企業不動産戦略の1つ。賃貸用不動産の種類と傾向
目次
企業経営における不動産戦略のひとつとして、近年注目を集めているのが不動産賃貸業です。賃貸用不動産は大きく住居系、オフィス系、商業系の3つに分けられます。
今回はそれぞれの特徴について整理してみます。
賃貸用不動産①住居系
住居系は主に個人向けであり、アパート、賃貸マンション、戸建賃貸が典型です。アパートや賃貸マンションは不動産賃貸業としては小規模であり、主に個人の地主が手掛けるケースが多く、法人が本業以外に手掛けることはあまりありません。また、建築の制約が少なく、近年は供給過剰気味であり、エリアによっては競争が激化しています。
むしろ、最近、注目されるのは、シェアハウス、民泊などの新しい形態の住居系の賃貸用不動産です。
シェアハウスは、個室のほか、キッチンやリビングなどの共同スペースを備えた賃貸住宅です。家賃は賃貸アパートやマンションより割安で、入居者同士の交流も魅力とされ、東京など都市部で人気です。
法人の場合、利用しなくなった社宅や独身寮などを転用し、シェアハウスにするというケースもあります。遊休不動産の有効活用の一例と言えるでしょう。
一人当たりの賃料は安くなりますが、利回りは通常の賃貸マンションよりも高くなる傾向にあります。
また、シェアハウス専門の運営管理会社もあるので、そのようなところに一棟貸しするという方法もあります。
賃貸用不動産②オフィス系
オフィス系の賃貸用不動産としては、オフィスビルが典型です。オフィスビルといっても、一棟を所有してフロアごとにテナントを募集するほか、フロア単位で区分所有するという方法もあります。
近年、増加しているのは、都市部のオフィスビルを貸し会議室やコワーキングスペースとして活用するケースです。
コワーキングスペースとは、様々な企業に所属する人やフリーランスの人たちが、事務所や会議室、打ち合わせスペースなどを共有する新しいオフィスの形態で、近年、急速に注目を集めています。シェアハウスと同じように、コスト削減や業務の利便性の点で魅力的で、さらに様々な分野の人たちが同じ場所にいることから生まれる刺激やコミュニケーションもメリットとされます。
大手企業のなかには「働き方改革」の一環として在宅勤務やサテライトオフィスを積極的に導入するケースが増えてきました。こうした流れもコワーキングスペースが拡大している要因のひとつといえるでしょう。
法人の不動産戦略においては、自社が保有するオフィスビルなどをコワーキングスペースとして事業化するほか、人事戦略と関連付けてコワーキングスペースを利用するといったアプローチも考えられるでしょう。
賃貸用不動産③商業系
商業系の賃貸用不動産は、非常に幅広く、多種多彩です。
郊外部ではロードサイド店舗、倉庫、コインランドリー、駐車場などがあります。
ロードサイド店舗は、郊外の幹線道路沿いの土地を利用し、土地所有者が特定の借り手が使用することを前提に建物を建築。土地と一緒に貸すというケースが一般的です。その場合、借り手は土地所有者に対し、建物の建築費として「建設協力金」といった名目で資金を供与するのが一般的です。
倉庫は近年、ECコマースの普及により、都市近郊のインターチェンジ付近で、巨大な物流センターの建設が相次いでいます。こちらも建設協力金方式が一般的です。
商業系ではそのほか、コンビニやビジネスホテルがあります。これらも建設協力金方式を利用することが多く、土地所有者はほとんど資金負担なく、不動産賃貸業を始められるというメリットがあります。
同じようなパターンで、老人ホームやデイサービスなどの介護施設、保育園なども不動産賃貸業として考えられます。
賃貸用不動産の選択基準
企業が不動産戦略のなかで、不動産賃貸業を手掛ける場合、どのように賃貸用不動産を選択していけばいいのでしょうか。そのポイントをみていきましょう。
まず、不動産(特に土地)を保有している場合、その不動産が立地しているエリアの用途規制が重要です。
用途規制とは、都市計画法や建築基準法に基づき、どのエリアにはどのような用途で、どのような規模、仕様の建物を建てられるかを定めたルールです。一定規模の人口の市街地では、どのエリアにどのような建物を建てることができるかというゾーニングが定められています。
このゾーニング規制を「用途地域」と呼びます。住居系、商業系、工業系と3つの大枠があり、さらに13種類の用途地域に分けられます。
住居系の用途地域のひとつである「第一種低層住居専用地域」は、基本的に戸建て用のエリアです。商店やマンションは建てられません。ただし、保育園や老人ホームなどは建てられます。
次に重要なのが、どれほど借り手の需要が見込めるかということです。基本的に、借り手の需要が多い賃貸用不動産を選択するほうが有利です。
ただ、アパートや賃貸マンションのように供給が増えすぎると、需給バランスが崩れ、想定したような賃料が得られなかったり、なかなかテナントが入らなかったりということもありえます。
近年、シェアハウスやコワーキングスペース、コインランドリーなど新しい用途、スタイルの賃貸用不動産が登場してきているのは、これまでにない新しい借り手の需要を開拓する狙いもあります。
そう考えると、不動産賃貸業というのはすでに存在している借り手をターゲットにするだけでなく、新しいマーケットを生み出すという発想も重要になってきます。
最後に重要なのは、事業計画です。
新たに不動産賃貸業を始める場合、新たに不動産を取得するケース、保有している土地に新しく建物を建てるケース、あるいは既存の建物をリノベーションするケースなど様々です。事業の立ち上げには一定の投資が必要であり、その資金をどこから調達するのか、検討しなければなりません。
また、投資した資金を回収するためのリターンがどれくらい見込めるのか、綿密なシミュレーションが必要です。不動産賃貸業は通常1~2年の短期的な事業ではなく、10~20年、場合によっては30年以上続く、長期的な事業です。賃料や空室率、金利の変化のほか、自然災害の影響も織り込んでおく必要があります。
こうした様々な要素を考慮しつつ、企業経営にとってプラスとなるような不動産賃貸業を組み立てることができれば、将来に渡り経営の安定化に大きく貢献してくれるはずです。
まとめ
不動産賃貸業における賃貸用不動産には、大きく住居系、オフィス系、商業系に分けられますが、その種類は幅広く、最近は新しい用途、スタイルの賃貸用不動産も登場しています。
柔軟な発想で自社の経営安定化につながるような賃貸用不動産を見つけ、それを活用した不動産賃貸業を検討してみるといいでしょう。
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著者
株式会社ボルテックス 100年企業戦略研究所
1社でも多くの100年企業を創出するために。
ボルテックスのシンクタンク『100年企業戦略研究所』は、長寿企業の事業継続性に関する調査・分析をはじめ、「東京」の強みやその将来性について独自の研究を続けています。