イギリスが日本と比べて国際社会で圧倒的に存在感が高いのはなぜか

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※本記事は「ダイヤモンドオンライン」に2024年1月17日に掲載された記事の転載です。

日本経済復活およびビジネスパーソン個人の成長の秘訣を示した『CFO思考』が、スタートアップ業界やJTCと呼ばれる大企業のビジネスパーソンを中心に話題となっている。5刷3万3000部(電子書籍込み)を突破し、メディアにも続々取り上げられている話題の本だ。
本書の発刊を記念して、著者の徳成旨亮氏と、多摩大学大学院教授の堀内勉氏の対談が実現。「世界で活躍できる子に育てるために親ができること」「ビジネスパーソンの教養」「企業倒産の意味」といったテーマについて、6回にわたってお届けする。(撮影/疋田千里、構成/山本奈緒子、取材/上村晃大)

比較にならないほど
日本がイギリスに負けているもの

――日本の経済力、英語力以外で、日本にアニマルスピリッツがなかなか根付かない原因はありますでしょうか?

徳成旨亮(以下、徳成) 資本主義における富の蓄積が違う、というのが僕の思っていることです。日本は資本主義経済になったのが、所詮は明治以降と浅いんですよ。それも長めに見た場合であって、本当は第二次大戦後にいったんやり直してますから。

三菱財閥を作った岩崎家とか、住友財閥の住友家とか、当時はものすごいお金持ちでしたけど、戦後の財閥解体の影響を受けている。だから厳密には、戦後から富の蓄積が始まったに過ぎない、とも言える。

もちろん、日本にも、それなりにお金を持っている方がたくさんいらっしゃいますけど、知れているんですよね。英国の元貴族を含めた欧米の金持ちとはケタが違う。

堀内勉(以下、堀内) 私の友人に、Fei-Fei Huという42歳の中国とイギリスの二重国籍の方がいます。彼は上海出身なのですが、小学校から大学まで日本で育って、途中で南アフリカにもいたのですが、イギリスのオックスフォード大学でも学び、その後、英国王室で当時のチャールズ皇太子の側近として働いていたという特異な経歴の持ち主です。今は日本に戻って、東京と千葉でフェニックスハウスやラグビースクールジャパンなどのインターナショナルスクールを経営しています。

その彼が今、北海道のニセコで新しいコンセプトのインターナショナルスクールの設立を計画しています。私もそれに協力しているので、学校を中心とした街づくりの参考にするために、オックスフォード大学やラグビースクール、チャールズ国王が皇太子時代に開発を手掛けたロンドン南西の街・パウンドベリーなど、色々と見にいきました。

たとえば、パブリックスクールのひとつでラグビー発祥の地であるラグビースクールの本校は、敷地面積が200ヘクタールほどあります。坪に置き換えると60万坪ですね。六本木ヒルズの16~17個分という感じでしょうか。それだけ広い敷地に、生徒が800人ほどしかいないのです。

私は麻布学園の出身ですが、あそこは中高含め、元麻布の狭い敷地に1800人ぐらいの生徒が通っています。ラグビースクールは年間授業料が約4万5000ポンド、日本円で800万円ぐらいでしょうか。これに対して、麻布学園は約60万円です。

こうした授業料の格差もすごいのですが、それ以上に注目すべきなのは、あちらは大英帝国時代に築いた資産の蓄積がすごいということです。校舎は全部レンガ造りの立派なものだし、ラグビー場も1面だけではなくて、5面か6面ぐらいある。そのインフラの違いは全く比較の対象にならないです。つまり、超優良なバランスシート(賃借対照表)を持っているんですね。

GDP(国内総生産)というのはフローを表現しているものですから、企業で言えば粗利益と言うか、PL(損益計算書)の項目に相当するものです。そこで私たちはPLが大きいとか小さいとか競っているかもしれませんが、そもそもBS(貸借対照表、バランスシート)が超優良で含み益が山のようにある。

イギリスの上流教育というのはそうした感じなんですよね。フローだけ見て「すごいだろう」「ダメだな」と一喜一憂している人たちと、膨大なストックがあって超優良なバランスシートを持っている人たちと、そもそも比較にならない。

彼らのストックは何千兆円か何京円か分からないですが、それをさて置いておいて、「フローの部分はイギリスより日本のほうが大きいよね」とか威張ってみても、そこだけでは比較にならないと感じるのです。

ルールの面でもリスクの取り方でも
イギリスは「賢すぎる」

徳成 富の蓄積でいうと、まずイギリスがすごいのは堀内さんが言うように膨大なアセットを、世界中に持っている。ケイマンやバミューダなどの租税回避地の多くは、実は英国王室属領か英国海外領土です。さらに、英語が事実上、世界標準語になっている。お隣の韓国や台湾の方々とも僕は英語で会話しています。

金融取引といったいろんなビジネスにおいても、英国法がグローバルな契約におけるガバナンス・ロー(準拠法)であることが多いんですよね。いろんな意味で英国はうまく世界を統治している。

テストを受ければ必ず日本人のほうがいい点は取るんだけど、それとは賢さの質が違う人たちがいる、というのをロンドン駐在時代に感じました。

堀内 とにかく色々な面で資産が違う。

徳成 アニマルスピリッツの話に戻りますと、彼らはそういう巨大な資産を持っていますから、当然それを運用するのですが、そのとき分散投資をします。いろいろなアイディアを持っている人たちに少しずつお金を渡して運用させる。お金の出し手、つまり金主をアセット・オーナー、運用者をアセット・マネージャーと言います。

少しずつと言ったって、もとが大きいからけっこうな額なんですけど、それを元手にアイディアがビジネスの形となり、新しい利益の源泉になっていくわけです。

それで、その金主たちと言いますか、お金を運用している人たちもたくさんいるから、ニーズの種類も幅広いんですね。投資期間も短い人もいれば長い人もいるなどさまざま。「こういうふうに運用してほしい」というリクエストがいろいろなので、アセット・マネージャーもいろいろなタイプが育つんです。そこが日本とは決定的に違う、というのがあります。

資本主義の厚みが違う、と私が最初に申し上げたのはそういうことで。富の蓄積ももちろん違うけど、それゆえいろんな運用ニーズを持った人たちがいて、いろんなリスクを取っていいよという土壌もあるから、いろんなアセット・マネージャー、すなわち、資産運用会社やファンド・マネージャーが育ちやすい。

加えて前回の記事で申し上げたように、ルールメイキングみたいなところでも、うまく自分たちのビジネスが運びやすいような土壌が知らず知らず作られている。

堀内 要するに、我々はそういうところで戦っていかなければならない、ということですよね。

徳成 そうなんです。日本の金融機関の役員が国際的な場で議論するとなったとき、交渉テーブルの反対側にはゴールドマン・サックスだとかシティバンクだとか、年収十億みたいな連中がいる。こっちはせいぜい数千万円だから、ケタが違うわけですよ。それでも対等に議論をしなければいけないし、下手な英語でも頑張って主張し、戦っていかなければならない。

そこで僕なんかは日本人の気概みたいなものが突然芽生えるわけですよ。この立場にある以上は頑張らなきゃと。そうやって戦っていくことを、1人でも2人でもいいから若い人に頑張って目指してもらわないと、日本国が成り立たない。そんな思いも込めて、本を書いたところもあるんですけど。

だからまずは海外に出てみてほしいし、そういう世界があるんだってことを知ってもらいたい。見てみないことにはわからないと思うので。それで、こういう世界で日本はどうやって国として頑張っていけばいいんだろう、ということを真面目に考えてほしいんですよね。内側に縮こまっていちゃダメで、自分をどんどん外に出ていかないと。

それもアニマルスピリッツだと思うんですよね。たしかにじっとしているほうがラクに決まっているんですけど、能力がある人はその能力を生かさなきゃダメです。それは天から与えられたものなんだから社会のために生かさなきゃ、というのが僕の考え方でもあるんですよね。

日本はルールのわからないゲームを
無理やりやらされてきた

堀内 今の話を引き継ぐと、日本だけがどのようなルールでゲームを戦っているのか知らない、という側面があります。経営共創基盤(IGPI)グループ会長で、経済同友会副代表幹事なども務めた冨山和彦氏は、よく「野球からサッカーにゲームが変わったのに、日本の経営者はまだサッカー場で野球をやろうとしている」と言われていて、私も本当にそうだなと感じます。

日本はなぜ太平洋戦争であれほど無謀な戦いをし、多くの国土を焼かれ、戦後どのような環境に置かれてきたのか。自分たちが何をやってきたのかということを理解しなければ、アングロサクソンやユダヤ系、台頭してきた中国といった人たちがルールの枠組を作って動かしている世界に、ただ乗っかることしかできないということになります。

もしくは相手のルールに単純に巻き込まれて、「できた」「できなかった」と一喜一憂するだけになる。そうやって、相手の土俵で戦っている限り、勝てるわけもないです。苦しんだわりには報いは少ない、ということになってしまうだけです。

ですから、自分は今どのような場に置かれて、何のゲームをどのようなルールで戦っているのか、それぐらいは理解しなければいけないと思うんですよね。

徳成 一度、自分たちの立ち位置を俯瞰してみること、メタ思考が重要ですよね。

堀内 若い人たちには、理由は何でもいいからとにかく海外に行け、と言っていまして。とにかく外の世界を見てこないと自分が何者かわからないですから。

私はちょうど読書に関する本『人生を変える読書』を出したところなのですが、その中でもその点を強調しています。自分がどのような視座を持っていて、どのような思考の枠組みにとらわれて世の中を見ているのか、それはその思考をずらしてみないことにはわからないんですよと。

横から見たり、上から見たらどのように見えるのか。うまく自分の思考自体をずらして別の角度から見てみる。そうしたメタな思考をすることが教養だと思うのです。それを身に着けないと。

ずっとコツコツ真面目に同じことをやるのも人生ですが、メタ思考がないと、気付けばコツコツと人の作ったルールを守っているだけ、というふうになってしまうと思います。それだと最初から勝負に負けているので、まずはそのことに気付いてほしいなと。

徳成 日本は昔から天変地異が多いから、どうしてもコツコツ思考になりがちなんですよね。だって一生懸命頑張って作っていたお米が、自然災害で一晩でダメになるとか、当たり前だったから。あと1週間で収穫できる作物が台風で全部やられちゃう、みたいなことを長い間、何回も繰り返してきたから、「しょうがないよね。また頑張って作ろう」という国民性になったんだと思うんですよ。粘り強く、我慢強くなった。

かつ江戸時代に幕藩体制が300年近く続いたから、お上の言うことに従うことにも慣れ過ぎている。だから人様のルールの下で戦うことに疑問を感じないんでしょうけど、本当は良くないですよね。

堀内 だからといって、ではこのゲームから抜けます、というわけにはいかない。江戸時代の人口はおおむね3100~3300万人だったと言われています。今は人口が減り始めているといっても1億2500万人ほどです。それでも江戸時代の4倍ぐらいいるわけです。

マルクスは晩年、脱資本主義という視点から循環型経済を唱えていて、マルクス主義研究者の斎藤幸平氏もこれを支持しているのですが、鎖国をしていた江戸時代ならいざ知らず、これだけグローバル化した今の世界で、地域社会の中だけで循環してやっていけるのかと思うわけです。

世界に目を向けると、スペイン風邪の流行によって世界人口の数%が減少したと言われる第一次世界大戦直後は約18億人でした。これが今や、80億人を超えている。4倍以上です。

それを循環型社会に戻すとなったとき、ではこの余剰人員をどうすればいいんだ?という話になってきます。地産地消みたいなことができたら一番いいのでしょうが、地球がこれだけの人口を養っていかなければいけない今、すべてを循環型経済とか脱資本主義に戻すというのは、私は現実味がないと思っています。

つまり、資本主義というゲームは18世紀ぐらいから始まっていて、我々は知らないうちにそこに参戦しているのです。今さらそこから足抜けができなくなっているということです。

そうであるなら、このゲームのルールをどのように持っていったら少しはマシに戦えるのか、私などはそこを一生懸命考えるのですが、少なくともエグゼクティブくらいのレベルの人は、この問題をきちんと理解して下さいね、というのが私の訴えかけていることなのです。

お話を聞いた方

徳成 旨亮 氏

株式会社ニコン取締役専務執行役員CFO

慶應義塾大学卒業。ペンシルベニア大学経営大学院(ウォートン・スクール)Advanced Management Program for Overseas Bankers修了。 三菱UFJフィナンシャル・グループCFO(最高財務責任者)、米国ユニオン・バンク取締役を経て現職。日本IR協議会元理事。米国『インスティテューショナル・インベスター』誌の投資家投票でベストCFO(日本の銀行部門)に2020年まで4年連続選出される(2016年から2019年の活動に対して)。本業の傍ら執筆活動を行い、ペンネーム「北村慶」名義での著書は累計発行部数約17万部。朝日新聞コラム「経済気象台」および日本経済新聞コラム「十字路」への定期寄稿など、金融・経済リテラシーの啓蒙活動にも取り組んできている。『CFO思考』は本名での初の著作。

堀内 勉

一般社団法人100年企業戦略研究所 所長/多摩大学大学院経営情報学研究科教授、多摩大学サステナビリティ経営研究所所長

多摩大学大学院経営情報学研究科教授、多摩大学サステナビリティ経営研究所所長。東京大学法学部卒業、ハーバード大学法律大学院修士課程修了、Institute for Strategic Leadership(ISL)修了、東京大学 Executive Management Program(EMP)修了。日本興業銀行、ゴールドマンサックス証券、森ビル・インベストメントマネジメント社長、森ビル取締役専務執行役員CFO、アクアイグニス取締役会長などを歴任。 現在、アジアソサエティ・ジャパンセンター理事・アート委員会共同委員長、川村文化芸術振興財団理事、田村学園理事・評議員、麻布学園評議員、社会変革推進財団評議員、READYFOR財団評議員、立命館大学稲盛経営哲学研究センター「人の資本主義」研究プロジェクト・ステアリングコミッティー委員、上智大学「知のエグゼクティブサロン」プログラムコーディネーター、日本CFO協会主任研究委員 他。 主たる研究テーマはソーシャルファイナンス、企業のサステナビリティ、資本主義。趣味は料理、ワイン、アート鑑賞、工芸品収集と読書。読書のジャンルは経済から哲学・思想、歴史、科学、芸術、料理まで多岐にわたり、プロの書評家でもある。著書に、『コーポレートファイナンス実践講座』(中央経済社)、『ファイナンスの哲学』(ダイヤモンド社)、『資本主義はどこに向かうのか』(日本評論社)、『読書大全 世界のビジネスリーダーが読んでいる経済・哲学・歴史・科学200冊』(日経BP)
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※本記事は「ダイヤモンドオンライン」に2024年1月17日に掲載された記事の転載です。
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