再生企業や外資系企業で頭角表すCFO…中小企業の経営で活躍できるか?~「会社の番頭」の選び方・育て方[第4回]
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ひと昔前、会社の役職といえば、会長、社長、部長などと、日本語で統一されていましたが、近年はすっかり横文字の役職名も定着しました。
最もわかりやすい例が、CEO(Chief Executive Officer)です。日本語に訳すと最高経営責任者で、旧来の役職名の中では代表取締役が最も近いでしょう。日本では、代表取締役と社長職(President)を兼任していることが多いため、CEOと社長がよく混同されています。そしてここ数年、新たに認知され始めているのがCFO(Chief Financial Officer)です。
本連載では、CFOの職務内容などについて解説してきましたが、今回はこれまで言及してきた「財務スキル」「経営企画業務スキル」以外の「CFOに必要とされるスキル」について見ていきます。
CFOならではの業務を遂行させるために必要なスキル
CFOには、従来の財務本部長と同じく「企業がこれから動かすお金」を管理する財務スキルが求められます。さらに、その数字データを活用し、経営計画の立案、企業価値の検証、マネジメントレポートの提出などを行わなくてはなりません。経営陣の一角にふさわしい、高度な経営企画のスキルも必要となります。
上記のようにCFO業務の支柱は財務と経営企画になりますが、そのスムーズな遂行のためには、以下のスキルも身に着けておく必要があります。
■マネジメント力
CFOの業務内容は多岐に渡り、すべての実務を独りでこなすことは事実上不可能と言ってよいでしょう。財務部門、経営企画部門に在籍する多くの部下を束ね、優れたパフォーマンスを彼らに発揮してもらわなくてはなりません。そのためには、適切なリーダーシップを発揮することが重要です。
【CFOが発揮すべきリーダーシップの一例】
・経営陣で共有した経営計画に基づく目標・戦略を、明確なビジョンや方法論を以て部下に伝える
・スタッフに実務を任せたうえで、その動向を逐一確認し、適切にフォローしていく
・スタッフとの人間関係を円滑にし、必要に応じて指導や意見を与え、部下からの意見に耳を傾ける
・問題が発生した場合には多面的に検証し、改善策を打ち出していく
個人プレイが優れているだけの人物では、CFOのポジションは務まりません。
■コミュニケーション能力
CFOは経営陣の一角として、様々な部署のスタッフと関わることになります。
特に「経営計画は軌道に乗っているのか」「企業価値は高まっているのか」を多角的に確認していくことは、CFOの重要な役割のひとつです。内部プロジェクトに関して「リスクマネジメントは徹底されているのか」をチェックする機会も多いため、現場スタッフに疎まれる可能性は常にあります。
こうした機会に問われるのが、CFOのコミュニケーション能力です。高圧的な態度では周囲からの信頼を得られませんから、各現場に溶け込める柔軟性が求められます。しかし、慣れ合いの関係から不祥事発生を招いてしまうようでは問題です。コーポレートガバナンスをしっかりと機能させるため、時には厳しい態度を取ることも必要です。
大勢のスタッフを納得させるためには、道徳観・倫理観に基づく一貫した人間性と、感情を適切にコントロールできる冷静さが必要不可欠です。さらに、笑顔を忘れないことで、CFOの多彩な業務はスムーズに進行していくことでしょう。
■その他の能力
マネジメント力やコミュニケーション能力以外にも、以下のような能力も身に着けておく必要があります。
【CFOが業務を円滑に進行するため身に着けておくべき能力】
・マーケティング能力(市場調査、消費者動向調査、プロモーション戦略、セグメンテーションなど)
・国際対応力(英語力、プレゼンテーション力、異文化理解力)
・オペレーション管理能力(物流や在庫、原料調達に関する知識、業務効率化に向けたノウハウなど)
・業務管理能力(販売/購買管理、外注管理に関する知識など)
・人事管理能力(制度構築、コーポレートガバナンスに即したインセンティブ/福利厚生制度構築など)
加えて、企業規模や業務内容によって「グループ経営の管理能力」や「情報システム構築に関する知識」が求められることもあります。
企画経営や財務に加え、上記スキルのすべてを網羅している人物は、理想のCFOと言えます。しかし、すべてのCFOが理想への到達を目指しても、職歴や年齢、そして企業規模などにより、実現が難しい場合があります。
中小企業でCFOは活躍できるのか?
これまで紹介してきたようにCFOの業務は多岐に渡ります。しかし、就業する企業の規模によりCFOが発揮すべきスキルにも違いが生じます。
大企業において、CFOの活躍に大きな期待が掛かるのは再生企業です。財務上の問題を抱えた企業が進退を賭けている状況ですから、CFOは財務及び経営企画スキルを最大限に発揮して、結果を出していかなくてはなりません。また、外資系企業の多くはCFOの存在を尊重し、その働きを正当に評価する環境を整えています。対して国内の大企業では、CFOに実務面を任せるケースは少ない現状です。そのためCFOはマネジメント能力を発揮し、多くの部下たちをしっかりと束ねることに注力していきます。
それでは、中小企業の場合はどうでしょうか。
まず現状を見てみましょう。中小企業の事業内容は多様ではないため、CFOは財務を中心に企業価値検証業務などを遂行しています。しかしこれでは宝の持ち腐れだといえるでしょう。CFOの持つ企画経営力を存分に発揮してもらわなければ、雇用する意味が無くなってしまいます。
こうしたジレンマを改善するため、経営者は意識を改革し、CFOに積極的に意見を求める習慣を付けていくべきです。はじめは外部コンサルタントに依頼するような気持ちで企業価値の検証を求め、問題点の指摘や改善への助言を受けていくのがおすすめです。また経営課題に対し、数値根拠をもとにした解決案を提案してもらいましょう。こうしたやり取りを定期的に続けていくことで、中小企業内でCFOの存在意義がグンと高まります。
CFOの価値が認められつつある近年は、外部からCFO業務を提供する中小企業向けサービスも登場しています。そちらを利用するのも一案ですが、将来的に大きな発展が望めそうな場合「今のうちからCFOを雇用する」、あるいは「将来のCFO候補として人材育成に努める」という試みを始めるのも良いのではないでしょうか。
著者
株式会社ボルテックス 100年企業戦略研究所
1社でも多くの100年企業を創出するために。
ボルテックスのシンクタンク『100年企業戦略研究所』は、長寿企業の事業継続性に関する調査・分析をはじめ、「東京」の強みやその将来性について独自の研究を続けています。