります。

「財差別化」の程度で考えると、レストランとテーマパークを比べれば、レストランのほうが財差別化の程度は小さいので、競争力を必要とする市場範囲は、レストランのほうがテーマパークよりも小さくなります。差別化の程度の高い財ほど広範囲で競争にさらされるので、市場範囲が大きくなって初めて商売が成り立つ構造となります。だから、人が都市に集まってくるというメカニズムを考えるのです。

画像を使って人の感じ方をデータ資源に

都市のバラエティがどれくらいあるのかを考えるうえで、それを測定するための指標を私たちは開発してきました。客観的な指標として「顕示選好」を調査し、人々がモノを買ったり、行動したりしたときに、自分たちの好みが顕示されたとの前提で指標を作ることで、都市の集積が説明できます。

「ウォーカビリティ・インデックス(Walkability Index)」は、その不動産の周辺にどのような環境があるのかを調べて指標化したものです。スーパーやコンビニ、郵便局や医療施設、公園や交番、クリーニングやドラッグストア、飲食やカフェ、弁当・パン屋、大規模小売店舗、さらに子育ての支援や習い事も調べています。これを総合的に指標化すると、総得点が同じでも、東京都の北区・赤羽駅と杉並区・阿佐ヶ谷駅では指標の形が随分と違ってきます。都市の環境を得点で表す指標も、ビッグデータを使うことで実現できるようになってきました。

この指標を50mグリッドで地図に色分けして表示すると、やはり東京の都心は得点が高い赤色が集中し、集積が非常に大きいと分かります。新宿駅を出発点としてJR中央線沿いの集積を見ると、やはり新宿の次の集積は吉祥寺となります。さらに、対象をファミリー層としたもの、オフィス市場としたものなども指標化しています。

従来は客観的な顕示選好に基づいて指標を作ってきましたが、最近では人間の感性や主観によって都市を評価する技術も開発しています。ここで扱うのは画像データです。2つの写真を見せて、どう感じるかを被験者に聞くことで、画像を「データ資源」に転換しようという試みです。

写真を見たときに、人は「開放的な」「親しみがある」「活気がある」「快適だ」「緑豊かだ」「落ち着いた」「安全な」「すっきりした」「生活感がある」などとその雰囲気を見て感じます。これまでに880万ぐらいのサンプルを集め、そのビッグデータをAIに学習させ、各地域に評点を与える研究を進めてきました。

画像データは「非構造化データ」と呼ばれ、そのままでは分析できません。それを数値的な情報に変換する技術が登場してきたことで、新しい「データ資源」を生成し、地域の評価が可能になりました。写真だけでは、人がどのように感じたかが分かりませんので、人の主観を引き出した結果が、画像のどのような構成によって生み出されているのかを抽出するために、機械学習を使ってスーパーコンピューターで計算します。

2つの写真を並べて、その人がどう感じるのかをキーワードを設定して聞いていきます。キーワードは「安全な」「活気がある」「緑豊かな」など色々です。人々の感性を聞き出して、AIに学習させることで、「通りたい」と思う道がどこにあるのかを色分けしてマッピングします。

「昔ながら」「安全な」「すっきりした」「明るい」「落ち着いた」といったような人々が持つ感性を、写真を見せるだけで、この人はどう思うのかを予測ができるようになります。

「居心地が良い」「住みたい」「好きな」と感じるのが、どのような地域であるのか。その地域が高得点を取っている理由を、写真を画像解析することで特徴量を抽出して予測できる技術も出てきています。

将来のオフィスや住宅市場をデータで予測

これまで紹介したインデックスを作るのに、画像データを集計して評価する方法を紹介してきましたが、これらを予測に使うこともできます。例えば「生き残るオフィス市場は、一体どこなのか」を予測することもできます。

オフィスに関するビッグデータで、1991年に6万棟のオフィスビルがありました。これらは常に再開発され変化していきます。オフィスから住宅に転用する、住宅からオフィスに転用する、高層ビルに建て替えるなど、再開発した方が、利潤が高くなるからデベロッパーは建設費をかけて再開発を行います。

このモデルを学習して、どのようなオフィスビルが生き残るのかを分析しました。6万棟のビッグデータを使い、1991年にはオフィスだったが、2005年の時点では住宅に転用したほうが利潤を多くが取れるビルが、実に1万2,000棟ぐらいあることが分かりました。それが2020年を超えてどのようになったか。データがあれば、もちろん同じ分析は可能です。

多くのオフィスビルが住宅など多用途に転用されていることも分かっています。オフィスの分布を示した地図を見ると、都市の真ん中にはバブル以前に建てられたオフィスビルが非常に多く残っており、周辺には最近になって開発されたものも多くあることが分かります。

バブル崩壊後には、オフィスビルが都心の中心部に集中するようになっています。都心と郊外、大規模と小規模などとマーケットを分けたときに都心5区(千代田、中央、港、新宿、渋谷)に入っているオフィスビルは、寿命が非常に短いことが分かってきました。つまり、早い速度で建て替えられているのです。逆に、50年経っても建て替えられずに放置されているエリアもあります。もともと力がある都心部がどんどん力をつけていく一方で、その周辺は非常に苦しい状況に追い込まれています。

では、住宅市場として生き残るのは一体どこなのか。マンションは、都市の中心部で1970年代から積極的に開発が行われてきました。1980年になると、さらに広い範囲でマンションが供給され、1990年代も同じです。

マンションはこれまで都市の郊外に、外縁部に出ていったわけですが、これから人口が減少していく状況でどうなっていくのか。未来の人口を決める合計特殊出生率はどんどん低下しています。少子高齢化が進んでいくと、一体どのようなことが起こるのかを私たちは考えなければなりません。

人口減少が進むなか、どの都市が生き残るのか

都市はどれくらい生き残ることができるのか。その中でオフィス、住宅はどのようなところが生き残るのか。それを予見していくことが重要な課題になります。

都市は「椅子取りゲーム」という捉え方もできますので、どこかに集中すれば、どこかが沈んでいくことになります。今後は人口のパイが減っていきますので、縮小する速度は速まっていきます。未来の都市は一体どうなっていくのでしょうか。

100年先、集積する都市の人口を予測すると、人口そのものがすでに減少傾向に入っており、過去の経験則を当てはめてみると、東京はさらに集積が続きます。総人口が減少するので東京の人口も減り始めますが、シェアで20%以上増加するのは東京と福岡で、この先も集積が続きます。しかし、名古屋や大阪は縮小傾向に入り、札幌とか福岡は集積が強まっていきます。

100年後には、先ほどの定義で見る都市は、非常に限定した数しか生き残らないと予測され、431ある都市が数10になってしまうと予測できます。国土全体としては東京への集中が進み、東京から離れた札幌や福岡にもう1つの拠点が生まれることが分かります。

では、人が集まる東京がこの先どうなっていくのか、神奈川、千葉、埼玉も含めて東京と定義していますが、その中でどうような変化が生じていくのか、これらについては我々の研究でも分かっていません。

全体の形が均衡した状態で全体が縮小していくと考えたときオフィスの需要も同じ形で萎んでいくのか、または高い山が1つ作られてその拠点に一段と集積が進んで周辺が狭くなっていくのか、今後研究を進めていきたいと考えています。

スピーカー

清水 千弘

一橋大学教授・麗澤大学国際総合研究機構副機構長

1967年岐阜県大垣市生まれ。東京工業大学大学院理工学研究科博士後期課程中退、東京大学大学院新領域創成科学研究科博士(環境学)。麗澤大学教授、日本大学教授、東京大学特任教授を経て現職。また、財団法人日本不動産研究所研究員、株式会社リクルート住宅総合研究所主任研究員、キャノングローバル戦略研究所主席研究員、金融庁金融研究センター特別研究官などの研究機関にも従事。専門は指数理論、ビッグデータ解析、不動産経済学。主な著書に『不動産市場分析』(単著)、『市場分析のための統計学入門』(単著)、『不動産市場の計量経済分析』(共著)、『不動産テック』(編著)、『Property Price Index』(共著)など。 マサチューセッツ工科大学不動産研究センター研究員、総務省統計委員会臨時委員を務める。米国不動産カウンセラー協会メンバー。

【コラム制作協力】有限会社エフプランニング 取締役 千葉利宏

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