高速大容量通信の「5G」ビジネスに与えるインパクト〜中小企業経営者のための注目の経営トピックス[第2回]
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テクノロジーの進化により、経営環境は加速度的に変化する時代になっています。企業規模に関わらず、経営者は最新の情報を手に入れ、経営に取り入れていくことの重要性がさらに高まっているといえるでしょう。
本連載では、メディアでも注目されている企業経営に関するトピックスを解説していきます。今回は、2020年3月にサービスがスタートした「5G(第5世代移動通信システム)」を取り上げます。次世代モバイル通信方式の高いポテンシャルについて見ていきましょう。
そもそも5G(第5世代移動通信システム)とは?
「5G(第5世代移動通信システム)」とは、最新のモバイル通信方式です。通信技術は1980年代から発展を遂げ始め、以降10年ごとにその利便性を高めてきました。現在最も一般的なのは「4G」です。スマートフォンなどのデバイスでも、動画の視聴が楽しめる環境を実現しています。
5Gはこれまでの通信技術に比べ、どのような特長を持っているのでしょうか? 以下に見ていきましょう。
5Gの主な特徴
■高速・大容量
5Gは、最大で20Gbpsの通信速度を実現します。その速さは4Gに比べると10倍以上になります。そのため5Gでは動画や音楽はわずか数秒でダウンロードすることが可能になるのです。
また、大容量データへの対応力も高く、4Kや8Kと呼ばれる高画質の動画通信にも適しています。膨大なデータを含むIoT時代にもふさわしい通信方式と言えるでしょう。
■低遅延
これまでの通信方式には「遅延」という問題がありました。身近な例では、自宅のPCやスマートフォンで視聴している動画がスムーズに再生できないというような状況が挙げられます。
5Gにおける移動通信の遅延は1ミリ秒以下と考えられており、従来の約1/10にあたる低数値を実現しています。このため動画や音声の再生だけでなく、衛星中継などリアルタイム通信の可能性が大きく広がると考えられています。
■多数同時接続
これまでの一般家庭における通信方式では、PCやスマートフォン、AV機器など同時に接続する機器が数個にとどまっていました。しかし5Gの浸透後は、一気に100個程度の機器やセンサーなどの同時接続が可能となります。この進化により、今後の人々の生活の中には、IoT機器を始めとした多くのデバイスが浸透していくこととなるでしょう。
これは電波の供給先である「5G用の収容局」が、一度に100万以上のデバイスを取り扱うことができるからです。現行の4Gでは、世界レベルで150億台程度の携帯電話接続が限界であると考えられていますが、5Gの普及により1,500兆台の接続が可能になると予想されています。
このように5Gは、これまでのモバイル通信方式に感じられた弱点をカバーする強力な特長を備えているのです。
5Gをめぐる各国の状況
2020年は、世界的にも5Gが一般に普及していくと考えられています。各国の近年の状況を見ていきましょう。
■アメリカ
5Gの早期実現を目指しています。中でも総合電機通信会社のベライゾン・コミュニケーションズが、2018年10月に世界初の商用5Gサービスを開始しています。
■ヨーロッパ
4Gの導入が遅れたため、5Gへの移行に前向きではないと伝えられていましたが、今や各国で実証実験が進んでいます。2020年中には全てのEU加盟国で5Gサービスがスタートするようです。
■中国
2018年には製品試験も実施され、首都である北京市の郊外に世界最大規模の試験フィールドを構築するほどの力の入れようです。すでに2019年から商用サービスも開始されています。
上記以外では、韓国も5Gに対し非常に積極的な姿勢を示していると伝えられています。では、日本の状況はどうなのでしょうか。
■日本
2019年に国内の各地で実証実験が行われました。そして2020年の春に、NTTドコモ、KDDI、ソフトバンクの各社が5Gの新たな料金プランを発表しました。いよいよ実際の商用サービスが動き出しています。
5Gはビジネスにどのような影響を与えるか?
5Gは個人のインターネット使用を快適にするために開発されたわけではありません。ビジネスへの今後の活用に大きな期待が集まっているのです。以下に例を挙げていきましょう。
■デバイスの多様化
5Gにより多数同時接続が普及すると、眼鏡や時計、イヤホンなどもデバイス化していきます。新たなサービス展開や顧客情報の正確な把握が実現していくでしょう。
■工場や倉庫内での使用
外的な状況変化、受注状況のタイムリーな把握により稼働率が高まります。また通信網を介したセンサーの導入で、商品位置や使用期限などの正確な在庫管理が実現できるようになります。
■ロボット導入
低遅延の5Gを活用することで、人手不足を補うロボットの操縦が快適に行えます。また自動運転技術への応用も強く期待されています。
■ドローン導入
ドローンの操作や映像配信に関しても、低遅延が実現します。
■建設や医療の現場への応用
遅延のない通信を介し、現場作業や診療、手術などの遠隔指導が現実のものとなります。
■高精度な広報映像制作
高速、大容量化の実現で、精度の高い広報、商用映像の制作が可能になります。企業が提供するサービスの内容が多様化します。
このように5Gが今後のビジネスへ与える影響は様々であると考えられます。中小企業の事業で応用できるポイントも多数出てくるでしょう。しかし留意点もあります。
まず、5Gは現在発展中の段階であるため、上記の活用法すべてがすぐに実現可能というわけではありません。また4Gに比べ「基地局から通信可能な範囲が狭まる」という問題点もあります。
そして、特に懸念されているのが、プライバシーやセキュリティ管理の面です。デバイスの多様化に伴い、これまで以上に機密情報や個人情報の流出リスクが高まると考えられています。
こうしたデメリットにも留意しつつ、5Gの可能性を享受できる環境づくりに努めていく必要がありそうです。
中小企業が5Gを導入するには
では、中小企業が「5Gを導入したい」と考える場合は、どうすればよいのでしょうか。
先述のように、2020年の春からNTTドコモ、KDDI、ソフトバンクが5Gの商用サービスを開始しました。また今後、楽天モバイルの参入も決定しています。ただしサービスの提供範囲は各社により異なるため、5Gは今後、数年の時間をかけて徐々に一般化していく見通しです。
そして5Gには、個別の企業や自治体が限られたエリア内のみで利用する「ローカル5G」という免許制度があります。
ローカル5Gは、自己の建物内もしくは敷地内での利用を前提に許諾されるシステムで(今後、賃借権や借地権などを持つ場合も許諾される予定)、総務省により管理されています。公衆でなく自営ネットワークなので、システム設計からセキュリティ対策まで、自社に合わせた構築が可能というメリットがあります。
免許取得にあたっては、まず総務省に無線局の免許を申請します。審査通過後は、敷地内に基地局などを設置するため専門業者に工事を依頼します。
費用に関しては初期費用に数百万円程度かかります。ランニングコストは活用規模によりますが、年間数百万円まで上昇していく可能性があるようです。
このように5Gを活用することで、業務の効率化が進んだり、新たなビジネスチャンスが生まれたりするなど、いろいろな可能性が考えられます。そして懸念される導入コストについては、今後の普及に伴い低額化されていくと予想されています。まずは「自社業務内で5Gをどのように活用できるか」をじっくりと検討したうえで、実践に向けて動き始めると良いでしょう。
著者
株式会社ボルテックス 100年企業戦略研究所
1社でも多くの100年企業を創出するために。
ボルテックスのシンクタンク『100年企業戦略研究所』は、長寿企業の事業継続性に関する調査・分析をはじめ、「東京」の強みやその将来性について独自の研究を続けています。