中小企業の事業承継 よくあるトラブル事例と2018年施行の新事業承継税制
~経営者が理解しておきたい事業承継[第1回]

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目次

中小企業庁が発表した「中小企業・小規模事業者における M&Aの現状と課題」によると、2025年までに70歳を超える中小企業・小規模事業者の経営者は、約245万人に上ります。その約半数が後継者未定の状態にあり、現状を放置すれば中小企業・小規模事業者の廃業が急増することになるでしょう。このような未来を前に、事業承継に不安を抱える経営者は多いのではないでしょうか。

そこで、日々事業承継に関する相談に対応する円満相続税理士法人の税理士・桑田悠子氏へのインタビューを3回にわたってお届けします。第1回目となる今回は、中小企業の事業承継でよくあるトラブルの事例と、2018年に施行された新事業承継税制について聞きました。

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問題が複雑化しやすい親族内承継

多くの中小企業が後継者不足という問題を抱えていますが、それだけを理由に廃業を選択するのはもったいないことです。事業承継については国も支援策を設けていますし、私たち税理士も税務面からできるだけサポートさせていただき、中小企業の事業承継に一役買えれば嬉しく思います。

私どもは「円満相続税理士法人」という事業所名の通り、相続に関する相談に専門的に対応している税理士法人です。事業承継にはM&Aなど様々な種類がありますが、当所へは、相続というかたちでの親族内での事業承継を考えている経営者の方が多く訪れます。

実は、親族内承継は問題が複雑化しやすい形態です。例えば経営者に複数のお子様がいらっしゃると、お金だけでは解決できない、関係性や過去から積み重なってきた感情の問題が浮上してきます。例えば長男に「事業に多大な貢献をした」という実績があったとしても、親御さんは次男にも平等な愛情を抱いているため、「株式は平等に承継したい」というケースも考えられます。

財産額としては確かに平等になりますが、長男にとっては面白くありません。その後、自分の頑張りで次男も所有する株式の価格が上がるとすると、事業継続のモチベーションが下がってしまうことも考えられるでしょう。加えて、株式が分散するリスクも大きくなります。このように、兄弟姉妹間に生じる様々な不均衡は、相続の際の争点になりがちです。

反対に親族外承継の場合は、金銭的にすんなり解決できることが多いです。例えば未上場の会社であれば、自身の退職金で法人の資産を個人の資産に移転させることで、ある程度法人自体を空箱にした状態で事業承継するというケースや、退職金を支払うだけでは間に合わない場合には、借入れも使いながら適正な時価で後継者が株式を買取るケースもあります。

事業承継で中小企業経営者が悩むポイント

親族内承継特有のナイーブな問題は、最終的に、現経営者と後継者の意思によって取りまとめられます。しかしその地点に至るまで、さまざまな工程が待ち受けているのも事実です。

相談に訪れた方がその企業の創業者であれば、株主構成が比較的シンプルなケースが多いですが、二代目以降の場合は、過去の相続で親族内に株式が分散しているケースが少なくありません。

また1990年の商法改正以前は、会社設立に7人以上の発起人が必要だったこともあり、現在は交流のない人が株主に名を連ねているケースもあります。そうした株主について、具体的な対策を講じていない方は多いです。

そのような株主がいる場合、まずは、その株式の真実の所有者が誰かを判断します。名前だけ貸していて、実質的には株主ではない人が名簿に載っていることもあるため、そのような場合には当事者が元気なうちに名義貸しを解消する手続きを行っておくとスムーズに承継できます。また、名義貸しではなく、実質的に株主として立場を有している方がいる場合は、その株式の買取金額を交渉することになります。交渉は、相手との関係性に拠る物種ですので、揉めることがないよう、専門家を交えながら計画的に進めることが大切です。

また、株式名簿に記載されている住所に通知を送ったものの、連絡が取れないケースもあります。こうした場合は「登録住所に通知等が5年以上継続して到着しない」「5年間配当を受取っていない」などの要件を満たし、一定の手続きを踏むことで、その株主が持つ株式を競売にかけたり売却したりできる場合もあります。また少数株主対策としては「スクイーズアウト(※)」という方法を採択し、買取りを進めること等の方法もあります。

いずれにせよ、株式が分散された状態のまま事業継承を行うと、高い確率で後々トラブルに発展します。分散してしまった株式についてお悩みの際は、専門家に相談するといいでしょう。

※スクイーズアウト…株式併合などの手法を採用し、対象会社の議決権を90%以上保有する特別支配株主が、対象会社の承認を得たうえで、他の株主の株式を強制的に取得すること。

「なにがなんでも新事業承継税制を活用すべき」という訳ではない…?

2018年に税制が改正され、要件を満たせば中小企業が事業承継時に支払う相続税や贈与税を最終的に0円にできるようになりました。停滞が続く日本経済を鑑み、税負担を軽減することで日本を支える中小企業の事業承継を推進することが政府のねらいです。

この新事業承継税制に関する相談も、数多く寄せられています。

適用の要件が分かりづらいため、「そもそも、ウチの会社の株式で使えるのか?」という質問から始められる方が多いです。また、新事業承継税制の適用要件は満たしているものの、適用をお勧めできないケースもあるため、対象となる会社の将来の方向性なども伺いながら最適な事業承継の方法を探していきます。そのほか、事業承継の対象となる株式以外の財産や債務の内容も伺って、後継者以外の相続人の遺留分が侵害されていないかを確認します。侵害されている場合には対策を施すことが必須となります。

また、この税制は、後継者のさらに次の後継者へこの税制を適用した承継を果たすか、後継者が死亡するまで待たなければ、実際に「負担なし」は確定しません。さらに、新事業承継税制は事業継続が前提となっているため、後継者が事業承継後にM&Aに応じてしまうと適用の要件から外れてしまい、猶予されていた税額と利子を支払わなければいけません。

こうしたさまざまな可能性を話し合った上で「新事業承継税制の利用はやめよう」という結論に至ることもあります。

その場合、私どもの場合は株価対策などを行って税負担を少しでも軽減するサポートに移行します。「相続税や贈与税は支払うことになったものの、かえって身軽な承継が実現した」というケースは、意外に多いのです。

次回のテーマは「未上場企業の適正価格算定」
日々事業承継に関する相談に乗る桑田氏に、全3回にわたってお話を聞く本連載。次回は、承継の際に重要なポイントとなる「未上場企業の適正価格算定」についてお話を聞いていきます。

お話を聞いた方

桑田 悠子

円満相続税理士法人 代表社員税理士

学生時代にアパレル・化粧品事業を開業した後、祖父の死をきっかけに相続のプロになることを決めて税理士業界に飛び込む。税理士法人山田&パートナーズを経て、円満相続税理士法人のパートナーに就任。相続や事業承継を手掛けるほかに、弁護士法人・税理士法人・一般企業などを対象とした相続税研修会や、事業承継研究会などを開催。「難しいことを、分かりやすく、穏やかに話す」ことが特徴。生前対策・事業承継対策・相続税申告を数多く手掛け、SNS での発信も人気の相続専門税理士。
円満相続税理士法人:https://osd-souzoku.jp/
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