経営者にいまおすすめの本6冊 「知財」編

目次
「知財」と略される「知的財産」は、多くの場合は「知的財産権」を意味します。知財は従来、主に特許を取得することと認識されてきましたが、近年においてはより積極的な知財の活用が求められ、ビジネスに直結した知財戦略が必要とされています。ここではその手引きとなる6冊をご紹介します。
『戦略コンサルが知らない 最強の知財経営』
林力一・渋谷高弘著 日本経済新聞出版 3,080円

いま採るべき「攻めのオープンな知財戦略」
1990年代前半から現在に至るまでの30年間、日本で唱えられてきた「知財戦略」は、ある意味において視野の狭いものであり、2000年代半ばまでは「いかに多くの特許を取得するか」、それ以降は「いかに質のよい特許を取得するか」という議論に限られてきました。しかし、それだけでは過去と同様、欧米が創造した先進的なビジネスを後追いするに留まると、2人の著者は語ります。
欧米の後追いとは、強い知財を取得し、知財紛争リスクを抑えるという、「守りのクローズな知財戦略」のことを指します。そうではなく、オープンイノベーション※の戦略・事業構想づくりに知財をどう生かすかという、「攻めのオープンな知財戦略」を採る必要がある、これこそが本書の主旨となります。
他社と提携することによって、「攻めのオープンな知財戦略」と成長戦略を融合させることができれば、競合するライバルから収益性と市場シェアを極めて短期間で奪うことも可能になる。逆にライバルが成長戦略の前工程(戦略の策定段階)で他社と提携し、同様な知財戦略を仕掛けられた場合には、自社は驚くほど瞬時に市場を奪われ事業を破壊される。このように両著者は説きます。
林力一氏は、日立製作所、トヨタ、三菱重工業、LIXILなどの知財部長を経て、現在は知財経営コンサルティング会社の代表を務める人物であり、一方の渋谷高弘氏は、日本経済新聞の編集委員を務め、知財と経営に詳しいジャーナリストとして知られています。
実務と報道、それぞれの視点を統合することによって導き出される論説は、過去の類書より多角的かつ深掘りされたもので、それがタイトルに「戦略コンサルが知らない」とある由来でもあります。本書はこの2人の著者によって知財の基本知識から実務のポイントまでが、体系的にわかりやすく説明されています。
本書は3部で構成され、第1部では、日本企業における知財戦略の現在地を明らかにし、第2部では、「攻めのオープンな知財戦略」を詳細に解説。第3部では、その主旨をより明確に伝えるために、今後の日本企業がどのように知財を活かすと成長できるか説明しています。
※異業種・異分野などの垣根を越えて技術やアイデアなどを出し合い、革新的なビジネスモデルや製品、サービスを生み出すこと。
『楽しく学べる「知財」入門』
稲穂健市著 講談社 1,210円

「パクリ」になるか否かの知財スキルを指南
インターネットが普及する以前は、「パクリ※」騒動は珍しいことでした。しかし、SNSの利用が広がり、企業や個人が発信する機会が増えたことによって、コンテンツを他人に流用されたり、または無意識のうちに自身も他人の知的財産権を侵したりするケースが多発しています。そうした事態を避けるために、知的財産権のアウトラインをわかりやすく解説しているのが本書です。
知的財産権とは、「人間の知的な創造活動によって生み出された経済的な価値のある情報を、財産として保護する権利」であり、その権利は以下の5つに大別されます。
➀著作物に関する「著作権」
➁発明に関する「特許権」
➂物品の形状や構造などの考案に関する「実用新案権」
➃物品などのデザインに関する「意匠権」
➄商品やサービスに付ける営業標識に関する「商標権」
本書ではさまざまな実例とともに、この5種類の知的財産権の違いと、それら相互の関連性を、解説しています。
知的財産権は、その権利者に独占的な権利を与えるだけでなく、それ以外の人々に対しても、模倣が許される時間的、内容的な「安全地帯」を提供します。ただし、5種類の権利にはその「安全地帯」に違いがあり、それが知財の理解を難しくしています。本書ではそのエッジ(境界)をわかりやすく解説しています。
知的財産権を正しく理解し、権利侵害か否かの判断ができるスキルを身につければ、「パクリ」と指摘されることを過度に恐れたり、トラブルを回避するためだけに発信や商品化を諦めたりする必要もなくなるはず。一方、権利者の立場からすれば、一つの対象に複数の知的財産権を持たせるようなこともできるようになります。
著者の稲穂健市氏は、大手電機メーカーの知的財産部門、米国の研究開発部門などを経て、東北大学の特任教授に着任。米国公認会計士、内閣府上席科学技術政策フェローでもある人物です。
※他人・他社のアイデアや表現を剽窃・盗用すること
『中小企業のための知財戦略2.0』
後藤昌彦著 総合法令出版 1,650円

利益に結び付ける中小企業向け知財戦略ガイド
大企業とは違ってヒト、モノ、カネなどの経営資源が限られる中小企業においては、目に見えない知的財産の重要性と価値がより高まります。ただし、自社の技術の強みを理解せず、特許を取るだけに留まるケースも少なくありません。中小企業がそうした状態を脱却し、知財を利益につなげられるよう、本書はその具体的ノウハウをわかりやすく紹介しています。
タイトルにある「知財戦略2.0」とは、著者である後藤昌彦氏が独自に提唱する概念です。アイデアを特許として知的財産にするなど従来的な考えを「知財戦略1.0」とするならば、「知財戦略2.0」はより経営に直結した知財戦略を意味します。具体的には、収益やファイナンスなどの「カネ」、組織の活性化などの「ヒト」、顧客探索のための「情報」に関わる知財戦略と言えるでしょう。後藤氏は大阪大学大学院を修了後、象印マホービンにて知的財産を担当し、商品開発やマーケティングに直結した知的財産権の取得と活用を実践してきました。
本書では経験にもとづく後藤氏の持論がつづられています。第1章では「知財戦略2.0」を導入する必要性、第2章ではそれを導入する際のポイント、第3章では自社の強みの洗い出しの手順を紹介。さらに、第4章では知財を収益化するための手法の三態様(製品化、ライセンス、連携)、第5章では「知財戦略2.0」を実行し続けるための体制づくりが、詳細かつわかりやすく解説されています。
巻末には工具メーカー「エンジニア」の高崎充弘社長と著者の対談も収録。同社は通常のドライバーでは取り外しが難しいネジを外すためのペンチ型工具「ネジザウルス」を生産販売し、知財戦略を効果的に実践する中小企業として知られています。2人によって中小企業における知財戦略のあり方が議論されています。
『経営戦略としての知財』
久慈直登著 CCCメディアハウス 1,760円

知財をツールとして使うために知っておくべきことを網羅した一冊。日本企業がグローバル市場で優位に立つには経営者層こそが知財を理解し、全社で積極的に知財を使いこなす必要がある。その対応策を本田技研工業(ホンダ)で10年以上、知的財産部長を務めた久慈直登氏が教える。
『「見えない資産」が利益を生む GAFAMも実践する世界基準の知財ミックス』
鈴木健二郎著 ポプラ社 1,760円

知財を最大限活用した新規事業の立ち上げ方を解説。三菱総合研究所、デロイトトーマツコンサルティングを経て、特許庁・経済産業省などでも活躍してきた知財のプロ鈴木健二郎氏が、「イノベーティブな人材は社内に埋もれている」ことを前提に、未来を先読みして新規事業を起こす発想法を提案する。
『特許3.0 AI活用で知財強国に』
白坂一著 ダイヤモンド社 1,650円

AIを活用して特許取得を加速することでイノベーションをもたらし、日本を知財強国にするための指南書。独自技術やビジネスモデルを持つ企業が、知財戦略を推し進めるために何をすべきか。米ナスダックに上場するビッグデータ解析企業の関連会社社長を経験する白坂一氏が解説する。
[編集] 一般社団法人100年企業戦略研究所
[企画・制作協力]東洋経済新報社ブランドスタジオ