東京の都心5区の今後の展開
~第1回アーバン・プロファイル
目次
都心プライムエリアの商業地にある不動産の価値は簡単に毀損されないと言われてきた。不動産の価値が決まる大きな要素として、立地条件すなわちエリアの特性が重要となる。それでは、東京都心プライムエリア、具体的には都心5区の現在位置はどうなっているのか。東京23区のなかで、都心5区がそれぞれどれだけの都市力と活動の実績をもち、そしてこれからどうなるかについて、3回の連載で考えてみる。
第一回の連載では、都心の5区それぞれがどのようなアーバン・プロファイルをもっているのかを理解するために、まず初めに、都心5区の都市力を森記念財団都市戦略研究所が実施している「都市特性調査」を用いて分析してみる。次に、各エリアの人口と地価の動向である。2020年初頭から世界を席巻した新型コロナによるパンデミックはほぼ3年にわたって経済、産業、社会活動のあらゆる分野にわたって試練とそれに伴う変革を求めることになった。とりわけ21世紀に入ってから重要性の増してきた大都市の都心の存在は、パンデミック発生前までの20年間近くにわたって飛躍的に増大してきていた。ではパンデミックが収束するなかで、現在、どのような兆しがみえてきているのか、それを人口の動向、地価の動向から分析する。
第二回の連載では、都心5区に立地するオフィスの状況を分析する。第三回の連載では、現在、東京の都心で行われている大規模開発がなぜこのレベルで進行しているのかを分析する。
著者
市川 宏雄いちかわ ひろお
明治大学名誉教授
帝京大学特任教授
一般社団法人 大都市政策研究機構・理事長
特定非営利活動法人 日本危機管理士機構・理事長
東京の本郷に1947年に生まれ育つ。都立小石川高校、早稲田大学理工学部建築学科、同大学院修士課程、博士課程(都市計画)を経て、カナダ政府留学生として、カナダ都市計画の権威であるウォータールー大学大学院博士課程(都市地域計画)を修了(Ph.D.)。一級建築士でもある。
ODAのシンクタンク(財)国際開発センターなどを経て、富士総合研究所(現、みずほリサーチ&テクノロジー)主席研究員の後、1997年に明治大学政治経済学部教授(都市政策)。都市工学出身でありながら、政治学科で都市政策の講座を担当するという、日本では数少ない学際分野の実践者。2004年から明治大学公共政策大学院ガバナンス研究科長、ならびにこの間に明治大学専門職大学院長、明治大学危機管理研究センター所長を歴任。
現在は、日本危機管理防災学会・会長、日本テレワーク学会・会長、大都市政策研究機構・理事長、日本危機管理士機構・理事長、森記念財団都市戦略研究所・業務理事、町田市・未来づくり研究所長、Steering Board Member of Future of Urban Development and Services Committee, World Economic Forum(ダボス会議)in Switzerlandなど、要職多数。
専門とする政策テーマ:
大都市政策(都心、都市圏)、次世代構想、災害と危機管理、世界都市ランキング、テレワーク、PFI
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東京の都心の拠点として大手町・丸の内・有楽町、赤坂・六本木・虎ノ門、日本橋・八重洲・京橋、新宿、渋谷などがビジネス・商業センターとして存在し、それらは東京駅から6キロ圏内という至近のエリアに集積する。これは世界に他に例がないユニークな多拠点都市構造となっている。そして、これらの大規模拠点の隙間に新橋・汐留、浜松町・田町、麹町、四谷、神田、秋葉原などの多くのサブエリアが存在している。
1.都心5区の都市力とは
(1)東京の都市活力創出の場所
現在、東京都は全国との比較で、上場企業の53.4%、販売卸売額の43.4%、預金残高の37.1%を占めており、経済活動における日本の司令塔であることが分かる(2024年1月時点)。面積規模で0.6%、人口で11.1%であるから、その集積の規模は群を抜いている。ちなみに、外国法人数は70.1%で、もっぱら東京志向であることが分かる。
しかし、その活動の拠点は実は東京都全体ではなく、23区がほとんどであり、さらに言えば都心5区がその主体的な場となっている。23区の中での都心5区の総生産は2021年の経済センサスで49.1%と約半分を占めるが、企業の付加価値額に絞れば84.0%にもなる。付加価値額とは、企業が事業活動によって生み出した価値を表した数値(売上高から外部で調達した価格を差し引く)であるが、従業員のシェアは55.2%と23区の約半数強であるから、都心5区にはより多くの収益を生む企業とそれを生みだす人々が集まっていることが分かる。圧倒的な業務機能・商業機能の集積があるのである。
1-1.都心5区の歴史的形成
日本橋を中心とした江戸の都心は、明治維新で銀座も近代化を図り、政府の払い下げで丸の内地区に一丁ロンドンを作り東京のビジネスセンターへと変貌する。都心5区のうち、千代田区にはこのビジネスセンターの出発点である丸の内があり、それが北に大手町、南に有楽町と連綿として連なり、さらに日比谷エリアに向かっている。また麹町エリア、神田エリアは中小規模のオフィスが多く立ち並んでいる。中央区は商業活動の拠点として銀座があるが、ビジネスセンターとして、日本橋エリア、八重洲・京橋エリアで開発が進行している。これに対して港区は面積も広く、政府機能が集まる霞ヶ関に取り付く形で虎ノ門があり、赤坂、六本木が新たなビジネスセンターとして東京オリンピック以来開発が進んだ。東京湾側の新橋、浜松町、田町、品川の山手線沿いはそれぞれ有力なサブセンターとして力を付けてきている。
この都心3区に対して、新宿と渋谷はターミナルを軸として発展してきた街である。新宿のビジネスセンターは1970年代にいち早く始まった西新宿の淀橋浄水場の跡地再開発で出現した超高層ビル街であり、東京の都心における大規模再開発の走りであった。渋谷はこれに遅れてバブル経済崩壊後の21世紀になっての大規模再開発の流れのなかで集約的な業務・商業の集積を生みだしてきている。しかし、そのきっかけは1964年の東京オリンピックの開催であった。青山通りの拡幅で都心とのアクセスが強まり、代々木のオリンピック競技場も建設されて人の流れが出来た。公園通りに若者が集まる街に変貌し、1969年のNHKの宇田川町移転をきっかけに情報産業の集積も始まり、谷状の地形もあいまって渋谷ビットバレーと称されるようになった。
このように、都心5区がそれぞれの特徴をもって現在の東京の活力を先導的に生みだしているのは、明治期以来の、そしてその後の歴史的変遷から説明がつくのである。
1-2.魅力と活力のある拠点を形成
『「未来の東京戦略」version up 2024 (東京都)』では、これらの拠点が世界から人とモノを集め、魅力と活力溢れるまちづくりを行っていくエンジンであることを描いている。いくつかの拠点について述べれば、大手町・丸の内エリアは豊かな緑と美しい景観を備えた風格ある国際的なビジネス拠点であり、超高層ビルの整備にあわせた大規模広場や地下歩行者ネットワークの整備を進めている。有楽町エリアは多くの機能が融合し、MICE拠点も備えた国際ビジネス、都市観光拠点となっており、旧都庁舎跡地を活用して公民連携による回遊性の高いまちづくりを進めている。
日本橋・八重洲エリアでは、日本橋川の水辺環境や舟運を生かした国際的な商業・観光エリアとして整備を進め、首都高の日本橋地下化に併せた日本橋川沿いの水辺に顔を向けたまちづくりの具体化を図っている。六本木・虎ノ門エリアは、国際色豊かな業務、商業機能や外国人向け生活支援施設等が充実した国際ビジネス拠点となっており、駅を中心とした交通結節機能の強化が図られている。渋谷エリアでは、情報産業の集積とファッションやエンターテイメントなど、先進的な文化の発信拠点としての力を強めており、駅機能の強化にあわせたバリアフリー動線や歩行者デッキの整備などを進めている。
これらの主要な拠点に加えて、新宿、品川、神宮外苑、日比谷、臨海部などの新たな拠点もこれからそれぞれ個性的なまちづくりを進めて都心のパワーアップを図っていく。
(2)都心5区の都市特性
それぞれ多様な個性をもつ都心5区であるが、都市活力の視点からみれば異なった特徴もあれば、似たような側面もある。森記念財団都市戦略研究所が毎年実施している日本の都市特性調査(JPC)では、都市の持つ力を経済・ビジネス、研究・開発、文化・交流、生活・居住、環境、交通・アクセスの6種類の都市機能から評価を行っている。
経済・ビジネス分野は、経済活動、雇用・人材、人材の多様性、ビジネスの活力、ビジネス環境、財政の6指標グループで評価しているが、港区が435.8とトップのスコアでこれに千代田区が417.8と2位で続くが、新宿区は286.9と港区の6割5分程度の規模となる。
研究・開発分野は研究集積と研究開発成果の2つの指標グループで評価しているが、大学の多い港区、千代田区の評価が高く中央区、渋谷区はかなりの遅れをとっている。
文化・交流分野はハード資源、ソフト資源、受入環境、交流実績、発信実績の5つの指標グループで評価しているが、千代田区と港区がスコア218とほぼ互角で、他の3区も悪いスコアではないが、このトップ2区の6~7割程度のスコアとなっている。トップ2区は交流実績の指標グループのなかの「国際会議・展示会開催件数」が際立っている。
生活・居住分野はこの都市特性評価で、経済・ビジネス分野とともに評価の比重が高い分野である。指標グループは安全・安心、健康・医療、育児・教育、市民生活・福祉、居住環境、生活利便施設、生活の余裕度という7種類があり、広範囲の多様な評価を行っているが、5区ともにおおむね高い評価になっている。それでもトップの中央区と5位の新宿区は1.3倍のスコア差がある。中央区は生活利便施設の指標グループの評価のなかで、「小売店事業所密度」、「飲食店舗密度」が高い数値となっている。
環境分野は温暖化対策、廃棄物、自然環境、気候、快適性の4つの指標グループで評価している。中央区が他の区に対してやや抜きん出ているのは、快適性の指標グループの中の「街路の清潔さ」と「快適性の満足度」が他の区よりも勝っていることにある。なお、この2つの指標は住民アンケートの結果から得られている。
交通・アクセス分野は都市内交通、都市外アクセス、移動の容易性の3つの指標グループで評価している。東京の都心部はJR山手線・中央線、さらに地下鉄網がきめ細かく整備されており、また新幹線の発着駅の東京駅、品川駅があるため、都市内交通、都市外交通とも至便である。このため、都心5区に大きな差はない。
(3)都心5区の財政力
3-1.23区の中でのシェア
都心5区の人口は1,091,731人(2024年1月1日時点)であるが、これは23区の人口の11.3%にあたる。都心は伝統的に商業、業務地区であったので、居住者という視点で見ればその数値が23区の1割強でしかないということに違和感はない。ただ、時間経緯とともに人口が増えていることに注意が必要である。2015年には10.8%であったシェアが、2024年までの十年間で毎年徐々に人口が増加して0.5%増の11.3%となったのである。2009年のリーマンショック以降続く都心回帰の流れの中で、都心5区に確実に、人は増えているのである。
では、この1割強の人口シェアを持つこのエリアはどの位の財政力を持つのであろうか。人口比で11.3%の都心5区は、2016年に23区の地域内総生産の31.9%のシェアであったのが、2021年には49.1%で約半分近くを占めるに至っている。また、多くの大企業があることによって、付加価値額では2016年の45.2%から2021年の84.0%にはね上がっている。
すなわち、人口では23区の1割強でしかないが、総生産額では5割弱を、付加価値額では8割強を都心5区は生み出しているのである。
3-2. 異なる財政力
それでは都心5区それぞれの財政力はどのくらい異なるのか。
経済センサス2021では付加価値額では、港区が64兆5,549億円で2位の千代田区の29兆973億円を2倍以上も上回っている。3位の中央区は16兆540億円であるが、新宿区、渋谷区はその半分以下と小さい。ちなみに、日本全体の付加価値額は336兆2,595億円となっているので、そのうち東京都心5区で37.3%を生みだしていることになる。
なお、この2021年は特異年で、それ以前の経済センサス2016では、千代田区が30兆930億円、港区が15兆1,784億円と港区が半分であったが、2021年では港区が突出した数値となった。これは年金運用などの関連法人が対象事業所に含まれていることから、積立金の運用損益(含み損益を含む)が計上されたものとみられる。いずれにしろ、都心5区のなかで、千代田区、港区が他の区に抜きん出ていることが分かる。
このことは地域内総支出額、従業員数でも同様で、千代田区と港区が他の3区に比べて4割から5割多い。
2.人口の動向
(1)都心回帰で増加する人口
1-1. コロナパンデミック前後の人口の変化
新型コロナ発生前の2020年1月には、東京都の人口は14,016,160人となり、過去初めて1千4百万人の大台を超していた。その後のパンデミック進行の状況下であっても2020年中には上昇を続けたが、その年末に向かって減少が始まったものの、2021年1月段階では14,036,721人と1年前の人口を下回ることはなかった。しかしそれ以降、減少傾向となり、2021年11月から2022年4月まで1千4百万人を切ることになる。
この時期、人々が地方移住などして、東京の人口はこれからは増えない、一極集中は終焉するのだと多くのマスコミなどが喧伝していた時期である。ところが、コロナ禍によって減少した東京都の人口は、2022年後半には増加に転じ、年間で4万6,732人が増加し、2023年には年間7万237人の増加となり、すでにコロナ禍前を上回る水準にまで回復し、2024年9月には14,183,261人となった。
コロナ禍前と後の東京都の年間人口増減数をみると、
2019年: 9万4,193人(日本人6万8,547人、外国人2万5,646人)
2023年: 7万 237人(日本人3,933人、外国人6万6,304人)
となっている。日本人の社会増減でみると、2019年に8万7,308人増であったが、自然減が1万8,761人で、人口増減数は6万8,547人であった。その後、コロナ禍で減少していくが、2023年には5万5,164人まで回復した。しかし、自然増減が5万1,231人減であったため、合計では3,933人と極めて小さい数字である。実は、この年の人口増7万 237人は、外国人の6万6,304人が大きく寄与しているのである。
日本人の人口増減は、出生数の大幅減と、死亡数の大幅増が理由となって増加が小さいのである。一方、外国人の社会増減は、コロナ禍の2020~21年が3万人ほどのマイナスであったのが、2022~23年には各年6万人超の大幅プラスへと転じた。
2020年まで最も転入超過数が多かった東京23区は、2021年にいったん1万4,828人の転出超過に陥ったものの、2023年には5万3,899人の転入超過と新型コロナ流行前2019年の8割強にまで回復した。また、人口数ではこうした社会増減に加えて自然増減があるので、区部全体では、2021年に総数で4万9,891人の減少を記録した。しかし、2022年に4万6,339人の大幅増加に転じ、上記したように、2023年には7万3,813人の増加となった。日本人が1万6,393人増、外国人が5万7,420人増と、外国人の口増加がはるかに大きかったことが分かる。
区別には、人口総数ですべての区が増加しており、多い順に江東区(6,226人増)、大田区(5,209人増)、台東区(4,909人増)、港区(4,686人増)、板橋区(4,696人増)、墨田区(4,570人増)であった。
1-2. 過去10年間の都心5区の人口推移
都心5区の人口の推移を2015年から2024年までの10年間でみてみると、2015年に980,266人だった人口は2024年には1,091,731人と1.11倍増加している。5区ともそれほど増加の推移に大きな差はないが、伸びが一番大きいのは中央区の1.28倍、小さいのは渋谷区の1.06倍となっている。10年間のなかで、コロナ禍の2022年に対前年で6,686人の減少があったが、他の年はすべて人口増加である。この2022年においても、中央区は唯一増加であった。
この10年間の23区全体の人口増は540,426人であったのに対して、都心5区は111,465人であったので、シェアは20.6%を占めている。また、2024年の23区の人口は9,643,024人で都心5区の人口は1,091,731人、シェアは11.3%となる。このことから分かるのは、過去10年間での東京23区の人口増加では、都心5区の寄与が大きいことである。東京における都心回帰の状況は数字でしっかり示されていることになる。
(2)増加する外国人
2-1. 人口増加の推移
東京都の外国人人口の推移をみると、2013年の38万5,195人から2020年の57万7,329人と増加を続けてきた。コロナ禍の2022年に51万7,881人まで落ち込んだが、これ以降の2年間で約13万人急増して2024年には64万7,416人となった。2023、24年の増加率はいずれも12%前後で、全人口に占める外国人割合も2.9%(2013年)から4.7%(2024年)に上昇した。これはいずれも全国を大きく上回る数値となっている。また、全国の外国人人口に占める東京都の割合(2024年)も19.5%(64万7416人/332万3374人)であり、東京に大きく集積している状況が分かる。
区別には、人口総数ですべての区が増加しており、多い順に江東区(6,226人増)、大田区(5,209人増)、台東区(4,909人増)、港区(4,686人増)、板橋区(4,696人増)、墨田区(4,570人増)であった。このうち江東区、大田区、板橋区は外国人の大幅増が総数の増加に寄与している。外国人のみの増減でみると、江戸川区(4,472人増)、板橋区(3,979人増)、豊島区(3,799人増)、新宿区(3,618人増)、江東区(3,615人増)、大田区(3,363人)の順で多くなっている。
2-2. 都心の外国人数
東京23区では人口に占める外国人割合が過去11年間で、2.9%(2013年)から4.7%(2024年)に上昇し、約54.3万人になっている。2024年時点では、中国が25.7万人で外国人人口の約4割、韓国8.8万人(13.6%)で、ベトナムが4.4万人(6.8%)で続くが、ベトナムは2018年にフィリピンを上回り3位となっている。
外国人の顕著な人口増は、2022年は新宿区、豊島区、江東区でみられたが、2023年には江戸川区、板橋区、大田区などのエリアにも広がっている。都心エリアの人口増加は中国と韓国国籍の富裕層が牽引し、南アジア、東南アジア地域は城北・城東エリアでの伸びが顕著となっている。
都心5区での2017年から2024年までの7年間の変化をみると、23区の増加率である32.2%を超すのは、5区のうち2区のみで千代田区が44.8%、港区が67.9%と高い。これに対して新宿区は6.5%と最も低いが、外国人数で港区の21,278人の倍以上の43,897人と4万人を超すというボリュームがある。これは23区のなかで2位の江戸川区(42,918人)を押さえて23区のなかでトップである。
とりわけ、都心エリアでは急増する中国人が目立ち、文京区(109.6%増)、中央区(105.2%増)、千代田区(91.3%増)、渋谷区(85.6%増)となっている。ほかの区では、江戸川区、足立区などで増えるベトナム人、新宿区・豊島区・大田区・杉並区・中野区で増えるネパール人、新宿区、豊島区、北区などに多く住むミャンマー人、江戸川区、江東区を中心に徐々に広がるインド人が特徴となっている。唯一、新宿区では韓国人が人口を大きく減らしている。
3.地価の動向
(1)コロナ禍を経た地価の回復
2020年2月に始まったコロナ禍を契機に、地価はそれまでの上昇基調が止まり、下降をし始めた。東京都区部でみると、2021年に住宅地0.5%、商業地2.1%の下落となった。しかし新型コロナの流行が収まった3年後の2024年には住宅地で5.4%、商業地で7.0%の上昇へとV字回復している。リーマンショック(2009年)の影響による都区部の地価下落が5年ほど続いたことに比べると、新型コロナの影響は比較的軽微だったのである。
東京都区部の地価について、2011年を100とする平均価格指数でみると2024年は住宅地で144.4、商業地は163.4と伸びている。すでに、住宅地、商業地ともコロナ禍前の2020年の数値を上回っていることが分かる。
地域別にみてみると、商業地では2016年頃から千代田区、中央区、港区と渋谷区では対前年変動率が7%を超え、区平均が4.8%のなかで地価上昇を牽引した。2019年頃からになると11.0%の台東区を筆頭に、江東区、墨田区の城東エリア、荒川区、北区などの城北エリアにも地価上昇が波及した。また、コロナ禍明けの2024年には、台東区を筆頭に、豊島区、荒川区の城北エリア、及び中野区、杉並区の中央線沿線エリアが上昇している。
(2)都心5区の商業地の状況
こうした動きのなかで、都心5区の商業地の地価はどうであったか。
地価変動率については、コロナ禍の前、時中、事後で大きな変化がでている。2015年から2020年の5年間では都心5区全体で大きく伸びていたが、中央区は2016年に対前年変動率が8%を超え、続いて2017年に渋谷区、2019年に港区が8%を超し、新型コロナ流行前の2020年には、千代田区を除く4区で8%を超すという高水準に達していた。
ところが、コロナ禍の2021年にはすべての区でマイナスとなる。すなわち地価上昇のトレンドが突然に崩れ去るのである。全世界的にパンデミックが伝播する中で、経済の低迷も含めて先行きに不透明感が広がった時期である。過去の1990年代後半のバブル経済崩壊、2009年のリーマンショックによる地価の大幅下落を考えれば、このパンデミックで、どの程度まで、そしてどのくらいの期間にわたって、価格の下落が発生するのかが大きく懸念されることとなった。
しかしながら、その杞憂は過去2回の下落幅にくらべれば、それほど悲観するものではなかったことが遠からず判明するのである。
現在の地価の動向は、コロナ禍前の伸びに再び戻る勢いであることが2023年から2024年の変動率から推察することが出来る。千代田区は2.1%→7.5%、中央区は2.1%→5.8%、港区は2.8%→6.5%、新宿区は3.1→7.0%、渋谷区は2.6%→7.3%とほぼ同様な伸びとなった。仮にコロナ禍前の2020年1月時点の水準に戻るのであれば、千代田区7.7、中央区8.3、港区10.1、新宿区8.1、渋谷区8.9と7%台後半から10%台前半の水準になる可能性がある。
おわりに
都心5区それぞれのアーバン・プロファイルを、都市力、人口の動向、地価の動向からみてきた。都心5区の都市力を、6分野の都市機能により評価される都市特性、付加価値額、地域総生産から分析し、東京の都市活力創出の場所であることを確かめた。また、コロナ禍を挟んだ人口の推移と動向から、都心回帰の進行と外国人居住者の増加を明らかにした。地価はコロナ禍に下落を経験した後に回復に向かうとともに、都心5区の商業地は一時的に若干の下落はあったが安定的な上昇をしていることが明らかになった。
都心5区のなかで、千代田区と港区が先導的に東京の都市活動を引っ張ってきた事実と現実はあるが、中央区、新宿区、渋谷区もそれぞれが異なる都市機能と魅力を提供することで、東京の都心エリアの総合力を担っていることが改めて確認された。
<データ出所>
- 都市特性データ 森記念財団都市戦略研究所「JPC-2024」DATA BOOK
- 人口データ 東京都総務局「区市町村別国籍・地域別外国人人口(上位10か国・地域)」(各年1月1日時点)
- 付加価値額 経済産業省・内閣官房「RESAS(地域経済分析システム)」における「付加価値額(企業単位)」(出典:総務省・経済産業省「経済センサス-活動調査」再編加工)〈https://resas.go.jp/〉(2024年04月08日閲覧)
- 地域内総支出 経済産業省・内閣官房「RESAS(地域経済分析システム)」における「総支出(地域内ベース)」(出典:環境省「地域産業連関表」「地域経済計算」)〈https://resas.go.jp/〉(2024年04月08日閲覧)
- 従業者数 総務省統計局「経済センサス-活動調査結果」における「産業(小分類)別従業者数-全国、都道府県、市区町村」に掲載の「従業者数」(A~R 全産業(S公務を除く)) 総務省統計局「令和3 年経済センサス - 活動調査結果」〈https://www.e-stat.go.jp/〉(2024年02月01日閲覧)