加速する超高齢化「アクティブシニア」が活躍する会社とは?助成金や人事制度も考える~中小企業経営者のためのダイバーシティ講座<第2回>
目次
日本は2007年に、65歳以上の高齢者の人口割合が全体の21%以上を占める、超高齢化社会へ突入しました。
2025年には高齢者の人口割合が30%の大台に乗りますから、現在より労働力不足が深刻になることは明らかです。これまで、新卒か中途の日本人のみを正社員として採用してきた中小企業も、本格的に方針転換しなくてはなりません。
本連載では「これまで被雇用者として、企業内で重視されてこなかった層」や「社会的なマイノリティとして、企業内でポテンシャルを発揮する機会が与えられてこなかった層」までの価値を再認識し、組織づくりの参考にしていきます。今回は「高齢者」を取り上げます。
シニア世代を採用するメリット
内閣府の『平成28年度版高齢社会白書』によると「60歳を超えても働きたい」と考えている人は、全体の71.9%にも及びました。その内訳は「65歳まで」から「80歳ぐらいまで」と多様ですが、最も多かったのは「働けるうちはいつでも」であり、高齢就労希望者全体の28.9%にも及んだのです。
【図表1】就労希望年数
「今の日本は不景気だから、高齢者になっても働かなければはならないのか」と思う人もいるかもしれません。もちろんそうした事情もあるのでしょうが、働くことを生き甲斐と捉え「労働を通じて社会と繋がりたい」と希望するシニア世代も数多くいます。こうした労働力を年齢だけで切り捨ててしまうのは、もったいない話ではないでしょうか。
また安倍総理大臣は2018年5月に首相官邸で開催された『人生100年時代構想会議』において「もはや65歳以上を一律で高齢者とみるのは現実的ではない」と発言しています。65歳定年制(高齢者雇用安定法)が全企業へ適用となるのは2025年。その期間までに「60歳以上でも本人が希望すれば働き続けられる」という前提を、きちんと企業内に根付かせていきたいものです。
高齢者の積極的な雇用には、以下のようなメリットがあります。
■継続雇用で若手を育成
これまで60歳を機に職を辞していた人を引き続き雇用できれば、必要以上に新たな雇用を考えなくても良くなり、採用にかかる経費が削減できます。また若い人材が一人前に成長するまでには、一定の時間が必要です。ベテランのフォローがあれば、じっくり育成可能となるでしょう。
さらに継続して勤務するシニアは、若い世代に比べ転職を考える可能性が低く、人員不足を安定的にカバーしてくれるはずです。
■新規雇用で人手不足を解消
高齢者の雇用は、継続という形態ばかりではありません。ハローワークなどを通じ、新たに雇用を生むという考え方もあります。
高齢者が「働き続けたい」という希望を持っていたとしても、若い頃に比べ身体的・精神的に無理が効かなくなっているのは事実です。そうした事情を理解し、お互いにとって有益な条件や労働形態を模索しながら、人員不足をカバーしてもらうという発想も有効です。
シニア世代ならではの意見を期待できる
以前の日本社会は若く働き盛りで、消費への意欲も高い20~40代をメインターゲットにしてサービスや商品を展開してきました。しかし超高齢化社会に突入した現在、高齢者の心を掴めない企業は、衰退の一途をたどることにもなりかねません。
社内に現役シニア世代が就業していれば、自社商品に対し、彼らならではの視点を活かした意見を寄せてくれるはずです。またケースによっては積極的に前面へ出てもらうことで「同世代の消費者から高い共感を得る」という展開も期待できるでしょう。
助成制度にも注目を
2013年に改定された『改正高年齢者雇用安定法』は「定年の年齢を65歳までに引き上げる」ことを当面の目標としています。こうした流れを推進すべく、2025年の全企業適用を前に積極的な協力姿勢を見せる企業に対しては、助成金が支給されます。
具体的には65歳定年制導入または定年制度廃止、高齢者の雇用管理内容改善などに取り組み、一定の要件を満たした企業に対し、数万円~100万円以上の助成金が与えられるのです。
また「継続雇用に際し、賃金を下げざるを得ない」、「新規採用に際し、前職より多額の給与が支払えない」という場合は、個人を助成する『高年齢雇用継続基本給付金』や『高年齢再就職給付金』などの制度も用意されています。老齢厚生年金との兼ね合いもありますので、雇用する企業、雇用されるシニア世代の双方が知識を深め、より良い経済状況の実現を目指していくと良いのではないでしょうか。
シニア世代を雇用する際に気をつけたいこと
ここまでシニア世代の雇用について、メリットを紹介してきました。しかし、注意しなくてはならない点もあります。
■健康状態には常に留意を
「まだまだ気持ちは若い」というシニア世代でも、やはり体力の低下は否めません。また「年齢を重ねるほど、生活習慣病などの発症リスクが上昇していく」という事実も頭に入れておくべきです。過労を招かぬよう、残業や休日出勤などを免除する配慮はもちろん、健康診断などの結果は本人と共有するよう努めなくてはなりません。そして力仕事などを伴う職種においては、シニア世代を労わる社風を育んでいくことが必要です。
■ベテランの持つプライドにも配慮を
雇用継続を実施している企業でよく見られるのは、60歳を機に所属部署での重要なポストを離れ、補佐役に回るといった処遇です。こうしたケースでは「これまで上司として接してきたスタッフの部下になる」という状況を避けられません。頭では理解していても感情面でなかなか折り合いを付けられない人もいますし「この前まで上司だった人には指示を出しにくい……」と感じるスタッフも多いでしょう。衝突や摩擦を回避するため、経営者はシニアスタッフの処遇をよく考えなくてはならないのです。
一例として挙げられるのは「アドバイザー」や「スーパーバイザー」などの役職名を与え、後進の指導へあたらせることです。シニアの培ってきた専門的な能力を受け継がせることは、企業にとっても大きな意義があります。
もちろん現役の管理職として指導にあたるわけではありませんから、事前の話し合いは必要です。シニア世代に期待する役割やロールモデルをきちんと説明し、理想像を共有するように努めて下さい。
■給与をよく検討しておく
人材不足を解消するため、シニア世代に活躍してもらいたいのはもちろんですが、現場の最前線で働くスタッフより、給与額を低く設定せざるを得ないのが現状です。
こうした待遇の変化はあらかじめ共有することになりますが、該当者の就労意欲を損なわないために、以下のような対策をしておきましょう。
・給与は一度にではなく、年ごとなど段階的に引き下げていく
・給与ダウンの代わりに、就労の自由度を明確に高める
こうした細やかな配慮が、シニア世代にとっても働きやすい環境を醸成するのに役立ってくれるでしょう。
2007年に全人口に対し21%以上が高齢者という、超高齢化社会に突入した日本。高齢者増加のスピードは加速しており、首都・東京においても、20年後の2040年には「3人に1人が65歳以上」になるといわれています。「働きたい」という高齢者のニーズを上手く取り込んでいくことが、人手不足解消の一手となるでしょう。
著者
株式会社ボルテックス 100年企業戦略研究所
1社でも多くの100年企業を創出するために。
ボルテックスのシンクタンク『100年企業戦略研究所』は、長寿企業の事業継続性に関する調査・分析をはじめ、「東京」の強みやその将来性について独自の研究を続けています。