経営者にいまおすすめの6冊 「文化人類学」編

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目次

グローバル化や働き方の多様化、消費志向の変化などを背景に、ビジネスの現場でもダイバーシティー(多様性)が重要視されています。ダイバーシティーの研究はさまざまな分野に及びますが、多様な文化や価値観を理解するためのヒントになるのが、「文化人類学」です。そこで今回は、人類学の入門書から、文化人類学的要素のあるエッセイ、ビジネスシーンで役立つ実用書など、おすすめの6冊を紹介します。

①『はじめての人類学』

奥野克巳著 講談社 990円

普段の思考の「外部」へと連れ出す人類学

本書は「人類学」の要諦をつかむことを目的に、人類学の代表的な学者4名にスポットを当てて解説した一冊です。著者は立教大学異文化コミュニケーション学部教授の奥野克巳氏。

いわゆる人類学と呼ばれる学問分野は、成立の背景の違いから国や地域によって名称が異なっていたり、同じ名称が別の意味で使われたりすることがあります。そこでまず1章では、近代人類学が誕生するまでの変遷を振り返りつつ、本書における人類学の定義づけを行います。

2章では、ポーランド生まれの人類学者、ブロニスワフ・マリノフスキを紹介します。マリノフスキは、長期にわたって調査対象の現地に滞在し、行事や儀礼、仕事などさまざまな出来事に参加(参与)しながら観察を行う「参与観察」という手法を編み出しました。この参与観察は、現在でも人類学において非常に重要な研究手法として受け継がれています。

マリノフスキは、社会構造を探ることが重要としながらも、数値で計測できない部分や情緒、感情などの言語化しにくい情報こそが、人々を人間たらしめていると考えました。そして、その人間の「割り切れない部分」を自分自身の言葉で表現することが、人類学の難しさであり面白さだと奥野氏は述べます。

続く3章では、フランスの人類学者であるクロード・レヴィ=ストロースを取り上げます。レヴィ=ストロースは、「構造」こそが人類に備わった普遍的なものであると主張。これは後に「構造主義」と呼ばれる思想に発展しました。

レヴィ=ストロースの功績として、1962年に発表した著書「野生の思考」があります。野生の思考とは、人間の感覚を重視し、それを基に世界を捉えようという思考法です。私たちの日々の生活の中でも、直感によって物事を捉え、判断することでよい結果を招くことがあります。それは、現代でも私たちの中で野生の思考が働いているからだと奥野氏は説きます。

4章では、フランツ・ボアズが立ち上げた米国の人類学に言及。ドイツからの移民であったボアズは、それぞれの地域や国で培われた文化に優劣はないとする「文化相対主義」という概念を生み出しました。

5章は現代の人類学をテーマに、英国の社会人類学者、ティム・インゴルドを紹介します。インゴルドは、人間を生物学的でありながらも同時に社会的な存在であるという「生物社会的存在」と捉えました。そして、人類学とは人々「について」語るものではなく、人々「とともに」研究することであり、人類学の目的は「人間の生そのものと会話すること」だと宣言しました。

終章で奥野氏は、人類学は私たちを普段の思考の「外部」へと連れ出してくれるものだと総括。頭の中だけで考えを組み立てるのではなく、実際に出かけて自分の感覚を総動員して探ることが、人類学の第一歩であると提示しました。

②『海外で結果を出す人は、「異文化」を言い訳にしない』

グロービス著 高橋亨執筆 英治出版 1,980円

文化人類学は「自分とは違う人」を理解するのにも役立つ

本書は、異文化を言い訳にせず、海外で結果を出すための知識とスキルをまとめたものです。

海外ビジネスを進めるうえで、「この国ではこうだから…」といった類いの言葉を聞いたことはないでしょうか。本書を執筆した高橋亨氏は、海外ビジネスの真の難所は、ビジネス上の問題を異文化の問題に取り違えてしまい、問題の本質を見失うことであると指摘します。海外に赴任したビジネスパーソンはビジネスがうまくいかない理由を、その国の特殊性(異文化)のせいにする傾向にあるが、実際はそうではないことが多いといいます。

この取り違えのポイントになるのが、日本での仕事と海外での仕事の間に立ちはだかる4つの壁です。その壁とは、まずその国や地域の経済が、どんな発達段階にあるかにより、ビジネスの前提や進め方が異なるという「発展段階」の違いによる壁。2つ目は、海外拠点ではビジネスの守備範囲が異なるという「ビジネス領域」の違いによる壁。3つ目は、日本から海外へ派遣されるビジネスパーソンによくある「組織での役割」の違いによる壁。そして前述した3つの壁をすべて検討したうえで考慮するのが、「文化」の違いによる壁です。

これらの壁を乗り越えるために必要なのが、海外で求められる水準の「ビジネススキル」と「リーダーシップ」です。さらに、これらのスキルを継続して磨いていくためのベースになるのが、「自己理解」です。本書では、スキル不足により海外で起こりやすい典型的な失敗事例やその要因、解決のポイントなどを具体的に解説していきます。

たとえば、総合商社のベルギーオフィスに駐在していたあるビジネスパーソンが、2つの部署から同じ顧客に営業をかけてしまったと現地スタッフから相談を受けました。この問題を解決するべく約1カ月かけて対応策を練りましたが、上司に「その問題は今取り上げるべき課題ではない」と一蹴されます。

異国の地ではとくに、未知の問題が降りかかると、何でも手をつけてしまいがちです。しかし、日本の本社よりリソースが十分に確保できない海外拠点では、自社にとって優先すべきイシュー(真の課題)を見極めるスキルが一層求められるのです。

本書は「海外で働くうえで」という趣旨で書かれていますが、海外に限らず、異世代や異業種など、自分と前提が異なる人とビジネスをしていくうえでも参考になる内容です。

③『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』

ブレイディみかこ著 新潮社 1,485円

移民や貧困、イギリスの現地中学校に見る人類学

著者は保育士でライター、コラムニストのブレイディみかこ氏。本書は、英国・ブライトン在住のブレイディ氏とアイルランド人の配偶者の間に生まれた「息子」が、少し前まで学力的に最下層であった「元・底辺中学校」へ入学してから最初の1年半を描いたノンフィクションエッセイです。

複雑な現代社会を反映するように、「元・底辺中学校」でのスクールライフは、移民や貧困などの社会問題をダイレクトに抱えています。そんな中、思春期の子どもたちは、日々迷い、ともに考えながら成長していきます。本書では「息子」が体験する世界の縮図のような日常が、ブレイディ氏の高い筆力でつづられます。

たとえば、あるときハンガリー移民を両親に持つダニエルと、貧困家庭で育つティムがけんかをして、「息子」はその2人の板挟みになりました。ダニエルはティムを「貧乏人」と笑い、ティムはダニエルに人種差別的な発言をします。そこで教員は、ティムのほうにより厳しい罰を与えました。英国では、人種差別が違法になるからです。しかし「息子」は、「貧乏な人を差別しても合法だなんておかしい」と訴えます。ブレイディ氏は、自身の経験を振り返りながら、法律が必ずしも正しいわけではないことや、どんなことでも人を傷つけるのはよくないことなどを「息子」と語り合います。

本書は、英国の教育事情から学ぶべきヒントが多いのも特徴です。とくに注目したいのは、英国の公立中学教育で導入が義務付けられているシティズンシップ・エデュケーション(政治や公民の教育)で、「エンパシー」が取り上げられていることです。

エンパシーとは、英語の定型表現では「自分で誰かの靴を履いてみること」とされ、要は「他人の立場に立ってみる」という意味です。他人に同情する「シンパシー」とは異なり、エンパシーは自分と違う理念や信念を持つ人が、何を考えているのか想像する能力のことを指します。EU離脱や移民、階級の上下や貧富の差、高齢者と若年層など、あらゆる分断と対立が深刻化している英国において、11歳の子どもたちが、エンパシーの重要さを学んでいるというのは特筆に値するとブレイディ氏は述べます。

数々の文学賞を受賞しベストセラーとなった本書は、多様性の時代にこれからの社会のあり方を探るための示唆を与えてくれるでしょう。

④『文化人類学のエッセンス 世界をみる/変える』

春日直樹・竹沢尚一郎 編集 有斐閣 2,200円

はじめて文化人類学を学ぶ人を対象に編集された入門書。貧困や自然災害、アートや政治、SNSなど14のテーマを具体例とともに取り上げ、さまざまな出来事や制度の、人類学的な見方を解説する。

⑤『はみだしの人類学 ともに生きる方法』

松村圭一郎著 NHK出版 737円

どうしたら多様な「わたし」や「わたしたち」がともに生きることができるのか。その鍵は、「つながり」と「はみだし」にある。累計50万部突破した「学びのきほん」シリーズから、文化人類学のエッセンスに触れられる1冊。

⑥『異文化理解力 相手と自分の真意がわかる ビジネスパーソン必須の教養』

エリン・メイヤー著、田岡恵監訳、樋口武志訳 英治出版 1,980円

異文化マネジメントの第一人者である著者が開発した異文化理解ツール「カルチャー・マップ」を紹介。育った環境や価値観が異なる人と働くときに、互いを理解し、確かな信頼を築くための技術を解く。

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