“頭のいい人”になるために必要な
「5つの思考法」
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目次
71万部を超える大ヒットとなった書籍『頭のいい人が話す前に考えていること』(ダイヤモンド社)。“頭のいい人”というドキッとするタイトルですが、中身を読むと、仕事で成果を出せる人の思考とテクニックが、実にわかりやすく書かれています。「頭のいい人」とはどういう人であり、そうなるために思考の質をどのように高めていけばいいのか、著者の安達裕哉氏が提唱されている5つの思考法について伺いました。また、地方創生を掲げ、人手不足に悩む地方の中小企業に対して、人と生成AIの協働をサポートする事業を2023年に新たに始められました。その狙いや概要についても聞きました。
頭のいい人は他者の思考を読み、
他者を動かす「社会的知性」を持つ
頭のよさは、「学校的知性」と「社会的知性」の2つに分けられると考えています。学校的知性とは、数字で測れるIQや記憶力、学力など、1人で完結する力のこと。一方、社会的知性は、他者の思考を読み、他者の信頼を得て、他者を動かす能力のことです。ビジネスにおいて大切になるのは、言うまでもなく社会的知性です。
この社会的知性は数値で測ることはできず、相対的なものです。なので、Aさんが「あの人は頭がいい」と思ったとしても、Bさんは「えっ、あの人全然ダメだよ」と思うこともあります。このように頭のよさを決めるのは他者であり、頭のよさに明確な基準はありません。あえて言うなら、頭がいいと認識している人が多ければ多いほど、その人は「頭のいい人」なのです。
そんな社会的知性に優れた頭のいい人になるために、拙著では思考を深める5つの方法を紹介しています。
1つめが「客観視」の思考法。これは、頭がよくなるというよりも、頭が悪そうに見られないための思考法です。何か新しい方法を修得するよりも、今やってしまっている悪癖をやめるほうが簡単でしょう。
たとえば、根拠が薄い、あるいは少ない情報に依存している話を聞くと、「浅い内容だ」と感じます。浅い話しかできない人は信用されず、信用されていない人が、頭がいいと思われることはありません。
根拠が薄いのに、それに依存して話してしまうのは、自分に何らかの認知バイアスがあるから。認知バイアスをゼロにすることはできませんが、認知バイアスに強く影響されないように意識することはできます。
自分が得た情報をすぐに信じることなく、真逆の情報や異なる意見がないか探したり、関係する統計データを調べたりする。こうした客観視ができれば、頭が悪そうには見えなくなります。
理解を深める「整理の思考法」
2つめが「整理」の思考法。頭のいい人が、難しい内容をわかりやすく話せるのはなぜでしょうか。それは、難しい内容を理解するのにしっかりと時間を使っているからです。話のわかりやすさはどれだけ深く理解できているかで決まり、理解の深度はどれだけ分けて整理できているかで決まります。これとこれは同じ、これとこれは違うといった判断をすることが整理であり、理解です。「理解している」は「整理されている」と同義なのです。
また、事実と意見を混同しないことも大事になります。事実とは証明可能な客観的な事柄。証明のできない主観的な事柄が感想で、主観的な感想から出発し、他者も納得できるような根拠を持ちあわせたものが意見です。実体験を含め、反対意見やデータに照らし合わせながら考えを深めると「深い意見」になります。
3つめが「傾聴」の思考法。「聞く」と「ちゃんと聞く」の間には大きな溝があり、聞いているふりをするのは簡単ですが、ちゃんと聞くのは意外に難しい。新米コンサルタントがクライアントの社長にヒアリングをして報告書を作ると、社長が話したことがそのまま羅列してあるだけの報告書になります。社長が「業績がよくなっている」と言ったら、「その業績とは何を指していますか」と聞かないと、具体的なことが理解できません。私も駆け出しの頃、「理解できていないのに、なぜ黙っていた。なぜ質問しなかった」と先輩からよく言われました。理解を深めるためには、ちゃんと聞く傾聴が不可欠なのです。
うなずく、相づちを入れる、相手が言ったことを繰り返すなどの聞くテクニックというのは、実は、聞いているふりをするテクニックに過ぎません。そんなテクニックをいくら駆使しても、本質にはたどり着けません。もっと相手の話を理解することに集中すべきで、理解するためには、整理する。つまり、相手の話を整理しながら正確に聞くことが、本質を理解することにつながります。
「仮説を立てる」と相手が質問に答えやすくなる
4つめが「質問」の思考法。コミュニケーションの醍醐味が何かと言えば、相手と一緒に思考を掘り下げることで、1人では気づかなかったことに気づけることではないでしょうか。そのために重要になるのが質問です。
そして、よい質問をするためには、仮説を立てることが重要になります。質問の「質」は、質問する前に仮説をどれだけ立てられるかで決まると言っても過言ではないでしょう。「仮説を立てる」というと、何か難しいことのように思えるかもしれませんが、相手が答えやすい質問を考えることなので誰にでもできます。
「例えば、こういうケースですか」といろいろな事例を挙げながら質問すれば、相手も答えやすくなります。答える内容も具体的になります。逆に、答える範囲が広い質問をすると相手は何から答えていいのかわかりません。あらかじめ要素分解して具体的な質問を考えるのが、仮説を立てるということで、実際に質問することで仮説検証することができます。5つの思考法の中でも、「質問」の思考法は難易度が高いのです。「いい質問ですね」と言われたら、それは頭のいい人と認められた証かもしれません。
最後、5つめが「言語化」の思考法です。自分が考え出したことをどう表現するか、言葉にするか、言語化の質が、アウトプットの質を決めます。ただ、これは正直、かなり難しい。なぜなら、単に言葉にするだけでは相手の印象に残らず、相手を動かすことにつながらないから。「それ面白いね」と思ってもらえる「言い得て妙」な表現こそが言語化の正体です。
したがって、言語化力を上げようと思ったら、文章術の本を読むのではなく、アイデア発想術の本を読むほうが役立ちます。お薦めは古典的名著『アイデアのつくり方』(ジェームス・W・ヤング著、CCCメディアハウス刊)です。言語化力は知識量も必要となるので一朝一夕には上がりません。しかし、自社のパーパスを決める際にも、中期経営計画を作る際にも、言語化の質が問われます。まずは、人に会ったら挨拶をするように、名前のないものを見つけたら名前を付ける。それを繰り返すことで、自然と言語化する思考の質が高まっていきます。ぜひ試してみてください。
「頭のいい」質問で生成AIが人手不足を補完
2022年11月に「ChatGPT」が一般に公開されて以後、生成AIをビジネスに活用することに注目が集まっています。ただ、現在のAIは、まだそれほど「頭がいい」わけではなく、大量の情報の中から最大公約数を見つけ出しているに過ぎません。なので、AIへの質問が的を射ておらず、薄く広い質問だと、答えも薄く広い一般論になり、役に立ちません。逆に、的を絞り、より具体的で濃い質問ができれば、役立つ答えが返ってきます。AIは私たちの鏡なのです。
ですから、うまく使えばAIをビジネスに活用することができます。現在、地方の企業はどこも人手不足に悩んでいるので、AIでアシストできることは、どんどんAIにやってもらいましょうという支援サービスを、私は2023年に始めました。議事録も、プレゼンのスライドも、顧客への提案書もAIに作ってもらう。
ただ、AIに指示や質問をすることを「プロンプト」と言いますが、これがやはり難しい。自分たちの目的を明確にして、その目的を実現するための質問を重ねていかないとAIが有効な答えを返してくれません。裏を返せば、そこさえうまくできれば、AIは地方企業の人手不足を補う存在になり得ます。人間とAIは相互に補完できる関係であり、一緒に協働することは可能です。
私たちはさらに、経営理念やビジョンの構築から、その実現に向けての人とAIの協働設計、目標達成に向けた実行支援まで行っています。
私も中小企業の経営者の一人です。学校的知性に優れた高学歴人材を次々と採用することはできません。しかし、社会的知性に優れた頭のいい人材、人の役に立つ人材を育てていくことはできます。これからも、目の前の人の役に立ちたいという思いを大切にして事業を進化させていきたいと考えています。
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お話を聞いた方
安達 裕哉 氏
ティネクト株式会社
ワークワンダース株式会社
代表取締役CEO
1975年生まれ。筑波大学大学院環境科学研究科修了後、2001年デロイト トーマツ コンサルティング(現アビームコンサルティング)に入社。品質マネジメント、人事などの分野でコンサルティングに従事し、その後、監査法人トーマツの中小企業向けコンサルティング部門の立ち上げに参画。大阪支社長、東京支社長を歴任したのちに独立。
2013年10月にwebマーケティング、コンテンツ制作を行う「ティネクト株式会社」を設立。ビジネスメディア「Books&Apps」を運営。2023年7月に生成AIコンサルティング、およびAIメディア運営を行う「ワークワンダース株式会社」を設立。ICJ2号ファンドの第三者割当増資による資金調達を実施。著書に『仕事ができる人が見えないところで必ずしていること』(日本実業出版社)、『頭のいい人が話す前に考えていること』(ダイヤモンド社)など。
[編集] 一般社団法人100年企業戦略研究所
[企画・制作協力]東洋経済新報社ブランドスタジオ