商売は課題解決、利益は笑顔の数
~近藤太香巳氏が語る経営哲学とビジネスモデル論【後編】

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“初期投資ゼロ”の設備導入サービスやプロモーション支援などを手がける株式会社NEXYZ.Groupの近藤太香巳社長。前編では、創業時から守り抜いてきた信念や、孫正義氏・北尾吉孝氏から学んだ経営者の心得について語っていただきました。後編では、近藤社長が実践してきた経営哲学をさらに掘り下げ、社員との信頼関係の築き方やビジネスモデルを磨き続けるための工夫など、独自の経営論を伺いました。

「お金儲け」を目指す経営者は、逆境のときに心が折れやすい

現在私が経営者として大切にしている考え方や、企業の武器であるビジネスモデルの磨き方、社員との信頼関係の築き方などについて、お話ししたいと思います。

まず根本的な姿勢として、私は商売の本質を「課題解決」だと捉えています。お金を儲けること、利益を追求することは会社経営に不可欠ですが、経営者がそれを目的にすると、少しでも経営状況が悪くなったときに心が折れてしまう。100円で仕入れたものを1,000円で売って900円儲ける──そんな単純な発想では独自性も生まれず、「私たちだからできるビジネス」にはなりませんし、思い入れも持てないでしょう。

では、商売を「課題解決」と捉えたとき、そこから得られる利益とは何でしょうか。私の答えは「お客様の笑顔の数」です。お客様の笑顔が増えることこそ当社の利益であり、そのためにビジネスモデルを磨き続ける必要があります。そして社員自身が夢や希望を持って笑顔であること。それが最終的にはお客様の笑顔につながります。

お客様の笑顔をつくる。そのために社員の笑顔を守る。そして、これらの笑顔を生み出す仕組みをビジネスモデルとして磨き続ける。課題解決を自分ごととして捉え、自分たちにしかできない強みを見つめる。それによって独創的な発想が生まれ、唯一無二のビジネスモデルが形になります。これが私にとっての経営の原点です。

情報共有を怠る社長は失格──ピンチのときこそオープンに

社員の笑顔を守るため、経営者が社員との信頼関係を築いていくことは大切です。

多くの中小企業の経営者が陥りがちな失敗は、社員たちを“同志”として扱わず、利益や業績を隠してしまうことではないでしょうか。私は当社が未上場企業だった頃から、黒字も赤字も包み隠さず社員たちに伝えてきました。経営の実態を共有しなければ、社員の不安や疑念の元になりますし、会社がどこに向かっているのかを社員たちが正しく理解できないからです。

ただ、仮に経営状況が厳しいときに、経営者が「赤字で大変だ」と伝えるだけでは、勇気を削いでしまいます。そのような場合、私は「ピンチだけど、こうすればチャンスに変えられる」と言い続けてきました。実際に乗り越えられたとき、社員にとって大きな自信となります。その意味でリーダーの大きな役割の一つは、「どうすればピンチをチャンスに変えられるか」を示すことにあります。

数年前、コロナ禍の時にも私はこの姿勢を貫きました。実はコロナ禍に伴って社会的な移動が大幅に制限されたことにより、当社は大きな打撃を受けました。資金の蓄えも決して潤沢とは言えなかった。それでも私は社員たちに「給料は下げない。ボーナスも出す」と伝え、実際に実行しました。莫大な赤字を覚悟し、夜も眠れないほど悩みましたが、「必ず危機は終わる」「社員が本気で一丸となれば乗り切れる」と信じたからです。

ただし、続けて「もう余剰資金はない。だからここからは本気で頑張ってほしい」とも伝えました。ある種の“賭け”でしたが、こういう状況こそ、社員との信頼関係のために正直に打ち明けるべきです。同時に、社員たちの力を信じるべきだと考えたのです。結果的にこの言葉が社員の心を一つにし、強い結束を生み出しました。もちろん、危機に対応するためのさまざまな工夫を重ねましたが、乗り越えられたのは当事者意識を持って頑張ってくれた社員たちのおかげです。

自律性を育む仕組みづくりを──ユニット制で育つリーダーたち

社員一人ひとりが仕事を「自分ごと」として捉え、主体的かつ自律的に動けるように導くことも、経営者の大切な役割です。その仕組みとして、当社では「ユニット制」を導入しています。

日本企業の99.7%を中小企業が占めますが、企業が抱える平均的な社員数は5〜6人といわれています。これは5〜6人規模が最もチームとして機能しやすく、意思疎通もしやすいことを意味していると思います。リーダーがしっかりとマネジメントできる人数も、このくらいが限度でしょう。そこで当社では、この規模感を応用して、5〜6人を1つの「ユニット」として編成しています。

このユニットは単なる集団ではなく、それぞれにゴールを設定し、権限も相応に委譲するので、言わば小さな会社のような存在です。成果を上げるとユニットは拡大し、その際には再び分化して新しいユニットが生まれ、権限委譲が繰り返されていきます。現在、当社グループには何百というユニットが存在しています。

この仕組みによって、当社では多くのリーダー人材が自然と育っています。社員一人ひとりが自分の役割とその意義を明確に理解できるため、働きやすい環境にもつながっています。当社は営業会社ですが、毎年およそ150人の新入社員が入社する中で、直近の4月に入った社員で退職したのはわずか1人。営業会社としてはかなり異例の定着率だと思います。

社員からは「仲間が好きだ」「目指す未来が見える」「社会の役に立っていると実感できる」といった声が多く聞かれます。ユニット制をはじめ、社内コミュニケーションの質を高める取り組みや、自律的な行動を促す工夫が効果を発揮していると感じています。

経営者の武器は営業力ではなく「企画力」と「ビジネスモデル」

自律的に働ける社員を育てる一方で、彼らが自分の力を存分に発揮できる場をつくっていくことも経営者の仕事です。そこで求められるのが経営者の「企画力」。強い武器があってこそ、優れたビジネスモデルを生み出せるからです。

私は漫画『頭文字(イニシャル)D』が大好きです。あの作品で一番熱い部分は、主人公が旧式の車で最新型マシンをドライビングテクニックによって抜き去っていく場面でしょう。ただし現実には、マシンの性能の差は極めて大きい。いくら世界チャンピオンのレーサーでも、軽自動車に乗ってF1マシンと同じサーキットを走っても勝てるはずがありませんから。ただ見方を変えると、F1という最高峰のマシンがあれば、ある程度の技術を持つドライバーが乗るだけでかなりの速さを発揮できます。

これをビジネスに置き換えれば、企業にとってF1マシンに当たるのが「ビジネスモデル」です。そのマシンの性能を発揮するドライビングテクニックが、社員一人ひとりの「営業力」に当たるでしょう。もちろん卓越した営業力を持つスーパー営業社員がいれば心強いですが、経営者がまず注力すべきは「誰が乗っても速く走れるマシン」をつくること。つまり誰が担当しても成果を上げられるビジネスモデルを構築することです。

社員がどれほど努力しても、ビジネスモデルそのものの性能が低ければ、大きな成果は望めません。ですから経営者に求められるのは、営業力ではなく企画力。F1マシンにも匹敵するような強力なビジネスモデルを設計する力だと考えています。

では、どうすればビジネスモデルを磨くことができるのか。業界によっても個々の企業によっても違ってくるので簡単ではありませんが、できるだけ多くの異業種の経営者と交わることが重要だと私は考えています。自分の業界では「当たり前」とされていたことが、他業界ではまったく新しい視点になることがある。その逆もまた然りです。互いの常識と、今は常識ではなくても未来の新たな常識となる「未常識」を交換することで、磨き合いが生まれ、ビジネスモデルは進化していくのではないでしょうか。

このような課題意識から、私が以前から取り組んできたのが「パッションリーダーズ」の活動です。パッションリーダーズとは、6,000名を超える次代を担う日本のリーダーたちが集い、成長を促し、社会貢献を実現することを目的とした経営者交流団体です。会員数や活動数、女性会員比率において日本一(2025年2月時点)を誇り、現在は経済産業省の後援も得る規模に成長しました。私はその代表理事を務めています。

パッションリーダーズのテーマは「学ぶ」「磨く」「つながる」の3つです。

まず「学ぶ」。パッションリーダーズでは、各業界のスター経営者が毎月登壇し、自らの実体験やノウハウを語ります。稲盛和夫さんが主宰した「盛和塾」をはじめ、経営塾は1人の偉大な経営者から学ぶスタイルが多いですが、パッションリーダーズではさまざまな分野の経営者から、幅広い角度で経営の知恵を吸収できるのが特長です。

次に「磨く」。参加者同士が互いのビジネスモデルを磨き合い、経営者としての人間力も磨く。3つ目は「つながる」。異業種の経営者が集まることで、強い仲間意識が育ち、そこから新しい上場企業が生まれるケースもあります。

前編でもお話ししましたが、私はソフトバンクグループ会長兼社長の孫正義さんや、SBIホールディングス会長兼社長の北尾吉孝さんという一流の経営者たちと出会ったことが、自分の成長の大きな契機となりました。自分より優れた経営者たちとつねに接していれば、自然と「自分ももっと成長したい」と刺激を受けるはずです。逆にそうした機会がなければ、経営者は誰でも知らず知らずのうちに「お山の大将」になってしまう。だからこそ私は「磨く」環境に身を置くことを大切にしていますし、パッションリーダーズを立ち上げた理由の一つも、そうした刺激的な環境を多くの次世代リーダーたちに提供したいと考えたからです。

強い意志で前向きにチャレンジし、未来を切り拓く

私は常に「課題解決こそが商売の本質」であり、その積み重ねが社員やお客様の笑顔を生み出し、結果として社会をより良くするのだと信じて経営を続けてきました。経営者自身が「無理だ」と思った瞬間に企業の進歩は止まるし、「不可能だ」と口にした途端に未来はつまらないものになってしまう。現状維持は退化に等しく、挑戦のないところに変化も進化もありません。だから私は、自らのビジネスモデルを磨き続け、仲間やお客様と共に笑顔を増やしていくことを、自分の使命としてきました。そして、私と同じような決意で課題解決に取り組む次世代の経営者が育ってくれることを願って、パッションリーダーズの活動を続けています。

不確実性の時代と呼ばれる今こそ、経営者には前向きにチャレンジする強い意志が求められています。日本、そして世界の未来を切り拓いていく同じ経営者として、共に挑戦を続け、共に歩んでいきましょう。

お話を聞いた方

近藤 太香巳 氏(こんどう たかみ)

株式会社NEXYZ.Group 代表取締役社長 兼 グループ代表

1967年生まれ。50万円を元手に19歳で日本電機通信(現NEXYZ.Group)を創業。34歳でナスダック・ジャパンへ株式上場し、37歳で2004年当時最年少創業社長として東証1部に上場。2015年には株式会社ブランジスタがグループ2社目の上場を果たす。「初期投資ゼロ」をサービスの基盤とするエンべデッド・ファイナンス事業、電子雑誌を中心とするメディア・プロモ―ション事業、日本経済の成長を加速させる企業応援プロジェクト「アクセルジャパン」など多様なビジネスを展開する。
2011年に次世代リーダー育成と経営者の地域間交流を目的とした一般社団法人パッションリーダーズを代表理事として設立し、会員数6,000名を超え日本一の団体に。情熱あるリーダーとしてビジネスパーソンや若者から圧倒的な支持を得ている。

[編集]一般社団法人100年企業戦略研究所
[企画・制作協力]東洋経済新報社ブランドスタジオ

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